やぁ。僕の名前は雲雀恭弥。


並中で風紀委員長をやってるよ。



突然だけど、僕は群れる草食動物が嫌いだよ。


彼らが群れてる姿を見ただけで咬み殺したくなるね。


ああ、言葉通り歯で食い千切るって意味じゃなくて、トンファーでどつき倒すって意味だけど。



このことはたぶん有名だと思うんだ。


並中内だけじゃなくて、並盛町全体でね。


だから…僕の目の前で群れるような馬鹿はいないって、そう思ってたんだけど………



………。



「リボーンさん…」


「獄寺…」


「………」



なにこの光景。


なんで赤ん坊と彼が僕の目の前でいちゃついてるわけ?



ここ、僕の応接室だよ?


なんでこの二人がいるの?


なに? 僕の大嫌いな幻影ナップルの嫌がらせ? 喧嘩売ってるのあのナップル。こんな回りくどいことしなくても僕普通に買うけど。


とりあえず僕は手にしていたバインダーを彼に向けて分投げてみた。横に。思いっきり回転付けて。角がぶつかるように。



…けど。



「と、」


「わ…」


「………」



赤ん坊が彼のタイを思い切りぐいっと自分の方へと引っ張って、避けさせた。おのれ赤ん坊余計な真似を。



「り、リボーンさん…とても近いです!!」


「文句ならどこからともなく飛んできたバインダーに言ってくれ」


「い、いえ…むしろバインダーグッジョブ!! と申しますか…」



なんか喜ばれた。


ワオ。まさかの展開に僕もびっくりだよ。



「リボーンさん…好きです!」


「ああ。オレもだ」



しかも告白までしちゃったよ。


僕が投げたバインダーが切っ掛けで。



…世の中って、本当何が起きるか分からないよね。



「………どうでもいいけどキミたち、出て行ってくれるかな」


「ん? なんだ雲雀。いたのか」



唐突に応接室に入ってきて勝手にいちゃついたと思ったらこの言いようだよ。



「お前が出て行けばいいだろ」


「ここは僕の場所だよ」


「チッ…心の狭い奴」



舌打ちされちゃったよ。



何? 悪いのは彼らで、僕は被害者でしょ?


なんで僕が睨まれないといけないわけ?



「せっかくリボーンさんと二人っきりになれると思ったのに!!」



じゃあもう帰りなよ。



「教室でリボーンさんと甘いひとときを過ごしていたら10代目に邪険に扱われ…」



なんか、勝手に話し始めたよ。



「保健室でリボーンさんと親睦を深め合おうとしたらシャマルに邪険に扱われ…」



そりゃあ少なくとも保健室は怪我をしたり悩みを抱える人間が向かう場所だからね。



「そしてならばと思って応接室に来たらお前に邪険に扱われた!! じゃあオレたちはどうすればいいんだ!!」


「だから帰りなよ」


「馬鹿!! オレたちは一応仮にも10代目の右腕と家庭教師だぞ!! 10代目を残して帰ったらなんか駄目だろ!!」



一応仮にもとか。なんかとか。


…確か彼、その10代目の右腕とやらに命懸けてるんじゃ…なかったっけ?


あれ? 僕の思い過ごし? そう…



「…とにかく、ここは駄目」


「ちぇ、分かったよ。…行きましょうリボーンさん。ケチで心狭くて中二病の雲雀がここにいては駄目だそうです」



最後のは何…? 中二…?


まぁ、危機は去ったか…



………。



あ。見回りの時間。


行かないと。


僕は立ち上がった。










ドアから出て十数歩。


なんか、人だかりが出来ていた。



………。



あまり近付きたくないけど、この校舎のためなら僕は火の海にも飛び込む覚悟だね。



「…何。何の騒ぎなわけ?」


「ひ、雲雀さん…」



僕の姿を認めると同時、まるでモーゼの十戒のように人という波が僕の前に道を作る。


そして、開けた視界の先にいたのは…



「うう、リボーンさん、しっかりしてください!!」


「獄寺…お前が無事で、よかったぞ…」


「………なにアレ」



割れた窓ガラス。転がる野球ボール。赤ん坊を泣きながら抱きしめている彼…



「…報告します。先ほどあの二人が「今日の晩御飯はハンバーグにしましょうね。それともコロッケがいいですか?」「オレはお前が食いたい」「嫌ですもうリボーンさん、それはご飯の後ですよと話ながら歩いていたところ、突然グラウンドから野球ボールが飛んできてあの赤ん坊が男子生徒を庇いました」


「うん。まぁ夕食の件は要らなかったけどね



グラウンドから野球ボールね…


とりあえず…



「―――誰か。救急車」



僕がそう言うと風紀委員、一般生徒の数人が携帯を取り出した。



「雲雀…? お前…」


「見たところ、赤ん坊は頭を打ったんでしょ? すぐに医師に診てもらわないと危険だよ」


「あ、ああ…」


「仮に診察が異常無しだったとしても気を抜いたら駄目だよ。何かの拍子に急に倒れたりもするんだから。大事を取って暫く通院―――いや、入院した方がいいかも」


「倒れ…!? あ、ああそうだな!!」


「僕の知り合いって言えば、いい部屋を出してもらえるはずだから。そこで完治するまでゆっくり休養すればいいよ」


「雲雀…すまない、恩に着るぜ!!」



僕のまるっきり棒読みの台詞にも何故か彼は感動の涙を見せ、そしてやってきた救急隊員と一緒に赤ん坊の担架を運んで行った。



ふぅ…



これで本当に危機は去った…!!!


これで暫く彼らは来ないね。僕の学校に来ないね。なんて素晴らしい。



「い、委員長…!!」



ん?



振り向けば、何故か風紀委員及び一般生徒も涙を流していた。



何事!?



「委員長が…あの委員長が生徒に優しくしている姿を初めてみました…!!」


「しかも相手はあの不良の獄寺隼人!!」


「委員長の目にも涙…委員長にも人の心はあったのですね!!」



随分な言われようなんだけど。


しかも、なんか誤解してるし。



「勘違いしないでほしいんだけど。彼らが問題児だから、病院に監禁してもらいたいだけだよ」


「ツンデレ委員長!!」



ツンデレって何?



「分かってます、私たちは分かってますから!!」



何を!?



「委員長…一生委員長に着いて行きます!!」


「………」



よく分からないけど…まぁ、いいか。



「…何でもいいけど、とりあえず今からグラウンド閉鎖。ガラスをぶち破った罪は犯人に償ってもらうよ」


「は!!」



…まぁ、誰かは大体察し付いてるけどね…





そしてこの後、僕は予想していた通り某野球部のエースと鬼ごっこをした。



あと、余談だけど病院に幽閉した彼になんだかとても感激されて、お礼言われて、あと入院中の赤ん坊の様子(という名の惚気)を延々聞かされる羽目になるのは約一ヵ月後の話。


その惚気話にぶち切れて僕が彼を本気で咬み殺そうと思うのも、約一ヵ月後の話。





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今のうちに始末しておけばよかった。


リクエスト「リボ獄バカップルを冷静に観察する雲雀さん(雲雀さん視点)」
リクエストありがとうございました。