それは炎天下の空の下。
なんだか調子がおかしいような、気分が悪いような、そんな気がした。
目が覚めると、そこは見慣れた公園の、大きな木の下。木陰の中。
前後の記憶が曖昧で、状況の把握が出来ない。自分が、一体何故、ここにいるのか分からない。
だって、今日は確か、公園には寄ってないはずなのに。
自分は、確か、ただ道端を歩いていただけなのに―――
地面に横たわった状態のまま、空と木々の隙間を視界に入れながら、風に吹かれながら考える。
その、思考を遮るように、額に冷たいものが押し付けられた。
突然の、衝撃ともいえる驚きに、思わず身を強ばらせる。
強ばらせながらも、押し付けられたそれを見れば、どうやらそれは缶コーヒーのようで。
どうやら、誰かが自分に缶コーヒーを買ってきてくれたようで。
どうやら、その誰かというのは、
「大丈夫か?」
彼、獄寺の尊敬する恩師たるリボーンのようで。
リボーンは呆れたような顔をしながら、獄寺を見ている。
対して獄寺といえば、どこか呆けたような顔をして、リボーンを見ている。
「…どうした?」
「ああ―――いえ、」
怪訝な顔でリボーンに問われ、しかし獄寺は答えられない。
自分でもよく分からない。
何が、一体、どうしたというのだろうか。
目の前にリボーンがいるだけなのに。
なのに感じる、微かに身の内に宿る、この違和感は何なのだろうか。
分からないまま、答えの出ぬまま、何とか獄寺は、声を出す。
「オレは…」
「ああ、お前は道の真ん中でぶっ倒れてたんだよ。覚えてないか?」
「いえ…」
倒れていた。と言われても、生憎まったく記憶にない。
とはいえ、それなら起きる前と後の記憶が繋がらないのも納得出来るが。
「…リボーンさんがここまで運んで下さったんですか?」
「まあな」
「…ありがとう…ございます…」
礼を言い、しかし未だ横たわったままだと今更ながら思い出した。
起き上がろうとするが身体が重い。気分が悪い。それを見て取ったリボーンが獄寺に声を掛ける。
「まだ寝とけ。それとも病院まで行きたいか?」
「いえ…」
リボーン相手に寝たままなど畏れ多いにも程があるが、そのリボーンがいいと言っているのだから甘えさせてもらう。
強い陽射し。蝉の声。今年の夏は猛暑だと聞いていたけど、まさか自分が倒れる程とは。
熱で浮かれる頭。
思考が纏まらないのも、きっとこの熱のせいだ。
段々と、身体から力が抜けていく。まるで溶けて消えていってるよう。
何となく不安も感じるが、隣にいるリボーンとはいえば、どこか笑う気配すら見せて。
「そう、それでいい」
なんて言うから。
なるほど、これでいいのかと納得して。
納得出来れば、不安も消えて。
眠くなって。
遠くなる意識。それを感じながら、なるほど、これは夢だと思った。
だって、起こりえないんだ。こんなこと。
何故なら、
リボーンは、
もう―――
………
世界が暗く、遠くなる。
世界が溶ける。世界が失くなる。
あるいは、そうなっているのは、自分の方か。
―――それはどこかの公園の木の下で。
そこで、彼はもう二度と会えないはずの人と、邂逅を果たした。
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けれどそれも、眠るまで。
眠ったら最後、オレはもう何も覚えちゃいない。
起きたら終わり、あなたはもうどこにもいない。