何やら周りが騒がしい。
どうやら獄寺が倒れたようだ。
先程の騒ぎと対照的に、静かになった。
いつも騒いでいる面子が揃いも揃って出ているからだ。
どうやら獄寺の見舞いらしい。
…部下が指示を仰ぎに行くのならまだともかく、お前らまで行ってどうする。
仕事中は仕事をしろ。
オレたちのいるこの場所は常に忙しくて。誰かにかまける時間など取れないというのに。
何故あいつらはそれが理解出来ないのか。
武具の物価、ファミリーの関係、人の心。状況は常に変わり、その波を読まなければならないのに。
いつもより静かな空間。その中でオレは書類を片付け、部下に指示を飛ばし、仕事を片付ける。
そうしていたらあいつらが戻ってきて、業務をしているオレに何故だか不満顔をしてみせた。
どうやら獄寺が倒れている中、黙々と仕事をこなすオレに腹を立てているようだ。とんだとばっちりもあったもんだ。
あいつらも業務に戻ったが、どうにもいつもより仕上げが遅い。ミスが目立つ。どうやら獄寺が倒れた原因がまだよく分かっておらず、そっちに思考が行っているようだ。
やれ前の任務で負った傷が開いたのではないか、とか、病が掛かっているのではないか、とか。
倒れているのは獄寺だというのに、まるで自分に傷や病を負ったかのように狼狽えていた。
…こんな姿他のファミリーには見せられんな。今までボンゴレが築き上げてきた威厳も名誉も全部瓦解する。
オレは拳銃を持ち、一発放つ。銃撃が響き渡り辺りが静かになる。
「うるせぇ」
静かになった空間に、オレの声が響く。
取り乱すな、みっともない。そんな意味を込めたオレの一言は一人の人間を立ち上がらせる。ツナだ。
「うるさいって…獄寺くんを心配することは、そんなにいけないこと!?」
「心配する前に仕事をしろ。業務を遅らせるな」
「―――っ、何でリボーンはそんなに冷静に仕事が出来るんだよ! 獄寺くんが、倒れて…あんなに、顔色、悪くて……」
…駄目だ。こいつ全然落ち着く様子がない。他の奴らも似たような心情か。
………。
「お前らが獄寺に心配とやらをして業務の手を止めるのは勝手だがな。獄寺が戻ってきて、仕事が遅れていたと知ったら………溜まっている分の仕事は、一体誰が処理するんだ?」
ぎくり。とツナが固まる。
まあ、それもそうか。
今の自分たちが、未来の獄寺を苦しめる結果になると知ったのだから。
ただでさえ(特にツナの)仕事に精を出しすぎる獄寺だ。それが自分が休んでいる間に溜まっていたら。しかもその原因が自分にあると察したなら。
ツナは急いで仕事に戻った。馬鹿が。早く気付け。
夕方になり、夜になり、深夜になった頃オレは仕事を終わらせた。廊下を歩く。進む先は自室ではない。
ある一室の前で足を止め、ドアを叩く。その部屋の主の名を小さく呼ぶと、中から反応があった。どうぞ、と。
オレはドアを開けた。
中には部屋主である獄寺が、寝具から身を起こしていた。
「寝ていろ」
「ですが…リボーンさんを前にして、」
「お前の今の仕事は、身体を休めることだ。お前はお前の仕事をしろ」
「………はい」
獄寺は身を横たえた。寝具のすぐ傍にある椅子にオレは座る。
獄寺の顔色は、なるほどあいつらが言っていたように悪かった。血の気が去っており青白く、いつもの覇気も見受けられない。
「すまなかったな」
「え?」
「お前の状態に、気付いてやれなかった」
「いえ…そんな。最近、あまり会いませんでしたし」
「だがお前に仕事を頼んでいた。それで無理をしたのか?」
「無理をしたつもりはありませんでしたが…」
「ほお。無理をしないであの出来か。やるようになったな」
「……………」
「…にやけて、どうした」
「…リボーンさんから、そんなお言葉を頂けたら……にやけも、しますよ」
「お前が倒れなかったら百点だったんだけどな」
「頑張った甲斐が、ありました」
「お前が倒れたから零点だ。馬鹿」
「…手厳しい」
「原因は分かったのか?」
「ただの疲労ですよ」
「倒れるほどの疲労は、ただのとは言わん」
「…そういえば、そうかも知れませんね。あ、でもこれは別に、リボーンさんの仕事のせいではなくてですね、」
「他にも仕事を請け負っていたのか?」
「ええ、まあ、10代目とクロームと、後ヴァリアーの仕事を少し。それから山本とランボがミスをしていたのでその修正と…」
「もういい」
オレはため息を吐き、獄寺を黙らせる。
「お前は自分の技量を知れ。どこからどこまでなら出来るか、どこから以上が無理か、分かるようになれ」
「仕事は仕上げましたが」
「お前が倒れたら意味がねえんだよ」
オレは手を上げ、獄寺に振り落とす。殴られるとでも思ったのか、獄寺が身を震わせ目を瞑る。
オレの手は獄寺の頭に行く寸前でスピードを落とし、獄寺に触れる。獄寺の頭を撫でる形になる。
「…リボーンさん?」
「もう寝ろ。こんな遅くに来て悪かったな」
「いえ…そんな。嬉しかったです。お忙しい仕事の合間を縫ってまで、来て下さるとは、思いませんでした」
「仕事の合間? 何言ってんだお前」
「え? …ああ、そうかすいません。これも仕事でしたね。部下の様子を見るのも仕事の内で…」
「違ぇ」
きょとんとした顔を作りオレを見上げる獄寺に、言う。
「もう仕事は終わらせた。お前の見舞いは、仕事じゃない」
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「…にやけて、どうした」
「だっ、嬉しいんですもの」
リクエスト「リボ獄で仕事で疲れてる獄寺をリボがいたわる話が読んでみたいです」
リクエストありがとうございました!