猫が来た日 獄寺くんが猫を拾った。 真っ白の、可愛い子猫。 なんでも雨に打たれていたところを発見したという。 …ああ。いいなぁ。オレも雨に打たれている獄寺くん拾って飼いたいよ。じゃなくて。 いかんいかん。最近どうも思考回路がやばいというか。まぁ視界を現実世界に戻そう。うん。 ―――可愛い獄寺くんが可愛い仔猫と戯れるのは見ていてとても微笑ましいし、癒される。 獄寺くんはその猫がいたくお気に入りらしくて。うちに来る度に連れてきて。 仔猫はにゃーにゃーと所構わず獄寺くんに纏わりついて。 ……………。 いや、羨ましくなんてないよ? そうとも。獄寺くんの膝を陣取っていたり獄寺くんの頬を舐めたりしても羨ましくなんか…ない。 例え獄寺くんがそれに困ったようにしながらもなされるがままであっても。羨ましくなんか……な、ないったらない。 「…ということなんですけど―――って10代目?」 「羨ましくなんてないんだよ!?」 「え? なになんのお話ですか?」 …しまった。つい思ってたことが口に出てしまった。 「気にするな獄寺。ツナのいつもの病気だ」 「えぇ!? だだ、大丈夫ですか10代目!」 「獄寺くん…心配してくれてありがとう。でもオレ病気とか持ってないから」 ていうか獄寺くんリボーンの戯言を一々信じないで。 「…で、なんの話だっけ獄寺くん」 「あ、はい。…オレ明日からまた暫くイタリアに戻るので…その、こいつを少しの間預かってはくれないかと……」 おずおずとそう切り出してくる獄寺くん。…座って。しゅんと項垂れながらも見上げてくるそのさまは…あの、殺人的なまでにやばいんですけど。 「んー…そうだね…」 「駄目…ですか?」 もちろん獄寺くんの望みは聞き入れてあげたい。というか子供ですら何人も受け入れてみせるこの我が家。 子供が仔猫に変わったところでなんの問題があろうか。 …いや、問題といえば一つだけあるにはある。 恐らく毎日…獄寺くんと寝食を共にし、甘えたい放題な生活だったであろうこの仔猫… ―――正直獄寺くんが帰ってくるまでにオレの理性が持つか自信がありません。 気が付いたらきゅっと締めていそうで怖いです。 「10代目?」 「あ、ううんなんでもない。なんでもないよ獄寺くん」 しかし真面目な話どうしよう。獄寺くんが帰ってきて仔猫は死んでいましただなんてショックだよね。 「えと…そうだ。リボーン面倒見てよ。オレも見るけど学校のときとか。見れない時間があるし」 「猫みてーなもんなら間に合ってる」 リボーンに頼むも取り付く島もなく切り捨てられてしまう。…って、猫みたいなもの? ていうか。 「………もぅ、リボーンさんってば…」 え? なんで獄寺くん顔赤いの? え? なに? この空気なに? 「…それはそれで置いておきましてリボーンさん。オレからもお願いします。…いえ、無論駄目でしたら他の…山本とかに頼みますが…」 「―――まぁ猫の面倒見るのなんて一匹も二匹も似たようなもんか。別に構わんぞ」 「お前考え変えるの早いな!! って、獄寺くん?」 「……………」 獄寺くんは無言で。顔を赤くさせて。そのままリボーンに近付いて… ぺしっ 「へ?」 思わず素っ頓狂な声が洩れる。でも無理もないと思う。…あの獄寺くんがリボーンを…はたいた? 「もう…オレを猫扱いしないでくださいよ…リボーンさんの、ばか…」 いやばかって。獄寺くんそんなキャラだったっけ? ていうか獄寺くんを猫扱い? リボーンも特に抵抗しないしさ。え。なにこの状況。 「そう拗ねるな」 「拗ねてなんてないです」 いや拗ねているだろうあれは。まぁ人なのに猫扱いされればだれだって…って。 「オレは…貴方にとっては猫程度の存在でしかないんですか…?」 獄寺くんは言葉を紡ぐ。悲しそうに俯きながら。 「オレは貴方を想ってこんなにも身を焦がしているというのに。貴方にとって、オレは…」 「獄寺。言っておくがオレがこんなにも相手しているのはお前ぐらいだぞ?」 「…本当ですか?」 「ああ。…まったく、お前は相変わらず思い込みが激しいな。ま、そんなところも気に入ってるんだが―――」 「リボーン、さん…」 一呼吸の間のあと。 見詰め合っていたリボーンと獄寺くんの距離がどちらともなく近付いて、影が一つになろうと―――… 「って駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ー!!! ストップ! 待って! 駄目ったら駄目ー!!!」 …するのを半ば無理矢理引き止める。獄寺くんがはっと正気に返る。 「あれ? 10代目いたんですか?」 「うん。最初からいたよ」 ていうか獄寺くんと会話してから退出した覚えがないんだけど。あれ? オレ忘れられてた? 「ツナ。お前いいところを邪魔するなよ」 「ていうか人の部屋っていうか人の前でいちゃつくなよ」 オレとしてはこの台詞をここで平和なほのぼのとした会話へ戻ってくるようにと。そんなつもりで言ったのだが… よく考えたらそんな思いが通用する相手じゃなかった。 「なるほどな。じゃあ今から獄寺の部屋に行くか」 「なんでそうなるんだよ!!」 獄寺くんの部屋。行ってなにをするというのか。先程の続きか。目を瞑った獄寺くんといつも通りのリボーンが近付いて―――… …駄目駄目。お父さんは許しません。じゃなくて。 「じゃあ行くか」 「はい。何のおもてなしも出来ませんが…」 あ。行くの決定なの。ていうかマジですか。ちょっと待って。戻ってきて獄寺くんー…って行っちゃったよ。 …オレは一人取り残された自身の部屋で回想に深ける。思い出すは懐かしき出会いのとき。 「…初対面のときはオレのことばかり構ってくれたのにな…」 ああ、あの頃の獄寺くんはどこへ行ってしまったのか。懐かしき過去に思いを馳せ涙さえ伝いそう。 気がつくと、オレの膝元に獄寺くんが連れてきた白猫がなんだか寂しそうに擦り寄ってきていて。 なんだか意外とオレとこの猫似ているかも。なんてちょっと思った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ キミも苦労するね。 雨宮おねーさまへ捧げさせて頂きます。 |