某月某日。
「来月、リボーンちゃんのお見合いパーティをする」
唐突に、9代目がそう呟いた。
「…は?」
「は? ではない。お見合いパーティだ。リボーンちゃんの」
「はぁ…」
言いながら、獄寺は9代目の気が触れてしまったのではないかと心配になった。
9代目はリボーンを溺愛している。これでもかというほど。
本当は箱庭の中で蝶よ花よと可愛がりながら育てたいと言っているほどだ。箱庭程度ではリボーンちゃんは抑えられないので自由奔放になってはいるが。
そんな9代目だ。リボーンちゃんの想い人である獄寺を快く思っていない。どこか遠くへ左遷されてもおかしくない。というか、昔一度された。
しかしそのことを知ったリボーンちゃんが「じゃあオレも行く!」と荷造りを始めてしまったため慌てて獄寺はボンゴレに戻されたのだった。
そんな9代目だ。リボーンちゃん大好き9代目だ。
それが、お見合い…?
「…今はわしの所にいるリボーンちゃんだが、いづれはやがて飛びだつ…その旅立ち先を早めに見ておこうと思ってのう……」
「はぁ…」
「全国から呼び込みをし、選考はわしがする。リボーンちゃんの身体目当て、ボンゴレの名声目当ての輩は一切踏み入ることを許さなぬ!!」
「………」
なんだか熱く熱弁をしている9代目を獄寺は明後日の方向を見ながら見守る。
「そこでだ。獄寺」
「は、はい!?」
唐突に名前を呼ばれ、驚きながら答える獄寺。
「お主にもお見合いパーティに参加してもらう」
「オレも…ですか?」
「ああ」
9代目は頷いて、答えた。
「リボーンちゃんの護衛じゃ」
「獄寺!!」
「はい………って、リボーンさん!?」
聞きなれた声に振り返れば、獄寺はいつもとまるで違う格好をしているリボーンに驚いた。
「どうなされたんですか、その格好は…」
「似合わないか?」
「いえ…その……」
ごにょごにょと獄寺は言葉を濁す。
リボーンは純白のドレス姿だった。ひらひら。ふりふり。肩は出ていて、ストールを羽織っている。
「今度のお見合いパーティのドレスだ」
「ああ…」
言われて獄寺はそういえばそんなものもあったなと思い出す。今の今まで忘れていた。
「ビアンキが仕立ててくれたんだ。どうだ? 似合うか?」
「……ええ、まぁ…」
いつもの黒のスーツとは対照的な白ドレス。新鮮味があるのを差し引いても素直に似合っていた。
「似合うか! そうか!!」
こんな些細なこと。似合いますの言葉だけでこんなにもリボーンは喜ぶ。
だが、この衣装は…
………。
多少、露出しすぎではなかろうか。
肩とか出てるし。
「どうかしたか?」
「い、いいえ…」
誤魔化すように目線を背け、何か話題はないかと探す。
「お見合いパーティまであと少しですね」
「ああ、そうだな」
リボーンは事も無げに答える。
…リボーンは、お見合いパーティをなんとも思ってないのだろうか。
嫌ではないのだろうか。
「ところでだ、獄寺」
「はい?」
思考の海に沈みかけていると、リボーンに声を掛けられる。
「お見合いって、なんだ?」
「………」
純粋無垢な目で見つめられながら問い掛けられ、獄寺は思った。
やはりリボーンさんにお見合いはまだ早いのではないかと。
そんな獄寺の思いも虚しくお見合いパーティ当日。
獄寺はリボーンの護衛としてリボーンから少し離れたところに待機していた。階上からリボーンの様子を伺う。
リボーンはあの白いドレスを着て会場の真ん中で男たちと談笑している。
結局リボーンはお見合いの意味を知らず。ただ単に会場に来た者と話をするだけの場所と捉えているようだった。
「………」
今。リボーンが笑った。
それが獄寺には面白くない。
と、誰かがリボーンと握手した。
獄寺の額に青筋が出来る。
と、誰かがリボーンの方に腕を回した。
獄寺の身体が震える。
と、誰かがリボーンの手の甲にキスを―――
「―――――っ」
獄寺は自身の血管が切れた音が聞こえた。
なんだ。
なんだ、なんだというのだ。
客人は少々、リボーンに対して馴れ馴れしすぎるのではなかろうか。
リボーンもリボーンだ。何故にそんなに受け入れるのか。
そんな思いが獄寺の中で渦巻く。
気付けば、リボーンたちは移動し獄寺の真下に来ていた。談笑が聞こえる。
と、
「―――失礼」
誰かが飲み物をこぼした。
それだけならまだしも、飲み物のこぼれた先にはリボーンがいた。
リボーンの胸元に飲み物が付着する。
白の、薄いドレスが透け―――
と、一部始終を見ていた獄寺が上から降ってきた。
「獄寺?」
リボーンの問い掛けには答えず、獄寺は黙って上着をリボーンに羽織らせる。
「戻りましょうリボーンさん。ここにあなたに相応しい相手はいない」
「…オレに相応しい相手? いるぞ」
「え?」
リボーンは獄寺に抱きついて、
「ここに」
と、笑顔で一言呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
不覚にも、固まってしました。