想いの先



ケーキを買った。

前にあの人が食べているのを見て。それでオレも買ってみて食べて…美味しかったので本日のお土産に。


あの人に…喜んで頂けるだろうか。


そしてもしも一緒に…なんて事になってしまったらどうしてしまおう。あの人と隣同士に座って一緒にケーキを…

それを想像しただけで頬は赤くなり鼓動が高くなっていくのが分かる。その顔はさっきからずっと幸せ顔だ。


―――その人を想うだけで、心が満たされるこの気持ち。


それの正体を知ってはいるけど、まさかあの人相手にこんな気持ちを持つようになるだなんて…初めて会ったときは考えもしなかった。

…今日はあの人に会えるだろうか。最近どうも行き違いになっているようで会えていない。

だから今日こそは…といきこんで。敬愛する10代目のお宅へと赴いて。


けれど…


「あ…」

遠目から見えたのは、歩いているあの人。

あの人もまたケーキの箱を持っていて…そしてあの人はオレに気付かないまま10代目のお宅へと姿を消した。


「………」


同じ物が二つあっても…迷惑なだけですよね。

なんだか行くに行けなくなって。オレはその場で止まってしまう。

どうしようかと思い悩んでいると人の気配を感じ、振り向いて―――





ケーキを買った。

前にあいつが食べているのを見て。オレも食ってみて悪くなかったから間食用に。


あいつにも渡そうと思ってな。


あいつが来たらこれを出して一緒に食うか。そんな時間も悪くないだろう。

さて、あいつは一体どんな顔をするだろうか。近い未来を思い描く。


…それを考えるだけで楽しいと思えるこの感情。


それをそうだと分かってはいるが、まさかあいつにそれを抱く日が来るとはな。

ここ最近、ボンゴレからの任務やらなんやらであいつとは会ってはいないが…まぁ今回は大丈夫だろう。

今日こそは擦れ違わないようにと、オレは足早に帰ろうとする。


しかし。


「む…」

ふと気配を感じて振り返ってみれば、そこにはあいつの姿があって。

あいつは今オレが持っているものと同じものを購入していて…その顔はどこか照れているような、嬉しそうな―――


「………」


あいつも買うなら、これはいらねーな。

そう思い、オレは暫く辺りを目的もなくぶらついてから帰路に着いた。

そうして買ったものは部屋の中にいたツナにくれてやった。





「あの…お母様、自分はこれで…!」

「何言ってるのよ獄寺くん。こんないいお土産まで貰えたのにそのまま帰らせるなんて礼儀に反するわ」

丁度買い物帰りだった10代目のお母様とばったり会い、買ったケーキを10代目へと頼み渡して帰ろうとしたのだが…捕まってしまった。

あんなにも会いたかったあの人とも、こんな気持ちでは会いたくないのだが…


「それともこれから何か用事でもあるの?」

「それは…」

こんなとき嘘を付けない自分が恨めしい。お母様もそれを感じ取ってか手を握る力を少し込めた。


「ね? お願い獄寺くん。おばさんの一生のお願いだからうちに来て?」

「わ…っ、そんな、頭を下げないでくださいお母様…!」

敬愛する10代目のお母様にここまでされては引き下がることも出来ずに…オレは10代目のお宅へと足を踏み入れた。


「あ、母さんお帰りー…ってあれ? 獄寺くんも来たんだ」

「お…お邪魔します」

「ふふ、あのねつっくん。獄寺くんからつっくんの大好きなケーキを頂いたのよっ今からお茶の準備するからね」

「そうなんだ…ありがとね獄寺くん。―――あ、母さん、リボーンもケーキ買ってきたからそれも一緒に食べようよ」

「あら。それはいい考えね。でもどうしたの?」

「さぁ…さっきどこかから帰ってきたと思ったらケーキの箱突き出していきなり「やる」って言われて…」


「………」


お母様と10代目の会話を聞いて…やるせなさというか、なんともいえない感情が浮き上がってくる。

そうだ。あの人は10代目を次期ボンゴレの主にする為に今ここにいるのであって。

だからきっと、それがどんな感情であれどもあの人が一番思っているのは10代目で…

あの人は10代目を鍛え、10代目を守る為にここにいて…他の事に目を向けている暇なんてなくて。

それをそうだと認識すると、自分が滑稽に見えて仕方がない。


…それでもあの人が好きなのだから。


あの人に暇があろうとなかろうとオレなんかに振り向くとは思えないけど。でも想うことまでは許されると思いたい。

ぼんやりとそんなことを考えていたら目の前を黒い人が通って…





ツナの部屋で本を読んでいたら階下からツナの声が聞こえてきた。

曰く、お茶の準備が出来たから降りて来いとのこと。

本日の茶請けはオレの買ってきたケーキとそして…遊びに来たという獄寺の土産のケーキ。

なんでも、ツナへの土産として買ってきた土産だそうだ。


………ま、そうだな。


あいつはツナに助けられてからツナに忠誠を誓っていて。他のところへ目がいかない。

仮に誰かに想われていたとして、それがあいつに伝わっても…あいつは「迷惑」の一言で切り捨てるだろう。

それほどまでにあいつは一直線で。…まぁ、そこが面白いといえば面白いのだが。


まぁなんにしろ、あいつにこの想いを告げる気はないんだが。


こんなことで変にあいつに気を遣わせたくもないし、あいつがオレに振り向くとも思えないからな。

そんなことを思いながら階下まで降りて。居間で礼儀正しく座っている獄寺の前を通る。


「あ…」

獄寺が驚いたような声を上げて。その声に振り向くとそこにあったのは戸惑ったような獄寺の顔。


「「………」」


久方振りの再会だというのに、何故か微妙な空気の中顔を合わせてしまった。

「―――…えと、」


なにか言葉を紡ごうと口を開く獄寺。そこに…


「はい獄寺くんお待たせしちゃってごめんねー。お茶の準備出来たよー」

盆の上に三人分の紅茶とケーキを乗せたツナがやってきて。オレと獄寺が会話をする唯一の場を壊した。





ケーキを貰った。

リボーンと獄寺くんから。


…なんとも分かりやすいというか、なんというか。二人が買ってきたのは寸分変わらず同じもの。


お茶の準備をして獄寺くんのいる居間へとやってくれば、なにやら獄寺くんはリボーンと怪しい雰囲気だったので少し無理矢理に場の空気を壊した。

それでも獄寺くんの持ってきたケーキをリボーンに、リボーンの持ってきたケーキを獄寺くんにと渡したのは…オレのせめてもの優しさ。

でもその事を言わないのは、オレのせめてもの意地悪。


だって、なんだか悔しいじゃない?


この二人、傍から見ていて腹が立つほどお互いしか見ていないんだから。

でもこの二人、傍から見ていてもどかしいほど自分の想いを言わないんだけど。

オレだって獄寺くんのことが好きなんだから、応援だけはしたくないけど…でもここまでもどかしいともうくっついてしまえという思いもあるにはある。


………本人達には絶対言えないし、言いたくもないけど。


オレは獄寺くんとリボーンの間に座り、ケーキを一口ぱくりと食べた。

このケーキはオレの大好きな奴だったんだけど、何故だかあまり美味しく感じられなかった。





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まあ、理由はわかってるんだけどさ。


リクエスト「リボ獄・ほのぼの・すれ違い・両想い」
壱様へ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。