急に目の前の恋人が白い煙に包まれて。晴れたときにはそこにいた人物は随分身長が縮んでいた。というか幼くなっていた。
「え…あの、もしかして…10年後のリボーンさんですか?」
そう聞いてくる声もやっぱり幾分か幼くて。リボーンは内心微笑みながら、
「ああ、そうだぞ」
いつもの口調でそう言った。
何故か獄寺はその場に突っ伏した。
- 大きい<小さい -
「…どうした? 獄寺」
流石のリボーンも怪訝顔で聞いてきた。このようなケースは始めてである。声を掛けた途端倒れるなど。
「………声」
「は?」
突っ伏していた獄寺が顔を上げて(何故か涙目だった)開口一番がそれだった。声? 声がどうかしたか? 別に変わったことなどないが。
「リボーンさんの声………低くなってます…ッ」
「…ああ、」
ポン、とリボーンは手を叩く。ああそういえば。
「この間声変わりしたんだ」
「背も高くなってます!」
「これでも並以下なんだが…」
「可愛くない…可愛くないですよリボーンさん!!!」
「はぁ?」
思わず素で返してしまったが、獄寺には聞こえてないようだった。頭を抱えて嘆いている。
「あああ時間というのは…10年というものはなんて残酷なんでしょう!! あんなにも可愛かったリボーンさんが………こんな…!」
「こんなってお前随分な言い草だな」
などと言いつつ、脳内では10年前が再生される…そういえば一度10年後の獄寺と会った時。熱いハグを喰らったような気がする。
ついでに「やっぱりこのサイズが一番です!」だの「何か喋って下さいリボーンさん!」だの訳の分からないことを散々言われた気がする。…つまりは、こういうことだったのか。
「オレは悲しいです。縮んでくださいリボーンさん!」
「無茶言うなよ」
「もしくは10年前に戻って下さい!!」
「お前が戻れ」
と、そう言ったときタイミングよく獄寺の身体はまた白い煙に包まれて過去へと戻った。…はぁ、やれやれ。
確か戻った獄寺は…そうだ。10年後の獄寺がリボーンの身体をハグしたままだったので戻ったそこでリボーンを抱いていて。また熱く抱擁を交わしていたのだった。
あの時は何があったんだとされるがままにしていたが、間違いだったなとリボーンは思った。畜生オレの時間返せ。
と、思ってる間に煙は晴れて。五分前までいた人物が立っていた。
「あ。残念なリボーンさん」
「残念とか言うな」
即行で突っ込むと、獄寺は苦笑してすいませんと謝った。
「つい…思わず言ってしまいました」
「フォローになってない上にそっちの方が酷ぇ」
リボーンの機嫌が見る間に悪くなっていく。まぁ、それも当然なのだが。今よりも昔の方がいいと言われて誰が嬉しい。
「もちろん、今のあなたも魅力的です」
「言ってろ」
リボーンは獄寺を椅子に座らせる。すると立ってるリボーンの方が若干長身になる。
そしてその状態のままリボーンは獄寺を抱きしめた。
「オレとしては抱きしめられるよりは、抱きしめたいんだよ」
「…ええ。分かってます。オレもあなたに抱きしめられるのは嬉しい」
「赤子のオレを抱きしめる次に、だろ」
「何を言いますか」
言って、獄寺は立ち上がる。リボーンは慌てて手を離した。身長差で、獄寺を抱きしめながら立ち上がられるとぶら下がるからだ。
距離を置こうとするリボーンに対し、獄寺は長い腕を伸ばしてリボーンを捕まえる。そしてそのまま、ぎゅーっと。
「もちろん今のあなたを抱きしめるのも好きですよ? だからそんなに拗ねないで下さい」
「拗ねてなんかない。あとそんな慰めの言葉は結構だ」
可愛い。と耳元で言われた。…嬉しくない。全然嬉しくない。
「そういうお前は全然可愛くない」
「何言ってるんですか。当たり前じゃないですか。オレは男ですよ?」
「オレだって男だ」
「でも子供です」
「頭の中はお前よりもずっと大人だ!」
リボーンは思わず声を張り上げたが、獄寺はどこ吹く風とまったく気にも止めてない。ああ育て方を間違えた。失敗した!
「…というわけで最近獄寺に子供扱いされるんだが…どうしたらいいと思う?」
「痴話喧嘩なら余所でやれ。惚気なら黙れ」
最近の獄寺に悩んだリボーンはツナに相談を持ち掛けたが、笑顔でそう言い放たれて終わった。
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最近ツナが冷たい。