みんなのアイドル☆ハヤトは今日も元気にお仕事です。


新曲PVの振り付け、雑誌の取材、テレビの出演などハヤトの人気は衰えることを知らず毎日多忙な日々を送っていた。


そしてこの日は、あるドラマの撮影だった。


シーンはヒロイン役のハヤトが桜の花びらの舞い散る道を歩いているところ。


鈍い想い人に今日こそ自分の想いを伝えるのだと決意を固めるシーンだった。


ハヤトも長くこの業界に身を置いているだけあって慣れたものだった。そつなく演技をこなしていく。


…とはいえ、想い人の名を呟くときは心の中でちゃっかり旦那の名を呟いていたりしていたが。


やがて特にトラブルもなく撮影も終わり、片付けに入る。


そんな中、ハヤトはひとり桜の木を見つめていた。



「……………」


「ハヤト? どうした?」



と、そんなハヤトに話しかける一人の男性。


ハヤトの最愛の旦那であり、よき理解者のマネージャーでもあるリボーンだ。


リボーンの声にハヤトはすぐに振り向き、桜の花びらもかすむような笑顔を向ける。



「あ、いいえ…なんでもないんですよ!!」


「疲れたのか?」


「何を仰いますか! ハヤトは全然平気です!!」



己の発言をアピールするかのようにハヤトはその場でぴょんぴょんと跳ねる。


本人の言う通り疲れてはないようで、ハヤトは軽やかにステップまでしだした。まるで春の妖精のように踊るハヤトにその場にいた人間は漏れなく癒された。



「―――この次は取材でしたよね! 記者の方をお待たせしてしまうわけにはいきません!! すぐに移動しましょう!! それからそれが終わったら次はスタジオに行って、そこで…」


「…分かった分かった。ほら、そんなにはしゃぐな。今に転ぶぞ」


「きゅ!」



リボーンの台詞が終わるか終わらないかといったところで、ハヤトが自分の足に躓いてバランスを崩す。慌てず騒がず、リボーンが手馴れた手付きでハヤトを支えた。



「きゅ…きゅ……」


「言わんこっちゃない。大丈夫か?」


「はい! リボーンさんのおかげでハヤトは怪我一つないです!!」


「そりゃよかった」



ハヤトはぴょんと跳ねてリボーンの前に来ると、その手を引いた。



「では、参りましょうか!」


「…そうだな」



リボーンは何か言い足りなさそうだったが、ハヤトに引かれるまま車へと向かった。







それから多忙ながらもいつも通りといえる時間が過ぎ、あっという間にその日の仕事が終わった。


その頃には夜もすっかりと深けていて、リボーンが荷物を持ってハヤトを迎えに行くとハヤトはソファの上ですやすやと眠りについていた。


リボーンはハヤトを起こさぬよう優しくそっと抱きかかえる。そしてそのまま車へと向かった。


そしてその帰り道、ふとリボーンの目に止まるものがあった。



「……………」



リボーンは暫し考えた。いつもならばこのまま真っ直ぐに帰る。のだが…


だが結局リボーンは車を止めて、ハヤトをおぶり外に出た。







「………きゅ?」



揺られてか、それとも夜風に当たってかハヤトが目を覚ます。



「起こしたか?」


「リボーンさん…いつもすみません……もうお家ですか…?」


「いや。ここは公園だ」


「公園…?」



ハヤトの頭上に三つほどクエスチョンマークが浮かぶ。時刻は夜。というか深夜。そんな時間に何故に公園?



「…ほら、ハヤト」


「きゅ?」



リボーンが何かを促した。それを見たハヤトは、言葉を失った。


そこには、満開に咲く桜。それが外灯に照らされて幻想的な風景を醸しだしていた。



「す…凄いです! 凄いですよリボーンさん!! とても綺麗な桜さんなんです!!」


「そうだな」


「これを見るために車から降りたんですか?」


「そうだ」


「きゅー…リボーンさん、意外にロマンチックです!!」


「お前な…オレを一体なんだと思ってんだ?」


「きゅ! ご、ごめんなさい…」


「…ま、あながち間違いでもないけどな。いつもならとっとと帰ってただろうし」


「きゅ? では…なぜ?」


「お前、花見がしたかったんだろ?」


「きゅ!?」



ハヤトが赤面した。


確かに今朝の撮影の時、桜の木の下に立った時…お花見がしたいな、と思った。


最近プライベートの時間が取れないから、たまにはリボーンさんと二人っきりで…デートがしたいな、と。



「昼は時間が取れないが…まぁ、この時間なら、短いがデートも出来るなと思ってな」


「きゅー!?」



更にハヤトが赤面した。


そしてその昔、リボーンは読心術が使えるから気を付けた方がいいと言っていたツナの言葉が思い出された。



「リボーンさん…リボーンさんは本当に読心術が使える方だったのですね!!」


「ん? 何の話だ?」


「き、きゅー…なんでもないです…」



そして、ハヤトはハッと気付いた。


今の自分の状況に。


今、自分はリボーンにおんぶをされている。



(これではデートというよりも…なんだかパパさんと娘さんではないですか!!)



「きゅー!! リボーンさん!!」


「ん?」


「ハヤト、おんぶは嫌です!!」


「嫌か?」


「きゅー! だってデートなんですよ!?」



恋に恋しリボーンを愛するハヤトは出来ればおんぶは遠慮したかった。


デートなのだから。久方振りのデートなのだからやはり恋人時代を思い出し手繋ぎだとか腕組みだとかあと………



「…きゅ……」



そこまで考えてハヤトは赤面して思考を中断した。いやいや。それは流石に恥ずかしい気が。いや、出来ればしてもらいたいけれども!!



「…そうだな。確かにこれだとあまりムードもないか」



と、ハヤトの気持ちを知ってか知らずかリボーンはハヤトを近くのベンチに降ろした。そして。



「き…きゅ…!!」



リボーンはハヤトの背と膝裏に手を回し。


そしてハヤトの腰を浮かせた。


その状態は俗にいうお姫さま抱っこという奴だった。そしてこれこそ、ハヤトが照れて思考を中断しつつもリボーンにしてほしいと思っていたものだったりもする。



嬉しい―――と思いつつもやっぱり恥ずかしいという気持ちがあったりなんかして。



「リボーンさん! これは少し恥ずかしいような!!」


「どうせ誰も見てない。それにお前疲れてるだろ? こっちの方が合理的だ」


「ですが…」


「…それに、お前だってこうされたかったんじゃないのか?」


「きゅ!!」



何故それを!? といった顔で見返せば、リボーンはクックと笑った。



「他の誰でもない、お前のことだ。分からないはずがないだろ」


「リボーンさん……」



当たり前のようにそう言われてハヤトの胸がときめく。


今日のデートも、今のお姫さま抱っこも。そして出会ってから今日までも。本当にリボーンは自分のために出来ることを思いやりをもってしてくれる。


それがとても嬉しくて。ハヤトはますますリボーンのことが好きになる。



「…リボーンさんは、ハヤトのことなんでも分かっちゃうんですね」


「そうだな」


「…じゃあ、今ハヤトが何をしてほしいのかも…分かりますか?」


「ん? ………そうだな、オレの自惚れじゃないなら…こうか?」





キスしてほしい。



ハヤトはそう思った。



そして、その願いの通りにリボーンの唇が降ってきた。





時刻は深夜。


誰もいない公園。


満開の桜の木の下で。


二人のデートはまだ始まったばかり。





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今暫くは、二人きりでこの時を。


リクエスト「リボハヤでデート」
あやねさまへ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。