『獄寺。今電話いいか?』
と、リボーンさんから電話が掛かってきたのは夕暮れ時。これから夕食でもとろうか、というタイミングだった。
「ええっと…」
オレは少し言い淀淀んだ。今オレのすぐ傍には(いつの時代のかは知らないが)リボーンさんに泣かされたらしいランボが駆け込んできている。
嵐と雷は兄弟関係だろ! と周りから言われいつからだったか面倒なランボの世話を押し付けられていた。まぁランボとリボーンさんなら当然リボーンさんが優先度が高いが………
オレはランボをちらりと横目で見てみる。
「……………」
…ええい、売られていく小牛のような目でオレを見るな。
「…手短にお願い出来ますか?」
『手短か…じゃあお前、今からオレのいるフランスまで飛んで来い』
・・・・・・・・・。
「すいませんリボーンさん。大変申し訳ないのですけどもう少し説明を願えますか?」
『なんだ。手短にと言ったのはお前じゃないか』
「それはその通りなんですが…」
だからと言っていきなりフランスとか。事情が掴めません。
「と言いますかオレ今から夕食で…あと10代目に渡す書類を作り上げてからでいいです? 荷物も纏めないといけませんし」
『ああ、安心しろ。荷物はこっちの方で何とかしてやる。お前は空港まで行くだけでいい』
流石はリボーンさん。相変わらずこっちの都合を欠片も考えないオレ様ですね。
「…ねぇ、リボーンさん?」
『なんだ? 獄寺』
オレは少しだけ甘えた声を出してみる。
「愛しています。大好きですリボーンさん」
『そうか。オレもだ。で?』
「せめて食事だけでも」
『駄目だ。とっとと来い』
ちっ…!
電話が切れた。リボーンさんが言ってた通り、とっとと行くことにする。
…このままここにいたら窓から催眠ガスでも入れられて気が付けば空港に連れて行かれそうだしな…
問題はランボだが…
オレはさっきからこちらの方をそれはそれは心配そうに心細そうに見ているランボを見返す。
「ご…獄寺氏…?」
荷馬車に乗せられそう…を超えて、料理人を前にしている具材に感情があればこんな感じか? という顔をしているランボ。
そんなランボにオレは手を振って、
「じゃ、オレは仕事に行ってくるからお前は部屋に帰って寝ろ」
「ごーくーでーらーしぃいいいいい!!」
ええいうるさい。泣くな喚くなオレに縋り付くな馬鹿野郎。
「仕事と僕、一体どっちが大事なんですか!?」
「10代目とリボーンさんだ馬鹿。あんまり手間掛けると姉貴の部屋に放り込むぞ」
「ヒッ!?」
おお効果抜群。
「じゃ、行ってくるな」
と言って、オレはなんか色々トラウマを思い出しているらしいランボを置いて一人部屋を出た。
待ってて下さい、リボーンさん!
「遅い」
フランスに着いたオレに開口一番告げたリボーンさんの一言がそれだった。
えー、マジすか。
オレ、こう見えてかなり急いできたんですけど。他の誰でもないリボーンさんの為に急いできたんですけど。
「お前、誰か部屋に入れてたな。誰だ?」
何で分かるんすかこの人。アルコバレーノってもしかしてエスパー?
「お前がオレの頼み事を言い淀むのは他の誰かがいるときだけだろ。前はツナだった」
ああ、そう言えば昔そんなことがあったような気も。
「…ランボですよ。あなたに泣かされたと泣きつかれてきて。少し相手をしてたんです」
「オレは知らんが」
「でしたら10年前の話でしょうね」
「時候だ、そんなの」
まぁオレたちにとっては10年前でもあいつにとっては五分前だからなぁ…とオレは少し遠い目。
って、心なしかリボーンさん少し不機嫌じゃありません?
「まぁ、それはどうでもいい。そういえばお前食事がしたいとか言ってたな。まだ腹減ってるか?」
「それはもう」
正直空腹で倒れそうなぐらいですが。
「そうか。オレもだ」
「え?」
「お前が来るのを待っていたらもうこんな時間だ。とっとと食いに行くぞ」
と、リボーンさんはオレの手を引いて人込みまで入って行く。
「…別に、先に一人で食べていて下さっても構いませんでしたよ?」
というか、いつものリボーンさんならそうしてる。オレの分すら平気で平らげるぐらいはする。
…って、何故にリボーンさんはオレをじと目で見たりしますか?
「………そんなにお前…」
「はい?」
「そんなにお前………ランボと飯が食いたかったのか?」
「は?」
え? リボーンさん今なんて言いました?
今のリボーンさんの言葉を考えると…なんだかまるで、リボーンさんが、ランボに………
「ふっ………くくく、あはははははははっ」
「…何がおかしい」
リボーンさんが憮然とした表情で何か言っているが、オレはそれに答えられない。…笑いすぎて腹が痛くて。
「い、いえ、ははっ、リボーンさんのジョークが面白すぎてですね…っ」
「あ?」
「だってリボーンさん…、クク、まるでランボにやきもち焼いてるみたいで…はは、あははっ」
「……………」
「そんなわけないじゃないですか。ランボよりもあなたと食事がしたいですとも。ええ」
と、オレは極めて真面目に答えたと言うのに、何故かリボーンさんは表情を崩さなかった。
ただ無言でオレの手を握り、そのまま店まで入って行った。
後日、あの時どうやら本当にリボーンさんはやきもちを焼いていたらしいことを聞いて思わず吹き出してしまったのは言うまでもない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ねぇリボーン。獄寺くんは?」
「アジトで仕事だ」
「ふーん………長距離恋愛で大変だね。不安になったりしない?」
「不安?」
「浮気とか…」
「は、あいつに限ってそんなことあるわけ…」
「リボーンに会えない寂しさでつい遊びで誘いに乗ったり…言っとくけど、獄寺くん狙ってる人は大勢いるからね?」
「……………」
「そういえば最近ランボと獄寺くんがよく一緒にいるって噂を聞いたことが」
「獄寺。今電話いいか?」
(リボーン意外に現金ー!!!)