「リボーンさんは、どうしてそんなに強いんですか?」
「何だいきなり」
「いえ、ずっと前から聞きたかったのですが…今まで聞く機会がなくて」
「って言われてもな…普通に生きてたらこうなったが」
絶対オレの知ってる普通とリボーンさんの言う普通は別物だよ。と獄寺は思った。
「オレにとってはこれが普通だからな。考えたこともなかった」
「そうですか…」
多少落胆する獄寺だったが、仕方ないと割り切る。そもそも強さの秘訣を聞いたところで自分がこなせるとも思えない。
「強くなりたいのか?」
「当たり前じゃないですか」
強くなりたい理由は山ほどある。主の力になるため。仲間と戦うため。力のないものを守るため。
(それから…)
獄寺が視線をリボーンに移すと、リボーンがそれに気付いた。
「ん? どうした?」
「いいえ」
努めて何でもないように振る舞いながら獄寺は目線を逸らす。
「しかしまあ…オレにも教えられないものがあるとはな」
やるじゃねえか、とリボーンは笑う。オレもまだまだだな、と気を引き締める。
対して獄寺はこれ以上更に上に行くつもりなのか…と表情を微妙に引き攣らせた。自分の発言が原因なのがまた何とも言えない。
「…一体何をすれば、そんなに強くなれるんですか?」
「鍛錬とか、修行とか色々あるだろ」
この方も修行とかするのか…! と獄寺は内心で慄いた。
何かもう、この世に存在した時から最強って感じがするのに。だって赤子の時点で誰も敵わないのに。だというのに。
(これ以上…だと……!?)
獄寺は更に慄いた。
「どうした?」
「何でもないです」
としか言えない獄寺。下手なことを言ってまた向上心を上げられては目も当てられない。
「まあ、オレの話はいいか。強くなりたいんだったな」
「え、ええ」
「下地積んで気長にやれ。30年ぐらい」
「オレはそんなに見込みありませんか!?」
「違う違う。お前は大器晩成型なんだよ。ツナとは真逆だな」
それでも30年はあんまりかと…と獄寺は涙ぐむ。内心で。
「つっても、その年でそれぐらいの力があったら十分だろ。お前悪運強いし」
「ですかねえ…」
でも30年。もし結婚などして子供でも設けようものなら追い抜かれてしまうのではなかろうか。
「いや、やっぱりまだまだですよ。早く強くなりたいです」
「向上心があるのは結構なことなんだけどな。無理して無茶なトレーニングしても身体壊すのが落ちだぞ」
「ですけど…」
それでも獄寺は納得いかない。あるかも知れない道を探してしまう。
「なんだ、ツナにいいとこでも見せたいのか?」
「近いですねえ」
「じゃあ雲雀でも見返したいのか?」
「いいですねえ、それ」
想像して、出来たらいいなあなんて思うけれどでも違う。
獄寺の強くなりたいという思いは、願いはそこから来てはいない。
「…ま、いい」
リボーンは座っていた椅子から飛び降りる。
―――恐らくは、きっとこの時だ。
リボーンが、落としたのは。
だけれど誰も、落とした本人のリボーンも、後に拾う獄寺も今はそのことに気付かず。
リボーンは歩き出し、獄寺は見送る。
…誰も、落し物に目をやることもなく。
「行かれますか」
「ああ」
任務の話だ。少し時間が余ってるからと、今まで獄寺と雑談を交わしていたのだが…時間が来たらしい。
「呪いが解けたというのに、大変ですね」
「金がないと生きていけないからな」
間違いなく溜め込んでる…というか使い切れないだけの金があるでしょう。いや、武器とか買い込んでるっぽいし実は浪費家で本当に金がないのか? と獄寺は考えこむ。
「この身体にも慣れないといけないし」
「ですねえ」
長年掛かっていた呪いが解かれ、その恩恵もなくなりつつある。
元々の実力も相当なものなのだがそれも今の姿では十分に力を発揮出来ない。無論それでも強いのだが。
「じゃあな」
「ええ。お気を付けて」
短い別れの言葉を告げ、リボーンを見送る獄寺。
歩く途中、ふとリボーンが振り向いた。
「獄寺」
「はい?」
「帰ってきたら、指導してやるよ」
「え?」
聞き返してみれば、リボーンは笑う。
「早く強くなりたいんだろ?」
「え、ええ…」
「今日付き合ってくれた礼だ。オレが見てやる。そうしたら…まあ、3年もすれば見違えるだろうよ」
「…ありがとうございます」
その言葉を聞いて、またリボーンは歩き出す。言うこともなくなって、今度は振り返ることもなくその姿を消した。
その場に残った獄寺は人知れずため息を吐く。
3年。先程の30年は冗談にしてもやはりそれぐらいは掛かるか。
リボーンのあの口振りからして、もしかして3年ずっと見てくれるのだろうか。
ずっとはないとしても、ある程度は見てくれるだろう。
それはそれでとても魅力的な日々だが、獄寺が思うはその先のことだ。
…もし、3年リボーンの修行をこなしきることが出来たなら。
「その時は…あなたの隣で、共に任務を受けることも出来るんですかね…」
今はまだ笑えるほど弱いけど。
今は同じ戦場に立っても足手纏いにしかならないけど。
だけどいつか、いつの日か。
その日を夢見て、その日を目指そうと、獄寺はリボーンの消えた道の先を見つめる。
…けれど、悲しいかな。
その夢は叶わない。
その夢が叶う日は来ない。
何故ならリボーンは、帰ってこないから。
任務の途中で、死亡するから。
しかしそのことを知る者は誰もいない。
リボーンも、獄寺も、また会えると信じて疑ってない。
だから二人はここで別れ、
果たされぬ約束を胸に刻む。
これは、いわば、たったそれだけの物語。
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物語はここから始まり、そしてここで終わる。