むかしむかし、あるところにとてもとても仲睦ましい夫婦がおりました。
夫婦は毎日とっても幸せでした。
けれど、たった一つだけ生活に不満がありました。
その夫婦には…天からの授かり者が降りて来なかったのです。
「…どうしてオレたちには…子供が出来ないんでしょうね…」
と、少し寂しげに…妻である獄寺は呟いた。
「獄寺…」
最愛の妻の声を聞いて、夫であるリボーンは獄寺に近付いた。
獄寺はリボーンの接近に気付いて、そのまま抱きつく。
「リボーンさん…オレは……とても悲しいです」
「………」
「オレは毎日毎日…強く天に祈っているというのに!! どうしてコウノトリはやってこないのでしょうか!!!」
そりゃあらゆる意味で出来ねーよ。
リボーンは内心で突っ込んだが、口に出したりはしなかった。
獄寺は外見は大変美しく、内面はとても可愛らしいのだが…頭の方は少しばかり残念な子だった。
しかしそんなところにもリボーンは強く強く惹かれているのであった。
「…子供が、欲しいのか?」
「…欲しいです。…あなたとの、子供が…」
「そうか…」
リボーンは短くそう呟いて、
「一晩待ってろ」
と獄寺に告げた。
「一晩…?」
「ああ、一晩だ」
「はぁ…」
訳の分かってない獄寺を置いて、リボーンは身支度を始める。
「あの…リボーンさんどちらへ?」
おずおずと問い掛ける獄寺に、愛妻家のリボーンは短くこう告げた。
「コウノトリを狩ってくる」
そして、その発言から数時間。
朝日が昇るか、昇らないかという時間帯。
「帰ったぞ。獄寺」
どこかへと出掛けたリボーンが帰ってきた。
その腕には…ひとりの小さな赤ん坊が抱きかかえられていた。
「あの…その子は…?」
「ん? …ああ、オレたちの子だ」
「え…?」
「一生懸命育てるんだぞ。獄寺」
こうして、リボーンと獄寺の夫婦の間に一人の子供が設けられた。
その子供はツナと名付けられて、二人の手で大切に大事に育てられた。
そして…それから10年の月日が流れた。
「それじゃあ、行ってきます!!」
「いってらっしゃいませ10代目。車に気をつけてくださいね」
そう言って、オレは10代目を笑顔で見送る。
…けれど……10代目の姿が見えなくなるとすぐに憂い顔になってしまった。
…10代目…オレとリボーンさんの、子供…
けど、その正体は…ボンゴレファミリー時期10代目沢田綱吉さん。
10年前のあの日…リボーンさんは9代目のところへと赴いていた。
そこで、生まれたばかりの10代目の教育係を任命されたらしい。
…本当は前々からその話があって、どうするかと迷っていたときに…オレのあの一言があって決意したのだと。
綱吉さんは未来のボンゴレを担う大切で大事な方。
だけど、もうオレにとってはそれだけじゃない。
本当に…10代目はオレの子供だ。それぐらい、10代目は大事な人だ。
だけど…
そろそろ、10代目は真実を知らなければならない。
10代目であること。
オレたちの…本当の子供では、ないこと。
そのときの10代目の心情を思うと、オレは―――…
ピン、ポーン♪
あ。誰か来た。
「はーい」
オレはドアを開けた。
「おはようございます」
「骸? おはよう」
来客は、果物販売店店員の骸だった。
「何か用か?」
「いえ、実は今日はこのパイナップルがお安くなっているので―――お一つどうかと」
「パイナップル?」
パイナップルかー…今日の晩御飯のデザートにどうだろうか。でも今日のデザートは林檎のうさぎってもう決めてるんだよな。
「いや、悪いけど要らない」
「クフフ、まぁそう言わず」
と、骸はドアの中に足を踏み入れてきた。
骸の手がオレの肩に触れる。
「おい、お前」
リボーンさんの声が聞こえた。
骸の顔が強張る。
「オレの獄寺に………何やってんだ?」
「い、いえ、その…クフフフフ」
骸は笑いながら去っていった。あとパイナップル置いていった。金払ってないけど、食べていいのだろうか?
「まったく、油断も隙もないな」
「お帰りなさいリボーンさん。何か忘れ物ですか?」
「いいや。お前の様子を見に来ただけだ。誰かに襲われてないかと思ってな」
「もう、嫌ですよリボーンさんってば心配性なんですから。骸と話していただけじゃないですか」
「あれから10秒も経ってたらどうなってたか知らねーけどな」
「え?」
「なんでもない。とりあえずだ獄寺」
「はい」
「家人の許可も得ずに家の中に入ってこようとする奴は強盗だと思え。問答無用で大声を上げて助けを求めるんだぞ」
「はい分かりました」
「良し」
と言って、リボーンさんはオレの頭を撫でてくれました。
リボーンさんに褒めてもらえて、オレの顔は赤くなりました。
「じゃあ、オレは仕事に戻るからな」
「はい! 行ってらっしゃいませリボーンさん!!」
オレはリボーンさんを笑顔で見送った。
ああ、リボーンさん…
いつもながらなんて素敵なのでしょう。とてつもなくクールで格好良いです!!
そんなリボーンさんの妻でいられるなんて…ああ、オレは三国一の幸せ者です!!!
オレはとっても上機嫌になって、そうだと手をぽんと打った。
そうだ、今日の晩御飯はリボーンさんの大好物にしよう、そうしよう。そうとなれば、いけない冷蔵庫の中身だけでは足りないじゃないか!!
オレは財布を握り締め、エコバックを持って買い物に出掛けた。
待っててください、リボーンさん!!
今日の晩御飯はとっても豪華です!!
と、買い物をしに街まで向かう途中に雲雀と会った。
「やぁ」
「おう雲雀。こんなところでどうしたんだ?」
「キミを待ってたの」
「は?」
いやいや待て待てちょっと待て。それはおかしいだろうオレはついさっき買い物を決めたのであっていつもなら洗濯物を干してる時間だぞ? なんで雲雀はオレがここをこの時間に通ることを知っていたんだ?
「朝の占いでそう言ってたの」
「そうか。お前は余程暇なんだな」
占い。そうか占いか。そりゃ盲点だったな。占いらなば仕方がない。でも占いっていつからそんなにピンポイントでものが分かるようになったんだろうな。
「で、オレに何か用か?」
「キミと婚約したいなって思って」
婚約? ぷははははは。婚約ってこいつ一体何を言ってるんだ? オレにはリボーンさんっていう最愛の夫が既にいるんだぞ?
「面白い冗談だな」
「冗談なんかじゃないって」
と、雲雀は一歩近付いた。
おいおい何だよ。ん? オレの手を引いてどこに連れて行こうって言うんだ? そっちには路地裏しかないぞ? 何か面白い見世物でもあるのか? でもオレは今から買い物に行かないとっていてぇよ引っ張るなって。
「こら、雲雀」
と、リボーンさんの声が聞こえた。
雲雀の顔が強張る。
「オレの獄寺に……何やってんだ?」
「や、やあ赤ん坊。いや、別に…」
雲雀が去った。
「まったく、油断も隙もないな」
「リボーンさん、こんなところで一体どうしたんですか?」
「お前が変な男に引っかかってないかと思ってな」
「あはは。リボーンさんは本当に過保護なんですから」
「路地に引き摺られていた奴が、よく言う」
「はい?」
「なんでもない。とりあえずだ獄寺」
「はい」
「周りにいるのは敵だと思え」
「敵ですか」
「ああそうだ。信用してもいいのはオレとあとツナぐらいなもんだ」
「物騒な世の中ですね」
「まったくだな。じゃあ獄寺、知っていようが知っていまいが、人に着いていくんじゃねーぞ」
「はい。分かりました」
「良い子だ」
リボーンさんはオレの返答に満足そうに頷くと、またオレの頭を撫でてくれました。
ああ、お優しいリボーンさんもとても素敵です!!
それからまたリボーンさんと別れ、しかしそれからもまたリボーンさんは度々オレの様子を見に来てくださいました。
オレはそんなリボーンさんに胸を高鳴らせつつ、今日も愛するリボーンさんと10代目にご飯を作ります。
そしてその晩。
「………」
「…あの、母さんどうしたの…?」
「10代目…いいえ、なんでもありません……」
「そういう風には見えないんだけどな…」
「………」
10代目にいつ真相を告げるべきか、オレは迷っていた。
早ければ早い方が傷はきっと浅い。けれどどちらにしろオレは10代目を騙していたのだからきっと10代目に嫌われてしまうだろう。
ああ、オレは一体どうすればいいんだ!!
「…獄寺。どうかしたのか?」
「リボーンさん…いいえ、なんでもありません……」
「じゃあツナ。お前が獄寺に何かしたのか?」
「してないよ!!」
「ああ、その、違うんですリボーンさん!!」
オレは目でリボーンさんに訴えた。10代目が10代目であると、いつ告げるべきか。
「ああ、なんだそんなことか」
「そんなことって…」
「心配ない。なんなら、今言え」
「今ですか!?」
そんないきなりと申しますか、オレにだって心の準備が必要だと申しますか!!
「…? 何の話?」
「…10代目…」
……そうだ、言うなら早い方がいい。10代目の傷を浅くするのが最優先だ。オレが10代目に嫌われても、それは…仕方のないことなんだ。
「…10代目…大切な……お話があります」
「え…?」
「実は、10代目は………オレとリボーンさんの子供では……ないんです…!!」
「………!!」
10代目の目が見開く。
ああ、そりゃそうだ。ほんの数瞬前まで実の両親だと信じて疑ってなかったのに急に違うだなんて言われて…!! けれど事実は事実。オレは10代目に本当のことを告げなければならない…!!
「10代目は…時期ボンゴレファミリーを継ぐ方なんです。今まで黙っていて本当にすいませんでした…」
「いや、あの」
「でもオレは、オレは10代目のこと…恐れ多いのですが本当に自分の子供のように思って今まで接してきました!! それだけは…それだけは本当なんです10代目!!!」
ひしっとオレは思わず10代目に抱きついていた。そして…10代目も抱き返してくれた。
ああ、今までずっと黙っていたのに、騙していたのに…それでも10代目はオレを許してくださるんだ…なんて寛大なお方。流石はボンゴレを統べる者です10代目!!
オレの感激の涙は、暫く止まらなかった。
母さん…いいや本当の母さんではないという事実がついさっき判明したからオレはこの人をなんて呼べばいいんだろう。獄寺くん? いやいやくん付けはおかしいかな。
…まぁ、今までどおり母さんでいいか。…オレを本当の子供のように接してきてくれてたんだし。
ていうか、まぁ、なんというか、この二人がオレの実の両親ではないということには気付いていたけどね。
別に超直感だというよく分からない特殊能力がオレに備わっているわけではなくて、なんていうか、ええと、一言で言うならば。
まず。この二人どっちも男だからね。
確かに母さんは女の人と言ってもいいぐらいの外見を持っているけど、身体の作りは男の人のそれだからね。
どっちも男でオレが生まれるわけがないからね。
それで隠していたつもりだってんだからオレもびっくりしちゃったけどね。
更に言うならもう一つあるんだけど。
オレの父さん、赤ん坊だからね。
超強くて頭もいいけど仕事もしているけど赤ん坊だからね。
子供が作れるわけがないからね。
ていうか街では父さんは母さんの夫だって認められてないからね。
母さんの子供だって信じられてるからね。
母さん未亡人扱いで夫のスポットを狙う輩でいっぱいだからね。
授業参観で父さんが来たとき普通にオレの弟扱いされたからね。
父さんさり気にへこんでいたからね。
まぁ母さんが父さんにベタ惚れで常に夫扱い(いやそれで合ってるんだけど)するからそれで毎回立ち直ってるけどね。
あと、オレがボンゴレ10代目ってことも知ってたけどね。
こっちは父さんが普通に「お前はボンゴレを継ぐんだから強くなんねーといけねーぞ」って教えてくれたんだけどね。(そして度々修行を受けてる。そのうち死ぬかもしれない)
あと母さんも普通にオレのこと「10代目」って呼ぶからね。でもそっちも隠していたつもりなんだね、うん…
「じゃあ、真相がはっきりしたところで知らせがある」
「知らせ?」
「ああ。来週からツナはボンゴレに返すことになった」
「え!? そうなの!?」
「え!? そうなんですか!?」
って母さんも知らなかったのかよ!!
「そろそろツナに、ボンゴレについて本格的に教えないといけないって9代目が言っててな」
「そう…なんですか……」
え? え? ちょっとそっちまでは知らなかったんだけどオレ。来週って少しばかり早くない? オレにだって心の準備というものが。
「心配するな。度々顔見せに行ってやる」
「いや顔見せって…母さん、何か言って…」
「…そうですね。はい、10代目頑張ってくださいね!! オレ、毎日10代目の様子を見に行きますから!!」
ワオ! 母さん見切り早!!
颯爽とオレがここを出ることに納得しちゃったよ!!
いや、まぁ、ここにいる誰にも拒否権なんてないだろうけどさ、でもさ、その、なんか……
「ま、諦めるんだな。早めに荷物を纏めて置けよ」
「…はーい」
オレは渋々返事をした。
つかこっちの方を先に言っとけよ親父…!!
「…って、オレ本当に行って大丈夫?」
「なんだいきなり」
「だって母さん…一人にして本当に大丈夫?」
「要らん心配だな。お前が来るまでだって、オレ一人でどうにかしてたんだぞ」
「いや、そうだけど…でも母さんを狙う輩は年々増えてるんだよ?」
本当、母さんの魅力は年を重ねるにつれ衰えるどころか更に磨きをかけている。
一緒にお風呂にも入ったこともあるのに、本当に母さんが男なのか(なにこの文)信じられなくなるときもある。
ちなみにそのことをこっそり父さんに言ってみたら、
「馬鹿かおめーよく考えてみろ。天使に性別はないんだぞ」
という言葉が返ってきた。(真顔で)
馬鹿か。馬鹿なのかこの赤ん坊。と思う同時に「なるほど、その通りだ」と思ったことは秘密だ。
…話が脱線した。
「ただでさえ母さんは知ってる人だろうが知らない人だろうがほいほい着いて行っちゃうのに…!!!」
「…そーだな。本当それだけどうにかなってくれればオレも助かるんだが…」
母さんはオレと父さんがどれだけ言って聞かせても一歩街に出れば誰彼構わず声を掛けられそしてさらわれそうになる。
おかげで父さんは嫌な予感がすれば仕事を放り投げて母さんの様子を見に行っている。
とにかく、そんな母さんを父さんにだけ任せてもいいものか……
「じゃあ、あれだツナ」
「え?」
「お前が早く正式なボンゴレ10代目になって、獄寺に手を出したら殺すっていう法律を作れ」
「…頑張る」
10代目になるための目的が出来てしまった…思いっきり公私混同だけど許してもらおう。
「じゃあ、覚悟決めて行くけど…でも本当顔見せに来てよー…オレ一人じゃ不安いっぱいで死にそうだよ」
「なに、お前なら大丈夫だ。なんてったって、お前はオレたちの子なんだからな」
―――。
不意打ちは卑怯だ。
父さんはいっつも厳しくて、母さんしか見てない癖に。
こんなときにこんなこと、言うなんて。
「お風呂上りましたー…って10代目? 泣いてるんですか? …は! リボーンさん!?」
「なんだ?」
「また10代目をいじめたのですか!? もう、駄目ですよ!?」
「ちが、違うんだよ母さん」
「10代目?」
いつもオレの味方で、いつもオレのことを考えてくれる母さん。
本当に分かり辛いけど、なんだかんだでいつもオレを助けてくれる父さん。
例え血の繋がりはなかったとしても。
この二人はオレの本当の両親だ。
「オレ…頑張って10代目になるからね!!」
「10代目…」
そして…オレが10代目になったなら。
母さんをオレの右腕にして。
父さんをお抱えヒットマンにしよう。
そうしたら、もう離れることもなく。
いつまでも一緒にいられるだろうから。
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それが夢。オレの夢。叶える夢。