恋愛CHU☆





某月某日、某所にて。


「わぁお! キミがあの有名アイドルハヤトちゃん? 生の方が可愛いねー」


「あ、初めましてー…。はい、ハヤトはハヤトです! よろしくお願いしますね!」


ぺっかーと満面の笑みでドラマ仲間と挨拶をしていくハヤト。


今日はハヤトが主演している大人気連続ドラマの続編の初撮影。場所も深い森の中で、初めて来る場所だ。


「ハヤト。あまり遠くに行くなよ。迷子になったら探すのが手間だ」


「あ、はーい! 分かってますよリボーンさんー!!」


ぶんぶんとハヤトはマネージャーであるリボーンに手を振る。リボーンはリボーンで、監督や脚本家との打ち合わせで忙しそうだ。


「…あの人ハヤトちゃんのマネ? こわそー。大丈夫? 泣かされたりしてない?」


「あはははは。もう数え切れないぐらい泣かされちゃいましたよ〜」


「うっそー! こんなに可愛い子を泣かせるなんてマジあいつ鬼畜ー。信じられない。うう、ハヤトちゃん可哀想…」


「リボーンさんを悪く言わないで下さい。リボーンさんには本当にお世話になっていて…それにリボーンさんの行動は全部全部、ハヤトの為なんですから!!」


「うう、本当にいい子だハヤトちゃん…噂に聞いていた通りだね! いい子なハヤトちゃんにはこれあげちゃう!!」


「わ…わー! マシュマロです! ありがとうございます!!」


「あ、もーいたいた白蘭さん! 急にいなくなったと思ったらこんな所にいたんですね!!」


「あ。正ちゃんだ。ハヤトちゃん紹介するね。これ僕のマネの正ちゃん」


「初めまして! ハヤトはハヤトって言います!!」


「え…ハヤトって、あのハヤト!? わ、僕ファンなんです! その、よければ握手とサインを…」


「お安い御用ですよー!」


「…正ちゃんて、意外にミーハーなんだ…」


「何言ってるんですか白蘭様! 癒し系・娘にしたい系・箱入り娘系・年下系・ロリ系・ペットにしたい系などなどそっち系人気投票連続トップのアイドルハヤトですよ!?」


「…今、なんか聞き逃せない部分があったような…。ペット?」


「とにかく! お会い出来て光栄ですハヤトさん。あ、新作買いましたよ!!」


「はぅ! 嬉しいです、ありがとうございますー!!」


「いつもながら歌詞がすごかったですね…あれを考えてるのはハヤトさんなんですか?」


「いいえー、社長ですー」


「………社長? 社長って…あのボンゴレプロダクションを立ち上げた沢田綱吉しゃ…」



ぴろぴろぴ〜ろ〜り〜ん♪



「あ! ご、ごめんなさい…電話が掛かってきてしまいました…」


「あ、はいどうぞお気になさらず」


「えーと…もしもし? え? 社長?」


『ハヤト! 携帯ついに一人で出れるようになったんだね!! オレは感動した!!』


「いいえー。リボーンさんが「むしろこうすればいいんじゃね?」って言ってコールが鳴って10秒したら勝手に繋ぐようにしてくれました!」


『あー…なるほどそうか…確かにその方がいいかな…。まぁそれはいいや。ハヤト。今凄い嫌な予感がしたんだけど、オレの噂とかしてなかった?』


「はい! 今まさに社長のお話してましたよ!!」


『どんな?』


「ハヤトの歌の作詞をしているのはしゃちょ…」


『ハヤト!!』


「はい?」


『オレが作詞してるってのは内緒だってあれほど言っておいたでしょー!!』


「ふぇ? そうでしたっけ?」


『そうなの! もう! 恥ずかしいなぁ!!』


「ご、ごめんなさい社長…」


『…いや、恥ずかしいのは沢田でしょ』


「あれ? 雲雀さん?」


『まったく毎度毎度…よくもまぁこんな歌詞を考え付けるものだね…何?「う〜ん、これはおも〜いおも〜い、恋愛病ですね〜」って、何。馬鹿じゃない?


『雲雀ー!! 何勝手に入ってきてるのさ! ていうか見ないで! 読み上げないで!! オレ恥ずかしくて死んじゃう!!!』


『こっちの電話に出ないのが悪いんでしょ? はぁ、そりゃあハヤトが歌うなら可愛いけどその歌詞を作ってるのがこんな奴なんて…』


『返してー! 返して雲雀ー!!』


『こら雲雀ー! 社長をいじめるなー!!』


『ってキミ! いつの間に!?』


『でかした! さぁそれを早くこっちに………』



ブツ、ツー、ツー、ツー…



「………」


「………」


「………」


「えーと………か、歌詞を作ってるのはうちの社長じゃなくて、社長さんという名前の方なんです!!」


「えっと、うん。はい。…分かりました、すいません」


ハヤトの電話から聞こえてくる声はかなり大きく辺りに響き渡ってのだが…白蘭のマネージャーである入江正一は大人だったので聞かなかったふりをしてくれた。


「とにかく、サインと握手ありがとうございました! 暫く手は洗いません! サインは家宝にします!!」


「あはは、ありがとうございますー」


「…では、そろそろ撮影の時間ですね…。ほら、白蘭さん行きましょう」


「ぶーぶー。なんか正ちゃんが来てから僕とハヤトちゃんとの会話が消えたー! 正ちゃんの馬鹿ー! お邪魔虫ー!!」


「はいはいはいはい。ほら、行きますよ白欄さん!」


「待ったねハヤトちゃんー! ドラマの中で会おうねー!!」


ぶんぶか手を振ってくる白蘭に笑いながらハヤトも手を振り替えして。


そして二人の姿が見えなくなると、ハヤトは自分も撮影の準備をするべくスタジオへと走ったのだった。





「はぅうっお疲れ様でした!」


「ああ。頑張ってたな、ハヤト」


仕事終わりにリボーンに頭を撫でられ、ハヤトはご満悦だった。


「白蘭さんという方とお知り合いになったんですよ! とてもいい方でした!」


「そうか。よかったな」


「はい!」


今回の撮影分が終わり、一度皆解散という流れになった。


本当なら数回分の撮影を一気にしたかったそうなのだが、夜中に天気が崩れるらしいので出直した方がいいとなったのだ。


「きゅー…お腹空きました…」


「そうだな…ここからだと自宅に着く頃には夜中だろうし、なんか腹に入れてから帰るか」


「きゅ! ご飯…! 何食べましょうかリボーンさん!」


「この辺なら…ああ、オレの行き付けの店がある。そこに行くか」


「リボーンさんの行き付け…!? ど、どんな所でしょう!?」


ここだけの話、リボーンはかなりのグルメだ。生半可な店ではあまり入りたがらない。


つまり、そんなリボーンに毎日の食事を出している雲雀の腕は相当凄く、更に言えばあのハヤトの手料理を全て平らげるリボーンにはそれだけのを感じる。


…ともあれ、そんなわけでそのリボーンが行き付けするお店。


ハヤトは興味心身だった。


そして…リボーンの運転の先に着いたお店は日本古来といった感じの古風でこじんまりしている蕎麦屋…その名も「9代目」だった。


「邪魔するぞ9代目」


店名が主の名とそのまま直結しているのだろうか。リボーンは店の中にいた気のよさそうなおじいちゃんにそう声を掛けた。


「いつもの。二つだ」


素っ気無くリボーンは言って、店の奥まで足を運んだ。9代目はそれがいつも通りなのか全然気にした風はなかった。



暫くして…リボーンとハヤトの下に湯気を漂わすお椀が運ばれてきた。もちろんお蕎麦だ。


「はぅう…おいしそうです…!!」


「ああ、美味いぞ」


そう言うリボーンの顔は心なしか本当に嬉しそうで。本当にこの店の蕎麦が好物なんだろうと思わせた。


リボーンは豪快に箸で掬い、大きな音を立てながら食べる。そして満足そうに頷いている。


それを見てハヤトも箸を取りお椀の中に伸ばした。


ハヤトは器用に箸で一本だけ掬い、ちるちるちる〜んと音を立てて食べた。そして目を輝かせる。


「はぅ…はぅはぅ! 美味しいです! 美味しいですよこのお蕎麦ー!!」


「………」


「はぅー! はぅはぅー!!」


ハヤトは更にお椀に箸を伸ばす。そしてやっぱり一本だけ救って口に運んだ。


ちるちるちる〜ん。


ちるちるちる〜ん。


ちるちるちるちるちるちるち…


「ええい、ハヤト!!」


「きゅー!? はははははい!? なんですかなんですか?」


ああ見えて、ハヤトにリボーンが怒ることはあまりない。


マネージャーとして、仕事で怒ることなら毎日だがこうしてプライベートの時間…夫と妻としての時に怒るということは本当にない。


なのでこうして怒鳴られたことはハヤトにとって大きなショックだった。


「その喰い方は何だ! 違うだろ! 蕎麦はもっとこう…一気にすくって一気に食え!!」


「え、え、え、えぇぇえええ!?」


まさかのリボーンの怒りの原因はハヤトのお蕎麦の食べ方にあった。これがいつも通りだったハヤトはかなり驚いた。


「でも…でもでも、ハヤトはいつもこうやって…」


「その喰い方だと美味くないだろ」


「お、美味しいですよ!? とってもとっても美味しいですよ!?」


「オレが美味そうに見えん」


「きゅー!!!」


というわけで、何故かプライベートにも拘らずリボーンのハヤト鬼指導が始まったのだった…



ちるちるちる〜ん。


「違う! ずざざざざーだ!」



ちるるるる〜ん。


「だから違う! もっと一気に!!」



ちる…ちるるるるるるる〜ん!


「つーか一本ずつ喰うな馬鹿者ー!!」


「きゅー!!」



そうして二人のお蕎麦特訓は店が閉店の時間になるまで続いたという…





「…結局まともに喰えなかったな…」


「きゅー…ごめんなさい…」


「次の撮影帰りもここ寄るぞ…そして特訓だ」


「きゅ! ハヤト、頑張るのですよー!!」


会計を済まし、外に出ると…土砂降りだった。


「………」


「………」


今までの熱意が一気に冷めてしまうほどの冷たい雨だった。


「はぁ…予想以上に時間喰っちまったな…早く帰るぞ。ハヤト」


「はーい!」


車に乗っかり、二人は帰路へと急ぐ…が。


「ん…?」


「はう…どうしましたか? リボーンさん……って、きゅー!?」


ハヤトが奇声を上げた先…道の向こうは、木々が倒れて道を完全に塞いでいた。


「ついてないな…。この道が使えないとなると…どこかで一夜明かさないとな…」


けれど問題の泊まる場所はどうする。この土砂崩れに他の人間も自分たちと同じくどこかに泊まろうとホテルに殺到しているだろう。出遅れた分、開いてるホテルを探すのは難しい。


それに…ハヤトはアイドルだ。一応隠しているが正体がばれたら大騒ぎになる。それは避けたい。


車の中で休む選択もあるにはあるが、自分だけならばともかくハヤトはちゃんとしたところで休ませたい。なんだかんだでハヤトは小さな身体に見合うだけの体力しか持ち合わせてないのだ。


(ならば…)


そんなリボーンが選んだ選択は…個室にトイレ・バス付きの朝食サービス付き。完全機械受付で誰とも会う心配無し、ついでに低コストで済むという宿泊施設だった。


「ここが今日お泊りするホテルですか!」


「ああ、そうだ」


「はぅうーえっと、らぶほてる 学園パラ…んんんんんーー!?」


ハヤトがホテルの名前を呼び上げようとすると、突然リボーンがハヤトの口を塞いできた。


「アイドルがそんな言葉を口にするな」


「き、きゅー!? な、なんですかどういうことですか…!? はぅ…帰ったら雲雀さんにき…」


「聞くな」


「きゅー!?」


きゅーきゅーと涙目になってるハヤトの手を引いて、リボーンは借りた一室へと向かった。





「…と、ハヤト。ここでちょっと待て」


「はい?」


リボーンは玄関の前でハヤトを置いて、先に部屋の中に入った。室内に置いてある大きなテレビにはラブホテル特有の、モザイクの掛かってある卑猥な映像が流れていた。


リボーンはテレビの映像を消してからハヤトを呼んだ。


「ハヤト。もう入ってもいいぞ」


「はーい」


てとてととハヤトはドアを開けて入ってきた。リボーンは荷物を置いて、ベッドに腰掛ける。


「ふー…」


どっと疲れが振ってきた。朝から車を走らせ、影でハヤトのフォロー。そして人目に付かないようにハヤトをここまで連れてきた。


「はぁ…」


疲れた。だけれど彼にとっての休息はもう暫く先なのだった。


「あ! そうだ! ハヤト今日見たいテレビがあったんでした!!」


ぴっと。ハヤトは先程リボーンがハヤトの為に消したテレビを付けてしまう。


「!? …チッ!!」


リボーンはスナイパー顔負けの速度でリモコンを手にし、床を転がりながら電源スイッチを押した。テレビ画面が付きそうになり…消える。


「き…きゅー!? なんですか!? 何事ですか!?」


「…ハヤト。今日はテレビは諦めろ」


「え、え、えぇえええええ?」


ハヤトはいきなりのリボーンの要求に着いていけない。リボーンは今までこんな無茶なことは言ってこなかった。それだけの裏が影にあるのだが無論ハヤトが知る由もない。


「き…きゅー…テレビ…」


「雲雀が録画しててくれるだろう。(多分)戻ったら見ればいい」


「はぅ…きゅぅううう、分かりました…。今日はテレビは諦めます」


「ああ。そうしておけ」


「はい! …あ! リボーンさん小さな自販機があります! でもなんでしょうこれ…綺麗な色のが沢山です! えっと、すけるとんばい…んんんんんーーー!!!」



「 い い か ら お 前 は 黙 っ て ろ ! ! ! 」



「きゅ、きゅ、きゅ、きゅー!!! リボーンさん今日はおかしいです! どうしちゃったんですか!?」


「どうもしない」


「リボーンさんはどうもしないと言いつつ自販機を上着で隠さないです!!


「つーかこれは自販機じゃねぇ」


「きゅー…きゅーきゅーきゅーきゅー!」


「鳴くな。…ああ、ほら。ハヤト」


「きゅ! なんですかなんですかー! ハヤトになんだって言うんですかリボーンさんー!!」


「ここはケーキサービスがあるみたいだぞ。どれでも好きなもん頼め」


「きゅ! ケーキ…ケーキですか!? はぅっはぅっ」


先程の不機嫌さは一体どこへやら。ハヤトは一気に機嫌を直した。


流石はリボーン。ハヤトのことなら何でも分かっていた。


「きゅー! きゅー!! ケーキです!! リボーンさんとケーキなんです!!」


「いや、オレは…」


「きゅー…リボーンさんと…ケーキ」


「はぁ…分かった分かった。オレも食う」


「きゅー!!」


この後、ハヤトはリボーンとのケーキの食べさせ合いをして。その頃にはすっかり機嫌を直していた。


「ほら、ハヤト風呂にでも入って来い。今日は疲れただろ」


「きゅー! はーいリボーンさん!!」


ハヤトがお風呂に行ってる間、リボーンはテレビのコンセントを抜いていた。万が一ハヤトが映像を見たらとんでもないことになる。


………いや、ハヤトはああ見えて子供ではない。結婚も出産も経験している…一人の大人の女なのだ。


が、それとこれとは全くの別問題だ。そう思ってリボーンはコンセントを抜いた。





「リボーンさん! お風呂上りました!! お次はリボーンさんどうぞ!!」


「ああ、すぐに…い…く………」


ハヤトの声にリボーンが振り向いた先にはハヤトがいて…そしてリボーンはそのハヤトの姿に驚きました。


「何だハヤト…その格好は」


「可愛いですよねこれ! いつもパジャマがあるところに置いてあったんです!!」


えへへと笑うハヤトが着ているのは………とても可愛らしい、セーラー服。


しかも何故かスカートの丈が異様に短いものだった。少し動いたら…その、見えてしまうのではなかろうか。


そういえばハヤトはこのホテルに入る前ホテルの名前を言っていたが…そこに学園云々入ってた気がする。


「…ここはそういう嗜好の所だったか…」


「きゅ? どうかなさいましたかリボーンさん?」


「大人しくバスローブでも着ていろ…」


「きゅー…バスローブはハヤトにはとても大きかったのですよー。リボーンさんにでしたらぴったりだと思うんですけどっ」


「そうか…」


「はい! あ、それよりもリボーンさん! リボーンさんもお風呂入ってきて下さい! リボーンさんもお疲れでしょうから!」


「ああ、分かった。…そうする」


「はい!」


リボーンは他にも色々言いたいことがあったが、確かに疲労があったのと無邪気に何も知らないハヤトを咎めるのに気が引けたので一応頷いておいた。そして浴槽へと向かった。


そして数十分後…リボーンが戻った先には、ハヤトが新曲の練習をしているところだった。曲名は「はやって☆セーラー服」


「あ! リボーンさん! …最近のホテルは凄いんですねー…カラオケまで付いてるんですよ!!」


リボーンは無言でハヤトに近付いて、ぺしんと頭をはたいた。


「きゅー!? いいい痛い!? 痛いですよリボーンさん!?」


「お前…もういい年だろ!? 三児の母なんだろ!? 今度孫が生まれるんだろ!?


「きゅ! はいー…そうなのですよ! 雲雀さんと…あの子の子供が…きゅー! 楽しみですね!!」


「そんな奴がお前…セーラー服は着るわそのまま踊るわいいのかそれで!」


「きゅ、きゅー…ごめんなさい…」


しゅんと項垂れるハヤト。


その光景はまさに怒る教師と怒られる女生徒の姿に相応しかった。ハヤトのセーラー姿は全然浮いてなんかなかった。流石は永遠のアイドルハヤト。永遠の14歳。


「はぁ…もう引き摺ってもいいからバスローブ着ていろ。寝ちまったら一緒だ」


「はーい。分かりました!!」


こうして、リボーンとハヤトはお揃いのバスローブに身を包んで同じベッドで眠りに付いたのだった。





そんなことがあってから数日後。


ハヤトがいつものように雲雀お手製のおやつを食べていると…ある異変があった。


「きゅ、…きゅー…」


涙目で、きゅーきゅー泣き出してしまったのだ。それは美味しくて…というのとはまた違うように見える…。


「ん? ハヤト…どうした? このアイスはお前の好物だっただろう?」


「そ、そうなんですけど、そうなんですけどー…きゅー…」


どうにも食の進んでないハヤトを見て…リボーンにある疑惑が湧く。


「ハヤト…ちょっとこっち来てみろ」


「きゅ…?」


言われるがままにリボーンに近付くハヤト。


「口を開けてみろ。ハヤト」


「きゅきゅ!?」


そう言われた途端、いきなり狼狽え始めるハヤト。…いつもならばリボーンの言葉ならばなんでもすぐに聞くのにこのときだけは違った。


「きゅ、きゅー! だ、駄目です!!」


「ハヤト?」


「いくら…いくらリボーンさんの頼みだからって、それだけは聞けません!!」


きゅ! とハヤトはリボーンから離れてしまった。リボーンの向かい側である席まで行ってしまい…丁度リボーンと机を挟んで向き合う形になる。


「………ハヤト」


「きゅ!?」


少しドスの効いたリボーンの声に、すくみあがってしまうハヤト。


「オレの言うことが…聞けないのか?」


「あ…あう、あうあうあうあう…っでも、でもでも…!」


「お茶を持ってきたよー…ってどうしたの二人とも!? 何事!?」


お茶を持ってきた雲雀はリビングのその緊迫した雰囲気に驚いた。ハヤトの助けを求めるような視線が雲雀を直撃する。


「ひ…雲雀さんー!」


「な、何…? どうしたの? ハヤト」


「どうしたもこうしたも、お前の作ったアイスを食ってたらハヤトがいきなり苦しみだしたんだ


苦しみだした!? え!? ご、ごめんハヤト! これ嫌いだったっけ!?」


「きゅー! ち、違うんです違うんです雲雀さん!! アイスはとっても美味しかったんです!!」


「そう…? でも…ならどうして?」


「きゅー…」


何故かそこで涙目になってしまうハヤト。雲雀はわたわたと慌ててしまう。


「ご、ごめんハヤト! 怒ってない! 怒ってないから!!」


「…そこまでだ、ハヤト」


「きゅ!? リボーンさん!?」


いきなり上がったリボーンの声。そしてその言葉に身を固まらせるハヤト。


「…そ、そこまでって…一体どういう、」


「こういうことだ。…お前たち」


ぱちんとリボーンが指を鳴らすと、ハヤトの愛しい可愛い子供達が現れた。


「はぅ…!? あなたたち…どうしてここに!!」


「自分の家だからな」


「ママ…どうしたの? パパに隠し事なんて、どうしちゃったの?」


「はぅ!?」


少し悲し気に呟く長女ちゃんの声に、ハヤトはかなりたじろいだ。


「ママ、何か不満でもあるのか? なら直すから…ママ」


「はぅ…! ち、ちが…! 違うんですよ!?」


少し辛そうな長男くんの表情にハヤトはかなりたじろいた。


「ママ! ひっく、オレたちのこと…嫌いになっちまったのか!? そうなのか!?」


「きゅー!!」


どかーん。と、次女ちゃんの叫びにハヤトママは爆発した。そして一気に子供たちに駆け寄って抱き付き頬ずりをかます。


「きゅーきゅーきゅーきゅー! 違う…違うんですよ! ママは不満なんかないし、みんなのこと大好きなんですよ!?」


「どうだ、ハヤト」


「きゅ…リボーンさん…」


「お前の可愛い子供たちの前でも、それでもお前は隠し事が出来るのか…?」


「きゅー…リボーンさん、ずるいんです…! 卑怯ものー!!」


「ていうかハヤトの可愛い子供たちって、リボーンの子供でもあるんだけどね…」


「…ん? ハヤト、何か落ちたぞ」


「え…? あ、この間白蘭さんに頂いたマシュマロです…」


「この間ってお前…あれから何日経ったと思ってるんだ。早く喰っちまわないと痛んじまうぞ」


「そ、そうですねっ」


「ほら寄越せ。オレが食わせてやる」


「リボーンさん…」


クールに微笑み、優しい声を出してくるリボーンにハヤトはぽーっとなって…思わず頷いた。


「ほら、ハヤト。口を開けろ」


「はい…あー…」


「………」


「………」


口を開けるハヤト。そこを素早くリボーンが覗き込む。何事かと雲雀も覗き込んだ。


「………虫歯だな」


「…虫歯だね」


「雲雀。電話」


「分かった」


「きゅー!? し、ししししまったですー! リボーンさんの作戦に負けてしまいましたー!!!」


作戦も何も、リボーンとしては今回は結構行き当たりばったりだったのだがまぁ結果オーライとしてそういうことにしておいた。





「こ、こんな時間に開いてる歯医者さんなんてないですよー!」


「探してみないと分からないだろう」


「探さなくったって…」


「リボーン。一軒だけあったよ。今からでも受け付けてくれるって」


「きゅー!?」


「ああ、じゃあすぐに行くぞ。ハヤト、支度しろ」


「きゅー…きゅーきゅーきゅーきゅぅうううううう!!!」


…ハヤトはかなり涙目だった。


「諦めろハヤト。こういう治療は早め早めにしないと余計辛くなるぞ」


「きゅー…」


「それにしても…一体なんでいきなり虫歯なんかに…。ずっと僕が歯磨きチェックしていたっていうのに


「はぅ…そういえば、ハヤト…一日だけ歯磨きしないで寝ちゃったこと、ありました…」


「え? いつ?」


「きゅー、前、大雨が降ってお家に帰れなくなったときです。あの時リボーンさんとホテルに泊まったんですけど、その時…ハヤト疲れてて、歯磨きしなかったんです」


「ケーキ食ってたのにな」


「きゅー…」


「なるほど…ね。はぁ…ともあれ、早く歯医者行くよ」


「ううう…」


項垂れるハヤトを乗せ、リボーンと雲雀は連絡を入れた病院まで走った。





数十分後、リボーンたちが辿り着いたのは…病院とは程遠い外装をした建物。


「ここで合ってるのか?」


「合ってる…はず。名前もタウ○ページの通りだしね」


「…歯科医院「ヴァリアー」…か。なんか変な名前だな…」


「きゅー…」


「ほら、ハヤト。鳴いてないですぐ診てもらうぞ」


「き、きゅーーー…!」


「ああ、ハヤト…そんな、断末魔みたいな声出さないで、ね?」





「あらん。いらっしゃ〜い。さっきの電話の方かしら〜?」


リボーンとハヤトと雲雀を出迎えたのは巨漢の受付嬢、身体をくねくねと動かしているオカマだった。


この時点でリボーンと雲雀は来るべき所を間違えたかもしれない。と思ったが、ここまで来てしまっては引き返すことも出来なかった。


「…ああ、そうだ」


「患者さんはそこの可愛らしい女の子かしら〜? …あら? どこかで見たことがあるような…」


「はぅ! き、きききき気のせいです!」


「そ〜お? まぁいいわ〜。えっと、診察券…は初めてだからないわね〜。保険書の提示をお願いしま〜す」


「いや、保険書はなしで頼む」


「あら…。太っ腹さんね〜。本当に大物の予感。…ともあれ了解したわ〜。可愛らしい女の子、お一人様ごあんな〜い」


受付嬢…ルッスーリアがそう言うと、ルッスーリアよりも更に巨漢な大男が現れてハヤトについてくるよう指示した。


「…こっちだ」


「きゅ…っは…ははははい」


「………妖艶だ」


「きゅーーー!?」





「…あいつ今ハヤトに一番似付かない言葉吐かなかったか?」


「気のせいじゃない?」


「それもそうか…。はぁ、後は待つだけだな」


「そうだね…ハヤト、大丈夫かな…」


「大丈夫かなって、歯医者で何を不安に思うことがあるんだ?」


「だってここ…なんか、危なさそうじゃない…?」


「お前が見つけたんだろうが」


「そうだけど………」



きゅー!!!



二人の声を遮るように、ハヤトの奇声が響き渡った。


「………」


「………」


「ま、どこの歯医者でもあいつは同じ反応だろうよ」


「…そう、だね」





「う"お"ぉおおおい…人の顔見て悲鳴を上げるなんて随分と失礼なんじゃないのかぁああああ?」


「き…きゅーきゅーきゅー…ごごごご、ごめんなさい…」


「カスが。お前がそんなんだからこのガキも怖がるんだよ」


「…どっちかってと、ボスの顔が怖かったと思うけど…傷だらけだし」


「ああ? んなわけねぇだろうが。このカスの目付きの悪さにびびったんだよ」


しかしその実は金髪の医師ことベルが放った一言通り、顔に傷らだけの医師…ザンザスの顔が怖かったからだったりする。


まぁ…、確かにザンザスの言うとおり、カスと散々罵られている医師、スクアーロの目付きの悪さもハヤトを怯えさせている一つの要因でもあるのだが。


それと…ハヤトが悲鳴を上げたのには、もう一つの理由があった。


「おら、とっとと済ませるぞ…そこに横になれ」


「き、きゅー! は、はい…」


がくがくと震えながら、指差された診察台の上に座って横になる。そして指図されるがままに口を開けた。


「チ…カスが」


(き、きゅぅぅうううう!?)


口の中を見られていきなりの暴言にハヤトはかなり泣きたくなった。ていうか既に涙目だった。


(リボーンさん…! 酷いんです…!)


まさかこんな歯医者に連れてこなくてもいいじゃないですか! とハヤトは涙目で何度も思って何度も恨んだ。そうでもして気を誤魔化さないと恐怖で発狂しそうだった。


「カスが…カスがカスが」


(き、きゅー!!)


怖い顔でぶつぶつとカスがカスが言われてハヤトはこの恐怖の時間が早く終わりますように! と念じていた。


「ああん? …こっちの歯にも虫歯が出来かけているぞカスが…ったく、手間ぁ取らせやがって」


「しししっボスー! 提案。その治療、オレに任せてくんない?」


「ああ? 見習いのお前に何が出来るってんだ? 引っ込んでろ、カスが」


「うしし、オレって王子なんだよー? 王子に意見しないでよボス!」



なんで王子が歯医者の助手をやっているんだろう。



ハヤトにはそんなことを思うぐらいしか出来なかった。


「…ったく、仕方ないな…。じゃあやってみろ。ベル」


「あいよー!」


顔に傷らだけで怖い顔の医師が視界から消えたことで、ハヤトの精神的負担は大きく激減した。


代わりに現れたのは軽い感じの…前髪が隠れている青年だった。怖くない。よし、大丈夫だ。


ハヤトがそう思ったのも束の間…


「うっししし。使ってみたかったんだよね…! 行け! ゴーラ・モスカ!! キミに決めた!!!


『ギ…ガ…ピピピ』


「き、きゅーーー!?」


ベルが声を掛けて何かの装置に手を置くと、最初ハヤトが悲鳴を上げたもう一つの理由…巨大ロボットの置物がいきなり動き出したのだった。


「きゅ、きゅ、きゅ、きゅー!! 何事ですかなんですか!? これはないです! 流石のハヤトだってありえないって分かりますよ!!!


「うっさいなー。いいから患者はねーてーる。ほらモスカ。束縛ー


「きゅきゅー!!」


「はいモスカ。レーザーちりょー



「きゅ…きゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅーーー!!!」





「……静かに…なったな」


「なったね」


ハヤトの悲鳴は当然のように待合室で待ち続けるリボーンたちの所にも届いていた。


まぁ、場所が場所なので悲鳴の理由も分かっていたし、放置しておいたのだが…


「静かになると…それはそれで不安だな」


「そうだね…って、あ。戻ってきた」


様子を見てみるべきかと思い悩んでいた二人の下にハヤトが戻ってきた。一人では立てないのか最初ハヤトを連れて行った巨漢の男が運んできた。


ハヤトは最初はふらふらと歩いていたが…その視界にリボーンを認めると、今までの緊張の糸が千切れてしまったのか急に泣き出して、リボーンに飛び込んできた。


「ふ、ふぇえええええん! リボーンさんー! リボーンさんリボーンさんリボーンさんー!!! 怖かったですー!!」


「怖かったってお前…大袈裟な」


「ひっく…全然…全然大袈裟じゃないです! 何度死ぬかと思ったことか!!」


「歯医者で誰が死ぬかよ」


「でも…でもでも! 凄い怖い顔の人に口の中見られて何度もカスがカスが…って!」


「カス? ああ、喰いかすか? 歯石を取ってもらっただけだろ? いい事じゃないか」


「それに…それにですよ!? おっきなロボットがいて、ハヤトの身動きを取れないようにしたりそれにレーザーとかも撃ってきたりして…!」


「…ハヤト落ち着け。歯医者に普通、ロボットはいない


「分かってます! でも本当に…本当にいたんですよ!? レーザー撃たれたんですよ!? 信じて下さいリボーンさん!!!


愛する妻の、必死の訴え。


けれど…ああけれど。今ここにいる、この世界のリボーンは結構常識人なリボーンなのであった…


「はいはい。そうだなそうだな」


「きゅー!! し、信じてない…信じてないです、リボーンさん!!」


「さて、とっとと会計済ませて帰って寝るか」


「リボーンさん!!」


泣き出しそうなハヤトを雲雀に任せ、リボーンは会計窓口へと足を進む。


…と。


「………む。あんた…気に食わないね


開口一番に会計の窓口にいた深いローブを被った人間にとてつもなく失礼なことを言われてしまった。


「…偶然だな。オレもなんだか…お前とは馬が合いそうにない」


ばちばちばちばち…! リボーンとフード人間―――名札にはマーモンとあった―――との間に見えない火花が爆ぜ合っていた。


「…こちらがお会計となります」


「…ん? おい待て。この値段はぼったくりなんじゃないのか?」


「保険書の提示がなかったもので。この料金になります」


「本当か…? なんなら調べてもらってもいいんだぞ?」


「は、身元を明かさない人間のくせに。下手に第三者を呼んだら大変なことになるの、そっちなんじゃなの?」


「…言ってくれるな」


バチバチバチバチ…! 見えない火花が更にバチバチと爆ぜていた。


「…ふん、まぁいいよ。それで、次の来日はいつにするんだい?」


「き…きゅー! つ、次ですか!? まだあるんですか!?」


「この時間帯でもいいのなら、明日でも構わない」


「そう…じゃあ明日の…」


「きゅ、きゅ! リボーンさん…! ここは! ここだけは勘弁して下さい!! ハヤトいい子になりますから! 歯もちゃんと磨きますから! だから…この歯医者さんだけはもう許して下さいー!!」


相当な嫌われようだった。レヴィがちょっと切なそうだった。


真夜中の歯医者に、ハヤトの鳴き声がきゅーきゅーと響き渡っていた…。





「あっはははは! それはそれは大変だったね!」


「きゅー! 笑い事じゃないんです社長ー! 本当の本当にハヤトは生命の危機を感じたんですから!!」


「あっははは! ごめんごめん! うん、ハヤト大変だった! でも面白い歯医者さんもあったものだね…」


「はぅ…本当、見つけてきた雲雀さんの馬鹿ー! て感じなんです!!」


「え!? 僕!? 僕のせい!?」


「ハヤトは怖がりすぎだ」


「きゅー! そんなことはないんです! あそこに入ったらみんなみんな怖いに決まってるんですー!!」


「あっははははは。そんなに怖いんだ。じゃあオレも間違って入らないよう気をつけないと。…なんて名前なの? その歯医者さん」


「ヴァリアーって名前の歯医者ですよ! 社長も気を付けて下さいね!! レーザーでビュー! なんですよ!!」


「うん。ヴァリアーね…。って、ん? …ヴァリアー…?」


「どうしたツナ」


「ヴァリアーって………え? ヴァリアー? もしかしてあの?」


「きゅ…? 社長…?」


「えー…うっそー! あそこか! あはは! これはこれは世間って奴は狭いなー!!」


「何か知ってるのか?」


「その前に…ハヤト。その歯医者さんの先生に、すっごい怖い顔の人いなかった? 大きな傷だらけの」


「きゅ! いました!! 顔にたくさんの傷があって…目付きが怖くて…たくさんカスって言われました!!」


「ザンザスだ…! あははははは! あいつ変わってないなー! うわー、懐かしい…!!」


「何だ? 知り合いか?」


「知り合いも何も、オレの親戚だよ!!」


「ええええええええー!?」


「そう驚かないでよー! あはは、本当…懐かし…!」


「はぅ…社長のご親戚なんですか…! どんなご関係なんですか!?」


「んー? ザンザスとはねー…オレの従兄弟の従兄弟の従兄弟の従兄弟の、それまた従兄弟の従兄弟の従兄弟のいと…」


「ようはそれただの従兄弟こだろ」


「ありゃ。ばれた」


「きゅ…きゅー!? はう!? え? すっごく遠い遠い親戚なんですか!?」


「うん、つまりね…綱吉とザンザスは従兄弟同士で…さっきの綱吉の説明は綱吉とザンザスの関係を行ったり来たりしてただけってこと」


「はぅ…きゅ? きゅー?」


「…分かってないね」


「まぁ、ツナとそのザンザスって奴は従兄弟ってことだ。それにしてもお前の親戚の病院だったのか…道理でなんか変なところだと…」


「何が道理なのかよく分からないけど、あいつら顔は怖いしやることなすこと常識外れだけど腕だけはいいから」


「………」


「…そんな目で見ない。ほら、オレからも言っておくから! 今度サービスするようにーって」


「要らん。…お前の絡んでるサービスなんて怖くて利用出来るか」


「ひっどいなー…。あ、そういえばハヤト、この間は山奥まで撮影お疲れ様。帰り大変だったみたいじゃない?」


「あ、はいー…そうなんですよ。もうすっごい雨が降って…道が塞がっちゃってですねー!」


「うんうん、大変だったねー…。それで、その日はどこに泊まったのかな?」


「えっと、えっとー…なんかですね、受付の人がいなくて機械なんです! で、おっきなテレビがあって、カラオケも付いてて…あ! パジャマの代わりにセーラー服が置いてあっ…んんんんー!?」


「どうしたのリボーン。ハヤトの口を塞いだりして」


「なんでもない。…さて、そろそろオレたちは用があるからこれで失礼するぞ。じゃあな。ツナ。雲雀」



「…リボーンも嘘が下手いなー…」


「え? 何? なんのこと?」


「…そして雲雀は人を疑うことを知らない。と」


「だから…何の話?」



「ツナの奴…あのタイミングであの話題を振るとは…どっかから情報仕入れやがったな…? 本当に発信機でも付けてんじゃねぇだろうな…」


あの若さで会社を立ち上げ、しかも成功を収めている沢田綱吉。


そのせいか、黒い噂も後を絶たない。


たとえば…実は会社員みんなに発信機を付けていて、弱みを握り様々な裏活動をさせている、とか…


「まさかな…」


「きゅー…一体なんなんですか!? リボーンさんあのホテルの話になるとおかしくなります! ハヤトは心配です!!」


「ああなんでもない。気にするな」


「きゅー…」


「おやどうしたんですかハヤトくん。きゅーきゅー鳴いて可愛いですね」


「あ! 骸さん!! お久し振りです!!」


「骸…お前ライバル会社の人間だろ? ぽんぽんとこんな所に来てもいいのか?」


「クハハ! まぁそう言わず…。それに今更じゃないですか」


「まぁな…」


骸はライバル会社のアイドルでありながらも、ライバルであるハヤトや敵であるはずの雲雀と馬が合うらしくちょくちょくとこうしてボンゴレに遊びに来ている。


「あ、そういえばハヤトくん…白蘭という人間を知っていますか?」


「白蘭さん? はい! 知ってますよ! この間ドラマでご一緒しました!」


「そうですか…。ハヤトくん、あの男には気を付けて下さいよ…!!」


「きゅ!? え? 何でですか!?」


「あの男…ちゃらんぽらんに見えて実際はかなりの白狸ですよ…! 油断しちゃ駄目なんですよ!!」


「白狸って、なんだか弱そうだけどな」


「ええ、一見弱そうなんですけどその実強いんです…! なんて言ったってこの間、人気投票でまさかの逆転を許してしまいましたからね…!!」


「きゅー! 骸さん負けちゃったんですか!?」


「ええ、うう、あそこの大食いバトルでもう少し僕が粘っていれば…!!」


「ヴィジュアル系が売りのお前が何色物系に参加してるんだよ」


「リボーンくん…残念ながら、これが現実というものですよ…。外見だけじゃ、食ってはいけないのです…


「骸さん…」


「さて…僕はこれで失礼しますね。ハヤト、何度も言いますけど白蘭には気を付けて。最近何か嫌なことがあったらそれは全部白蘭のせいですから!!


「どれだけお前そいつのこと嫌いなんだよ」


「き、きゅ! 分かりましたですよー!!」


「分かるのかよ」





「はぅ…白蘭さん…まさかそんなに悪者だったとは! 確かにドラマでも悪者です白蘭さん!!」


「骸も悪者だけどな」


「そういえばまた今度あの森で収録ありましたね! いつでしたっけ…?」


「ああ…そういえばもう少しだったな。いつだったか………」





―――そして。そのドラマ撮影当日。


「はぁぁああああ…正ちゃん正ちゃん、ハヤトちゃん来るかなぁ…!」


「そりゃあ来ますよ。主演ですから」


「ねねねね、あのさ! 僕の話…聞いてくれる?」


「はい? …まぁ、聞きますけど。なんでしょう」


「僕…ハヤトちゃんと結婚を前提としたお付き合いを申し込んでみようと思ってるんだ…」


「は?」


「あ! 急な話で驚くのも無理ないと思うよ!? でも…さ、僕…ハヤトちゃんのこと…前会ったときに本当に好きになって…」


「………」


「もちろん最初はお友達からでも僕は全然構わないよ!? 徐々に話を進めていくつもりさ!! うん…むしろそうしよう。最初はお友達から…」


「や…あの。白蘭さん」


「ん?」


「残念ですが…非常に残念ですが。それは無理です」


「え? 無理って…どういう?」


「ハヤトさん既に結婚されてますから」


「は!?」


「この間ハヤトさんに声を掛けていたスーツの人がいたでしょう。あの人がハヤトさんの旦那さんですよ」


「え!? え!? …でも、あれはマネージャー…」


「ですから、マネージャー兼旦那さんです。ついでに三児の母でそろそろお孫さんも生まれるとか…」


「うそぉ!? 何言ってるのさ正ちゃん! そんなことあるわけないじゃない!!!」


「あああもう白蘭さん! 気持ちは分からないでもないですが現実を見て下さい!!」


「いや! 信じない!! だってハヤトちゃんは永遠の14歳だもん!! 14歳なんだもんあの子は!!」


「お疲れ様ですー!」


「あ! ハヤトちゃん!! ハヤトちゃんおはよう!! …あ、そういえばハヤトちゃん、この間のマシマロはどうだった?」


「はぅ…白蘭さん………マシュマロ…そういえば結局歯医者さんに行く切欠になったのはマシュマロさんでした…骸さん…やっぱり骸さんの言った通りなんですね…!?」


「え? へ? なに? 何の話?」


「知りません! 白蘭さんの酷い人ー!!」


「えぇぇえええええ!? せ、正ちゃん! どうしよう!! 何の話もしてないのに振られた!!


「あー…それが所詮白蘭さんって言うことでしょうかね」


「言うに事欠いてその発言!? 酷くない!? 正ちゃん酷くない!? ていうかハヤトちゃん! 待ってー!!」


「白蘭さんー。ストーカーはしないで下さいねー」


「しないよ!! なに言ってるの正ちゃん!! ハヤトちゃーん! 待って、話を聞いてハヤトちゃーん!!」


「ドラマの中で会いましょー!」


「うわお! 聞いた正ちゃん!? 前僕がハヤトちゃんに言ったのそのまま返してくれた! なんかどきどきするね!!」


「ドラマの中以外じゃ会いたくありませんっていう風にも聞こえますけどね」


「正ちゃーん!!!」



…この後。白蘭がハヤトに掛けられた疑惑を解くための必死の説得はドラマの撮影時間が終わるまで延々続いたらしい。





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白蘭さん、撮影中は仕事してください。


ヒビキミトリ様へ捧げさせて頂きます。