獄寺隼人は恋をしていた。


その思いに気付いてから獄寺隼人の頭の中は寝るも覚めるもその人のことばかり。


この思い。この気持ち。一体どうすればいいのだろう…


そんなことを悶々と思い悩む日々。


そしてその打解決策はある日唐突に現れる。


「そういう時は…隼人。料理をするのよ!!」


「り、料理…?」


「そう! 料理を作って食べてもらうのよ!!」


突然現れたビアンキにそう言われる獄寺隼人。料理。自分が。あの人に。


「………」


想像するだけで照れた。


「た…食べてくれるかな…?」


「もちろん!!」


獄寺隼人はその日から料理を勉強することを決意した。





それから数ヶ月。





「獄寺くん、その指どうしたの?」


「えっ」


ツナが獄寺の指に巻かれている絆創膏を指さしながら聞いてくる。獄寺は困った顔をする。


「その…しゅ、修行です!!」


「修行?」


「はい! 新技の開発です!!」


「ふーん…」


もちろん料理の特訓の成果である。誰にも内緒だが。


料理の本を買い、道具を揃え、そして日々特訓である。


最初は失敗ばかりだったが………今も失敗ばかりだが、しかしようやく食べれるものが作れるようになってきた。


特に昨日作ったものは自分で言うのもなんだが結構………美味しかったような気がする。


獄寺は少し自信が付いた。


そして丁度その日の帰り道。


獄寺は想い人であるリボーンと偶然会った。





「ん? 獄寺か」


「り…リボーンさん……」


獄寺は胸キュンした。


いつ見ても格好いい。いつ見ても愛らしい。渋い。素敵。獄寺の胸の鼓動が高鳴る。


「じゃあな」


「あ…」


リボーンが立ち去ろうとする。獄寺は思わずその背中に声を掛けた。


「リボーンさん!」


「ん?」


リボーンが振り返る。その無垢な瞳に貫かれる。獄寺の顔が赤くなる。


「…なんだ?」


優しい声色。顔が熱くなる。冷静になれと念じながらどうにか声を出す。


「あ…あの、」


声が震える。緊張している。しかし何を言うというのだ。ただ行ってほしくなくて声を掛けただけだというのに。


「り、リボーンさんお腹空いてませんか?」


「ん?」


「オレ、今料理の勉強してて…よろしかったらリボーンさんに食べて頂きたいんです」


獄寺は言い切ってから早速後悔の念に押し潰された。


自分は一体何を言ってるんだ。いや、確かに自分は料理の勉強をしている。リボーンに食べてもらいたい。それは本当だ。


しかしまだ早い。それはもっと上手くなってからだ。今の未熟な腕で一体何が出来る。何が振る舞えるというのだ。


「………」


リボーンはじっと獄寺を見て、口を開こうとする。言葉を放とうとする。獄寺は断ってくれと切に願った。


だが…


「そうか。そういうことなら、ご馳走してもらうか」


「喜んで」


獄寺は外見ではにっこり笑顔で答え、内心ではオレの馬鹿ーーー!!! と罵っていた。





さて困った。困ったことになった。


獄寺はリボーンと並んで歩きながら脂汗をだらだらと流していた。


どうしたものか。


断るか? ここまで来て? 自分から誘っておいて? 駄目だ、そんな事出来ない。


「獄寺? 顔色が悪いが、どうかしたか?」


「いいえ、何も」


腹を括れ、獄寺隼人。この数ヶ月の特訓の成果を今こそ見せる時だ。


落ち着け。落ち着いて考えろ。今家には何がある。何が作れる。何が出来る。


獄寺は未だかつてないほど頭を高速回転させた。そうしている間にも足は進み獄寺の家へと近付いていく。


「お前の家に行くのは初めてだな」


「そうですね」


ああ、こんなシチュエーション、もっと違う形で味わいたかった。神様のいじわる。


「何を作ってくれるんだ?」


「それは…出来てからのお楽しみということで……」


すいませんまだメニュー決まってなんです。などとは口が裂けても言えない。


「そうか。それは楽しみだな」


ハードルがワンランク上がった。音を立てて。


獄寺は顔を青褪めさせた。


そうこうしているうちに家に着いた。


ひとまずリボーンにコーヒーを淹れ自分は台所へ。食材を漁る。


作れる料理は………


……………。


………。


…。





「リボーンさん」


「ん」


「出来ました」


「カレーか」


「はい」


リボーンの前に器を置く。腕が少し震えていた。


リボーンは出されたカレーをじっと見ている。獄寺は思わず汗を掻く。


リボーンはスプーンを手に取りカレーをすくう。獄寺の目線がそちらに向かう。


「…そんなに凝視されたら食いにくいだろうが」


「す、すいません」


しかしそう言われてもつい見てしまう悲しい性。リボーンは苦笑しながらカレーを口にした。


「ど…どうですか…?」


「ん。うまいな」


「ほ、本当ですか!?」


「ああ」


獄寺は自分で作っておきながら信じられなかった。こんなことってあるのだろうか。


思わず呆然とする獄寺。リボーンはぱくぱくとカレーを食べている。


「お前は食べないのか?」


「え?」


「カレー。二人で食べた方が美味いだろう?」


獄寺は一瞬自分が何を言われているのかよく分からなかったが、すぐに察して顔を赤くさせた。


「え、え、えええ?」


「なんだ、嫌なのか?」


「滅相もありません!!」


獄寺はすぐに台所に行ってカレーを盛る。そしてリボーンの正面に座った。


…自分がリボーンと一緒に食事。


なんだか信じられなかった。


カレーを一口食べてみる。…緊張しているせいか、味は分からなかった。


「うまいな」


「ええ」


リボーンと一緒に食事。しかも自分の家で。一体どんなミラクルが起きればこんなことになるのだろうか。獄寺は必死に考えた。ビアンキか? ありがとう姉貴。獄寺はそう思った。


「しかし、なんで急に料理なんて始めたんだ?」


「えっと…」


まさか愛するあなたに食べてほしいからです。などと馬鹿正直に言える訳がない。


「その、そろそろ自活したほうがいいかと思いまして…」


「そうか。偉いな、お前」


褒められた。


本気でありがとう姉貴。獄寺は本気でそう思った。


「なら、レパートリーが増えたらまたご馳走してもらうかな」


「え?」


「嫌か?」


心無しか、どこか残念そうなリボーンの声。獄寺は思わず答えていた。


「リボーンさんさえよろしければ、喜んで」


「そうか」


獄寺の言葉に、リボーンは満足そうに笑った。


獄寺はその顔に見蕩れながら、次は何を作ろうかと考えていた。


結論。料理も案外悪くない。





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悔しいが、姉貴の気持ちが少し分かった気がする。


リクエスト「MADも好きだがたまにはほのぼのをw」
リクエスト、ありがとうございました。

MAD……?