暫くして、オレは静かにため息を吐いた。
携帯電話を仕舞おうとして、手が上手く動かないことに気付く。
感覚のない、震える指をどうにか動かして。懐に仕舞って。
身体が震えた。
…寒い。
背の支えにしていた壁が硬く、冷たい。
足の力が抜けて、ずるりと座り込む。そのまま勢い余って、床に倒れこむ。
ふと壁に目が行く。
…オレが今まで寄りかかっていた壁が、赤く黒く染まっていた。
床にも血溜りが出来ている。それがオレの背から、更に更に増えていく。
………ああ、ごめんなさい。リボーンさん。
あなたの言う通り。あなたの疑う通りです。
オレは嘘吐きです。
オレは、もう帰れません。
でも。
だって。
仕方がないじゃないですか。
あの場で「致命傷受けてます」って、そう言ったらどうなったんですか?
あの場で「帰れません」って、そう言ったらどうなったんですか。
結果は何も変わらないのに。
オレはここで死ぬのに。
こんなことに下手な人員を割かすわけにも行きませんし。
けほりと、小さく咽る。口内に血の味が広がる。
…さっき、よく電話で会話が出来たものだ。
もう、声を出すことも出来そうもない。
血と共に、体温が抜け出ていくのが分かる。
目蓋が、鉛のように重い。
身体が、動かない。
オレの終わりも、もう近い。
………。
リボーンさんは、オレの嘘に、気付いていただろうか。
最初から完璧なあの人に、未だに未熟なオレの嘘は、通じただろうか。
どちらにしろ、オレはあの人を裏切るのだけど。
待ってると言ってくれたあの人を、裏切るのだけど。
それだけが心残りで。だけどあの人なら、と少し安心もして。
そう思いながら、オレの思考は深い闇の底へと沈んでいった。
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だからあなたがオレの言葉が嘘であるかどうかなんて関係なく、オレを待ち続けていることなんてオレは知らない。