「わたしのかぞく」
「私の家には、パパとママと雲雀と弟がいます」
「パパとママはとても仲が良いです。お仕事でもお家でもずっと一緒にいます」
「この間もママが転んで足を捻った時パパはお姫様抱っこして運んでいました」
「私がそれを羨ましそうに見てたらパパは私にもしてくれました」
「嬉しかったです」
「将来はパパのお嫁さんになりたいです。ママから奪い取ります」
「そういえばこの間ママに、妹がほしいのってお願いしました」
「弟と遊ぶのも楽しいけれど、妹もほしいって言いました」
「そうしたら、本当に妹が出来ました」
「来年には会えるそうです」
「嬉しいです」
「…これ、何?」
「国語の宿題」
「ふーん…何か言われた?」
「えーとね…」
―――雲雀って誰!?
「ってみんなに総突っ込みされた…」
「まぁ…そうだろうね」
「なんでー? 雲雀は雲雀だよ?」
「他の家庭のほとんどはパパとママしかいないからね」
「むー? ???」
「キミにはまだ難しいかな…この家庭は色々と特殊だからね」
「んー? よく分かんない…」
「徐々に理解していけばいいよ。それにしても…ママも大変な時に妊娠しちゃったね…」
「うー…あたしがおねだりしたのが…いけなかった?」
「そういうわけじゃないよ。あの頃はまだ今ほど忙しくもなかったからね…まぁ運が悪かっただけさ」
「うん…」
「…さ、ご飯が出来た。キミの弟を呼んどいで」
「はーい! 多分お昼寝してるね。あの子いっつも寝てるから」
「そうだね。…さ、温かいうちに食べちゃうよ」
「うん!」
「………運が悪かった…か。それで済めばいいんだけど…ね」
そんな風にリボーン宅で育児休暇突入早○年の雲雀が呟いている頃。
ハヤトは社長室に来て、その報告をしていた。
「…はぁ。ったく、忘れた頃にやってくるって言うか…なんとも大変な時期に出来ちゃったねー…」
「えと…うう、ごめんなさい…」
「いや、別にハヤトが謝る事ないけど…どうしようか…」
少し困ったように頭を抱えるツナ。
実は妊娠が発覚したのはハヤトが出演するドラマの続編が決定した直後だったのだ。
そのドラマはかなり人気で、降りることも出来ない。
「今リボーンが監督と話してるはずだけど…どう出るかなー…困ったなー…」
「あう、ううう…」
「それにしても…はぁ…」
ツナがため息を吐く。なんだか遠い目をしていた。
「中学生だったハヤトが…今や三児の母…か。懐かしいなぁ…」
「………もー、またその話ですか?」
ツナはハヤトが母になったことがそんなにも衝撃的だったのか、ハヤトが芸能界に復帰してからと言うものその話題ばかりしてくる。
「…社長はハヤトが結婚すること…反対でしたか?」
「いや、反対って言うか…ていうかあの結婚報告はないと思ったよ…」
更に遠い目をしてツナが言う。
「もう…ね。デビューしたての中学生時代はベッドシーンの意味も知らなかったのにさ…! その子が結婚ってそりゃショックだったよ」
「もぅ、一体何年前の話をしているんですか? 凄い昔の話じゃないですか!」
「いや、そうは言うけどさ…」
ちらりとツナはハヤトを見る。
…その外見は驚くほどスカウトしたての中学二年生時代と大差がなかった。
確かにスカウトしたのは物凄く昔話になるのだろうが、しかしハヤトの外見がそうは思わせてくれない。
本当に数日前の出来事のようにツナには思えるのだった。
「…そういえば。ハヤト」
「はい?」
「流石にもうベッドシーンの意味…理解したよね」
「それは…まぁ、はい」
ちょっと顔を赤らめさせながらハヤトは言ってくる。意味が分かっている証拠だ。
「実はそんなハヤトにそんなシーンのあるドラマへの出演以来が着てるんだけど…どうする?」
「はぁ…って、えぇぇぇええええ!?」
ハヤトが動揺する。アイドルになり芸能人になり数多くのドラマをこなしてきたがハヤトは未だにそういうドラマはやっていなかった。
「どうする? ハヤト」
ツナが笑いながら聞いてくる。ハヤトは戸惑うばかりだ。
「そ、そそそそそ、その、えと、ハヤトは…」
ハヤトが後退りしながらも何かを言おうとしたそのとき、社長室に第三者が現れた。
「ツナ。入るぞ…―――監督との話が付いた。代役はなしで、ハヤトが退院するのを待つそうだ…ってどうした?」
現れた第三者はハヤトのマネージャーで旦那さまなリボーン。
ハヤトはリボーンの背に素早く隠れた。そしてリボーンの服の裾を掴みそっと影から顔を出す。
「は…ハヤトは、その…リボーンさんとしか、そゆこと、するつもり…なくて」
「うあ…熱いこと言われた…って大丈夫だよハヤト。言ってみただけだから。てかハヤトがやりたいって言っても無理矢理キャンセルさせるし」
「うう…社長、趣味が悪いんですー」
ごめんごめんと謝るツナに不貞腐れるハヤト。リボーンだけがひとり話題に取り残されていた。
「…何の話だ?」
そうしてハヤトは三回目の育児休暇を取り家へと戻った。
「暫くはお家にいますよー!」
そしてやっぱりハヤトには医療班が付くことになった。もうお約束であった。
「そうなの。じゃあいつも以上に気を付けて生活しないとね。…なるべく、転ばないように」
「はぅ、申し訳ないです…」
ハヤトが照れた風に笑いながら言った。
「…でも本当気を付けないと駄目だよ? ママ、すぐに転ぶから」
「ママはおっちょこちょいだからな」
「はぅっ」
雲雀だけでなく可愛い子供二人からにも注意を受けてしまった。
流石のハヤトもこれにはちょっとへこたれた。
「そ…そゆこと、言わないで下さい…ハヤトは大丈夫ですから…!!」
「ママの大丈夫はあんまり信用出来ない」
「ママは守ってやらないと駄目だからな」
ハヤト、子供にまで守ってやらないとと言わせてしまいました。
かなりハヤトはショックを受けていた。
そして翌朝の早朝。
雲雀がいつものようにみんなの朝食の準備をしていると、そこにハヤトが現れた。
「…ハヤト? どうしたの? こんな朝早くに」
ハヤトは朝が弱い。特に冬になると中々布団から出てこなくなる。
「はい、ハヤトも朝ごはん作るのをお手伝いしようと思って!」
それを聞いた雲雀は固まった。
いや、ハヤトのその姿勢はいい。というか本来なら家事は妻であり母であるハヤトの役目だ。
…しかしハヤトは家事との相性が滅法悪い。いつしかツナが家事の神に嫌われていると言っていたが、あながち間違いでもないと思うぐらいに。
「ハヤトはもう少ししたらあんまり動けなくなるので、それまで少しぐらいは雲雀さんに恩返しがしたいんです!」
「いや…そりゃ気持ちは嬉しいけど…」
「はい! それではハヤトは何をしましょうか!?」
「………」
雲雀はかなり困ってしまった。
しかしどうにかしてハヤトを引き下がらせようともハヤトの目をきらきらと輝いていて…どうにもそういう雰囲気ではなかった。
「えと…じゃあ……」
悩んだ末に雲雀が出した結論。それは…
「リボーンさん、はい、お弁当です!!」
「ああ…って、今回はいつもと包みが違うな」
「はい! 今回はなんと! ハヤトが作ったんですよー!!」
「お前が?」
「はい!!」
「………」
リボーンが雲雀に目を向けてみると、雲雀は目を逸らした。
リボーンはそれで大体弁当の中の惨状を予想した。
「そうか…悪いな」
リボーンがハヤトを撫でるとハヤトは嬉しそうに笑った。
「えへへ、リボーンさんの為ならこれくらいお安い御用なんですよ!!」
「ああ」
ちなみにお弁当の中身は二酸化マンガンの詰め合わせかと一瞬リボーンさんは思ったそうです。
けれどハヤトの所に弁当箱が返ってきたとき、中身は空になっていました。
これにハヤトは感激し、雲雀も別の意味で感動し、これからはリボーンの弁当係はハヤトが担うことになった。
…ただ、流石にリボーンを不憫に思った雲雀が冷凍食品を勧めていたが。
「…ねー、ママー」
「はい? なんですかー?」
ハヤトがお腹の子供に話しかけていると、ちったいハヤトが話しかけてきた。
「何で雲雀の日はないの?」
「…はい?」
突然のちったいハヤトの言葉にハヤトは首を傾げます。するとちったいハヤトの後ろから、
「父の日も母の日もあるのに。何で雲雀の日はないんだ?」
と、ちったいリボーンさんが質問の付け加えをしてくれました。
なるほど、とハヤトは手を合わせる。
本当だ。父の日も母の日もあるのに雲雀さんの日がない…
「…よし、なら雲雀さんの日を作ってしまいましょう!」
「え? いつ?」
問い掛けるちったいハヤトにハヤトはにこやかに笑って、
「思い立ったが吉日という諺があります! 即ち、今日ですよ!!」
と、軽く応えた。
ハヤト立案「雲雀さんの日を作ってしまいましょう計画」には運良く…或いは運悪く休みだったリボーンも無理矢理参戦させられた。
「リボーンさん! いつもお世話になってる雲雀さんに今日は感謝しましょう!」
「いきなりどうした」
「思えば雲雀さんにはハヤトがアイドルになったばかりの頃からずっとずっとお世話になりました!」
「そうだな」
ハヤトの送迎だけに留まらず、ハヤトが寮に入ってからはハヤトの家事係にまで昇格した雲雀。
最初こそは「女の子の世話なんて!」と反対していた雲雀だったが時の流れは何とやら。
いつしか雲雀もそんな生活にすっかり慣れてしまいハヤトの下着を見ても何の反応も見せなくなった。
強いていうなら「可愛いじゃない」ぐらいか。しかもその口調はまるで母親そのもので、この頃から雲雀の感性は母親のようなものになったのだろう。
そんな雲雀もハヤトが結婚してようやく離れる…のかと思いきやハヤトが心配で心配で心配で何故か育児休暇を取ってくる始末。
そしてやっぱりハヤトの世話をし子供が生まれてからはそれまでの生活にプラスして子供の世話も雲雀が行っていた。
更にちったいハヤトが幼稚園に通うようになってからはその送迎・お弁当作りも雲雀が。
来年からはちったいリボーンさんも幼稚園に行くからそのときの送り迎えも雲雀がする予定だ。
夕方、迎えに行く雲雀をさり気に保母さんが狙っていると言う噂があるが、残念なことにその時の雲雀の頭の中を締めているのは夕飯のお買い物だけだった。
子供と買い物をしながら帰り、夕飯作り。パパ、ママに会いたいと言う子供達をなだめているとハヤトとリボーンが帰ってくる。
そして二人の荷物を受け取り夕飯を出し食事の後は片付け。お風呂に入るのも布団に入るのもこの家で一番最後は雲雀だ。
…もうお世話になってるとか、そういうレベルではなかった。
「なので今日を雲雀さんの日にしましょう! お夕飯をハヤトたちで作るんです!!」
「………」
リボーンは思った。
ハヤトの作ったあれを雲雀に食べさせる…
雲雀は次の日腹痛で動けなくなるのではないだろうか。ある意味雲雀の休息になるだろうが。
「…料理はオレが作るから、お前は子供と一緒に遊んでろ」
「えぇ!? そんな…ハヤトも…お手伝い…」
リボーンのまさかの否定にハヤトは見る見るうちに涙を溜める。それが溢れて…
「―――分かった分かった。じゃあ子供と一緒に居間の飾り付けをしていろ」
「…飾り、付け?」
ぴたりとハヤトの涙が止まる。
「そうだ。部屋を飾って、雲雀を驚かせてやれ」
というか雲雀の日なんてものがいきなり出来た時点で雲雀は驚くだろうが。
しかしハヤトはそんなことには気付いていないようで、ぱぁっと顔を輝かせた。
「…はい! ハヤトはやります! 頑張ってしまいますよ!!」
「ああ。頑張ってこい」
リボーンはハヤトの頭を撫でてからハヤトと子供達を居間へと放った。
「さて…」
リボーンはキッチンにと向き合う。
確かに雲雀には日頃から世話になっているし、少しぐらい力を入れて作ってやるか。
そう思い、リボーンは冷蔵庫の中を見ながらレシピを考えていった。
そうしてリボーンがキッチンで奮闘しているとき、ハヤト組はリボーンに言われた通りに部屋の飾り付けをしていた。
…といっても色紙を総動員させて星やリボン。あるいは花や何故かピアノなどを折って部屋にぺたぺたと張ってるだけだったが。
「ママー、色紙取ってー」
「はい、どうぞ」
「ママ。のりを取ってくれ」
「はい。これですねー」
そしてハヤトも飾り付けするものを作ろうとはさみを使おうと取ろうとするが…何故かちったいハヤトが取り上げてしまった。
「…? あの…」
「「ママにはさみは危険だから」」
ハヤトの問い掛けに答えが返ってきた。ステレオで。
ハヤトはへこたれた。
「ううう…ハヤトは…そんなに駄目ですか…?」
料理をさせてもらえず更には飾り付けまで否定されてしまった。
…そんなにハヤトは駄目な子でしょうか。ハヤトは自問しました。
―――と、そんなハヤトの頬にいきなり冷たいものが押し当てられました。
「ひゃぁ!?」
慌てて振り向くとそこには愛しの旦那様のリボーンがいて、手には三つのアイスがありました。
…どうやらその中の一つを押し付けられたようです。
「…何を深く考え込んでいるんだ?」
「ううう…リボーンさん、ハヤトは…駄目な子ですか?」
「あ? 駄目な奴を雲雀があんなに面倒見るわけないし、オレだって娶らないし、こいつらだって懐かないだろうさ」
「…リボーンさん…」
言われてリボーンに撫でられれば、ハヤトの胸の中のわだかまりは溶けてなくなってしまいます。
「ほら、お前らこれでも食べて少し休憩しろ」
リボーンは持ってきたアイスを机の上に並べていく。
「わ…もしかしてこれ、リボーンさんの手作りですか!?」
「ああ」
すごいです…っとハヤトの目が輝く。子供たちもパパの意外な特技に認識を改めました。
「つっても、これは失敗したんだが」
「そうなんですか? 凄く美味しそうなんですけど」
「ああ、少し甘くしすぎた。今作り直し中だ」
そうなんですかー、とハヤトは相槌を打ちつつリボーンさんの手作りアイスを一口ぱくり。
それはなるほど、確かに甘い。…けれども。
「―――すっごく美味しいですよ! リボーンさん!!」
「そうか」
甘党のハヤトは大喜びだった。子供たちも喜んでくれていた。
「パパすごーい!」
「はぅ…ハヤトは幸せです、リボーンさん…!」
「それは大袈裟だろう」
「そんなことはないんです! あ…でもリボーンさんの分が…」
「オレは別にいいから、お前らで食べろ」
「うー…駄目です! 幸せはみんなで分かち合いたいんですっ」
言ってハヤトはアイスを一口分スプーンにすくって…
「リボーンさん、ハヤトの分をどうぞです。はい、あーん」
と、リボーンにスプーンを差し出した。
「………」
とりあえずリボーンは差し出されるままに食べた。素で。
「…む?」
リボーンが気付くと、ちったいハヤトも「あたしのもー!」と言いながらスプーンを差し出していて、ちったいリボーンさんも無言でだがスプーンを差し出していた。
とりあえずリボーンはみんなの好意を無下にすることはしなかった。
そうしてその晩。
ハヤトに頼まれた社長から仕事をさせられていた雲雀が戻ってきた。
…ハヤトは社長に「雲雀さんを休ませたいので今日の晩まで雲雀さんを預かってて下さいっ」と頼んだのだが何故雲雀は仕事をさせられたのだろうか。
ああ、すっかりと遅くなってしまった。帰ったら急いで夕飯を作らないと。
それに掃除だって今日はしてない。…この時間から掃除機はうるさいから…一応ほうきではわいて、明日念入りに―――
そんなことを思いながら雲雀はドアを開けた。そしてそんな彼の頭上に…
パンッ、パパンッ
複数の破裂音が響いた。そして降り注いできたのは…色とりどりのリボンと、そして…
「雲雀さん! お帰りなさい!!」
「おかえりなさいー!」
「え…え?」
クラッカーとハヤトと子供達のお出迎えに付いていけない雲雀。
「え…何? 何事?」
「雲雀さん、いつもハヤトたちの面倒を見てくれてありがとうございます!」
「ありがとー!」
「うん…? 気にしないで。僕が好きでやってることだし」
謙遜でもなんでもなく事実そうであることが一番恐ろしい雲雀。
「なので! ハヤトたちはお礼の意味を込めて本日を雲雀さんの日に任命します!!」
「…僕の?」
「はい! 父の日母の日雲雀さんの日です! さぁさ雲雀さんこちらへ! ご飯はもう出来てるんですよー!!」
ハヤトの話を聞いて一瞬雲雀が止まった。
「…ご飯? まさかハヤトの手作りだったり…しないよね?」
「はぅ…出来ればそうしたかったのですけど…ご飯はリボーンさんが作りました」
「彼が?」
「はい」
それを聞いて雲雀はとりあえず炭の塊を食べさせられることだけはなさそうだと安堵のため息を吐きました。
ちなみにリボーンの作った食事は雲雀が作るものと負けず劣らずなほどの出来だったという。
流石は我らが完璧超人マネージャーリボーン。彼は家事も完璧だった。
美味しい料理にハヤトと子供たちから送られる感謝の祝辞。雲雀は柄にもなく感動していた。
「…ありがとう。嬉しいよ」
雲雀が幸せを感じているときだった。
ふと、リボーンの携帯が鳴り響く。メールだったのだろうか、リボーンはそれを確認して…
「…悪い。仕事が入った」
そう言って立ち上がるリボーンにハヤトは顔を曇らせる。
「お仕事って…今からですか?」
「ああ。明後日まで戻らないからな」
「はぅ…」
悲しそうに顔を俯かせるハヤト。リボーンはハヤトの頭を撫でて。
「そう落ち込むな。…仕事が終わったらすぐに戻ってくる」
「はい…」
「…じゃあオレはもう行くからな。雲雀。後を任せた」
「分かった。任せて」
「…悪いな」
雲雀の言葉にリボーンは小さく返した。雲雀はきょとんとする。
「…? 別に謝られることはしてないと思うけど?」
「―――そうか。じゃあな」
言って、リボーンは行ってしまった。
暫くして食事も終わり、子供たちが食器を片付けようとする。
「あ…待って下さい、ハヤトも…お片付け…しますから」
ふらふらとハヤトも立ち上がる。そして食器を手に取るが…
ガシャン。
「あ…」
手が滑ったか、それとも力が足りなかったのかハヤトは手に取った皿を落としてしまった。
「す、すいません」
「もう…片付けは僕がやるから。ハヤトはもう寝な?」
「そんな…! 今日は雲雀さんの日なんです! 雲雀さんにお手間を掛けさせるわけにはいきません!!」
ハヤトはそう言うも見るからに空元気だ。…リボーンと離れることになったのが余程ショックらしい。
「…それに、僕は元々ハヤトに片付けをさせる気もないよ。危なっかしいし」
僕の事をこんなにも考えてくれたのが嬉しい、と雲雀は言ってくれた。
でも…ハヤトは一日中雲雀には休んでほしかったのだ。家事ぐらい自分でしたかったのだ。
「…ああもうハヤト、泣かないで。…キミたち。お片付けは僕がやるからママの面倒を見てあげて」
「むー、あたしもパパと会えなくて淋しいのにー」
「まったく、仕方がないな。ママは」
「ううぅぅいう…面目ないです…」
子供たちに連れられてハヤトは退室した。
このあと、雲雀は洗物と今の飾り付けの掃除を一人でしていた。
…自分の日の片付けをまさか自分でする羽目になるとは雲雀は夢にも思わなかった。いや自分の日が出来たことがそもそも予想外だった。
けれど…やっぱりその日は雲雀にとって嬉しい日だった。
そんな出来事もあってから暫くして。
お腹の大きくなったハヤトは自宅から病院へと姿を移し、そして病室で一心に台本を読んでいた。
自分のせいでただでさえ撮影が遅れているのだ。
これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。…せめて台詞ぐらいは完璧に覚えたい。
出来ることなら演技もこの場で試してみたいのだが流石にそれは子供に負担が掛かるとドクターストップが掛けられていた。
「…10代目を侮辱する奴は誰であろうと許さねぇ!!」
このドラマではハヤトは男役だった。しかも中学生だった。
このドラマはシリーズ化されていて、なんとちったいハヤトとちったいリボーンさんも出演していた。
ちったいハヤトはハヤトの演じる獄寺隼人の幼少時代役。
そして…ちったいリボーンさんはなんとそのドラマの主役だった。
流石はあのリボーンの子供なだけあって、その血を受け継いでいた。
ちったいリボーンさんは幼子でありながらもその役者意識は早くもプロ級。しかも他の役者にすら口を出すほどだった。
ハヤトはそんな我が子に誇らしげだった。…ちなみに、最もちったいリボ様に口を出されるのはハヤトだった。
「果てろ」
ハヤトは今日も台本を見て役になりきっている。
そうして監督の理解がありハヤトの努力の中、無事に三人目の子供が生まれた。ちったいハヤトが望んだとおりに女の子だった。
けれど…三人目の子供…次女ちゃんは最低限しか母であるハヤトに構ってもらえなかった。
―――本当はハヤトも次女ちゃんに構いたかった。それは紛れもない本心。
でも今まで散々待ってもらった監督をこれ以上待たせるわけにもいかなかった。
ハヤトはこの撮影が終わったらたくさんたくさんたくさん構ってあげるつもりだった。
そう、幼い頃に会えなかった分それに累乗して甘く優しく。
ママはあなたを愛していますと。これ以上ないほど甘えさせるつもりだった。
だから…待っててほしいと。
ハヤトは次女ちゃんにそう願っていた。
けれど、子供にそれだけの理解を求めるのは酷であった。
次女ちゃんは日々、ママの帰りを待っていた。
「…ママー、ママー、…マァマー!」
「…ママはお仕事中。何度も説明したでしょ?」
ぐずる次女ちゃんを育児休暇中の雲雀があやす。
「うー、やらー! ママにあいたいのー!!」
「だから我が儘言わないでって…そうだ」
思い立って、雲雀はあるものを持ってきた。それは…今まさにハヤトが励んでいるドラマが記録されたDVDだった。
雲雀はテレビにそれを映し出す。
「ほら、見てごらん。ママだよー。おにーちゃんもおねーちゃんもいるよー」
「う? …ママ…!!」
次女ちゃんが画面に食いつく。
テレビの大画面に映し出されていたママことハヤトは…格好良かった。
自らが認めた君主に命を捧げ、仲間を身体を張って守り。そして敵を屠っていた。
「ママ…ママ!」
次女ちゃんはママに会えない日々の寂しさをそのドラマを見ることによって埋めていく。
…だから。
「―――はぅー、やっと終わりましたよ! ようやくあの子に会えますよ!!」
「ああ…大丈夫かハヤト。あまり寝ていないんだろう?」
「大丈夫です! はぅ、あああ! 楽しみですー!」
ハヤトは見るからにハイだった。
それは可愛い我が子に久し振りに会えるからという理由だけではなく、連日のように続く撮影、現場に泊り込みの日々。
マスコミのインタビューに役作り。ハヤトの疲労はピークに達しているだろう。
でもそれでもハヤトは寝る時間すら惜しんで帰宅を選んだ。
…全ては…次女ちゃんに逢うため。
決めていた。たくさん愛するって。
今までひとりにさせてしまった分、たくさんたくさん愛して、愛して、愛し抜くって。
「はぅー、久し振りのお家ですよー! …た、た、ただいまです!!」
ハヤトがドアを開く。そこにいたのは…何故か疲れた表情の雲雀。
「やぁ…お帰りハヤト。久し振りだね」
「はぅ…? 雲雀さん…? こんな所でどうしたんですか?」
「ん? 爆撃されたの」
「へ…?」
首を傾げるハヤト。その向こうの今ではなにやら走り回っている音が聞こえる。
「はぅ…? はぅ? な、何事ですか…?」
「気にしないで。…あの子のお気に入りの遊びだから」
「はぅ?」
戸惑うハヤト。そして居間から大きくなったちったいハヤトが出てくる。
「むぅ。爆撃されちゃった…ていうか、盾代わりに使われた…ってあ! ママ!!」
「はぅー! はい、ママですよー! 逢いたかったですー!!」
ハヤトは大きくなったちったいハヤトを抱き締める。
そしてママの声を聞いてか大きくなったちったいリボーンさんも現れた。
「爆撃されてきた」
「…あんたあれだけ有利な位置に立っていたのに爆撃って…どう考えてもわざとでしょ…まったく…」
「はぅー!! 逢いたかったです!」
ハヤトは大きくなったちったいリボーンさんもぎゅぅっと抱き締めた。
「…って、そういえばさっきから爆撃爆撃って…なんなんですか?」
「…えーと、それは…」
「彼女が一番喜ぶ遊びだよ、ハヤト」
「はぅ…?」
更に人影が増えた。そしてそれは予想外の人物で。
「社長…!?」
「や。ハヤト久し振り。…リボーンもお仕事ご苦労様」
ツナはハヤトと、大きくなったちったいハヤトを構っているリボーンに挨拶する。いつもの、あの笑みだ。
「どうして社長がここにいるんですか?」
「ん? 彼女に呼ばれて」
「かの…じょ?」
笑いながら居間の方を見る社長。
みんなの視線がなんとなしにその方向へと向く。
そして、居間から小さな影が一つ出てきた。
「むー! しゃちょー! しゃちょーはオレがおまもりするのにしゃちょーがばくげきされたらだめじゃないですかー!!」
現れたのは、小さな女の子。
しかしお兄ちゃんのお下がりだろうか、何故か黒のスーツを着ていた。しかも…
「お…おれ?」
一人称が男のものだった。見た目は可愛らしい女の子なのに。
「あはは。ごめんね。敵の流れ弾に当たっちゃってさ…」
「ううう、オレがふがいないばかりに…もうしわけありませんしゃちょー!」
その台詞には聞き覚えがあった。
昔にやったドラマの台詞。
「…キミがいない間、ママが恋しいって泣いてたから…昔、キミが出てたドラマを見せてたんだ。…ごめん。その結果」
雲雀がこっそりと教えてくれた。
なるほど。確かにあれは男役で出ていた。
と、ここで次女ちゃんがハヤトに気付いた。
ハヤトと次女ちゃんの目が合った。
「…ママ」
次女ちゃんはハヤトに真っ直ぐ走ってきて…そのままハヤトをタックルして押し倒した。
「っどーん!!」
「きゅー!?」
ハヤトはうさぎのような叫び声を上げた。
「ママをうちとったぜ! これよりママはにんげんばくげきき、すもーきんぼむはやとがもらいうけるー!!」
次女ちゃんは役になりきっていた。ハヤトは目を白黒させている。
けれど次女ちゃんはそんなハヤトをまったく意に介さず、
「な、な! ママ! もうずっといっしょにいれるんだよな! たくさんあそべるんだよな!!」
なんて、純粋な笑顔で問い掛けてきた。
「―――ええ、そうですよ。ママはお休みを貰ってきたので暫く一緒に遊べるんですよ!!」
ハヤトも遅れながらも次女ちゃんの言わんとしていることを汲み取りにっこり笑って答えた。
離れ離れだった二人は、こうして再会を果たしたのだった。
「…ところで、結局なんで社長はここに?」
「えっとね。話せば長くなるんだけど…」
「なんだか知らないけど、この子こいつに懐いちゃってね。それを理由によく来るんだよ」
「はわー…あまり社長に迷惑掛けちゃだめなんですよ?」
「しゃちょーにごめーわくはかけません! ぜんしんぜんれいをもっておまもりするのですよー!!」
「はぅう…ほ、本当にだめなんですよ! 迷惑掛けたらママだって怒るんですからね!!」
「ハヤトも怒るんだ。…ね。どう怒るの?」
「めって言います」
「………」
「………」
「…ちょっと、きついですか?」
「いや…なんか、癒された…」
「はぅ?」
「あうう…ママ、ごめんなさい…」
「てか効くんだ」
今日もリボーン邸は平和だった。
次女ちゃんは今までの寂しさを埋めるようにとハヤトにたくさん甘えてきた。
けれどそれはハヤトとしても望むところだったのでたくさんそれに応えた。
口調が男物として覚えてしまったのが心配だがでもそれは自分に会えなかった日々の結果だと言うのだから強くも言えない。
そして次女ちゃんはやっぱり社長がお気に入りのようだった。
目を放すとすぐに次女ちゃんは外に出て会社に向かう。
目指すはやっぱり社長ことツナの所だ。
「…あれ? どうしたのこんな所まで」
「しゃちょーのおてしゅだいにきました!!」
「おて…? おてつだい、かな?」
「そうなのです!! おてしゅだいです!!」
「…癒し系の子供もやっぱり癒し系だな…」
「う?」
「―――こら!」
「あう! ひ、ひばり?」
「…駄目でしょ。ひとりで出てきちゃ。…悪いね綱吉。この子勝手に家から出ちゃったみたいで…」
「むー、ひばりはなせ! しつこいぞ! おれはひとりでもだいじょーぶだ!!」
「こら。…何度も言ってるけど、女の子が"オレ"なんて言っちゃ駄目だろ」
「でもママだっていってるじゃねーか!」
「あれはドラマの役! …もう、ハヤトのドラマの役の口調ばかり覚えて…」
「はぅー、二人ともここにいましたか! 探しちゃいましたよー」
「あ、ママ!」
「もー、社長にご迷惑掛けちゃめ、って言ったじゃないですか! 悪い子さんですー!」
「め、めいわくなんてかけてないぞ!」
「…そう、なんですか?」
「え? うん、まぁ」
「はぅ…なら、いいんですけど…」
「さ、帰るよ」
「ぷー! しゃちょー! またきますよー!!」
そうして三人は退室する。
けれど数時間後にはまた次女ちゃんはやってくるのだった。
それこそ仕事中に会議中に限らず次女ちゃんは社長にくっついて離れない。
あまりにも普通にそこにいるものだから事情の知らない人間が見たら背後霊か座敷わらしだと思うぐらいに。
その度にハヤトは頭を下げて謝罪するのだった。
「う、ううぅ…ハヤトは…嫌われているのでしょうか」
「そんな事ないから元気出して」
ハヤトは見るに落ち込んでいた。
今までの子供が落ち着いている子だったのが原因か、それとも今まで接することが出来なかった罪悪感からか…恐らく両方だろうが、とにかくハヤトは落ち込んでいた。
その落ち込みようは次女ちゃんが怯むぐらいだった。
「…ママ」
「う、ううううう…ごめんなさい、ごめんなさい…」
泣きながら謝罪するハヤト。ぽろぽろと涙が零れてる。
「…あの、オレはママのことだいすきだから…」
「ひっく…でも…ママはあなたをたくさんたくさんひとりにしてしまいました…」
「…でもそれは、しごとがいそがしかったからなんだろ? オレがきらいだからじゃねーんだろ?」
「そうですけど…でも、ハヤトは…」
「…ねーねーもにーにーもひばりもあとパパもきて、そのたびにみんないってくれたんだぜ?」
「はぅ…?」
「もうすぐママがかえってきてくれるって。ママはかえってきたらたくさんたくさんあいしてくれるんだって」
「………」
「そして…ほんとうにそうだった。ママはオレをたくさんたくさんあいしてくれて…それがすごくうれしくて」
次女ちゃんは笑ってハヤトに抱きついてくる。小さな身体をハヤトは思わず抱き締め返した。
「だからな。…オレはママがだいすきなんだ。でもちょっとママにあまえすぎちゃったかな?」
「そんなこと…! ないんです! ハヤトは…ハヤトは…!!」
たくさんたくさん甘えてくださいとハヤトは言った。
そうしてもっと、次女ちゃんのことが知りたいと言った。
次女ちゃんの朝は雲雀の声で始まる。
「ほーら、朝だよ。…ハヤトもいつまで寝てるの。仕事に疲れてるのは分かるけどもう起きな?」
次女ちゃんのすぐ隣には、待ち侘びたママの姿。
ママが来るまではお姉ちゃんとお兄ちゃんとが一緒に眠ってくれていたのだがママが帰ってきてからはこの通りだ。
ちなみに眠るときはパパも一緒だ。三人で川の字で眠っている。パパはお仕事で朝早くから出てしまうが。
「みゅー…あさ…」
起きなきゃだけどもう少しだけー…と次女ちゃんは再びハヤトの胸の中に戻る。
するとハヤトは無意識にかぎゅっと抱き締めてくれて…次女ちゃんは眠りに落ちそうになる。
「…起きなさい」
雲雀が少しきつい口調で布団を剥ぎ取った。
外の冷気に触れて流石の二人も目を覚ます。
「はぁああああぅ!? ささささ寒いですよ!?」
「ひばりおうぼうー!!」
朝を起こしに来ただけで酷い言われようだった。
子供部屋から居間へ移動する二人。そこでは既に朝食がスタンバイされていた。
大きくなったちったいハヤトも大きくなったちったいリボーンさんももう学校に出ている。
「ママ! しゃちょーにあいにいこう!!」
「はぅ? それは構いませんけど…でもお忙しいようでしたらすぐに帰るんですよ?」
「わかってる!」
次女ちゃんはにこやかに笑いながら答えた。
次女ちゃんは日々こうして毎日のようにボンゴレプロダクションに顔を出している。
今や次女ちゃんはボンゴレプロダクションでも名物のようなものになっていた。
「あれ? 二人ともまた来たんだ」
「お疲れ様です、社長」
「しゃちょー! またきましたよー!!」
社長は持っていたペンの動きを止めて二人を出迎えてくれた。
「あの…お仕事中だったんですか?」
「ん? …いやいいよ。別に大したことじゃないし」
それにリボーンに回せばいいし。と社長は内心笑っていた。黒いよ社長。
「―――ツナ、入るぞ。…ってなんだお前ら。来てたのか」
「リボーンさん!」
「パパ…!」
不意に室内に現れたのはお仕事中の我らがリボーンさん。ハヤトも次女ちゃんもパパに会えて嬉しそうです。
それから社内で三人は暫しの団欒を過ごして。ハヤトと次女ちゃんは溜まっている仕事を一区切りつけて片付けた雲雀の迎えにて一緒に帰る。
雲雀はハヤトと次女ちゃんをお家に送ったあとは学校に行ってる子供たちの迎えに行き、それからお買い物をして帰ってくる。
それまでハヤトと次女ちゃんはお家でお留守番だが、この時間帯は二人は揃ってお昼寝をしている。微笑ましい光景だった。
「んん―――」
この日、先に起きたのはハヤトだった。
お隣では次女ちゃんがすやすやとぐっすり眠っている。
「―――あ。起きた」
「はぅ?」
声に反応してハヤトがその方を見てみると、そこには大きくなったちったいハヤトがいました。
「あ、おはようございます! 帰ってたのですね」
「うん」
ハヤトはなんだか素っ気無い対応の大きくなったちったいハヤトに抱きつきます。
ハヤトとしてはそれは親子としてのスキンシップです。いつものことです。なのに…
「―――やめてよ」
ぱしっと、はたかれて…離れられてしまいました。
「…え?」
ハヤトは突然の行動に着いていけません。茫然とした表情で見ています。
「…もう、そこまで子供じゃないんだから。…ママはずっと、その子を見てればいいんだから」
その子。…視線の先に行きついたのは、夢の中の次女ちゃん。
ハヤトは少し考えて…そして静かに微笑んで。
「……あなたはとても…偉い子さんなんですね…」
「……え?」
ハヤトは今一度大きくなったちったいハヤトを抱き締めました。今度はさっきよりも優しく、そして力強く。
「…はな…してよ。ママなんて、もう…いらないんだから…」
そう言うも大きくなったちったいハヤトの声は弱々しくて。身体も微かに震えてて。
…別に大きくなったちったいハヤトは、ママのことが嫌いになったのではなかった。
むしろ大好きで…とてもとても大好きで。
でも、もうママに甘えるのは止めようと…そう思ったのだ。
だって、自分はお姉ちゃんなのだから。
あの甘えん坊さんの妹に…ママを譲らないとと。そう思ったのだった。
自分が望んで、そして生まれた妹。
けれど…あまりママに構ってもらえなかった妹。
自分も弟も。雲雀も…パパも仕事が忙しい中戻ってきてくれて遊んでくれた。
でもママだけは…そうもいかなかったから。
ずっとずっとあの子はママを待っていたから。
そのママが帰ってきてくれたから。
だからママは、あの子のもの。
そう思ってママを否定したのに…ママは全てを分かっている風に接してくる。
「あなたはいい子さんですねー、妹想いさんなんですねー」
ぎゅうっと抱き締めてくるハヤト。
大きくなったちったいハヤトからぽろぽろと涙が零れた。
そして大きくなったちったいハヤトはママに抱き付いて泣いた。
「…おねーさんも妹さんも。ママには甘えてもいいんですよ」
優しくハヤトはそう言ってくれた。
「オレはみんなすき!!」
それはその日の晩のこと。
一家団欒の夕食時に家族の話になり、誰が一番好き? という話になりそれに次女ちゃんは真っ先にきっぱりと答えたのだった。
けれどその答えに雲雀と子供たちは驚いていた。
迷わずママだと答えると思ったのに。
「オレはママもパパもねーねーもにーにーもひばりもみんなすき! みんなオレをあいしてくれるから!!」
そう断言する次女ちゃんにはそう言うことへの照れとか恥じらいはまったく感じられない。
純粋な思いを言えるのは、幼さゆえの特権だといういい証だった。
「…はい! ハヤトもみんな大好きです! 誰が一番だなんて選べないのですよー!」
次女ちゃんに続いてハヤトもそう宣言する。
こちらにもそう言うことへの照れとか恥じらいがないのは…まぁハヤトだからで済まされた。
ともあれ、揃った家族に囲まれてみんな幸せそうです。
けれど…明日からはハヤトの休日も終わり、またアイドルに復帰します。
「…ママ、またでちゃうのか…?」
「はぅ………はい」
次女ちゃんは少し淋しそうです。でもハヤトはみんなのアイドル。ハヤトを待ち望んでいる人はたくさんいるのです。
「なるべく…早く戻ってきますから…」
「…本当?」
「はい!」
「…パパも?」
「ああ」
ママとパパの答えに次女ちゃんはどうにか引き下がってくれました。
「むー…分かった。ママとパパがもどってくるまでひばりでがまんする…」
「わお。光栄だね」
「学校が終わったらあたしも面倒見るよ」
「はぅ! お任せしますよおねーさん! おにーさんも頼みますよ!」
ハヤトにおねーさんと言われなんだか照れる大きくなったちったいハヤト。大きくなったちったいリボーンさんも頷いて答えます。
ハヤトが授かった三人目の子供は、口調は男な女の子。
誰よりも寂しがり屋で、そして誰よりも愛されることの嬉しさを知っている女の子。
そんな彼女もファミリーに加えて、ハヤトの人生は続いていくのだった。
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ヒビキミトリ様へ捧げさせて頂きます。