それはある寒い日のこと。


ツナの家に遊びに来た獄寺が、リボーンに問い掛けた。


「…ね。リボーンさん。…一緒に出掛けませんか?」


そう聞いてくる獄寺に、リボーンは静かに言葉を返す。


「そうだな。そうするか」


「はい」


リボーンは獄寺にぴょんと乗っかって。そして獄寺はリボーンを抱きかかえて。


「じゃあ行くか」


「はい」


二人揃って外に出る。


吐いた息が白かった。






   - 寒空の下で -






外は煌びやかで、そして華やかだった。


遠くから近くから聞こえてくるクリスマスソング。店には必ずといっていいほどサンタを模したものが並んでいた。


街を歩く人々の顔はみんな幸せそうに笑っていて。



たとえばそれは、子供連れの親子。


サンタさんにお願いするプレゼント。書いた手紙は届いたかな? ええ、きっと。


楽しそうに、笑ってる。



たとえばそれは、手を繋いだ恋人たち。


周りの雰囲気がそうさせるのか、それとも寒さを言い訳にしてかぴったりとくっついて。ねぇ 次はどこへ行こうか。


幸せそうに、笑ってる。



…なら、自分たちは?


どう贔屓目に見ても親子には見られないだろうけれど、でも絶対恋人同士にも見えなくて。


獄寺はリボーンを抱き締めたまま歩く。二人は会話をしないまま黙ったままに街中を進んで。


そして街の中心地にある巨大なクリスマスツリーの前まで二人はやってくる。そしてそれを見上げて。


「綺麗ですね」


「そうだな」


二人は黙ってそれを見ていて。…ただじっとしながら見ていて。


暫くそうしていると、突然冷たい突風が吹き荒れて。周りの人々は寒さに震える。


「ん…」


獄寺もその例外ではなくて。思わず漏れてしまった吐息に少し恥ずかしそうに頬を染めて。


「…帰りましょうか。冷えてきましたし」


「ああ」


言って二人は帰路へと着く。周りの店には見向きもしないまま。


…いや、一つだけ獄寺が目を向けたものがあった。それは信号待ちのときにだけだけど。


けれどそれにもすぐに目を逸らして。信号が青になって。獄寺は再び歩き出す。


けれど。


「獄寺」


リボーンの短い声に、獄寺は足を止めた。


「はい?」


「あの店に寄れ」


「…え」


その店は、まさに獄寺が見ていた店で。


「どうした?」


「い、いえ…」


リボーンに言われたなら行かないわけにもいかず。獄寺はその店へと向かった。


店に着くとリボーンは獄寺から飛び降りて、迷いもせずにある一つの商品を取る。もしかしなくてもそれは先程一瞬獄寺が見ていたもので。


「店主。これを包め」


アンティークショップで買い物をする赤ん坊。物凄い光景だ。


店主は予期せぬ来客に多少困惑気味だったが、獄寺の姿を見て兄か何かと買い物なのだろうと思ったらしい。商品を袋につめる。


…流石にカード払いする赤ん坊には驚いたようだったけど。



「ほら」


素っ気無くついさっき買ったばかりの品…指輪をリボーンは獄寺に渡す。


「あはは、ありがとうございますリボーンさん。…でもオレほんの一瞬しか見てないつもりだったんですけど、よく分かりましたね」


「別にお前を見ていなくとも、お前が好みそうな物ぐらい分かる」


「え…あ、」


さらりとそう言うリボーンに獄寺は二の句が告げなくなって。顔に熱が集まってしまう。


ああ、もう。この人がこういう人だって分かっているはずなのに。なのにいつもこうして翻弄されて。


「開けないのか?」


包みを手渡されたまま解こうとしない獄寺にリボーンが訪ねる。獄寺は苦笑しながら。


「オレ、貴方とツリーを見れるだけで充分だったんですけど」


「お前はな」


「あ…そうですね。リボーンさんを寒い中連れ回しちゃって…すいません」


お詫びにオレも何か贈りますよ。何がいいですか? なんて…そう聞いてくる獄寺にリボーンはため息一つ。


「お前は…まぁ、いい」


じゃあこれを貰っとく。なんて言ってリボーンは獄寺をグイッと引き寄せて…





「あ、二人ともお帰りー」


こたつの中で一人暖を取っていたツナは戻ってきた二人に声を掛ける。しかし何故か返答はなく。


「…? 獄寺くん?」


ツナが振り返るとそこには獄寺の腕から飛び降りて二階に上がるリボーンと。ぼけっと立ったままの獄寺がいて。


「獄寺くん…? どうしたの?」


獄寺のことが心配になったツナが近付くが、それでも獄寺はぼんやりしているままで。


「ご…」


「10代目…」


再三話掛けようとしたところでようやく獄寺が口を開く。目線はリボーンが向かった二階を見つめたままだったが。


「リボーンさんって…凄いんですね…」


「え…まぁ確かにそうだと思うけど…何の話? ていうか獄寺くん顔赤いよ!?」


まさか外の寒さにやられて風邪でも引いてしまったのだろうか。そう思うツナの前で、獄寺はへたりこんでしまった。


「ご、獄寺くん!?」


立っていられないほど酷いのだろうか。ツナはパニックを起こしそうになる…が。


「世の中にあんな凄いのがあるなんて…知りませんでした」


―――は?


思わず聞き返してしまいそうになるツナだったが何とか堪える。そして獄寺をよく見てみた。


確かに獄寺の顔は赤くてその表情は熱があるようにぼんやりとしているが…どうにも具合が悪いとか、そんな風には見えない。


何というか…風邪とはまったく別な不治の病にかかってしまっているように見えた。特に年頃の乙女がかかりやすいという、あれに。


「獄寺くん…一体リボーンに何されたの…?」


「すごい…ことです」



ワオそりゃすげぇ。凄過ぎてこれ以上聞きたくねー



しかし潤んだ瞳で上目遣いで見られれば惚れた弱みのツナに引き剥がすことなんて出来るはずもなく。


ツナは想い人に散々惚気られるというとんでもないクリスマスを過ごすことになってしまった。


獄寺の手に見覚えのない指輪がはまっていたのには、気付かない振りをするのが精々だった。





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ああ、この時間は幸せで、つらい。