それは遠い記憶の物語。


顔も覚えてない母に、頭を撫でられる。


母と同じ色の髪が、その頃は自慢だった。


綺麗な銀色の髪だと、そう言われるのが好きだった。


それはずっと昔の物語。


今は隣に母は居らず。代わりに………。



「さぁ、働きなさいシンデレラ!!」



オレを、オレの名で呼ばない女が。


オレを灰被りと呼ぶ…オレと母の髪を侮辱する女が隣に。





母は遠い昔に死んだ。


オレの誕生日に殺された。


きっと無駄に財があるからだといって、父は家を捨てた。


父は若い女と再婚をした。


一体、如何なる理由で父がこの女と結婚したのかオレには分からない。それほど再婚相手は母とは違うタイプの女だった。


外見はどうだか知らないが、性格は悪い。ついでに口も悪い。あと金にがめつい。


…最悪だ。女も女で、どうして財を捨てた父と結婚などしたのだろうか。金などないというのに。


そこを考えると、もしかしたら父と女の間にはなるほど。愛と呼ばれるものがあったのかも知れない。


女は父が好きなのかも知れない。


ただ、



「もう、仕事が遅いわね!! だからあんたは愚図で鈍間のシンデレラなのよ!!」



間違いなく女はオレを、愛してなどないだろうが。


まぁ、こちらとてあんな女に懐く気もない。特に母の髪を灰などと呼ぶクソ女には。


オレが家事をしているのはあんな女に命令されているからではなく、飯代と宿代の代わりでだ。


けれどいつか出て行ってやる。そして見つけるんだ。



オレが心から仕えたいと思える人を。



鏡の中にはくすんだ灰の色の髪を持つ子供が。


………いや、灰の色の髪ではない。事実これは灰だ。


暖炉の灰を被せられた。こんなに灰が溜まっているから掃除をしろということらしい。


…今のオレはまさしく灰被り。シンデレラというわけだ。どうでもいい。


そんなある日、女が珍しくオレを馬鹿にするわけでもなくこき使うわけでもなく。部屋の中に引き篭もっていた。


数日前からろくに食事も摂ってないし…はて。一体何をしているのやら。


と、思ってたら出てきた。


…部屋着にしては馬鹿みたいに煌びやかで動きにくそうな服を着ていた。



「…シンデレラ! 生まれ変わったあたしを見てどう思う!?」


「頭大丈夫かお前」



別に生まれ変わってはないだろ。


と思ったら女に殴られた。



「気の利かないガキね!! こんなときは褒めなさい!!」


…なんだこいつのこのテンション。


「まぁいいわシンデレラ。じゃあこの服をどう思う!?」


「派手」


心の赴くままにそう言ったら、女に思いっきり殴られた。


「そういうことを聞いてんじゃないのよ!!」



女ってなんて自分勝手な生き物なんだ…!!



「まったく、今夜はお城で舞踏会があるのよ!? 生半可な覚悟じゃ炎も出せないんだから!!



意味が分からない…!



「…って、ブトウカイ?」


なんだそれ。


「…何? あんた舞踏会も知らないわけ?」



知らねーよ何も知らねーよ勉強出来る金も家にはねーよ悪かったな。


ずっと家で家事をしているだけのオレが世の見聞を知るわけがねーだろうが。外出だって近所に買い物が関の山なんだぞ。



「…ま、あんたには関係ないからいいか…」


よくはない。


いずれはこの家を出る身だ。今のうちから色んなものを見ていた方が、きっといい。


「なぁ」


「何よ」


「オレもそのブトウカイって奴。行ってみたい」


「―――はっ」


オレが珍しく(てか初めて)女にお願いをしたというのに、鼻で笑われてた。


「あんたなんかが行けるわけないでしょ!? 身の程というのを考えなさい!!」



身の程ねぇ…



「つか、ブトウカイって何するんだ?」


「踊るのよ。踊って王子様を見初めるの」


「オージサマ?」


「あんたは………ようは金持ちと結婚するのよ!!」


結婚ってお前…


「親父はどうするんだよ」


仮にもアイシテイルんだろう?


「ああ、それ?」


オレの問いに対し女はなんの悪びれもなく、




「やっぱ愛よりもお金よね」




と返した。


そんなお前にはオレの死んだ姉貴がよく言ってた台詞をくれてやろう。




毒にまみれて死んじまえ。







「じゃあ行ってくるわ」


そう言って女は出掛けていった。親父は仕事。家の中はオレ一人。



…ブトウカイ、ねぇ…


オージサマだの結婚だのには興味はないが、きっとオレの知らない世界が広がってるんだろう。


…行ってみたいが……家を留守にするわけにはいかねぇな…


……………。


行ってみてぇなぁ…


―――と、




コン、コン。




ノックの音が聞こえて、オレの思考は中断した。


誰だ…? こんな時間に。


扉を開けると、そこには黒尽くめの男が立っていた。


………。




ま、まさか借金取りか!?




「随分な感想だな」


「す、すいません!! オレガキだから金のある場所分からないんです!!」


「聞け。オレは借金取りじゃない」


「え……? 借金取りじゃなかったら、一体…」


「そこまで言うかお前」


「あの…うちは貧しいので新聞とか洗剤は……あ、あと神様とかは自分の中にいるって思ってるので…


「勧誘でもねぇよ。オレは……そうだな、魔法使いだ




気違いですか?




「お前な…」


聞かず目を逸らしつつ扉を閉めようとするオレに…自称魔法使いが声を投げる。


「お前を舞踏会に連れてってやるぞ」


「え………?」



一瞬だけ止まったオレの隙を付いて、自称魔法使いは扉の隙間に足を入り込ませてそのまま強引に家の中へ入って来た。



「な…! 不法侵入罪で警察を呼びますよ!!


「やってみろ。徒労に終わるがな」


「は…?」


「この辺の警察は既に手中だ。同情はされても誰も取り合わねーよ



なんつー魔法使いだ…!!!



「それはそれとして。お前を舞踏会に連れてってやるぞ」


「申し訳ないんですが…知らない人に着いて行ってはいけないと今は亡き母に習いましたので…


「別にオレは案内しねーぞ。お前が一人で行くんだ」


「……生憎ですが家を留守にするわけには………」



って。まさか。



「ああ、だからオレが留守番しといてやる。お前は思う存分楽しんで来い」


「流石に知らない人を家に一人置いて行くわけには…!!!」


「お前舞踏会が見たいってだけで踊りたいわけじゃねーんだろ? その格好で行ったら門前払い受けるからこのスーツ着て行け」


「…上質な布ですね…ってそうじゃなくて!! ですから気持ちはありがたいんですけどそれは…!!」


「ああ、オレ12時に帰んなきゃなんねーからそれまでに戻って来いな。戻って来なかったら勝手に帰るから


最悪だ…!! って、ですから駄目です!!」


「なんでだ? 金はねーんだろ? 別に何も盗らねぇよ」


「いや、そうですけど…そうですけど…!! うー…」



舞踏会か………


行っては、みたい。


のだ、が………



「おめー、いつかここを出るんだろ?」


…え?


「そんで、いつか自分が認める君主を見つけるんだろ?」


なんで…それを……


「なら、行くといい。いい経験になるだろうさ」


「………」


「どうして知ってる、って顔だな。それはオレが魔法使いだから………って言ったらこの辺の住民全員が魔法使いになるか」


「は……?」


「ここの女が井戸端会議でことあるごとにそう言い触らしてるからだぞ」


・・・・・・・・・。


こ…殺す…! あの女絶対殺す…!!!


「ああ、ちなみになんでここの女がそれ知ってるかって、お前が寝言で毎晩言ってるからだそうだ」



オレの身から出た錆かよ…!!!



「つーわけで、行ってこい」


「………はい」



なんだか断る気力も突っ込む気力も全てを失い、オレはふらふらと家を出ようとして………


「ああ、でもせめてお茶を出してから…あとすぐ帰ってきますので少し見たらすぐ帰ってきますので待ってて下さいね…!!」


「分かった分かった」







大きな建物。


煌びやかに光る照明。


並ぶ豪華な食べ物。


そして何よりも多い人々。


男と女がくるくる回って踊っている。


入れ違い。立ち違い。これがブトウカイという奴か。


建物の裏側からブトウカイの様子を見る。


…あの自称魔法使いはいい経験になるって言ってたけど。はてそうなのだろうか?


確かに珍しいけど……………いい経験?


言ったら悪いが…どこが……


そう、思ったところで。



「そこのキミ」



声を、掛けられた。


「誰だ…? あんた」


「誰って……仮にもその姿でその質問はないんじゃないかな…一応オレ、ここの主なんだけど」


主……?


そういえばあの自称魔法使いがいつもの姿だと追い払われるからってこのスーツを貸してくれたんだっけ。


ということはこの格好はここの人間を表す服なのだろうか?


「って、ここの主ならここにいるわけがない。向こうの賑わいの中にいるはずだ」


そう、あの女が言ってたじゃないか。オージサマに見初められるために行くって。


多分、オージサマと主は同じだろう。


「いや、本当はあそこにいなきゃなんだけど…面倒で億劫で辛くてウザくてストレスが溜まったから逃げてきちゃったんだ


心の底から自分に正直な奴だ………って、



「おっと危ない」



と言って主はオレの手を引いた。


「何を―――」


する、と言おうとして、口を噤む。


軽く響いた破裂音に―――次いで何かが背を掠った。



「危ない危ない」



主はオレの手を引いていく。オレが動く度に先ほどまでオレがいた場所に何かが撃ち込まれていく。


―――この音がして。この音を出しながら飛び出た奴に。母は殺された。



この音が母を殺した。



誰が。一体誰が。


思う間にも、オレの手は引かれてく。くるくると回る。先ほど広場で回ってた男女のように。




「折角舞踏会に着たんだから、踊らないとね?」




オレの強張った顔を見てこの音に怯えたとでも思ったのだろうか。主がオレを茶化すように言ってくる。


だけど違う。オレはこの音を出してる奴を探してるだけだ。そして、オレはそいつを…



…ああ、見えた。幸いなことにそう遠くない。



オレは主の手を振り解き、そこまで走る。乾いた音が鳴り響く。オレは走る。オレの腕が頬が掠れる。怯まず走る。


まずその音を止めろ。その音は母を殺した。その音は駄目だ。その音は―――


凶器を吐き出す筒が、オレを見る。オレを真っ直ぐに見る。



撃つか。殺すか。ああ、好きにすればいい。



父は既にオレを見ない。あの女は母の髪を侮辱するから嫌いだ。他の知り合いなどいない。


オレを愛してくれた母は死んだ。オレを愛してくれた姉も死んだ。


…違うか。


母も姉も。オレを庇って死んだんだ。


オレを庇って、撃たれて死んだんだ。



ああ、オレを殺すなら殺せばいい。



きっともうこの世界に、オレを愛してくれる人なんていないのだから。


筒が乾いた音を出す。音と同時に弾も出す。弾は真っ直ぐに真っ直ぐにオレの眼前へと飛んできて―――…




「って馬鹿! 死にたいの!?」




声が響き、何かに覆い被される。


見れば、主が。ここの主と言う人間が腕を撃たれていた。


…オレを、庇ったのか…?


何故? どうして? この人とオレは先ほど会ったばかりだ。知り合いにすらなっていないのに。


主は真っ直ぐに刃物を投げた。この人を撃った奴の悲鳴が聞こえてそれきりになった。そして主の伸びる腕からは…


「血が……」


主の腕からは、赤い血が流れていた。オレを庇った代償として。


オレは思わず着ていたものを破ってその人の腕に縛る。オレのせいで怪我なんて。そんなの駄目だ。絶対駄目だ。


「…ありがと」


礼を言われる。そういえば、最後に礼を言われたのは一体いつだっただろう?



―――ボーン、ボーン……



鐘が鳴る。鳴り響く。この鐘は何の鐘だ? 何の合図だ?


時間を告げる鐘。日付を変える鐘。12時の鐘………


………12…時……?


………。




オレ12時には帰んなきゃなんねーからそれまでに戻って来いな。


戻って来なかったら勝手に帰るから。




「ヤベェ!!! オレ帰らねぇと!!


「ええ!? 何!? 門限!? キミ意外と箱入り!?


「く、すぐ帰るつもりが…とんだ道草食っちまった!!



「言うに事欠いて道草呼ばわり!?」



「じゃあオレ帰ります!! すいませんうち貧乏なんで治療費とか払えませんマジすいません!!


ぶっちゃけ本音トークだなぁ!! いや、いいけど治療費とかその辺は別にいいけど待って! もう少しお話をば!!」


「すいません早く帰らないと知らない人が帰って家が留守になるんです!!


「え、ちょ、ま、………意味分かんねー!!!




大きな建物の主の声を背に受けながら、オレは家へとダッシュで帰った。


ああ、待ってて下さい自称魔法使い!! ま、まだ帰らないで…!!!







「………お、お待たせ…しました……」


「遅かったな」


時間は12時を過ぎていたが、家には自称魔法使いがまだいてくれた。


「す、すいません…」


「いや、別に構わないが………ってお前。あの服どうした?」


「へ?」



服………?


あ…そういえば…服……


…オレ……あの人が血を流してるのを見て……思わず着ていた服…引き裂いて………


……………。



「どうして土下座をする」


「す…すいませんオレ…借り物を…その、あの………傷物にしてしまいました!!!」



怒られる! と、オレは身を強張らせる。


しかしオレに振ってきたのは拳骨でも罵倒でもなく。…頭を触れられる感覚。


………。



「………あの、」


「なんだ。どうした」


「なんで…オレの頭を撫でてるんです?」


「肌触りがよさそうだったから…」



どんな理由ですか。



「じゃなくて、その……怒ってないんですか?」


「ああ。あれオレのじゃねーし。借りもんだから」



そっちの方が不味いんじゃないでしょうか!?



「じゃーオレ帰るわ。またな」


「ええ…」



またなって…また来るのだろうか?


オレは閉まるドアを見つめつつそう思った。



「…ああ、そういえば」



って戻ってきた…!!


「お前。名前は?」


「名前…?」


ああ、そういえば名乗ってなかったか。


「オレの名は…」


………。



本名…名乗るのなんとなく嫌だなぁ…


この人も本名言わずに「魔法使い」って言ってるし。オレも偽名でいいか。



「シンデレラ」


「そうか。じゃあな。シンデレラ」



そう言って、今度こそ本当に魔法使いは去って行った………


なんだか疲れた…


でも、あの人の言う通り確かにいい経験をしたと思う。


行ってよかった。とも。


………。



もし、仕えるなら…


オレが誰かに仕えるのならば。


今日会った、あの人がいい。


身を挺してまでオレを…見ず知らずのオレなんかを庇ってくれたあの人が。







暫くしてあの女が帰って来た。


というか、帰らされたとか。


オージサマが命を狙われたので、舞踏会は中止となったらしい。



「お金は欲しいけど、命も惜しいわよね」



いいからお前は黙るか死ぬかどっちかしてくれ。







そうして、オレの元にはいつも通りの日常が戻ってきた。


ほとんどの時間を家事で過ごす日常が。


あの日とあまりにも違いすぎて。あの日だけ夢なんじゃないかとすら思えてくる。


魔法使いが家に押しかけて。(そういえば魔法使い名乗ってる割には魔法使わなかったな…帰りも徒歩だったし)舞踏会に行かせてくれて。


そしてあの建物の主と名乗る人間に会って。………庇われて。


………。


会いたい、な……


しかしそう願っても会えるはずもない。


あの主だってオレのことなどもう覚えてないだろう。



オレだけが覚えていよう。


オレだけが……



「ちょっと。シンデレラ」


「…チッあんだよ今いいところなんだぞ。ここでめでたしめでたしって締まるところでだな…」


「何意味不明なこと言ってんのよ。それよりもこれ。まさかあんたじゃないわよね?」



そう言って女がオレに突き出してきたのは…新聞のある記事だった。内容は…



「…X月XX日深夜零時頃、ボンゴレファミリーアジト裏でドン・ボンゴレ10代目が襲撃される事件があった。同時刻頃、アジトから町へ向かって走っている銀髪の少年の姿が目撃されている……」


………。


それ、オレです。orz



「まだ続きがあるわよ。…10代目は少年と襲撃は無関係だと主張。しかし少年は何故か10代目の私物であるスーツを着用していた。何かしら関係があるだろうとボンゴレ内では噂になっている……」


……………。



あの服、あのにーさんの物だったんすか!?


あの自称魔法使いなんつーもんをオレに寄越してんだ!!!




「銀髪の少年なんて書かれてるけど…これあんたじゃないんでしょ? ってあれ? シンデレラ?」


オレを呼ぶ女の声を背に…オレは昨日も訪れたボンゴレへと向かって行った。


…ううう、嫌だなぁ…


だけどオレのせいで騒ぎになってるらしいし…スーツ傷物にしたし…


弁償…出来る金もあるわけがないし。落とし前も付けなきゃだろうし。


………臓器いくつ売ったら足りるかな………


…ガクガク。







オレがアジト近くまで行くと、昨日の主…ボンゴレ10代目がそこにいた。


「あ。よかった来た。また会えたね」


「ど、どうも…」


「新聞見て来たの? …ごめんね。キミは無関係なのに……なんだか騒ぎが全然収まらなくて、あのままだと町狩りしてでもキミを探してたよ」



オレ意外に危ない立場でしたー!?



「って、土下座!? 何どうしたの!?」


「す、すいませんでした!!!」


「いや無関係の人間を巻き込んだオレが謝る立場にあるんだけど…」


「い、いえ……あの、スーツの方…」


「スーツ? …ああ、」


「その、オレ…あなたの服を傷付けてしまって……」


「いや、あれはオレを手当てしてくれてのことだし…気にしてないけど」


「10代目…!!!」


パァア、とオレは顔が明るくなるのがわかった。


な、なんていい人なんだ…!!!


「でもなんでキミはオレの服なんて着てたの?」



ギクリ。



「そ、その…それは…」


「ん? 怒らないから言ってみて? オレの部屋に盗みに入ったって言うのなら怒るよりも前に尊敬するし」


「そ、そんな盗みになんて…!!」


「じゃあどうして?」


「……………」


「ん?」


「その……」


「うん」


「………魔法使いに…貰いました…」


「………」


「………」


「………」


「え? キミ薬中?


「違います! そんな金家にはありません!!


「いやぁびっくり。何にびっくりって嘘言ってる気配がしないんだもん。え? それとも季節外れのサンタクロースにでも貰ったの?」



あの人はサンタってイメージじゃないだろう……


…ああ、でもあの人には赤は似合う気がする。なんとなく。



「…魔法使いを名乗る人に家に押し入られて……オレが留守番しといてやるから舞踏会に行って来いって……スーツはそのときに貸して頂きました…」


「何だそのオレ様。ていうかそれ不法侵入だよ!?」



ですよねー。



「………というわけだったんですすいませんでした。じゃあオレはこれで…」


すちゃっと片手を上げて踵を返すオレに…



「待った」



10代目に肩を掴まれた。



ひぃ!?



やっぱり弁償ですか!?


臓器売買ですか!?


家にまで迷惑がいったらごめんなさいー!!!



「ご…ごごごごごめんなさいごめんなさい家は関係ないんですオレだけの責任なんです指詰めでも身売りでも何でもしますから親には言わないで下さい…!!!


「いやいやいやいや!! 違うよ!! そういう話じゃないよ!!」


「で…では……その…どういう……」


「キミ、ボンゴレに来ない?」


「は……?」



オレは耳を疑った。


こんなオレが…こんな大きな建物に?


しかもボンゴレ10代目直々に誘いが?



「………はっさ、サンドバック相当ですか!? ストレスが溜まったときとかに殴る用にでですか!?」


「違うよ!! とりあえずキミはその自虐的思考をどうにかしなさい!!」


「…今まで使ってたサンドバックが壊れたんですね分かります。オレはその代わりなんですね分かります」


「聞けよ人の話を聞けよ!!」


ヒ! す、すいません!!」



「……オレが言ってるのは、キミに仲間に…オレたちのファミリーになってほしいって。意味だよ」


「ファミリー…?」



オレが…この人たちの仲間に…家族に……?


「なんで…オレなんかを……昨日一度会っただけじゃないですか」


「一目見れば充分だよ。オレにはその力がある。…オレの直感が告げている。キミはボンゴレに必要な人間だ」


「……………」


目の前に差し出された手のひら。


オレは………


………。







「楽しんでるか? "シンデレラ"」


「あなたは……」


オレがボンゴレに入ファミリーして数日。


廊下ですれ違ったのは、いつぞやの魔法使いだった。


「……ここの方だったんですか」


「まぁな。どうだ? 舞踏会に行っていい経験になっただろ」


「経験というか…なんというか、その…」



いい経験どころか人生変わりましたけど。



「…こうなるって。分かってたんですか?」


「そうだ。すげーだろ」


確かにすごい。なるほど確かに魔法だ。


「つか、予想よりも早かったか」


「…町狩りを予想してましたか?」


「町狩り? 何だそんな話になってたのか。オレ一人が行けば済む話だってのに」



そうか。そうだよな。この人が全ての始まりなんだから。



「お前の入れた茶が美味かったからな。また行こうって思ってたのに」


「って、そんな理由でだけで来られても困りますが…」


「そうか? だけどまた行きたい理由は他にもあるぞ」


「どんなですか? 下らない理由だったら…」



「お前に会いに」



思わず噴き出した。


「な…男相手に何てこと言ってるんですか!!」


「男だろうが女だろうが、その髪には目を惹かれる」


「………え?」




それは、遠い記憶の物語。



「綺麗な髪だ」



名前も知らない人に、頭を撫でられる。



「珍しい銀の髪だ」



母と同じ色の髪が、あの頃は自慢だった。



「お前は嫌いか?」



そんなことはない。綺麗な銀の色だと、そう言われるのがだいすきだった。



「まぁ、そんだけだ。じゃあな"シンデレラ"」


「待って下さい」




それは、ずっと昔の物語。




「オレは"灰被り"なんて名前じゃありません」



今は隣に母はおらず。



「そうか。じゃあなんて名前なんだ?」



オレと母の髪を侮辱する女もおらず。




「―――隼人」




代わりに………。



「オレの名は、獄寺隼人と言います」


「そうか。なら、隼人」



オレを、オレの名で呼んでくれる人が。


オレを隼人と呼んでくれる…オレと母の髪を綺麗だと言ってくれる人が。すぐ隣に。



「はい。なんでしょうか"魔法使い"さん」


「実はオレも魔法使いなんて名前じゃない」


「そうなんですか。ではなんてお名前なんですか?」


「…リボーンだ。これからは家族だな。…まぁ、よろしく頼むぞ。隼人」


「はい。こちらこそ…よろしくお願いします。リボーンさん」



そう言ってオレはリボーンさんに微笑み返した。


…オレはこれから、自分が仕えたいと思った人の下で。自分の一番好きなところを認めてくれる人の隣で。日々を過ごす。


これがオレの望む、これからの日常。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これは夢? まるでおとぎ話。


リクエスト「リボ獄でシンデレラパロ」
リクエストありがとうございました。