手にした勝機を逃すほど、獄寺は温厚ではない。
むしろ、今獄寺の気は高揚していた。
戦闘の極限状態に、喧嘩を超えた戦いに…負けたら、死ぬかも知れぬ状況に。
獰猛な笑みを浮かべる獄寺。
ただの一般人であるはずの獄寺の見せた様子に、マフィアであるはずの相手の方が気圧された。
それを見逃す獄寺であるはずがない。
一気に相手に掴み掛る。
相手の持つナイフが煌めく。
しかし、もう有ると分かっている獲物など恐れるに足らない。
不意の武器は、不意だからこそ効果を発揮するのだ。
見えてる獲物に、何の意味があろうか。
獄寺は相手を殴る。攻撃を避ける。殴る、蹴る、避ける、殴る―――
一方で。
リボーンは物陰から獄寺の様子を見ていた。
やや、呆れ顔で。
どうしてこうも、人間というのは争いたがるのか。あいつらの口は食事と罵倒以外に機能しないのだろうか。
思いながら、獄寺の避けきれそうにない攻撃の来る方向を教える。リボーンは二人の実力を既に図り終えていた。
一応、獄寺の方が上ではある。
上ではあるのだが……
人間というものは様々な要因から実力以上の力を発揮するものだし、その逆もまた然りである事をリボーンは知っていた。
相手の方が押してきている。
傷を負えば、負うほどその眼に闘志が宿っていく。
人間名物の意地と呼ばれるものだろう。逃げた方が傷も浅く済むのに何故か怪我を負おうとする。その結果死ぬ事もよくある話だ。
相手が流れるような動きで懐に手をやる。
その速度に獄寺の反応速度が追い付かない。
リボーンはまたナイフだろうかと思いつつ、攻撃の軌道を推測。
しかし相手が出したのは白銀のナイフではなく、黒い鉄の塊で。
「獄―――」
リボーンに言えたのは、そこまでで。
相手は銃を容赦なく獄寺に撃ち込み、鮮血を躍らせた。
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END No.7「油断」
なんだあの銃っての。反則だろ。