リボーンの口から洩れる声を、獄寺は聞かなかった。


リボーンの口から紡がれる言葉を、獄寺は聞けなかった。


リボーンが何かを言うよりも前に、誰かが通り掛かったから。


その誰かはリボーンに気付く様子もなくそのまま進み―――リボーンをすり抜けた。





「―――――!?」


「………」





今目の前で起きた事を見て、固まる獄寺。


リボーンはやれやれとため息を吐いた。





「…ばれちまったか」





リボーンの声が響く。


けれど獄寺の受ける印象は先程までとまるで違う。


人にしか見えない、けれど人では有り得ない何かに、得体の知れないものを感じる。





「リボーンさん…あなたは……」


「オレは死神だ。お前の魂を回収しに来た」


「…!!」





思わず息を呑む獄寺。


嘘だと、そう言える材料などどこにもない。


それでも否定する要素を探してしまうのは、何故だろう。


冗談でしょうと、笑い飛ばせる理由を求めてしまうのは、何故だろう。


リボーンを獄寺以外で唯一視認した、そして二人の出会いのきっかけでもあるごろつき…彼らはリボーンと会って、それからすぐにどうなった? あれは偶然か?


家に招いた時、リボーンは家人がいるからと断った。翌日、再度招いた時一人暮らしだと言っても使用人―――他の人間の存在を気にしていた。それは何故だ?


二人で町を歩いた時、どこか店に入ったか? 入らなかった。リボーンが断ったのだ。それは何故だ?


ならば軽食をと、出店の品を二人で食べた。買ったのは獄寺だ。リボーンは一度たりとも店前に立っていない。それは何故だ?


リボーンは病院に行きたがらなかった。リボーンは今生きている人間の中では、獄寺以外と話していない。それは何故だ?


リボーンは、人間ではないから。


リボーンは、死神だから。


獄寺の―――自分の―――命を、刈りに来た存在だから。





刈られる。





冷たい汗が一気に流れ出る。


リボーンの正体を、そうだと、人ではないと、死神であると、自分で認め、人間の本能が今更ながら警報を鳴らす。


殺されると。


敵わないと。


逃げろと。


まるで足場が、熱された鉄板のように、熱くなったように感じた。


だから跳ねた。身体が動いた。勝手に動いた。


リボーンに背を向けるように。


リボーンから逃げるように。


走った。


後ろから声が聞こえた。誰の声だ? 死神の声だ。


何と言っているのか、分からない。分かるはずなのに、人間の言葉のはずなのに、脳が理解させてくれない。


身体が拒否している。


死神から何も得るなと、身体が命令している。


獄寺は走っている。


必死で。


全力で。


死神から逃れるために。


辺りに注意を払う暇などあるわけがない。


だから―――





獄寺は狭い小道を抜け、大通りに躍り出る。


勢い余って、道路まで出てしまった。


けれど今の獄寺にそれを気に掛ける余裕などない。あるわけがない。


だから獄寺に向かって行くように、まるで引き寄せられるようにトラックが突っ込んできた事にも、その直前まで気付かなかった。





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END No.9「響くブレーキ音」


その時間は、奇しくも獄寺が死ぬはずだった時刻と同じだったという。