その知らせを聞いたのは、幸か不幸かオレが遠い地へ出ていたときの事で。



その知らせを聞いたとき、何故かあまり心は揺れ動かなかった。



自分でも薄情なのかな、と思ったり。冷たい奴だと思ったりして。



一番の理由は、単に実感が湧かなかったということだろうか。



まさか、そんなはずは。…あの人に限って。



そんな気持ちの方が大きかったからだろうか。



けれどもその報告は、きっと真実で。



オレは帰ったら、その事実を確認しなければならない。



…その前に、仕事を片付けないといけないのだが。








そして知らせを聞いてから数ヶ月。



オレはようやく仕事を終わらせて、イタリアの本拠地へと戻ってきた。



そこはオレが発つ前となんら変わらない、いつものボンゴレだった。





ただ、あの人がいなかったけど。



あの人がどこにも、いなかったけど。





「獄寺隼人、ただいま帰還しました」





10代目に報告する。10代目は心なしか前よりも痩せて、やつれているように感じられた。



「10代目…? 大丈夫ですか? 気分が優れないようでしたら休まれた方が…」



「ううん…大丈夫だよ。…ありがとう」



そう言うも、10代目はやはり顔色が悪くて。



こういうときに無理させてでも休ませていたのは誰だっけ、と思って思い出して、ああそうだったと納得した。



「…それでね、獄寺くん…言いにくいんだけど……」



「ええ。知ってます」



オレはせめて10代目がこれ以上何も心配しないようにと、笑顔になって。



「あとで挨拶してきます。…場所、教えて頂けますか?」







10代目への報告も終わらせて、ついでに各部署にも帰還の報告をしに行く。



どこもかしこも変わらない。



唯一つを除いては。



あの人がいないことを除いては。




まるで遠回りをするように、あるいは何かを確認するように。オレは辺りを周ってく。



見知った顔。見慣れた顔。いつもと変わらない風景。



報告も全て終えたオレは、あの人の部屋にも行ってみた。



あの人の忘れ物が、静かに持ち主が帰ってくるのを待っていた。



それを持って、オレは一人ボンゴレから出て。歩いてく。



なだらかな街中を、ゆっくりと歩く。



街の喧騒も賑わいも、いつもと同じで。



やっぱり実感が湧かなかった。





あなたが死んだなんて、思えなかった。





けれど事実は変わらなく。



教えられた場所には、確かにあなたの墓がありました。



一歩近付いて、そういえば街を通ったくせに花も何も買ってないことに気付いて。なんだ案外オレも気が動転してたんだなって思って。



とはいえ今から戻るわけにもいかず。それに多分、この人はオレなんかの供え物なんて喜ばないだろうと勝手に推測立てて。まぁ手にこいつもあるしいいだろうと思って。もう一歩進んで。



結局オレは、挨拶だけすることにした。





「リボーンさん」



死したあなたは、もう口を開くことはない。



「獄寺隼人、ただいま帰還いたしました」



死したあなたは、もう二度とオレを見ることもない。



「あなたはドジを踏んだみたいですね」



まさかオレより早く死ぬなんて思いませんでした。



「残念です」



絶対、オレの方が早く死ぬって思っていたのに。



「帰ってきたら、伝えたいことがあったのに」



とはいえ、いざ生きてるあなたを前にしたら結局いつものように言えないんでしょうけど。



「…ねぇ、リボーンさん」



…オレは少しだけ、あなたに近付いて。



「あなたはオレのことなんて、馬鹿な教え子程度にしか思ってなかったんでしょうね」



まるであなたに囁くように。



「でも、オレはそうじゃありませんでした」



ここにはオレしかいないのに、まるで内緒話をするように。



「オレはあなたのこと…ただの一人の先生だなんて。思えなかった」



言おうとして、言えないってのをずっとずっと続けてきたけど。





「オレは、あなたのこと。好きでした」





あなたが死んだからこそ言えるだなんて、それはなんて意味がなくて臆病な行為。



「今更ですよね」



最後にオレは、あなたの部屋から持ってきた、あなたの帽子を添えて。



「…おやすみなさい、リボーンさん」



そう言って、オレはその場を後にした。







……今日はとてもいい天気で。



こんな日をあなたと歩けなかったことが、とても残念だった。







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あなたと二人、歩けたらきっと幸せだったのに。