学校も終わり、ツナが帰り道を歩いていると公園のベンチで見知った小さな影を見つけた。


ツナの家庭教師たるリボーンと、リボーンと同じアルコバレーノである獄寺だ。



(何してるんだろ…)



リボーンはともかく、ツナは獄寺のことをよく知らない。


知り合ったのはつい最近で、リボーンも獄寺のことを話したことなどないからだ。


てっきり仲が悪いのかと思っていたが…違うのだろうか。


なんとなく興味を持ったツナは、こっそり近付いて聞き耳を立ててみることにした。





「…で、結局見つかったのか?」


「いえ…」



公園の裏からこっそり周り、木の陰に身を潜ませてツナは二人の様子を伺う。


リボーンは真っ直ぐに前を見ており、獄寺は俯いていた。


顔も目線も合わせぬまま、二人は言葉を交わす。



「だから言っただろ。無駄だ、諦めろと」


「そうかも知れません…ですが、オレは……」



何やら深刻な話をしている。何の話だろうか。


アルコバレーノが血眼になって探す…しかし見つかる可能性の低いもの…


アルコバレーノの、呪いを解く方法だろうか?



「そもそも、そんなもの見つけてどうするんだ」


「無論、守り、尽くします」



(…ん?)



どうやらツナの予想とは違うもののようだ。リボーンが呆れたように舌打ちをしている。



「見つかるもんか」


「そんなの、分かりませんよ。全ての人と会ったわけじゃありませんし…これから生まれてくる人の中に、いるかも知れません」


「気の遠くなる話だ」


「でも、それが……オレの夢なんです」



獄寺は誰かを探しているようだ。しかしそれは誰と決まっているわけではないらしい。


そして話から推測するに、長年探しているが見つからない…いや、見つかるかどうかも分からない。


なるほど、合理主義者のリボーンが嫌いそうなことだ。


けれど、それはあくまでリボーンが自分がする場合であり獄寺個人が勝手にやる分ならリボーンが怒る道理もないはずだ。


まさかリボーンが獄寺の手伝いをさせられてるというわけでもあるまい。なにせあのリボーンだ。嫌なことであれば絶対断る。


なら、何故リボーンはあんなにも腹を立てているのか。



「…己が心から信頼出来る主を見つけ、尽くす…か。お前がファミリーなり部隊なりを作って主になった方がいいと思うんだがな」


「オレはボスの器じゃありませんよ。ボスをサポート出来れば、それで十分です」


「野心がないのも考えものだな。…お前がどう思っていようが、相手は信じないだろうさ」


「…そうですね。そんなこともありました」


「だろうよ。なにせこっちはアルコバレーノだ。大抵のことは一人で出来る力を持っている。…それが、誰かの助けになりたい? 見返りもなしにサポートがしたいだけ? 警戒されて当然だ」


「…オレは、本当に尽くしたいだけなんですけどね」


「……………」



そこで会話は途切れ、二人の間に沈黙が流れる。


ツナは何だか聞いてはいけないたぐいの話を聞いてしまった気がして気不味くなっていた。


まさかこんなにシリアスな話をしていたなんて。


野次馬根性で興味本位に盗み聞きをしてしまった自分を恥じ、ツナは立ち去ろうとする。



「…獄寺」


「はい?」



リボーンが獄寺を呼び、その手を掴む。





「―――オレじゃ駄目なのか?」





(「…はい?」)


リボーンの問い掛けに、ツナと獄寺は同時に反応した。ただしツナは内心で。


獄寺は驚いたような、あるいは放けたような顔でリボーンを見ている。



「…リボーンさんがオレの主…ですか?」


「違う。オレがお前となりたいのは、そんな上下のある関係じゃない」


「は、はあ…ですが、リボーンさん今…」


「お前が本当に欲しいのは、主じゃない」


「な…リボーンさん! それは聞き流せません!! オレは本当に……!!」


「主を見つけて、尽くして。そのあとどうするつもりだ?」


「どうって……」


「主を庇って死んで、そいつにずっと覚えてもらいたいのか? それとも主が死ぬまで傍にいて、そのあとは墓守にでもなるのか?」


「………」


「お前はただ必要とされたい、次に認めてもらいたい、そして最後には愛されたい。それだけだ」



獄寺はリボーンに反論しようと口を開くが、何も言葉としては出てきてくれない。



「もう一度言おう。獄寺…お前が本当に欲しいのは、主じゃない」



リボーンは獄寺の目を見つめ、言う。



「お前が本当に欲しいのは―――家族だ」


「か…家族……」


「ああ、そうだ。…獄寺。もう一度…いや、何度だって言おう。獄寺」



リボーンは、獄寺の手を強く握り、その目を見つめたままに言う。





「―――オレじゃ、駄目か?」





(告白か!!)



ツナは内心で突っ込んだ。



(なんだよ! シリアスかと思ったら告白しやがって!! 今までの空気どこ行ったんだよ!!


「り、リボーンさん…」


(ああもうほら! 獄寺くんも困ってるし!!)


「……そのこと…なんで、あのときに…言って下さらなかったんですか…?」



(あれ!? 脈有り!?



獄寺は頬を赤らめ俯きもじもじしだした。ツナの知らないストーリーが二人の間にあるらしい。



「オレ…オレ、あの日…勇気を出して…リボーンさんを誘って……オレなりに頑張って…だけどリボーンさんはいつも通りで…」


「違う…違うんだ獄寺。オレだってあの時…」



なんかぐだぐだしだした。


(なんだ? 今オレの目の前で何が起こっている?)


ツナは混乱していた。



「獄寺…あの日言えなかったことだが……オレは本当に、お前のことが…」


「リボーン、さん……」



二人を纏う空気の色が、変わる。


そしてそんな時、ツナの耳にとてもよく聞き慣れた声が直撃する。



「あらっ!? リボーンくんじゃないー。隣の子はお友達?」



ツナの母たる奈々だった。



(かーさん空気呼んで!! 今二人の間に割って入らないで!!



しかしそんなツナの心の叫びも当たり前だが届かず、奈々は笑顔で二人に話し掛ける。



「二人で遊んでたの?」



確かに傍から見れば赤ん坊二人が仲良く話しているだけにしか見えないだろう。しかし話の内容はそんなほのぼのとしたものではなく。



「え、ええ…そうなんですよ。ちょっとリボーンさんと…お、お…おままごとを…」


(ああもうごめんね獄寺くん気を遣わせちゃって!! 母さんあとで正座!!


「ご、獄寺!! オレはごっこ遊びのつもりじゃない!! オレは本気だ!!



(お前は黙ってろ! お前今どれだけ余裕なくしてんだよ!!



とうとう居た堪れなくなってツナは木の陰から飛び出した。これ以上獄寺に負担を掛けるのは忍びなかった。



「母さん!」


「あらつっくん」


「二人は仲良く遊んでるんだから、邪魔しちゃ駄目だよ」


「あ! そうね、私ったら…ごめんなさいね」


「い、いえ…お構いなく」


「ツナ! だからオレたちは遊びじゃ…」



「分かったからお前はもう黙ってろ!!!」



ツナはやっと声を出して突っ込んだ。





その後、流石に覗きを続行するわけにもいかずツナは奈々と一緒に帰宅した。


だからその後に二人がどんな会話をしたのか、ツナは知らない。


ただ…





「ただいま」


「お、お邪魔します…」



帰ってきたリボーンは獄寺を連れてきていて。



「今日から獄寺も、一緒に暮らすからな」


「お、お世話になります…」



なんて言ってきたから、あれから上手くいったのだろう。と思った。





と、ふと獄寺は三つ指付いてリボーンに礼をする。



「…これから、よろしくお願いします。…リボーンさん」


「あ、ああ…」


「古風だ…」


「あらあら、おままごとまだ続いてたのね」


「いや、あれリアルおままごとだよ、母さん」





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「それはそうとボンゴレ10代目、覗きは感心しませんよ」

「ばれてた…!!」


リクエスト「リボ獄 もしも獄がアルコだったら?でお願いします」
リクエストありがとうございました。