獄寺がふとテーブルに目を向けると、リボーンが椅子に座っているのが見えた。
それを見た獄寺の頬は緩み、顔は微笑み、穏やかな声が出る。
「いらしてたんですか、リボーンさん」
獄寺は対面する席に座り、暫しの雑談を楽しむ。
繰り広げられる会話は他愛のないものから戦術まで多種多様で。
その対談は獄寺の携帯電話が鳴り響くまで続いた。
電話の相手はツナで、用件は呼び出しだった。
「…すいませんリボーンさん、オレ行かないと」
獄寺がそう言えばリボーンは仕方ないなと言わんばかりに肩を竦めた。
獄寺はリボーンに一礼してツナのところへと急いだ。
「すいません10代目、お待たせしました」
「獄寺くん…早かったね。またあそこに行ってたの?」
「ええ、そうです」
獄寺は微笑と共に答える。
「リボーンさんのセーフハウスに行ってました」
それは、ボンゴレアジトから比較的近いリボーンの隠れアジトの一つで。
ある日、獄寺はリボーンからそれを譲り受けて。
それ以来、獄寺はしょっちゅうそこに足を運んでいる。
「それで、用件は何でしょう」
「ああ…うん。あのね…」
ツナは獄寺に仕事を言い渡し、獄寺はそれをこなしに向かう。
ツナは獄寺の後姿を目で追い、その後獄寺がいたセーフハウスの方角を見た。
仕事を終わらせ、業務を済ませると獄寺はまたセーフハウスに戻る。
そこで獄寺はまたリボーンを見つけ、暫しの雑談を楽しむ。
楽しそうな話し声。
けれど聞こえる声は一人分。
獄寺の視線の向こう側。
そこには無論誰もいない。
ある日、獄寺隼人は狂った。
恩師であるリボーンの死と同時に、狂った。
そして主のいなくなった隠れアジトに訪れては、いもしない恩師の幻と会話をしている―――
と、言われている。
「オレ、気狂いって呼ばれてるらしいです」
「いやいや、リボーンさんまで同意しないで下さいよ」
「いや、それはそうなんですけど」
「そう言われてもですねえ…」
「違いますって」
「だって噂って、あれでしょ?」
「オレがリボーンさんの死に耐え切れなくて、信じられなくて、それで狂ってリボーンさんの幻と話してる…って噂らしいですけど」
「違いますし」
「オレ、リボーンさんが死んだって、知ってますし」
「そもそも、リボーンさんの死体見つけたのオレですし」
「いや、あの時は本当びっくりしました」
「リボーンさん、死んでるんですもの」
「その後リボーンさんの亡霊が現れたときは更に驚きましたけど」
「…やっぱりオレ、狂ってるんでしょうか」
「でもオレの脳が見せてる幻覚にしては、オレの知らないことも言いますね」
「ここのセーフハウスの鍵も、リボーンさんの言われた通りのところにありましたし」
「………」
「獄寺くん」
「あ、10代目……どうかなさいましたか?」
「………」
「10代目?」
「リボーン…そこに、いるの?」
「いますよ。見えませんか?」
「生憎ね。…伝えてよ。さっさと成仏しろって」
「出来るものならとっくにしてるだそうです。え? ………ああ、はい。10代目、リボーンさんから言伝です」
「え?」
「―――――口に気を付けろ、だそうです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日。
「食事に毒盛られたんだけど」
「流石はリボーンさん」