全てが終わって。


世界にはオレとあなたの二人きり。





- 全ての終わりに -





静かだった。


誰も動かず、誰も口を開かない。


時折吹く風のみが、音として存在し、鼓膜を震わせていた。


死が辺りに散らばっていた。


周りにあるのはいくつもの死体。


先程まで生きていて、そして死んでしまった死体。


先程まであれほど激しく動いていて、そしてもう二度と動くことのない死体。


もう動かない、もう生きていない、死体の山。


そんな世界の中心に、オレたちはいた。


背中合わせにして、座って、お互いあらぬ方角を見ている。


ああ、疲れた。


少しばかり暴れすぎた。


無性に煙草を吸いたくなったが、持ってる煙草は恐らく湿気って使えないだろう。使えたとしても、間違いなく血の味がする。


それに何より、煙草とジッポーライターをポケットから出すことすら面倒と思うほど、動くのが億劫だった。


今はただ、休みたい。


物音一つしない世界の中で、オレはただ後ろにいるリボーンさんの、背中の感触に意識を向かわせていた。


濡れたシャツが肌に張り付いている。


どろっとした、粘着性のある液体が、だらだらと流れている。


身体が冷える。


…これは不味いかもしれない。


さて、どうしたものか。


音が漏れない程度の、ため息一つ。


指先どころか目蓋を動かすことすら苦労する身体で、何とか口を開く。どうにか声を出す。



「……………リボーン、さん」



我ながら、小さな声。情けない声。


聞こえなかったかもしれない。とも思ったが、微かに背後が身動ぎする。



「………なんだ」



酷く小さな、疲れた声。


ああ、あなたもそんな声を出すんですね。


しかし、困った。


あなたに後を託そうと思っていたのに、この様子ではどうにも出来そうにない。


あなたとオレの状態は、どうやら似たり寄ったりらしい。


そういえば、背に感じるあなたの体温も冷たいですね。


もしかして、あなたの服も、身体も。血塗れなのでしょうか。


オレみたいに。



「……………煙草、吸いますか?」



言いたかった台詞を変えて、そんなことを言ってみる。


リボーンさんは息を吐いた。ため息のようにも聞こえた。



「………要らねぇ」



そうですか。


言葉を一つ出すたびに、体力がごりごりと削られる。


オレはあといくつ、言葉を言えるだろう。


オレはあといくつ、あなたに言葉を伝えられるだろう。



…オレはあとどれだけ、あなたと同じ世界にいられるのだろう。



血が流れる。


血が溢れる。


血が逃げていく。


世界が暗くなる。


背に感じるあなたが、遠くなる。



「……………リボーンさん」



声を出す。


瞼を落とした覚えはないのだが、いつしか世界は真っ暗で。


あなたの声も、聞こえない。


それは、オレの声が世界に届いていないからなのか、


それとも、オレの耳が機能しなくなったからなのか、


はたまた、あなたにオレの声が届いていないのか、


もしかして、あなたがもう何の反応も出来なくなったのか。


オレにはもう、分からない。


分からないけど、もう、いい。



「………おやすみなさい」



それだけ呟いて。そうすると力が抜けて。


オレの身体が倒れこむ。


もう何も見えない。


もう何も聞こえない。


もう何も感じない。


そこに一陣の風が吹いて、


砂埃と一緒に、オレの意識も吹き飛ばした。





全てが終わって。


世界には、もう、誰もいない。





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10代目。

後始末をお願いします。