オレは、弱い奴は嫌いなんだ。





そう、あの人に言われた時の事は、今でもよく覚えている。


それまで、その時までオレは、何ともおめでたい事に、まあ、あの人にどことなく素っ気ない対応を取られているとは流石に気付いていたけれど、


だけど、まさか、嫌われているだなんて、夢にも思っちゃいなかった。


けれど、言われた、告げられた理由は非常に納得出来るもので。あまりにも分り易すぎて。


すとんと、音を立ててオレの胸の底に落ちて行った。





ああ、そうか、そうなんだと。


オレは、この人に嫌われていたのだと。





オレが弱いあまりに、あまりにも弱いあまりに、この人に嫌われていたのだと。





その日から、オレとあの人は、話さなくなった。


それどころか、顔を見合わせるのさえ珍しくなった。


お互い、10代目から離れられぬ身で、よくこれだけ擦れ違えるものだ、と感心してしまった。





オレは、あの人に話す言葉を持たない。


嫌われてると、そう知ってしまった身で、一体何を言えよう。





オレがあの人に語る言葉を持つ時が来るとすれば、それはあの人に見てもらえた時だろう。認められた、その時だろう。





オレの頭は単純で。


だからこそ明快で。





弱いオレが嫌われているのなら、強いオレになればいいと、あっさりと解決策を見つけ出していた。


オレは強くなるため、知り合いに片っ端からあたっていく。


山本に、雲雀。


シャマルに、姉貴。


骸、ベルフェゴール、γ。


キャバッローネにも、門外顧問チームにも、果てには元アルコバレーノの面々にまで頭を下げに行った。


そうして受ける、鍛練を通じて、オレは相手の強さと、オレの弱さを痛感した。





ああ、なるほど。


これでは、あの人に嫌われるのも当然だ。





こんなに弱いくせに、恥知らずにも10代目の右腕になるなんて吠えて。更には自分は強いだなんて自惚れて。


オレは鍛錬し、修行し、身を鍛えていく。


あの人は、オレを見ない。


弱いオレになんて、見向きもしない。


だからオレは、強くならなくてはいけなくて。


そして―――





そしてオレは、地に伏した身で、空を見上げる。


泥と血で塗れた身体で。傷で痛む身体で、空を見上げる。


空に昇るは、黄色くて、丸い月。


オレは痛む腕を伸ばしてみるが、当然な事に当たり前の事に―――何も掴めない。


ああ、所詮、オレは、弱いままだったか。


強くないたいと願って。それだけを願って、ここまで来たというのに。


結局オレは、何も成せぬまま、出来ぬまま、ここでリタイアするようだ。





胸が痛い。





外傷ではない。昨日今日のものではない。身体的なものではない。


これは、ずっと前から―――10年前のあの日、あの人に告げられた言葉から、生まれた痛み。


あの人の言葉に身体が抉られて、胸に突き刺さって、皮膚を食い破って、肉に食い込んで…それからずっと抜けない、痛み。


オレが得られたのは、どうやらこれだけのようだ。10年掛けて、10年前に得たものしか、持てなかった。





ああ―――痛い。


痛くて、痛くて…泣いてしまいそうだ。





強さを求める以上、泣く事など出来ないが。


とはいえ、弱いまま死ぬのだから最後くらい泣いてもいいだろうとも思うが。





…その程度の覚悟だから、オレはきっと弱いままなんだろうな。





薄く笑って、目を閉じる。月が消え、痛みが鮮明になる。


といっても、中でも一番痛むのは、やはり胸の痛みだが。


泣きたくなるほど辛い痛みだが、オレはこの痛みに消えて欲しいとは願わない。





何故なら、この痛みは、唯一あの人から頂いたもので。





あの人から頂いた、あの人の言葉から生まれた、この痛みは、裏を返せば、この痛みがあるという事は、それはオレが―――


あの人の事が―――





………いや、言うまい。





唇から洩れかけた、あの人の名を、オレは呟かない。


こんなに弱い身では、嫌われた身では。あの人を思う事すら許されないだろうと、そう思って。


それでも脳裏に映るのだけは、避けようもなく。


もう一度、月を見ようと、目を開けた時、あなたの幻影が見えた。





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それがオレの、最後の光景。