リボーンさんが消えていく。
オレはそれを、ただ黙って見ていることしか出来ない。
一体いつから、リボーンさんは苦しんでいたのだろう。
オレにはそれが分からない。
リボーンさんはアルコバレーノだって知っていたけど。
アルコバレーノは呪われてるって知っていたけど。
だけどリボーンさんは強くて。平気そうで。
だから大丈夫だなんて勝手に思い込んで。いつも頼って支えにして。
…それでは、いけなかったのに。
ある日リボーンさんは言った。
もう、オレを戦力として見るなよ。
そのとき、どれだけあなたの身体を呪いが蝕んでいたのか。
それは今のオレにすら分からなく。
そしてこのときのオレはあなたが苦しんでいたことすら知らず。
そのくせオレはあなたに「分かりました」と答えました。
…出来ることなら、そのときの自分をぶん殴ってやりたい。
…何一つとして、分かってなかったくせに。
そしてその次の日。
リボーンさんの声が消えた。
いつだっただろう。
あなたが喋れなくなったのだと気付いたのは。
あなたの声がもう聞けないのだとようやく気付いたのは。
あなたは声の変わりに行動で意思を伝えるようになりました。
唐突な出来事に、オレは動き回るあなたに着いて行くのが精一杯。
いくら追い駆け走っても、あなたは先へ先へと行ってしまう。
まるで、生き急ぐように。
あるいは、死に急ぐように。
そんなある日、あなたは足を止めてオレをじっと見てました。
リボーンさん?
あなたはオレの呼び掛けにも応えずに、ただじっとオレを見てました。
そしてその次の日。
リボーンさんの光が消えた。
最初は気付かなかった。
だってあなたは、帽子を目深く被っていて目を隠していたから。
けれど外出するときあなたが杖を手に取ったのを目にして。
その白い杖の意味を知って、オレはようやく気付くことが出来ました。
それからオレはよく喋るようになりました。
少しでもあなたに周りを伝えたくて。
少しでもあなたの役に立ちたくて。
そんなある日、あなたはオレのところまで歩いて来て。オレに寄り掛かりました。
オレはかなり驚いて、戸惑って。慌てました。
だっていつもオレからあなたのところへと行っていたのに。まさかあなたから来るなんて。
そしてその次の日。
リボーンさんの足は動かなくなりました。
オレはあなたの足になることにしました。
だってあなたが最期に来てくれた場所がオレのところなのですから。
オレはリボーンさんを抱いて移動します。
リボーンさんはこんなに小さな方だったのでしょうか。
リボーンさんはこんなに軽い方だったのでしょうか?
そんなことすら知らず、オレは今までリボーンさんを頼っていたのでしょうか。
…オレは自分で自分が情けなく思いました。
そんなある日、胸の中のあなたはオレを見上げてきました。
どうしたんだろうと見つめ返すと、あなたはオレに手を伸ばしてきました。
けれどあなたの腕は宙を掻くだけで。
そのことを不満に思ったのか、あなたはやや口を尖らせて。手招きしました。
オレが顔を近付けると、あなたはもう一度手を伸ばして。オレの頭を撫でました。
―――――。
オレの目から涙がこぼれました。
それはオレの頬を伝い、あなたの頬に落ちました。
それであなたはオレが泣いていることに気付いて。………淡く笑って。オレの涙を拭ってくれました。
ああ、そんな。止めて下さい。
いつもオレに素っ気無かったじゃないですか。
いつもオレに冷たかったじゃないですか。
こんなの、全然あなたらしくないですよ。
こんなときだけ優しくするのは止めて下さい。
まるで"これが最後だから"と言わんばかりに優しくするのは、どうか止めて下さい。
そしてその次の日。
リボーンさんの腕はただの飾りとなりました。
あなたはもう動かない。動けない。
あなたは毎日遠いどこかを眺めるばかり。
そんなある日、オレはどこかから視線を感じました。
光の消えた瞳で、あなたがオレを見てました。
真っ直ぐに、オレを見てました。
オレはとても悲しくなりました。
次の日、あなたは瞳を閉じました。
動かなくなったあなたを抱いてオレはまた泣きました。
涙はオレの頬を伝って、あなたの頬に落ちました。
だけれどもう、あなたはオレの涙を拭ってくれることはない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もっとあなたと話したかった。笑いたかった。…生きたかった。