こんにちは。沢田綱吉です。


オレの悩みを聞いてください。


赤ん坊に毎日殺されかけてます。


転校してきた帰国子女のブレーキが見つかりません。


せっかく出来たと思った友人は変態でした。


学校一(下手したら町一)の問題児に目を付けられました。


怪我して保健室に行っても性別を理由に追い払われます。


いつの間にか大家族です。


安息の地がありません。


欲を言えば他にも色々言いたいんですが愚痴りたいんですがひとまずオレの悩みを聞いてください。





家庭教師と右腕がうざいです。


たすけてください。











「あ…の、10代目、すいません……」


「ん?」



事の始まりは、そう…まだオレが彼等と出会ってまだ間もない頃。


自称右腕の彼が悪い人ではないのだと分かり始めた頃。



「その…10代目にこんなことを頼むのは大変心苦しいことなんですけど…」


「…? うん」


「その…これを、リボーンさんに渡してはくださいませんか…?」



と、獄寺くんが差し出したのは書類のような紙の束だった。



「本当はオレが頼まれたことなのでオレからリボーンさんに渡すのが筋だとは分かってるんですけど、その…」


「ああ、いいよいいよ。リボーン怖いもんね」



知り合ってばかりだったけど、リボーンの怖さは身に染みて分かっていた。


だから獄寺くんもリボーンが怖いのだろうと、そう思った。



「すいません…オレ……」


「いいんだって」



"10代目"として見られ、変な対応されるよりもこうして頼み事をされた方がよっぽど心地よかった。


むしろ、獄寺くんでも怖いものがあるんだと親近感が湧いたりして。



…そうだ。


今。


今思えばこそ。





「困ってる時はお互い様だし、」





いくら常日頃から使い走りに遭ってる身で、雑務に慣れてるとはいえ。


身に纏う空気の違う彼が、それでもオレと同じ人間なんだと分かったことが嬉しかったとはいえ。





「これからもどんどん頼っていいよ」





そんなことを言ってしまったのがそもそもの間違いだったんだ。


もしオレが、この場に戻れて、自分に一言だけ言えるならこう伝えよう。





「いいから放っとけ」と。











オレの「どんどん頼っていいよ」発言に甘えてか、獄寺くんは本当にどんどん頼ってきた。


確かにオレとリボーンは一緒に暮らしているから頼み事もしやすいだろう。


だけど目の前にいるときぐらい自分ですればいいと思うんだ。


何もわざわざオレを経由して頼み事をしたり物を渡す必要はないと思うんだ。


と今のオレは思っているのだけれどあの頃のオレは本当馬鹿で「ああ、獄寺くんは本当にリボーンが苦手なんだな」と思うだけだった。


ぶん殴ってやりてぇ。


程なくして、獄寺くんの頼み事にリボーンへの質問も追加された。


最初は、まぁ、姉貴のどこがいいんですか? だの、オレの必殺技どうですか? だの、まぁ、まだ、分かるものだった。


けど…


それがいつからか、やれ好きな食べ物はなんですか? だの、やれお休みの日は何をしているんですか? だの。


趣味は何ですか? だの以前読んでいた本のタイトルはなんていうんですか? だの今度の任務頑張ってください、だの。


美味しいチェリーパイのお店を見つけたんですよ、だの甘いものはお好きですか? だの今度の土曜日持って行きますね、だの!


もう、最早、質問じゃないよね。


なんか、もう、会話になってるよね。


律儀に伝えてたオレもオレなんだけどさ!!


だけど流石にオレも気付いたんだよ。


獄寺くんは別にリボーンを怖がってるわけじゃないって。


むしろ、逆だよねって。


獄寺くんって、何故かリボーンに興味津々だよねって。


まぁ獄寺くん山の神だとかツチノコだとか不思議生物に目がないみたいだし、確かにリボーンも不思議生物だよなって納得したけどね。


でも、だったら、自分から話せばいいのにとも思ったりして。


…吼えられたり噛みつかれたりするかもって、心配したのだろうか。


そういうことはしないけど、でも銃はぶっ放すしトラップは仕掛けるからねあの黒は。


…吼えられたりした方がまだましか……


だけど上手く扱い方を心得ればきっといけると思うんだ!!


ていうかあの黒を上手く扱ってオレへの負担を軽減してほしい!!(本音)





「だから逃げちゃ駄目だよ獄寺くん!!」


「な、何のお話でしょう10代目」



おっとしまった。


思考が纏まらないまま心の内で思ったままいきなり獄寺くんに叫んじゃったよ。


これじゃまるでオレ気違いさんだよ。


獄寺くんも若干怯えているよ。あの獄寺くんが。



「えっと、ほら、リボーンの話だよ」


「リボーンさん?」



獄寺くんが食いついた。


やっぱりリボーンに興味があるみたいだ。


リボーンを釣り針に掛けて目の前に垂らしたら釣れるんじゃないかな。獄寺くん。



「そうだ、10代目。リボーンさんに好きな人のタイプを聞いてもらいたいんですけど…」


「たまには自分で聞いてきなよ」



と、オレとしては軽く言ったつもりだった。


つもりだった、けど。



「え…ええええええええええええええええ!?」



獄寺くんはかなり大袈裟に驚いていた。



「む…無理ですよ! 無理無理無理!!!」


「大丈夫だよ!! ダメツナのオレでも出来るぐらいだし!!」



リボーン吼えないし! 噛みつかないから!!



「お…オレなんかがリボーンさんとか、かい、会話だなんて、そんな、ハードルが高すぎます!!」


「だからっていつまでも何もしないのはダメだよ!!」


「ですが―――――」


「獄寺くん、リボーンに興味があるんでしょ?」


「な、何故それを!?」


「あれで隠していたつもり? バレバレだよ」


「………」


「怖いのは…分かるよ。不安も…あると思う。だけど…一歩勇気を出して歩いてみたら…案外平気だったりするものなんだよ。だから、獄寺くんも…一回だけでいいから、勇気を出して。…ね?」


「10代目…そんなにも、オレのことを考えてくださって……」



獄寺くんが涙ぐんでいる。


そう…だよね。一人じゃ不安だよね。


なんていったって相手はあのリボーン。


いくら不思議生物愛好家な獄寺くんと言えど変な病気移されないかとか毒を吐き出されたらどうしようだとか色々不安は絶えないよね!!



「オレも出来るだけ手伝うからさ…獄寺くんもそろそろ…一歩を踏み出してみよう?」


「10代目…分かり……ました」



獄寺くんが涙を拭い、意を決した表情を見せる。



「オレ一人じゃ無理だと思うんですけど、10代目が手伝ってくださるなら…きっと大丈夫だと思うんです」


「うん…偉いよ。獄寺くん」



獄寺くんは安心したように微笑んだ。





「でも、本当によく分かりましたね」


「リボーンのこと? …あれだけ根掘り葉掘り聞いて来てって言われて、興味がないと思う方がおかしいと思うよ」


「いや、それは……まぁ、」



獄寺くんの頬が赤く染まる。ちくしょう可愛い。



「で、でも、その、本当に協力してくださるんですか?」


「ん? うん。そりゃするよ? 今言ったじゃない」


「その…オレがリボーンさんに思う気持ち…気持ち悪いとか、思わなかったですか…?」


「気持ち悪い?」



獄寺くんがリボーンに思う気持ちが?


え? 不思議生物大好きって気持ちだよね?



「いや、全然?」


「ほ、本当ですか? 気を遣っていたりしてませんか?」


「ないない。そんなことでそんな気持ち持ったりしないよ」


「10代目……」



獄寺くんの瞳が輝いた。


な、なに…?



「オレ…こんなのおかしいって、絶対周りから白い目で見られるだろうって…いえ、それだけならいいんですけど、リボーンさんにまで迷惑がかかるだろうから、絶対誰にも言わないでおこうって…思ってたんです」


「獄寺くん…」



あの空気読めない、早とちりと暴走が大得意の獄寺くんがそんなことを思っていたなんて…



「オレは感動したよ! だけど大丈夫だよ獄寺くん!! 誰も気にしないよ!!」


「で、ですか?」


「そうだよ! 獄寺くんの考えすぎだよ!!」


「10代目…」



人の趣味なんて人それぞれだしね!!



「もっと自信を持って! 多分リボーンも気にしないから積極的になってもいいと思うよ!!」


「で、ですが、それは流石にリボーンさんにご迷惑では…」


「大丈夫だって! リボーンは大物だから、むしろどんとこいだよ大歓迎だよ!!」


「だ、だい、かんげい…!!」



獄寺くんの顔が更に赤くなった。ちくしょう可愛い。



「10代目…10代目のお陰で、オレ、勇気持てました!!」


「獄寺くん…!!」


「ありがとうございます10代目! オレ、リボーンさんへの恋……頑張ります!!」


「うん!!」



……………。



って、恋?



…獄寺くんが……リボーンに?



…………………………。





え?





というわけで。


オレの勘違いでオレはとんだ色恋沙汰に巻き込まれたのであった…


…でも、まぁ、


オレの勘違いがあったもののようは獄寺くんとリボーンがくっつけばいいわけだよ。


とっととくっつかせたらオレは解放されるんだよ。うん。


と、当時のオレは楽観していたわけなんだけど。


獄寺くんが案外ヘタレだったのが問題だったね。


なんてったって、リボーンに近付こうとしないんだもん。





「思うにリボーンは来るもの拒まないから、一言好きです付き合ってくださいって言えば大丈夫だと思うんだ」


「そ、そうですか?」


「うん。だから今日オレの家に来たときオレ席外すからそのとき言いなよ」


「いきなりですか!? 無理です!! ていうか10代目席外さないでください!!」


「そこから!?」



獄寺くんそんなキャラだったっけ!?


何その群れないとトイレにすら行けない女子みたいな性格!!


獄寺くんキャラ崩壊してるよ!?



「ていうか、オレリボーンさんに言葉を発するのすら無理です!!」


「いやそこは頑張れよ!!」


「無理です!! 10代目代弁してください!!」


「それ今までと変わってないじゃん!!」


「10代目が傍にいてくださればオレもリボーンさんと同じ空間にいることが出来ますから!! 代弁してください!!」


「いや、だから…」



って獄寺くん抱き付いて上目遣いとかしないでくれるかな!! 獄寺くん普通に可愛いんだから!!!



「…もう、仕方ないなぁ…」


「10代目…!!」



ま、惚れた弱みだよね。


言う間もなく玉砕したけどね。



それから、まぁ、少しずつ(本当に少しずつ)獄寺くんとリボーンとの距離を縮めていった。


オレは疲れた。


獄寺くん普段は勇ましいのにリボーンの前だと途端に緊張して固まって何も言えなくなるから。


ちなみに二人っきりにしたら三秒持たなかったから。


すぐオレを追い掛けてきたから。


可愛かったから。


じゃなくて、獄寺くんもう少し勇気持って!!


ちなみに今は居間でオレとリボーンと獄寺くんでテレビ見てる。


オレが出口付近で少し離れていて、二人が隣同士で。


ちなみに会話は一切、なし。


獄寺くんは見るからに緊張していてガチガチ。


…さて、こっそり出るかな…と思ったら。獄寺くんが振り向いた。オレを見た。目が合った。



ドッカ イカナイデ クダサイ。



ワオ。すげぇオレ獄寺くんと以心伝心したよ今。獄寺くんが何思ってるか分かったもんよ。


ていうか獄寺くん泣きそうな目で見ないでよ!! 大丈夫だよどこも行かないよ!!



ナンカ ハナシノ タネ クダサイ。



ああ、獄寺くんも沈黙は苦痛だったんだ!! 無言は嫌だったんだ!! なるほどね!!



カシデモ クッテロ。



たまには自分で危機を乗り越えてみなよ!!


そう思って思った一言だったんだけどてんぱっている獄寺くんにとってはそれが最良の選択に思えたらしく迷う事なく菓子に手を伸ばした。


そして偶然にもリボーンもそのときお菓子に手を伸ばしていた。


二人の手が合わさった。



「―――――!!!!!」



獄寺くんがまるで熱湯でも浴びたかのように身を震わせて跳ねて手を引っ込めた。


ああ、泣きそうな顔をしてる。



ドウイウ コトデスカ。


ウレシイ ハプニング ジャナイ。


ココロノ ジュンビガ デキテマセン。


スコシハ ナレナヨ。


ムリ デス。



無理なのかよ…


ちなみにここまでのアイコンタクト会話は時間にして0.5秒も経ってないから。



キョウハ モウ カエリマス。



というアイコンタクトを残して獄寺くんは帰った…


……………。



―――――ツナ!!


ハイハイ。


ゴ、ゴ、ゴ、ゴクデラニ、ゴクデラト、フレアッタ…!!!


ソウダネ。


コレハユメカ!?


ゲンジツダヨ。


ナンカキュウニゴクデラカエッタケドオレキラワレタカ!?


ナンカヨウジオモイダシタッテ。


ソ、ソウカ…トコロデゴクデラトフレアッタンダガコレハユメカ!?


ダカラゲンジツダッツニ。



何故かオレはリボーンともアイコンタクトで会話をしているのでした…フシギダネ。


まぁ、ようは、あれだよね。


獄寺くんに言われていたようなこととまったく同じようなことをリボーンからも言われていたとか、よくあるよね。


うん。あるある。


で、まぁ、獄寺くんから相談されたようなこととまったく同じようなことをリボーンからも相談されていて。


なんだ、二人の気持ちは、その、お互いに向かっているわけで。いうなれば何でオレが間に挟まっているの? という気持ちがないわけじゃないんだけど。


まぁ獄寺くんもだけどリボーンがそれ以上にヘタレだったから仕方ないよね。


うん。仕方ない。



ハヨクッツケ。


オレニシネト!?



「うっさいはよ死ね黒」


「黒!?」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お前なんて黒で十分だ!!