ある日ある時ある場所で、リボーンちゃんが歩いているとキラリとしたものが落ちているのを見つけた。


「ん?」


何かと近付いて見てみると、そこには何故か手錠がひとつ。


…雲雀の落とし物だろうか。


拾ったからには責任を持って届けなければいけない。


うむ。とリボーンちゃんはひとつ頷き歩きだした。


と、


ズベシャ!!


リボーンちゃんは道端の石に躓いて転んだ!


ガシャン!!


「…む」


左手を見れば、見事に手錠が掛かっていた。


まぁいいか。


どちらにしろ雲雀のところまで行くつもりだったのだ。その時に外してもらえばいい。


リボーンちゃんは気を取り直して歩き出した。


そして。





「あ、リボーンさん。おはようございます」


「おお、獄寺」


リボーンちゃんは愛しの獄寺に声を掛けられ思わず駆け寄り、


ガシャン!!


「え?」


「あ」


何故か獄寺にも手錠を掛けた。


「………リボーンさん。これは?」


「すまん獄寺。ついやっちまった」


「いや、ついって…」


困った顔をする獄寺。二人は手錠で繋がれてしまった。


「…って、なんで手錠なんて持ってるんですか…」


「さっき拾ったんだ」


「…雲雀…あの野郎……」


獄寺の怒りの矛先は雲雀へと向かった。


「まぁまぁ獄寺。雲雀を探しに行こう」


「…そうですね。なるべく迅速に。一刻も早く」


「そう急がなくてもいいだろう」


「リボーンさん?」


「なんでもない」


「…はぁ」


ため息一つ吐きつつ、獄寺は歩き出す。リボーンちゃんも続く。


と、


ぎゅ。


「………リボーンさん。なにを」


「いいじゃねーか」


リボーンちゃんは手錠で繋がれた手と手で手を繋いできた。


「…まぁ、いいですけどね……」


獄寺は色んなものを諦めて再び歩き出した。


リボーンちゃんも満足気に頷いて続いた。





獄寺としては手錠に繋がれている間は誰にも会いたくなかったのだが世の中そんなに上手くいくことはそうそうない。


歩き出して数分。早速知り合いに会ってしまった。


「あれ? 獄寺くん…とリボーン。なにしてるの?」


「じ…10代目……」


「ようツナ」


ツナは我が目を疑った。あの獄寺とリボーンが手を繋いでおる。しかも何故か手錠で繋がれておる。


「な…仲良いね?」


「10代目…これには空より広く、海より深い訳が……」


「オレが手錠を拾って、思わず繋いちまったんだ」


一言で済んだ。


「それで10代目…雲雀の奴を見掛けませんでしたか?」


「雲雀さん? いや、オレは見てないけど…」


「そうですか…ありがとうございました。ではオレたちはこれにて」


「じゃーなーー」


獄寺は早足で去っていった。リボーンちゃんも引き摺られていった。ずるずると。





「…一番見られたくない人に見られてしまった…」


「そうか?」


「そうですよ。それにやっぱりこれは恥ずかしいです」


「手繋ぎか?」


「ええ」


「じゃあー…これでどうだ!!」


言うが否や、リボーンちゃんは獄寺に飛びついた。


「り、リボーンさん!?」


「これなら手を繋いでいても見えないぞ!!」


「もっと恥ずかしいですよ! やめて下さいリボーンさん!!」


「二人とも、仲が良いわね」


声と共に現れたのはビアンキだ。幸いなことに眼鏡は掛けている。


「げ…姉貴……」


「チャオ、リボーン。隼人。どうしたの?」


「なんでもない…」


「雲雀を探しているんだ。ビアンキ、知らないか?」


「雲雀? いいえ、見てないわ」


「そうか…じゃあな」


眼鏡を掛けていようと獄寺はあまりビアンキを見たくないらしい。そそくさと足早に立ち去ろうとする。


「待ちなさい」


背中に声を掛けられ、獄寺は思わず立ち止まった。


「…なんだよ」


「…二人のことは二人に任せるのが一番だとは分かっているけれど…健全なお付き合いをね?」


ビアンキはリボーンちゃんの肩に手を置いて目を見てそう言った。どうやら背中を向けたときに手錠を見られたらしい。


大きなお世話だこの野郎。と思いつつ獄寺は今度こそその場を後にした。





「リボーンさん…少し離れて頂けますか?」


「まぁ、気にするな」


リボーンちゃんは獄寺に飛びつくのが気に入ったのか先程からぎゅっとしがみついている。獄寺は振り払おうとするが、リボーンちゃんは当然のように言うことを聞かない。


「はぁ…ただでさえ手錠で繋がれて恥ずかしいってのに…」


「そんなに恥ずかしいか?」


「恥ずかしいですよ!!」


「なに…してるの…?」


と、物陰から現れたのはクロームだ。クロームの目の前に手錠がキラリ。


「………」


クロームは無言のまま一歩下がった。


「待て。誤解するな。事故だ」


「事故…?」


「そうだ事故だ。そしてクローム。雲雀を知らないか?」


勢いのままに突っ切ろうとする獄寺。そのまま雲雀の行方を聞くがクロームは首を横に降る。


「知らない…」


「そうか…」


少し肩を落とす獄寺。見つからない雲雀。手首の手錠がやけに重く感じる。


「じゃあな…」


「またなークロームー」


去っていく二人。その間に繋がれた手錠を見ながら、クロームは、


「いいなぁ…あの間に入りたいなぁ……」


と一人呟いた。





「雲雀の野郎…一体どこにいるんだ……」


「…そういえば」


辺りを睨む獄寺の隣で、リボーンちゃんが思い出したかのように独りごちる。


「…どうしたんですか?」


「雲雀のことなんだが…」


「? ええ」


リボーンちゃんは獄寺を見上げて、


「雲雀は確か長期の出張に出てるんじゃなかったか?」


終わった。


獄寺は項垂れた。


「………よし、ぶっ壊しましょう」


「少し勿体無い気もするが、そうするか」


リボーンちゃんは銃を取り出した。





十分後。





「嘘だろ…」


「頑丈だな」


リボーンちゃんの銃に撃たれまくった雲雀の手錠だが、壊れるどころか傷一つつかない有様。


「このまま壊れなかったら…」


「最高だな」


「最悪ですっ!!」


想定される最悪の事態に獄寺は顔を青褪めさせる。


「リボーンさん…なんとか壊してください……切に」


「壊したらデートしてくれるか?」


獄寺は一瞬止まった。


そして。


「……………しましょう」


「よし、任せろ」


急にやる気を見せるリボーンちゃん。くるくると銃を回し出す。対して獄寺は少し落ち込んでいた。


「まぁ任せろ。このオレが本気を出せばこんな手錠の一つや二つ簡単に外せる」


(…今まで本気じゃなかったのか……)


獄寺は少し恨みがましい目をした。


「獄寺。なるだけ離れてろ。下手すると肉が抉れるかも知れんぞ」


「…お手柔らかに」


言われて出来るだけ離れる獄寺。手錠がピーンと伸びる。


銃を構え、狙いを定めるリボーンちゃん。


引き金に力が入る。


と、


「…キミたち、なにしてんの」


声が響いた。


それは今まで探していた雲雀の声。


「雲雀…!!」


「出張じゃなかったのか?」


「今帰ったとこ。で、僕の手錠でなにしてるの」


「なにしてるも何も、テメーが落とした手錠でこちとら大変だったんだよ…!!!」


「?」


「雲雀、これ外してくれ」


「うん? …いいけど……」


雲雀が鍵を取り出し、手錠はガシャンという小さな音を立ててあっさりと外れた。


「助かった…」


「もう少し楽しみたかったな」


「なんか…少し歪んでるんだけど……」


手錠を手にして怪訝な顔をする雲雀。十分の間に獲れた成果だ。


「これ、中庭に落ちてたぞ」


「ワオ…昼寝したときに落としたかな…」


「もう落とすんじゃねーぞ」


「………何か釈然としないけど…分かったよ」


雲雀はへこんだ手錠を手にその場を後にした。少し悲しそうだった。





「はぁー…疲れた」


「なかなか楽しかったな」


「いいえちっとも」


獄寺としてはリボーンちゃんと会って挨拶をしただけで何故か手錠で繋がれ、その姿を色んな人間に見られるという羞恥プレイをさせられたのでたまったものではない。だがリボーンちゃんはやはり聞いてない。


「記念に写真でも撮っておけばよかったな」


「うわあ…」


死ぬ。そんなことされたら死ぬ。獄寺はまた青褪めた。


「死んでも嫌です」


「そうか。残念だ」


心底残念そうに言うリボーンちゃん。


「で、だ」


「…はい」


リボーンちゃんは獄寺を見上げる。そのさまはまるで子供のよう。子供だが。


「早速だがデートしよう」


「………あれは手錠を壊したら、という話では」


「よし、雲雀に事情話して壊してくる」


「やめてくださいデートの前にオレが殺されます」


「なら選べ。雲雀に追いかけられてからオレとデートか、今すぐオレとデートか」


「………」


獄寺は暫し考えた。そして。


「失礼します、リボーンさん」


逃げた。


「ふ…オレから逃げられると思ってるのか…? 待て、獄寺」


リボーンちゃんは追いかけていった。


本日晴天、時間は10時を回った頃。


二人の一日はまだ始まったばかり。





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照れるんじゃない、獄寺。