「お邪魔します、10代目」
「いらっしゃい獄寺くん。上がって待っててよ」
「はい」
にこりと微笑んで獄寺くんは先にオレの部屋に向かう。
オレはその姿を見守って…
………はぁ。
思わずため息を零した。
正直言うと―――…まさかリボーンに取られるとは思わなかった。
- 年の差12歳カップル -
どうやら獄寺くんとリボーンは付き合っているらしい。
まさかの大穴だ。
リボーンはあんなに…獄寺くんに冷たいというか、相手にしてなかったというのに。
獄寺くんもリボーンに無下に扱われてばかりの日々だったというのに。
なにがどうなってくっついたのか。
…つーか、油断していた…
他の…某野球部のエースとか某風紀委員長とか某医者とか某クフフパイナップルとかに牽制をかけている場合じゃなかった。
一番の敵は…まさかこんなにも身近にいたとは!!
…はぁ、いや、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。
見る限り…獄寺くんは幸せそうだ。それはそれでめでたいことじゃないか。
彼の幸福を祝おうじゃないか。そうだそうしよう。
自分を殺して相手に想い人を譲るなんてどれだけ達観した中学生なんだ。と我ながら思うけど涙を呑むのはオレの特技だ。
そもそもダメツナのオレが獄寺くんを幸せに…いや、10代目という肩書きがなければ見向きもされなかっただろうしね。
そう。所詮オレなんて獄寺くんの隣に立つには身の程知らずにも程があるって言うか、仮に付き合うことが出来たとしても…な。
付き合っているうちに獄寺くんがオレを嫌いにならない保障はないし、いや、獄寺くんの盲目が正されればすぐにオレなんて…!
「…ばれないうちに死のうかな…」
「10代目! 何事ですか!?」
ぼんやりと包丁を握っていた所を獄寺くんに見られた。
どうやらオレが中々来ないから心配になったらしい。
「なんでもないよ?」
「そうですか…? しかしその包丁…」
「なんでもないよ?」
「…そうですよね!」
笑いながら二回同じ事を言うと獄寺くんは折れてくれた。
オレは包丁を仕舞って代わりにジュースを用意して獄寺くんと部屋まで戻った。
オレの部屋にはオレと獄寺くんしかいない。
母さんはランボたちと買い物に出掛けてるし…リボーンはボンゴレに呼び出されているらしく今日本にいない。まぁ今日帰ってくるらしいけど。
「…ごめんね。今日はリボーンもいないんだ」
「もう、何を謝ってるんですか? 10代目が謝ることはないし、リボーンさんが不在な事も知ってます」
口を尖らせる獄寺くんが可愛い。
…くっそーリボーンめ…!
「…リボーンと付き合うなら色々覚悟がいるよー?」
「承知の上です」
きっぱりと…何故か誇らしげにすら告げる獄寺くんがやっぱり可愛い。
「悔しいな…」
「え?」
「ねー獄寺くん。オレに乗り換えない?」
「はい?」
しまったオレはうっかりなんて事を言ってるんだ…!
獄寺くんの色香に惑わされたのが駄目だった!
なんか獄寺くんの前だと思わず本音とか出ちゃうんだよ!
ていうか馬鹿! オレの馬鹿!!
獄寺くん首縦に振るわけないじゃん! オレ振られるの決定じゃん!!
つーか獄寺くんはボンゴレ10代目の右腕にはなりたいらしいけどボンゴレ10代目の恋人になりたいとか言ってないしね!
オレピンチ!!!
「…あの、」
「は、はい!?」
思わず声が上擦ってしまった。
「…その、オレにはリボーンさんが………いるので」
自分で言って照れたのか獄寺くんは俯きながら顔を赤らめてた。超可愛い。
くそうあの野郎リボーンめ。悠々と獄寺くんをゲットしやがって。
「…ところで。獄寺くん一つ聞いていい?」
「はい?」
さり気に振られた気不味さを拭うために獄寺くんに声を掛ける。
「告白はどっちから?」
…って、こんな話題自分の傷抉ってるようなもんだけど。
けれど他に思い浮かばなかったのだから仕方ない。
そんなオレの心情にはまったく気付いてないようで、獄寺くんは更に顔を赤らめさせながらあうあうさせる。
「ええっと、その、それはですね…」
戸惑う獄寺くんが可愛い。
更に追い討ちになるような質問をぶつけようとしたところで…後ろの窓ががらりと開いた。
「戻ったぞ」
リボーンだった。
「リボーンさん!」
獄寺くんが顔をぱっと輝かせながら駆け寄った。
………ああ、もう。
表情を綻ばせながらリボーンに抱きつく獄寺くんを見れば、先程の問いは解かれたも同然だった。
しかし相手がリボーンだと獄寺くんが抱きついても恋人同士の再会の熱烈なハグ…ではなく、ただ単に獄寺くんがリボーンを抱っこしてるだけにしか見えないな…
そう思って、ひとまず誤魔化すことにした。
…リボーンが傍にいるときの獄寺くんの顔が一番可愛いなんて。それを認めた自分をひとまず誤魔化すことにした。
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オレにはキミをそんな顔に出来ない。
それが悔しくてたまらない。