「隼人。こんな夜遅くに話って…何かしら?」
「姉貴…」
10年前から来たという隼人。幼く、力もまだない…そんな私の守るべき弟。
昔からやたらと私を避けていた子だったから、この子から私に話しかけてきたのは非常に珍しかった。
- 突入 その裏側 -
「相談が…あるんだ」
「相談? ………いいわ。何でも言ってみなさい。隼人」
「…その、な……………リボーンさんの、話なんだ…」
「リボーンの?」
あら驚いた。この子から彼の名前が出るなんて。
…いえ、この子の気持ちは知っている。…彼が好きだという気持ちは。
だけれど姉の私が彼の愛人なものだから、この子から彼についての話題は今までしてこなかった。
つまり…それほどまでに悩んでいるというの…?
「姉貴…正直に答えてほしい。―――オレ、リボーンさんから…嫌われて、るの…かな…」
「……………」
縋ってくるような子犬の視線で私を貫く隼人。けれど…私には冷たく言い放つことしか出来ない。
「そうね。…傍から見たら…そう見えるかもしれない…わね」
「ううう…」
隼人が項垂れる。…この頃から既に彼に恋心を持っていたのね…
「そう…だよな。オレ、なん…て…リボーンさん、滅多にオレに話しかけて来ないし、しかも内容が何かの解説か罵詈雑言が多いんだよ、な…」
「隼人…そう、落ち込まないで」
涙ぐんでくる隼人に驚きつつ、私は隼人の肩に手を置いて抱きしめる。
「だけど…稀に貴方に優しくしてくれるじゃない」
「そう! そうなんだよ姉貴…! 本当に稀に! リボーンさんオレを褒めてくれて…! あの嬉しさはオレずっと忘れない!!」
「その意気よ、隼人。限りなく嫌われてるわけじゃなさそうよ!!」
私には、そんな気休めしか言ってあげることしか出来ない。…真実を告げることなんて、出来ない…。
「うう、でも…リボーンさんがオレを呼ぶときって…基本10代目を鍛える時だけなんだよな…オレなんて…態の良い道具程度にしか認識されてないのかな…」
「隼人…」
「いや、当たり前か…リボーンさんは10代目を立派なボンゴレの跡継ぎにするためだけに日本に来たのであって…だからオレは…二人の仲を促進させるだけの道具で…」
「隼人、しっかりして! そんな、自虐しないで隼人!! 目が虚ろよ!?」
私は隼人の肩に置いていた手をがっくんがっくん揺らして隼人を正気に戻させる。
「ううう、姉貴…」
「大丈夫よ! リボーンはツナには生徒以外の感情は持ってない!! それだけは断言出来る!!」
「本当…?」
「そうよ!」
それにしてもさっきから隼人がやけにしおらしいわ。どうやらそれだけダメージを負っているみたいね…
「………そう、だよな」
「隼人?」
「リボーンさんが本当に好きなのは…山本だもんな」
「………!!」
私は言葉を失った。他に何も出来なかった。
私が何も話せないでいると、隼人から言葉を出してくる。…まるで、恨み言のように。
「…リボーンさん…いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも山本の傍にいて…更には山本の肩なんかに乗っかって…!!」
「隼人…落ち着いて」
「それにあの時…授業参観のときの話だ! リボ山って何だよ!!!」
「いいから落ち着いて隼人! あらゆる意味でそんな昔の話を今更持ち出してどうするの!?」
「つーかなんでオレに爆弾投げるんですかリボーンさん! 酷くないですか!? なあどう思うよ姉貴!!!」
「落ち着きなさいって言ってんでしょ!!」
パァン! と私は思わず隼人の頬をはたいていた。
隼人は暫く茫然としていたけど…やがて落ち着いたのか、私に謝ってきた。
「姉貴…ごめん」
「いいのよ隼人…今は過去の話より、現在の方に目を向けましょう…って言っても、ここは貴方から見れば10年後の話だから少しおかしいけどね」
「…そうだな。今…現代、か………」
隼人は暫し考えて…また泣き出した。
「なんでリボーンさん山本なんかの相手やってんですか!!!」
しまった地雷を踏んでしまったわ。
「ここは…ここはオレだろ!? 力不足のオレをリボーンさんがびしばし鍛えて! 衝突とかもあったりして! でも最後は二人大ゴマでキメ! だろ!?」
「姉弟で修行っていうのも面白いでしょ?」
「姉貴なんて帰って来なければよかったのに!!」
それは少し酷いんじゃないかしら。
「ひっく…リボーン、さん…」
「隼人…」
それからも隼人の相談…というか、愚痴はこのボンゴレ隠れアジトに敵襲があるまで延々続いて。
みんなが敵地に行ったところで、やっと隼人から解放されたわ。…はぁ、疲れた…
「リボーン」
「ん? ビアンキか…」
アジトに戻るとリボーンとジャンニーニが資料とパソコンだらけの机の上で格闘していた。
私も雲雀恭弥の手助けをしないといけないんだけど、それより前に彼に言いたいことがあった。
「早く素早く手早く隼人に現実を叩き付けて頂戴。貴方が隼人に冷たかったり稀に褒めたりするからあの子は毎日不安定よ」
「………オレの勝手だろ」
「あの子は私の弟よ。弟の心が不安定なのは、見過ごせない。それに…貴方から自分で言うっていうから、私は黙っているのに」
「………」
「言いたいのはそれだけ。じゃあ私行くから」
取り残された室内。黙り込むリボーン。恐る恐るという風にジャンニーニがリボーンに話し掛ける。
「あの、リボーンさん」
「なんだ」
「野暮な話をしますが…スモーキン・ボム様のこと、リボーンさんは嫌いなんですか?」
「いいや」
「…では、生徒の一人だと思ってらっしゃる?」
「今のところな」
「…今のところ?」
怪訝顔に鸚鵡返ししてくるジャンニーニにリボーンは笑って答える。
「…ビアンキにあれだけ言われたら仕方ないな…そろそろ告白せねばならんかも知れん」
「告白!?」
「どうした。素っ頓狂な声を出して」
しかしジャンニーニが驚くのも無理はない。
なんて言ったってリボーンはこれまで散々獄寺に冷たく素っ気無く当たってきたのだ。
それが…どこをどう転がって告白?
「…嫌いだと?」
「だからなんでそうなる………その、逆のだ」
「はぁ!?」
「そんなに驚くことか?」
そりゃあもう、とジャンニーニは頷く。
あれだけ冷たいのに。あれだけ相手にしてないのに。
「ああ、あれはオレの照れ隠しだ」
「分かり辛!!」
しかし…そうか、リボーンは…獄寺が好きだったのか。今の今まで全然気付かなかった。
「ずっとシミュレーションはしてきたからな。そろそろ…練習の成果を出す頃か」
「練習…?」
「ああ。山本っているだろ。あのオレの獄寺にいつも近付いてくる奴。そいつを獄寺だと思って今まで練習してきた」
「山本様をスモーキン・ボム様に!?」
「山本を獄寺から引き剥がせて一石二鳥だろ?」
その行動が愛する獄寺の気持ちを踏み躙っていたのだが、罪作りなリボーンはまったく気付いていない。
「この間も…オレの正体を明かすのと同時に告白しようと思って山本で練習、その後丸三日間特訓していた」
「あれは影でそんなことがあったんですか!?」
「あったんだ」
「はぁ…それはまた」
「獄寺はオレのだから取るなよ」
「…取りませんよ」
「…じゃあ獄寺が戦いから戻ってきたら…いよいよ告白か…やべ。緊張してきた」
「最強のヒットマンも形無しの狼狽えようですね」
一方その頃。ミルフィオーレアジトにて。
「ラル…! いい加減アルコバレーノの謎について教えろよ!!」
「断る」
「オレは…! もうリボーンさんが苦しむ姿を見たくないんだ! 少しでも手助けしたいんだよ!!」
「獄寺くんついに言葉に出して言っちゃったー!!!」
「どうしても知りたかったら、山本に聞け」
「んなー!?」
「山本、知ってるの!?」
「あ、ああ、まぁ」
「………リボーンさん…やっぱり山本のことが…!」
「あー…可哀想な獄寺くん。…リボーンもとっとと告ればいいのに…」
「あー、そういえば告白もされたなー」
「ひぅ!? リボーンさん…とうとう!?」
「宛名が獄寺だったけど」
「山本! それ声を大にして言ってやって!! 獄寺くんが泣き崩れて…ああ、獄寺くんしっかりしてー!!」
「ひっく…リボーンさんの馬鹿ー!!」
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リボーンさんなんてもう知らない! でも愛してます!!