ずっと冷たくあしらわれてきたので、嫌われてるのだと思っていました。


ずっと素っ気無い態度を取られてきたので、興味を持たれてないのだと思っていました。





それでもオレは、貴方が好きでした。


ずっと前から。貴方が。貴方のことだけが。


オレは貴方の傍にいられるだけで、幸せでした。





…だから貴方と同じ任務に就けたとき、オレは嬉しかった。


貴方の隣に立てるのだから。


オレの実力は貴方の隣に立てる程だと。認められたのだから。


…貴方は、どう思ったか分かりませんけど。





それでもオレは嬉しかったから。


きっと、油断してました。


周りに認められて。貴方の隣に立てて。浮かれていたんです。





それは任務を終えてアジトへ戻る途中でした。


不意に、オレの背がトン。と押されました。


オレの後ろにいたのは貴方でした。


次の瞬間、聞き慣れた、乾いた音が聞こえました。


オレの死角になっていた場所から、黒服の男が倒れてきたのが見えました。


オレは貴方に助けてもらったのだと知りました。


振り返り、貴方に礼を言おうと思って―――



オレの思考は止まりました。



貴方の右手はいつもの銃を持っていました。


その銃からは白い煙が出ていました。


貴方の左手は貴方の顔を抑えていました。


その手の間から、開いた指の隙間から。





貴方の目から。


が流れていました。





そして、リボーンさんは視力を失いました。


オレの背を押した時に刺客の攻撃を食らい。両目を負傷して。


眼球の損傷が激しい…と診断され、目玉そのものを取り除き。今は義眼が入れられているらしい。


リボーンさんは検査のため、あれから数日経った今も病室の中にいる。


オレは未だリボーンさんに会いに行けてない。


リボーンさんに会わせる顔がない。


リボーンさんに会って…「何をしに来た」と冷たく言われるのが怖い。


…リボーンさんは何でオレなんかを助けたのだろう。


自分の目と嫌いな同僚なら、誰だって自分の目を選ぶだろうに。


オレは戦場で貴方の隣に立って。貴方の役に立ちたかったのに。


まさか逆に負担になってしまうだなんて。


オレの目が潰れればよかったのに。


あの時リボーンさんに助けられなかったら、もしかしたらオレは死んでいたのかも知れないけれど。


それでも、よかったのに。


オレなんか、死んでしまえばよかったのに。


そう思っていたことをうっかりシャマルに聞かれてしまい、大層怒られた。


つーか、ぶん殴られた。


馬鹿なこと言ってんじゃねぇ、と。


そんなことをしたら全てが無意味になるだろうが、と。


お前はリボーンの行動すら無駄にするつもりなのかと。


・・・。


そっか。


そうだな。


オレの命はリボーンさんに救ってもらったのだから。


オレの命はリボーさんに返さないと。


オレは意を決して、リボーンさんに会いに行きました。


久し振りに見るリボーンさんは、目に白い包帯を巻いていて。


久し振りに聞くリボーンさんの声は、とても静かでした。


オレはリボーンさんに言いました。


オレを貴方の目にして下さいと。


…けれど。


リボーンさんは「要らん」と一言言っただけでした。


何の問題もないと。補佐などなくても一人でやっていけると。





でもオレは納得出来なくて。


オレはリボーンさんに何かを返したくて。





リボーンさんが盲目になってから、10代目はリボーンさんに前のように多く任務を与えないようになりました。


…リボーンさんはとても不満そうでしたけど。


この程度、全然大丈夫なんだぞ。なんて言ってましたけど。


でも10代目は駄目だと言って、頑として譲らなくて。


だからオレが、リボーンさんの仕事を志願しました。


リボーンさんの目になることは断られてしまったけど。


ならばせめて、仕事ぐらいはと。


それぐらいは、役に立ちたいと。


少しでもリボーンさんの負担が減るように。


少しずつ強くなりながら。


仮にもリボーンさんの仕事をこなすのだから、弱くては勤まらなく。


やはりというか、ヒットマンであるリボーンさんの仕事は暗殺が主で。


だからオレも、そのための技術に磨きをかけて。


特に、気配を消すことにかけてはかなり上手くなりました。


時にはリボーンさんにすら気付かれず擦れ違ったこともあるぐらいですから。


目が見えなくなって、その分気配を察知する能力が上がったリボーンさんにすら、です。


何だお前いたのかと、少し驚いた口調で言われて。リボーンさんと並べた気がして。…少し嬉しかったり。





そんなある日のことでした。


いつぞやの再来が訪れたのは。





それは、ある仕事帰りの夜でした。


オレは一人で歩いていました。


ふと、向こう側からリボーンさんが歩いてきました。


リボーンさんはオレに気付いてないようでした。


…ああ、またいつもの癖でつい仕事の時のように気配を消しながら歩いていたようです。


オレは自分に呆れながら、リボーンさんに声を掛けようとして。


―――。


気付きました。


リボーンさんの死角。そこから黒服の男が銃口をリボーンさんに向けていることに。


オレは今気付きました。リボーンさんは気付いているのでしょうか。


気付いてなかったとして。今から声を掛けても間に合わない。


今から動くとして。オレが銃を取り出す間にリボーンさんが撃たれてしまう。


残された時間はあと僅か。


オレは息も吐かず走って。


「失礼します」


リボーンさんを強く押して。無理やり銃弾の線からずらしました。


代わりにオレが線上に。


銃弾は既に放たれて。


凶弾がオレを貫いた。







…ずっと冷たくあしらわれてきたので、嫌われてるのだと思っていました。


ずっと素っ気無い態度を取られてきたので、興味を持たれてないのだと思っていました。



だからこの想いは、告げぬまま。



―――もう、貴方の隣に立つことは出来なくなるけど。


最後に、貴方のお役に立てたのなら幸せです。


貴方に救われたこの命を、貴方に返せたのなら。オレは幸せです。



…貴方は、どう思うか分かりませんけど。



―――遠い意識の中、あなたの声が聞こえたけど。


もう、オレには答えることも出来ない。










ずっと冷たくあしらってきたから、嫌ってくれると思ってた。


ずっと素っ気無い態度を取ってきたから、自然に離れていくと思ってた。



なのにどうしてお前は、オレのあとを着いて来たんだろうな。


どうしてお前は、オレと同じ任務に任命されたとき嬉しそうだったんだろうな。



オレはお前から離れてほしかったのに。



所詮、オレには誰かを幸せにすることなど出来はしないのだから。


だからお前には、オレ以外の誰かの手で。幸せになってほしかったのに。



だからオレは、この想いは告げぬと決めたのに。



…あの帰り道。


お前が狙われてることに気付いた。


お前を助ければ自分が目を失うことも分かってた。


けどオレは迷うことはなかった。


自分の目と、獄寺。どちらが大事かと聞かれたら答えは一つ。


獄寺だ。



だから、あいつは気を病まなくてもよかったのに。


目など、なくても本当によかったのに。


お前が無事ならば。


…だというのに。



「この、馬鹿が…」


漏れた声に、すまなさそうに答える声はなく。


お前の最後の顔も、あの時潰れたこの目では見ることも叶わない。






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これが報いか?