あなたがオレの前に現れて。
オレの首を絞め上げた。
抵抗なんてする間もない。
あなたの指が、オレの首元を圧迫する。
視界が霞み、目の前が白くなる。
言葉を発することも当然出来やしない。
「―――――」
それでも、オレは言葉を紡ごうとする。
あなたの名前を、呟こうとする。
当然、声は出ない。
気道を圧迫された状態では、声どころか息すら出てこない。
白む世界で、あなたの顔を見ようとする。
ただでさえ視界の悪い中、あなたは帽子を目深く被っていて。
あなたの顔は、伺い知れない。
意識が途切れ途切れになる。世界が終わる。
身体に力が入らず、身に宿る感触は締め付けられる首元だけ。
そんなオレを、どこか遠くで見つめている自分がいた。
その自分が、嗤う。
その自分が、吐き捨てるように呟く。
楽しそうだな。
オレの頭の中に、その声が反響する。
オレはそいつに答える。
ああ、そうだな。
全く、笑ってしまう。
涙が出るほど。
だって、どうせ。
これ、夢なんだろ?
そう思うと同時、オレの首の骨が折れる音がした。
世界は白となり、オレの意識は弾け、浮上する。
眼が、覚める。
場所はオレの自室。ベッドの上。
身を起こす。
当然あなたの姿はない。
ただ、夢の通りにオレは涙を流していた。
それだけ。
ああ―――と溜め息を吐く。
これは罰だ。
夢の中でさえ、あなたの名が呼べないのも。あなたの顔が見れないのも。
だって。
あなたはオレのせいで死んだから。
あの日、あなたは、オレなんかを庇ってしまったから。
どれだけ悔いてもあの日に戻れることはなく。
溢れ出る後悔は夢の中であなたの形を取り、せめてオレを殺してくれる。
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あの夢がずっと続けばいいのに。
あなたに会うのに必要な対価が、オレなんかの命でいいのなら、いくらでも払うのに。