「おはよう、獄寺くん」


「おはようございます。10代目」


ある晴れた朝。


いつものように二人は通学路を歩く。


繰り広げられる他愛のない会話。それでも二人は…特にツナは楽しそうだ。


なんて言ったってあの獄寺との会話である。楽しくないはずがない。


なんて言ったってあの獄寺を独占である。心踊らない訳がない。


弾む会話。楽しい声。穏やかな時間。


しかし時折、獄寺はどこか遠いところを見て寂しげな顔をしていた。


獄寺の最愛の人、リボーンが数日前からイタリアに飛んでいるのだ。


会えなくて、声も聞けなくて。寂しい日々が続く。


ツナは当然そんな獄寺に気付いてはいたが、獄寺のその表情に胸をときめかせるので忙しかった。





あっという間に学校に着き、教室に入る。ツナと獄寺の席は離れているのでここでお別れだ。ツナは少し悲しかった。


しかし授業が終わればまた獄寺と共に過ごせるのだ。ツナはその時を待つことにした。


つまらない授業が始まる。内容は悲しいほど分からない。頭に入ってこない。


まぁ、勉強なら後で獄寺くんに見てもらえば…とツナが思っていると、


ガラッ


突然、なんの前触れもなく、唐突に。教室のドアが開かれた。


みんなが思わずそちらを見る。先生も含めてだ。


「………」


そこには何故か、並中で知らぬ者なし。最凶の風紀委員長、雲雀恭弥がいた。


「…!?」


みんなが息を呑む。何事かと恐れおののく。


嫌な予感がした。みんな雲雀が手にしているものに注目していた。


雲雀は、なぜか両手で机と椅子を持っていた。教室に生徒分用意されている、あれだ。


雲雀は当然のように教室に入ってくる。机と椅子を持ったまま。


誰も、何も言わない。辺りは静まり返っている。


「邪魔」


雲雀はひとつの席を蹴り飛ばした。座っている生徒ごと席が飛ぶ。


雲雀は空いたスペースに持ってきた机と椅子を置いた。当たり前のように椅子に座る。


そこでようやく、雲雀の登場に気付いたものがいた。今まで窓の外をぼんやりと眺めていた、獄寺隼人氏である。


獄寺はいきなり隣人が変わったことに驚いていた。しかも学年も違う奴だった。雲雀恭弥だった。


「………どうしたの。お前」


「僕はいつでも自分の好きな学年だよ」


雲雀は何故か自慢気に答えた。


「あ…そう」


獄寺は突っ込むことを放棄した。


…今日は、暑いもんな。


獄寺はそう思うことで納得することにした。


気を取り直して、獄寺は再び窓の外を見る。


…この同じ空の下、リボーンさんは今一体何をしているのだろう…


獄寺は胸をキュンキュンさせながらそんなことを思っていた。


雲雀はそんな獄寺の横顔を見てドキドキしていた。





変な緊張感が漂う中、なんとか午前の授業が終わった。昼食の時間が始まる。


ちなみに雲雀は獄寺に、「そういえばお前、風紀活動はどうした?」と聞かれ、「そういえば忘れていたよ」と答えて帰っていった。


雲雀は獄寺と会ったことで少々馬鹿になってしまったようだった。


それはともかく、昼休みである。


ツナが颯爽と獄寺のもとに行こうとするが、それより前に教室の扉が大きな音を立てて開かれる。


デジャビュを感じ、振り向く。そこにいたのは雲雀恭弥…ではなく、他校の制服を身に纏った青年。六道骸だった。


骸はすたすたと真っ直ぐに獄寺の所へと歩いていく。獄寺はまだ気付いていない。


「隼人くん」


呼ばれて、ようやく獄寺が気付く。振り向くと、そこには当然のように満面の笑みの骸がいた。


獄寺が固まる。


「………え?」


「こんにちは」


骸は獄寺と対照的に、ニコニコと笑っている。


「なんでお前、ここにいるの?」


「隼人くんと一緒にお昼を食べたいと思いまして。あ、僕お弁当作ってきたんですよ。食べます?」


「………」


唖然とする獄寺の鼻先に、可愛らしいハンカチで包まれた弁当箱が差し出される。


獄寺は暫し考えて、弁当箱を受け取った。


「自信作なんですよ。隼人くん唐揚げは好きですか? それと卵焼きは甘めに作ってあります。それからポテトサラダと、あとご飯は桜澱粉でハートを………」


獄寺は骸の説明を右から左へ聞き流しながら、弁当箱を窓の外へと投げ放った。


「あーーーーーーーーーー!!!」


「10代目。購買に行きましょう」


「うん」


勝った。ツナは内心で歓喜に打ち震えていた。





あっという間に放課後になり、帰る時間となった。


長い影を作りながらツナと獄寺は一緒に歩く。


朝と同じ、他愛のない会話。楽しい会話。二人とも笑顔で、穏やかな時間が流れる。


明日もきっと同じ時間が流れる。ツナはそう信じて疑わない。


と、ふと。獄寺の足が止まる。


その目は真っ直ぐに夕日の方を向いている。


「…? 獄寺くん、どうし……」


ツナも釣られて前を見る。そこには小さな人影があった。


「ちゃおっス」


リボーンだった。


獄寺の頬がわずかに朱に染まる。それは夕日の光だけではない。


ツナは獄寺の視線が自分のものだけではなくなったことを悟り、少し寂しくなった。





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だけど彼の笑顔は、あいつといつときが一番綺麗で。ああもう悔しい!


リクエスト「人気者だけど気付かない無頓着獄寺くんをッ!」
リクエストありがとうございました。