分かりました。認めます。


オレは、あなたが好きです。





- 薄らいでいく 何もかもが・・・ -





あなたを見た瞬間、オレは自分の気持ちに気付きました。


次の瞬間、オレは自分の気持ちを殺すことにしました。


間違いなく報われないし。


畏れ多いし。


何よりも、あなたの迷惑になる。


だからオレは、この気持ちを殺さなければいけない。


擦り潰し、押し殺し。


あなたに芽生えるこの気持ちを黙らせる。


だけれど。


殺しても殺しても、あなたを見るたび思いが湧き上がる。


どれだけ殺しても、気持ちが蘇る。


幸い、あなたは他の生徒と比べてオレにあまり構わなかったし、どちらかというと冷たい態度を取ってくれたけど。


だけど、勝手ですけど、それはそれで傷付きました。


気持ちを殺せないと知り、オレはどうにか逃げ道を探しました。


この思いは勘違いなのだと。


あなたにそんな思いなど、抱いていないのだと。


仮にそうだとしても、愛を知らないオレが誰かを愛するのだとしても、それは歪なもので間違っているのだと。


だからオレは誰も、愛してはいけないのだと。


そう信じた。


信じようとした。


それでもこの思いは止まることを知らず。


むしろ、日に日に増すばかり。


あなたへの思いが殺せない。


むしろこっちが殺されそう。


オレに出来ることといえば、あなたになるべく関わらないこと。


10年も経つ頃には、オレたちは会話をすることもなく。


それどころか、顔を合わせることすらなくなりました。


きっとあなたも事情を知らないなりに気を遣って、オレに会わないようしてくれていたのでしょう。


そう思っていたから、油断してました。


とある任務の作戦会議が終わって、歩いていると。





「獄寺」





あなたがいて、オレを見て、オレに声を掛けてきました。


オレは思わず目を見開き、息を呑み、後ずさり…そのまま背を向け、弾かれたように走り出しました。


身体が熱く、心臓が爆発するかのように高鳴っていました。





長くあなたと関わりを絶っていたから、大丈夫だと思っていた。


少しぐらいあなたと会うぐらい、声を聞くぐらい。平気だと思っていた。


そんなわけ、なかった。


不意打ちだったからとか、心の準備が出来てなかったからとか。そういうのじゃない。そんなの関係ない。


あなたに会う。あなたの声を聞く。


たったそれだけで、オレの中に閉じ込めた、心の奥底に閉じ込めて鍵を掛けて二度と外に出さぬようにした気持ちが顔を出す。


檻をこじ開け、鍵を壊し、膨れ上がった気持ちがオレを支配しようとして―――


オレはその思いを、殺す。


殺しても殺しても蘇るこの思いを、何度だってオレは殺す。


あなたを思う、この気持ち。


こんなの、あなたと初めて会った時から知っていましたけど。


必死で違うと自分に言い聞かせて、勘違いだと思い込んで。そうだと信じていたのに。


でも、もう駄目です。


思いを殺しきれない。


気持ちを抑えきれない。


オレは、あなたが好きです。


絶対に報われないし、畏れ多いし、何よりあなたの迷惑になるから告げぬと決めたけど。


だけどこれ以上、思いを抑えきれる自信がない。


次にあなたと会ったら、オレは何を言ってしまうか分からない。


…そもそもオレは、どうしてこんなにもあなたのことが好きなんだろう。


長い時間を掛けて、というなら分かるけど。初めて会った時からオレは既にこの思いを持っていた。


一目惚れとしか言い様がないだろうけど。何故だかそれはしっくりとこない。


今更ながらそんなくだらないことを考えて。オレはもっと考えるべきことを忘れていた。


すなわち。


今までオレと距離を置いてくれていたリボーンさんが、何故今オレの前に姿を現し、声を掛けてきたのか。





あなたはきっと、知ってたんですね。


あの抗争でオレが命を落とすことを。





そして、その任務当日。


敵を討つことに集中して、オレは全てを忘れようとしていました。


傷を負うことを恐れず。ただ目の前の敵を倒すことに集中して。


決して油断をしていたわけじゃないけど、撃たれ、爆破され、オレの身がどんどん削れてく。


爆風に煽られ、たたらを踏んだところを狙われて。銃口がオレを向いて火を噴いた。


遠くにあなたの姿が見えて。


あなたは帽子を目深く被り直してて。


一瞬だけ見えたあなたの顔は、何故か、どこか…辛そうな顔をしていました。


それがオレの最後の記憶。


だからここから先は、オレにとっては存在しない未来の話。





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自分を騙す気持ちが薄らいでいく。何もかもが薄らいでいく。