ツナが不可思議な顔をして、携帯を見ていた。


「どうした」


リボーンがそう尋ねれば、ツナは携帯からリボーンへと目線を移す。


「いや、獄寺くんが遊びに来る…って言ってたんだけど、約束の時間になっても来ないんだよ」


メールは返信なし。電話も繋がらないという。


「またどこかで厄介事でも拾ってんだろ」


「そうだね」


リボーンがそう言えば、ツナは納得する。


まあ事実、厄介事に巻き込まれては、いるのだが。


ツナと別れ、リボーンは携帯を開く。


数分前に来たメールを開く。差出人は獄寺だった。いや、正確に言えば、獄寺の持つ携帯からだ。


獄寺本人ではないだろう。あの獄寺がツナからのメールに返信しないわけがない。


それに、メールの内容も獄寺が打ったものとは到底思えないものだった。


即ち。



『獄寺隼人は預かった。誰かに知らせたら殺す』



ご丁寧なことに、頭から血を流して倒れている獄寺の写メ付きで。


リボーンは内心でため息を吐く。


まったく、まだ鍛え足りないようだな。


戻ってきたら扱き倒してやる。そんなことを思うリボーンだったが、突如降ってきた物を見て思考を停止させる。


降ってきたのは、壊れた携帯電話だった。確か、獄寺が持っていたのと同じ機種だ。


携帯には紙が括り付けられていた。


紙には赤い何かで、恐らくは血で、文字が書かれていた。



『お前のせいで、獄寺隼人は傷付く』



「………」


リボーンは何故、獄寺が攫われて自分に連絡が着たのか、その理由が分からなかったが…これで納得した。


奴、だか奴らの狙いは自分だったのだ。


リボーンは職業上、様々な人間に恨みを買っている。


それ故、襲撃にあったり闇討ちにあったりすることも多い。


それだけならまだいいのだが、時には親しい人間に被害がいくこともある。


たとえば今回のように。


更に言えば、今のところ『犯人』からの要求は何もない。


というか、恐らくこちらに何か要求してくる気はないのだろう。メールを寄越した獄寺の携帯を壊して見せたのだから。


これが意味することは…つまり。


『犯人』の要求は、既に満たされている。


『犯人』の望みは、獄寺を捕らえること。…獄寺を傷付けること。それでリボーンがダメージを受けることにある。


『犯人』はリボーンから逃げられるなど思っちゃいない。許されると思っちゃいない。


だから、ならば。命を捨てて、最大の嫌がらせを。



『犯人』目的は、獄寺隼人の殺害にある。



リボーンは歩き出す。


『犯人』はこれ以上、リボーンと接触するつもりはないだろう。あるとすれば、獄寺の遺体を放置するときか。


唯一の携帯も壊されて繋ぐものはなくなった。だが、何の問題もない。


『犯人』はリボーンにダメージを与えるため、わざわざ携帯をリボーンの前に落としたのだ。


少なくともひとり、近くにいる。


そいつは何も知らされていない下っ端かもしれないし、雇われただけの一般人なのかもしれない。


だが、手掛かりだ。


そして、リボーンは黙ってそれを見送るほど甘くはない。


リボーンは懐から銃を取り出すと、何の迷いもなく引き金を引いた。





そして、リボーンはある場所に立っていた。


辺りには人間が散らばり、硝煙が漂ってる。


そこは獄寺を攫った『犯人』のアジトで、それらは獄寺を攫った『犯人』たちだ。


彼らは呻き声ひとつ上げない。


彼らは、もう死んでいる。静かに燃えるリボーンの怒りを買って。


そして、リボーンの目の前には銀の髪を赤黒く汚した少年が倒れている。


リボーンにダメージを与える。ただそれだけのために攫われ、傷付けられた獄寺だ。


「獄寺」


縛めを解き、そう声を掛ければ獄寺の身体がぴくりと動く。


血が流れる頭を抑えながら、獄寺がゆっくりと身を起こす。


ぼんやりとした目で辺りを見渡し、目の焦点を合わせてからようやくリボーンを見る。


「リボーンさん」


その目に見えるは、安堵。


その場に似合わない、柔らかい笑み。安心しきった表情。


リボーンは呆れた顔をして、獄寺の傷の手当てをする。


「なんだ、その顔は」


「すみません、殴られちゃって」


「そうじゃない」


きょとんとした顔を作る獄寺に、リボーンはまたため息を吐いた。


「お前はオレのせいで捕まって、殺されかけたんだぞ」


「ああ、そうだったんですね」


それを聞いても笑みを崩さない獄寺。血を流しすぎて、頭が回っていないのかもしれない。


「オレを怒るとか詰るとか、そういう場面だろ。ここは」


「リボーンさんにそんなこと出来ませんよ」


「こんな理不尽な目にあってもか?」


「ええ。だってオレ、リボーンさんに下手惚れですから」


「……、」


さらりと出てきた獄寺の台詞に、リボーンは一瞬だけ言葉を失う。


「それに、リボーンさんはオレを助けに来てくれましたから…怒るのは筋違いかと」


「そりゃ、オレのせいで攫われたからな。オレが足を運ぶのは当然だ」


「いやぁ、お手数をお掛けしてしまいまして」


自覚があるのかないのか、台詞とは裏腹に嬉しそうな顔と口調だった。


もしかしたら薬か何か打たれたのかもしれない。自白剤とか。


よもやボンゴレの情報漏らしてねぇだろうなこいつ…まぁここの人間は全員始末したから大丈夫だと思うが…


などとリボーンが考えていると、目の前の獄寺がふらりと倒れこんできた。どうやら気を失ったようだ。


「………」


一応の応急処置はしたが、何分出血が酷い。顔色も悪い。


リボーンは病院に連絡をすると、救急車の到着を待った。


後日、目を覚ました獄寺は、その日のことをまったく覚えていなかった。





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せっかく前進したと思ったら振り出しに戻りやがった。


リクエスト「獄寺君が誘拐されての、リボ様救出!」
リクエストありがとうございました。