「きゅー!」



ハヤトは今日も笑顔だった。


今日も愛しの旦那さまに、頼れる家政夫(にして義息子)、更には可愛い子供たちに囲まれて。


…と言っても、早くも子供たちはハヤトの身長を追い抜き、今は立派な社会人なわけなのだが。けれどたとえそうでもハヤトにとっては可愛い子供たちなのである。



それはさておき、ハヤトは今日も笑顔だった。


何故かと言うと、家族が増えたのだ。



「にょーん」



その名も瓜。くりくりおめめが可愛い仔猫だった。


公園の隅に置かれていたダンボールの中。そこで雨に打たれているところを、ハヤトが発見・保護したのだった。


ちなみにそれから飼うまでの経緯としては、こんな感じだ。





「にょーん」


「リボーンさん! 見てくださいこの仔!! とってもとっても可愛いです!!」


「そうだな。それで?」


「お外、雨です!!」


「そうだな。それで?」


「この仔、お外で雨に打たれてました!!」


「そうか。それで?」


「可哀相です!!」


「それで?」


「ハヤトたちの家族に迎え入れたいのですが!!!」


「………家にはハヤトがいるから、駄目だ」


「きゅーーー!? そそそそそれはどういう意味ですかー!?」


「冗談だ。だが、実際問題誰が世話をするんだ?」


「ハヤトが…」


「お前はまだまだ現役アイドルだろうが…オレも仕事。つかみんな社会人だ。昼は家に誰もいない」


「あううううううううう…」


「にょーん!!」


「きゅー!! い、痛いです…引っかかれました……」


「―――――あ?」


「にょ!?」


「てめぇ…今、ハヤトになにをした…?」


「に…にょ……」


「ぶち殺されてぇのかお前。………絞めるぞ? 首を」


「にょーん!!!」





そしてその後、瓜はいくら捨ててもまたハヤト…というか、リボーンの所まで戻ってくるようになった。どうやらリボーンをボスとして認めたみたようだった。





「きゅー!」



ハヤトは今日も笑顔だった。


何故かと言うと、家族が増えたのだ。


長男くんが、彼女を紹介したのだ。



「初めましてお母義様―――沢田奈々と申します」



奈々ちゃんは実は長男くんとは小学生時代からの付き合いで、長男くんは大学生時代に奈々ちゃんに告白、現在は結婚を考えているらしい。



「………って、沢田?」


「社長と同じ苗字ですね!!」


「そうだな。…まぁ、沢田なんて苗字そこらにいくらでも―――」



と、楽観的希望を持とうとしたリボーンの懐から何かが振動した。…携帯電話の着信だった。相手は我等がツナ社長からだった。



「………なんだ?」


『オレの娘どうよ!!』


「………色々言いたいことがあるんだが、とりあえず一言だけ言ってやろう。ツナ。盗聴は犯罪行為だ」


『それぐらい知ってるよ? それが? 誰かに盗聴被害にでも遭った?』


「今まさにお前にな」


『失礼なー。奈々が今日リボーンのところに挨拶しに行くって言うじゃん? そろそろかと思って電話しただけだって』


「………」


『リボーンの子とオレの奈々が結婚したらオレたち家族になるね!! いっちょよろしく!!』



リボーンは思わず頭を抱えた。



「………つかお前…結婚してたのか?」


『いいや、独身だよ。奈々は養子。…でも超可愛いようちの奈々は。気立てもいいし料理も上手だし…正直、リボーンの子には勿体無いかな』


「うっせぇぞ…」





そんなこんなで、リボーンにやや辛労を覚えさせつつも長男くんと奈々ちゃんは結婚した。


可愛い娘が増え、更には昔から何かとお世話になったツナとも家族となり、ハヤトは今日も笑顔だった。



「きゅー! ボンゴレプロダクションの方々がどんどん家族になってゆきます!! ボンゴレファミリーですね!!」



素敵です!! とハヤトは今日も笑ってる。





そして、その日もまた…ハヤトは笑顔だった。



「きゅー!! リボーンさん聞いて下さい見て下さい!!」


「なんだ? どうしたハヤト」



どたばたと廊下を駆けながらハヤトは愛しい愛しい旦那さまリボーンの胸元へと飛び込んでくる。…が、その一歩前で何もないところでハヤトは自分の足で躓き、すっ転ぶ。



「きゅ!」



けれど待っていたのは床の冷たく固い感触ではなく…あたたかく、優しい腕の中。…リボーンが間一髪でハヤトを抱きとめたのだった。



「ありがとうございます!! そしてリボーンさん、これ! これ見てください!!」


「ん? …手紙?」



ハヤトがリボーンに差し出したのは一通の手紙だった。…差出人は―――



「シャマルから?」


「きゅー!!」



リボーンの言う通り、その手紙はシャマルからのものだった。シャマルと言えば世界的に有名な俳優であり、かつハヤトと幼い頃からの知り合いだったりもする。



「シャマルおじさまがですね、大きなお休みが取れたそうです長いお休みが取れたそうです!! そしてハヤトの所まで遊びに来て下さるそうです!! 嬉しいです!! きゅーきゅーきゅー!!」



ハヤトは興奮覚め止まぬといった感じで嬉しそうに始終きゅーきゅー鳴いていた。


それもそのはずで、ハヤトの中ではシャマルと最後に会った記憶は三つぐらいのときしかない。


本当は14歳のときにも一度会っているのだが…色々あってハヤトはその時のことをあまりよく覚えてなかった。


なので、ハヤトにとっては本当に久し振りで、今から会えるのが楽しみで楽しみで仕方がないのだった。





そして、その当日。


ハヤトは遠足前日の子供よろしく前の日の夜楽しみで楽しみで眠れなかった。


けれど朝になったらいつもよりも早くに起きて、雲雀のところに行っては「ハヤトも何かお手伝いします!!」と言っては雲雀を心の底から困らせていた。


結果リボーンにコーヒーを持っていこうとしてはやっぱり何もないところで自分の足で躓いて転んでコーヒーを盛大に床にぶちまけ泣いていたりした。


いつも通りの光景だった。


そして、そんないつも通りの光景がリボーン邸で広がっている一方で、我等がシャマルといえば。



「………迷った」



盛大に道に迷っていたりした。


天下の大俳優、まさかの迷子だった。


シャマルは冷や汗を一筋たらりと流した。



「…参ったな…」



約束の時間には間に合いたいのだが、それも刻一刻と迫ってきている。


ここは一つ、人間の現代文明を最大限に活かす―――すなわち電話の一本でも掛ければ解決しそうなのだが、ハヤトに電話をすれば迷子のシャマルを迎えに行ったハヤトが迷子になってしまうことだろう。


しかし、だからと言って男どもに助けを求めるのは嫌だった。


だが、このままではいつまで経っても着かなさそうだし…


シャマルが悩みながらも歩いていると、道の向こう側から誰かが歩いてきた。


丁度いい。その人に聞こう―――シャマルはそう思った。


歩いてきたのは、どうやら女性のようだった。


ラフな格好に、手にはコンビニの袋を提げていた。


シャマルは彼女に声を掛ける。



「すまない」


「はい?」



女性がシャマルに気付いた。


合わさる目線。


そして―――





「きゅー…シャマルおじさま遅いですねー」


「そうだな」


「もしかしたら迷子になっているのかも知れません!! ハヤト、迎えに行きます!!」


「…二次災害が起こるから止めてくれ…」


「きゅ?」



ピンポーン



「ん? 来たか?」


「きゅー!! シャマルおじさま!!」



とてとてと玄関まで駆けるハヤト。


それまでの間に実に三回ほど転びかけるが、近くにリボーンがいてくれたため怪我などはしなかった。


ともあれ、無事に(普通来客を迎えに行く際に無事になどと言う表記は使わないが)玄関まで辿り着くことの出来たハヤト。


この向こうに久し振りのシャマルおじさまが―――そんな思いを胸に、ハヤトは満面の笑みで扉を開け放った。



「―――ハヤト!!」



そして現れたのは、予想の通りにシャマルだった。



「シャマルおじさま!!」



ハヤトが歓喜の声を上げる。



だが…



「お前の娘をオレにくれ!!!」



という、次に放たれたシャマルの言葉には流石のハヤトも、



「………きゅ?」



と、それ以上の言葉は出なかった。







「………で、一体どういうことなんだ?」



ハヤト同様、一時言葉を失っていたリボーンだったが何とか持ち直しシャマルにそう聞いた。


対してシャマルは、



「惚れた」



と、一言だけで簡潔に言い表した。



「……………」



流石のリボーンもどうしたものかと頭を抱えてしまった。



「ここに来る途中、道に迷ってな…そこでたまたま擦れ違った彼女に声を掛けたんだが………正直、雷が直撃したのかと思うぐらいの衝撃が走った。一目惚れって奴だ」


「……………」



ハヤトに会いに来る…たったそれだけの来日のつもりがまさかの運命の人との出会い、更にはそれから数十分としないうちに両親に挨拶………流石は大物大俳優。やることなすことが常識外れであった。



「…あいつの気持ちはどうなんだ?」


「これから落とすところさ」



シャマルは父親を目の前にとんでもないことを平然と言い放った。



「…少なくとも、そういうことはお互いの気持ちが通じてからの話だろう。見たところあいつの気持ちはお前には向いてない。そんな状態で、誰がやれるか」


「手厳しいね」


「可愛い娘だからな」





そんな風にシャマルとリボーンが話している最中。


噂の長女ちゃんはハヤトと話をしていた。





「一体何があったのですか?」


「いや、話し掛けられて目が合ったと思ったらいきなり好きだ! 結婚してくれ!! って」



そのとき思わずリボーン直伝の護身術を思いっきりぶちかましてしまったことは秘密だ。…最も、シャマルの頬には思いっきり痣が出来ていたが。



「シャマルおじさま積極的です!! それで、あなたの気持ちはどうなのですか?」



にこにこ笑顔でハヤトが言う。


それに対し長女は、複雑な顔をするばかりだった。



「シャマルおじさまって………あのシャマルでしょ? 大俳優の……そりゃ、テレビでずっと格好いい姿見てきたし、どっちかって言うと好きだけど…」


「それは本当か!?」



と、バーンと扉をぶち破り(のちに修理代シャマル持ち)シャマルが二人の前に現れた。


その後ろではリボーンが呆れ顔でこちらを見ている。


抱きついてこようとするシャマルを、長女ちゃんはやっぱりリボーン直伝の護身術で引っ叩く。シャマルはのへー! とぶっ倒れた。



「………テレビで見てる分には好きだけど…結婚と言われると………」



浮気しそうだし。と長女ちゃんは小さく呟いた。


シャマルの「みんなが本命」宣言から○年。一時は千股を越えたとさえ噂され、本人もそれは否定していない。



「…浮気はもうしない!!!」


「もうとか…ていうか、みんな本命なんだから誰にでもそういうこと言ってるんでしょ?」


「それは違った! それはオレの思い違いだったんだ!! オレは今!! 真の恋というものを知った!!!」


「……………」



長女ちゃんはシャマルを冷ややかな目で見つつ、愛する父親、リボーンのところへと向かい腕を組む。



「…とにかく、私はパパみたいな人と結婚するって決めてるんだからパパを超えるぐらいの人じゃないとお付き合いしたくありません」



実は昨日もパパが大好き長女ちゃんはリボーンに「結婚して!!」とプロポーズをしていたり。「親近は犯罪だから駄目だ」とやんわりと断れていたりとしていた。


そして、それからシャマル奮闘の日々が始まった。





「リボーンさん、ハヤトはリボーンさん特製プリンが食べたいです!!」


「そうか。なら今から作って……」


「―――ちょっと待った」


「………なんだ?」


「お前さんがプリンを作るというのなら…オレだってプリンを作る!!」


(意味分かんねぇ…)


「きゅー! シャマルおじさま、お菓子作りも出来ちゃうですかー!? 凄いです!!」


「役になりきれば軽いもんよ…」


「はぁ…」



どうやらシャマル、長女ちゃんの言葉からリボーンに対抗心をメラメラと燃やしているようだった。


しかもシャマルに激しい対抗心を燃やされる日々はそれからも続き、癒されるべき家庭で何故かリボーンの胃が痛くなっていくのであった…



「というか、仕事はどうしたんだ? 長期休暇が取れたと言っていたが、それはどれぐらい…」


「ああ、仕事は辞めた」


「やめ…!?」


「どうせそろそろ潮時だって思ってたからいいんだよ。今までたらふく稼いだし。それにオレのスイートハニーが目の前にいるってのに、仕事なんて出来るか!!」


「………」



恋は人を変えるって、本当だったんだな。とリボーンはぼんやりと思った。


まぁそんなことが続きながらも、とうとう長女ちゃんも落ちた。


というか、実は幼き頃よりテレビ越しのシャマルに好意を抱いていた長女ちゃん。


しかしまさか自分が告白をされるとは思ってはおらず、更には自分は結婚などしないと思っていたから気持ちが戸惑っていたようだった。


しかし今では、シャマルの猛烈なアタックによりテレビ越ししか見ていなかったときより更に好きになっていたようで。めでたく結婚の運びとなった。


ちなみに、その前日。


シャマルはリボーンに呼び出され、



「あいつはオレの可愛い娘だ。…泣かせたら容赦しねーからな」



と、その昔シャマルがリボーンに向けて放った言葉をお返しされていた。


シャマルは苦笑しながら、けれどすぐ真剣な表情を作り頷いた。



こうして、ハヤトとリボーンの子供たちもみな無事に結婚した。


と言っても、ハヤトの外見年齢はやっぱり未だ14歳なのだが。内面に至っては更に幼いのだが。身に着けている下着はアニマルプリント(うさぎ柄)なのだが。


だが気にしてはいけない。ハヤトの周りは時間の流れが常識とは少し違うのだ。



さておき、ハヤトは今日も笑顔だった。


その日は特大イベントがある日だった。



バレンタインだった。



「ここはー! ハヤトたちで日頃の感謝の気持ちを込めてチョコレートを手作りしちゃってみなさまに差し上げましょー!!」



おー! と腕を上げる長女ちゃん、次女ちゃん、そして奈々ちゃん。


そしてリビングでは「男性禁制!!」と台所から次女ちゃんに追い出された雲雀が顔面を蒼白させていた。



「僕の聖域が…!!!」


「まぁ、なんだ…諦めろ」


「昨日お鍋新調したばっかなのに!!」


「…チョコレート作るのに、鍋は使わないんじゃないか?」


「生チョコ作るって言ってた…お鍋使うって言ってた……」


「………」



リボーン邸の家政夫雲雀は泣いていた。


更に台所から聞こえてくる悲鳴やら鍋の引っ繰り返る音やら悲鳴やら何故か卵の割れるような音やら悲鳴やらが聞こえてきて雲雀はびくびくしていた。


後片付けは、当然雲雀がするのだ。


というか、後片付けを(奈々ちゃん以外の)彼女たちにさせても余計散らかるからさせられないというべきか。


今日のおやつは炭かー…とリボーンがぼんやりと考えていると、チャイムが鳴り来賓の訪れを告げた。


来賓はビアンキだった。



「チョコレート作りだなんて面白そうなことをしているのね。私を混ぜてくれないなんて水臭いわ」


「………」



本日のおやつは毒に決定だった。


ビアンキの登場にどうせ自分は奈々ちゃんのチョコだから平気だと高を括っていた長男くんとツナも顔を引きつらせた。


そして、



「きゅー!! おねーちゃんーーー!!!」



ハヤトの嬉しそうな声が聞こえた。


ハヤトは今日も笑顔だった。







「というわけで!! 出来ました!!」



と、チョコレートまみれのハヤトがよれよれのラッピングでリボーンにチョコレートを差し出す。



「怪我とかしなかったか?」


「きゅー! 包丁も使わないのにどうやって怪我するんですか!!」


「転んだり調理器具で頭をぶつけたり」


「きゅー!? なんでリボーンさんご存知なんですか!?」


「お前のことなら何でも分かるさ」


「きゅー、流石です!!」



ハヤトは打ち付けたところを撫でてもらっていた。



「それはそれとして、チョコレートのお味の方はどうですか!?」


「苦いな」


「きゅー! リボーンさんのお好み通りですね!!」


(…まさか狙って炭にしたのか…?)



そんなことをリボーンが思う傍ら、まぁ周りでも同じようなことが起こっていた。雲雀のとことか。


ちなみに初めて料理をしたという長女ちゃんのやっぱり炭のような物体はシャマルに贈られたがシャマルは「惚れた女の初めて作った料理を食えた!!」と感激していた。


あと普通に美味しい奈々ちゃんの手作りチョコをゲットしたツナと長男くんではあったが、他の女性陣になんだかんだでチョコ(という名の炭)を(半ば無理やり)渡されやや涙目だった。


そしてそのあと真打ちといわんばかりにビアンキが台所から現れてポイズンなクッキングをみんなに振舞った。ハヤトはそれを食べようとして男性陣に必死に止められていた。


そしてその一ヵ月後、女性陣にはホワイトデーには三倍返し…どころではないお返しが贈られた。



「きゅー! 楽しいです!!」



ともあれ、ハヤトは今日も笑顔だった。


こんな日が、いつまでも続くのだと信じて疑わなかった。





…その時までは。





その知らせが来たのは、突然だった。


―――リボーンが、仕事先で倒れたのだと。



「え……」



ハヤトの背筋を冷たいものが走った。


嘘だと。嘘だと信じたかった。


そんなこと起こるわけがないと。


けれど…病院では確かにリボーンは横たわっていて。


何故か点滴を、打たれていて。



―――リボーンは病に掛かっていたのだと。告げられた。



ハヤトの目の前が暗くなる。


それだけでもショックだというのに。



「ハヤト…」



いつもと違う、弱々しいリボーンの声が。



「オレはもう、長くはないらしい」



絶望的な一言を告げる。



「嘘…ですよ」



ハヤトは縋り付く。最愛の人の胸元に。



「嘘です…嘘ですよね? みなさんで…ハヤトを騙そうって、いったって、そうは……いかないんですから」



ハヤトの瞳に涙が溜まる。



「嘘だ…って、言って、下さいよ……ねぇリボーンさん、全部嘘だって、本当は健康だって、言って下さい…言って……下さい、リボーンさん…!!」



取り乱し、錯乱するハヤトに誰も何も言えない。


ただ一人を除いては。



「ハヤト」



どんなときでも、ハヤトを落ち着かせることが出来るのはリボーンだけだ。


リボーンはハヤトの名前を優しく呼び、その頭に手を伸ばして撫でる。



「悪いが…嘘じゃないんだ」


「リボーン、さん…」



ハヤトが泣きじゃくる。リボーンの胸元に顔を埋めて。



「いや…いやです。リボーンさん死んじゃいやです!! リボーンさん、ずっとハヤトの面倒見てくれるって言ったじゃないですか!!」


「そうだな…そう言ったのに、約束を違えちまうな…すまない」


「謝らないで下さい…元気になって下さい…ずっと、ハヤトの傍に、いて下さい…ずっと、ハヤトの隣で、ハヤトに笑って、ハヤトの頭を撫でていて下さい、リボーンさん、リボーンさん!!」


「ハヤト…」


「ハヤト、いい子になりますから!! 好き嫌いもしませんし、朝は一人で早く起きますし、みなさんの…リボーンさんの手を煩わせませんから!! だから…だからぁ…!!!」



言葉を詰まらせるハヤトに、しかしリボーンは寂しそうに微笑みハヤトの頭を優しく撫でるだけだった。



ハヤトの望みは叶わない。



それから日々が過ぎ、リボーンは日に日に衰弱していき―――そして、





「いや…リボーンさん、リボーンさん!!!」





ハヤトは自分の叫び声で目が覚めた。



「………!?」



息が荒い。身体は汗だくで、気持ちのいい朝ではなかった。



「今の…は……?」



ハヤトは混乱した。今自分は、リボーンの病室にいて、リボーンの手を握って、ずっとリボーンの名を呼んでいたはずだ。リボーンが眠ってしまわないように……死んでしまわないように、呼んでいて。


その時の様子を思い出し、ハヤトの目蓋から涙がこぼれた。泣きながら眠っていたらしく、既に目は腫れていた。



目覚めたハヤトは、ひとりだった。


だからこそ分からなかった。


先ほど見たのが、夢なのか現実なのか。



「…えぐ……」



また、涙がこぼれる。


怖かった。


先ほどの夢が。


そして、真実を確かめることも怖かった。


もしも本当だったら。



「…う、ふっ……」



嗚咽が漏れる。



「リボーン、さん、」



だいすきな人の名を、呟く。



「リボーンさん…リボーンさん、リボーンさんリボーンさんリボーンさん!!!」



ハヤトはリボーンを呼ぶ。


泣きながら。



…そういえば、いつだったか昔。似たようなことがあった。



まだ自分が幼かった頃。


大きな地震に巻き込まれ、閉じ込められた。


あの時も自分は、こうして泣いていた。


ひとりが嫌で、真っ暗なのが怖くて泣いていた。



そこから出してくれた人がいた。


暗闇に光を差してくれた人がいた。


声を掛けてくれた人がいた。



あの人が、助けに来てくれた。





「―――――ハヤト!?」





扉が開けられる。


現れたのは…現れてくれたのは、ずっとずっと、ハヤトが望み、願い、呼び続けてきた―――



「リボーン、さん…!!!」



ハヤトは思わず駆け寄り、リボーンに抱きついた。


思いっきり飛び付いて、離れないよう力強く抱きしめて、子供のようにわんわんと泣いた。



「リボーンさん…リボーンさんリボーンさん…!! よかった、よかったですリボーンさん!!」



尋常ならぬハヤトの様子に、しかしリボーンは特に気に留めた様子はなかった。


むしろ、ハヤトを抱き返し……安堵のため息を吐いていた。



「………無事か」


「…きゅ?」





そしてハヤトはリボーンが無事だったことに安心し、先ほど見た夢の内容をリボーンに話した。


そしてリボーンもまた…似たような内容の夢を見たと告げられた。



「そうなんですか!?」


「ああ。オレの場合はお前が死ぬ夢だったけどな」


「きゅー!?」



リボーンの見た夢もまた、ハヤトがある日突然病に倒れ……そしてみなの厚い看病も虚しく―――というものだったらしい。



「きゅー…ううう、リボーンさん!!」


「なんだ?」


「今から病院に行って、お医者さまにお身体診てもらってきて下さい!!」


「オレはいいから、お前が診てきてもらえ」


「きゅー! ハヤトは平気です!! それよりリボーンさんが…」



その後、何故か「二人で診てもらう」という結論に至るまで30分ほど掛かった。


…それぐらい、お互い取り乱していたのだ。



そして…診てもらった結果。





「…発病する直前だったって……ちょ、それ大丈夫なの!?」


「ああ。ちゃんと処方してもらった。治るってよ」


「きゅー…」



なんとリボーンもハヤトも、同じ病を身体の内に抱えていたことが分かった。


幸い発見が早かったため発病までは至らなかったが…もしも今日病院に行ってなかったら。



「……夢の通りになってたかもな。ぞっとしねえ話だ」


「はぅう、リボーンさんが無事でよかったです!!」


「お前もな」



リボーンがハヤトの頭を撫でて、ハヤトが嬉しそうな顔をする。


そんなこんなで、やっぱりハヤトは今日も笑顔だった。





そして、ある日の休日。


リボーンとハヤトは公園を歩いていた。


と、唐突にハヤトがリボーンの前に出てリボーンの方を向く。



「リボーンさん」


「どうした?」



問い掛けるリボーンに、ハヤトは笑顔で、



「ずっとずっと、ハヤトの隣にいて下さいね。どこにも行っちゃ嫌なんですからね!!」


「…ああ、分かってる」


「ずっとずっと、ハヤトの傍で、ハヤトの頭を撫でて下さいね! リボーンさんじゃないと、ハヤトは嫌ですからね!!」


「分かってるって。…オレ以外の誰が、お前の面倒を見れるんだ?」



と、リボーンはその手をハヤトの頭に乗せて、優しく撫でた。


ハヤトは満面の笑みでリボーンに抱きつく。





今日もハヤトは笑顔だった。


リボーンの隣で。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

―――この後に、ツナがハヤトから「四人目の子供が出来ました」と報告を受けるのは…

もう少し先の、そして別のお話。


ヒビキミトリ様へ捧げさせて頂きます。