リボーンがなんとなしにテレビを見ていると、ツナが学校から帰ってきた。


暫くしてツナもリボーンのいる居間に入ってくる。テレビはCMに入っていた。


「あ、これ…」


ツナがテレビを見て呟く。


「獄寺くんが行きたがってた奴だ」


「ん?」


獄寺、の名が出てリボーンはツナに意識を向ける。続いて目線をテレビへ。テレビは遊園地のCMを映していた。


「獄寺が? ここに?」


「うん。こないだ言ってた」


「そうか…」


リボーンはテレビを見て、遊園地の名をしっかりと胸に刻んだ。





そして数日後。リボーンの手には遊園地へのチケットがあった。


「………」


チケットを握り締めたまま、リボーンは思い悩んでいた。


どうしよう。


迷うことはない。今すぐにでも獄寺の予定を聞いてデートに誘えばいいのだ。


だが、リボーンにはそれがどうしても出来なかった。


何故なら彼は常にマイナス思考で、後ろ向きで、傷付くことを恐れ……総ずると、へたれなのだ。


そんな彼が両思いでもない、ただ一方的に好いてるだけの存在の獄寺をデートに誘えるわけがなかった。


だからこそリボーンは思い悩む。


どうしよう、これ。


いっそのことツナにでも渡して獄寺と行ってもらうか?


獄寺も自分なんかよりツナと行った方が楽しいだろうしな…と若干自虐気味のリボーン。


と、そこへ丁度いいところにツナがやってきた。


「…リボーン? どうしたの? なんかへこんで」


「ツナか…」


リボーンは落ち込んだ声を出して手にしていたチケットをツナに投げ渡した。


「え? なに? これ」


「遊園地のチケットだ。獄寺でも誘って行ってこい」


「え? え?」


突然の出来事に混乱するツナと、しょんぼりして肩をがっくりと落としているリボーン。


とりあえず、とツナはチケットをしみじみと見てみる。確かに先日、獄寺が行ってみたいんですよと言っていた遊園地のチケットだ。


なんとなく注意書きまで読んでみると、おやっと思った。このチケットはペアチケットではない。


「これ、団体チケットなんだね」


「なに?」


リボーンが顔を向ける。どうやらリボーンもペアチケットだと思っていたらしい。


「これなら獄寺くんだけじゃなくて、他のみんなも誘えるね」


「…他の…みんな?」


そのとき。リボーンの頭に電光が走った。


そうだ。獄寺を誘えないのは二人っきりだからだ。


ならばカモフラージュで他の人間も誘ってみんなで行けばいい。


我ながら名案だと、リボーンは思った。


「ツナ」


「ん?」


「明日、誘えるだけ誘って来い。日付が決まったら言え。オレも行く」


「え? えーと…」


勢いに呑まれて頷きそうになるのを堪えるツナ。


いつも何かと無茶させられているし、少しぐらい仕返ししてもいいだろう。


「…えー…でもなー。どうしよっかなー」


「すいませんお願いします」


リボーンは土下座した。


「…うん。ごめんよリボーン。オレが悪かったよ。オレそんな腰の低いリボーンなんて見たくなかったよ」


なんだか見てはいけないものを見てしまったような、居た堪れない気分になったツナだった。


「あと獄寺には絶対に声を掛けろ。獄寺が来ないならオレは行かん。そのときはお前らだけで楽しんで来い」


「う…うん」


必死なリボーンに若干引きつつ、ツナは首を縦に振った。





そして翌日、ツナはリボーンに言われた通りに知り合いに声を掛けていく。


まずはやっぱり獄寺だ。


「獄寺くん」


「はい?」


「獄寺くんこないだ遊園地に行きたいって言ってたよね」


「言いましたねえ」


「リボーンがその遊園地の団体チケット持ってたんだけど…獄寺くん来る?」


「団体チケット…ですか」


獄寺は少し考えて、


「リボーンさんは来ますか?」


「え?」


「リボーンさんが来るなら、オレも行きます」


にっこり笑顔でそう言う獄寺に、ツナは思わず苦笑する。リボーンとまったく同じ事を言っている。


「…うん。行くって言ってたよ」


「じゃあ、行きます。日程はいつですか?」


「あ、まだ決めてないんだ。他のみんなも誘いたいし」


「そうですか…じゃあ、決まったら教えてくださいね。メンバーも」


「うん。分かった」


それからツナは獄寺と一緒に教室に入り、空いた時間に知り合いに声を掛けていった。


ほとんどの人間がOKの返事をし、日程も三日後に決まった。


ツナはリボーンにそのことを告げ、リボーンは満足気に頷いた。


それがまさか、当日あんなことになるなどとは、このときのリボーンは夢にも思わなかった。





そしてその当日である。


まず最初の知らせはツナからだった。


「あ、ごめんリボーン。オレ今日予定入っちゃった」


「なに?」


思わずリボーンはツナに詰め寄る。


「今日みんなと遊園地に行くこと以上に優先する用事があるっていうのか!?」


「え…リボーン、そんなにみんなと遊園地に行くの楽しみにしてたの?」


「べ、別にそんなんじゃない! ただチケットが勿体無いだろ!! それだけだ!!」


へたれリボーンはツンデレでもあった。


「それは悪かったけど…でもオレにも都合があってさ。リボーンはリボーンで楽しんできなよ」


「………」


色々言いたいことはあったが、とりあえずリボーンは黙っておいた。


本日のメインは獄寺なのである。ツナは正直どうでもいいのである。


「…分かった」


「お土産よろしくねー」


ひらひらと手を振り、ツナはどこかへと出掛けた。


さて、自分も行かねばならない。リボーンは立ち上がった。


「あ、そうそう」


出掛けようとしたところでツナが戻ってきたのか顔を覗かせる。


「…なんだ」


「オレの他にもキャンセルした人いるらしいから」


「なに?」


「まあ、獄寺くんは来るみたいだから楽しんできなよ」


「待て。一体誰がキャンセルしたんだ」


リボーンはそう聞くも、ツナは言いたいことを言い終えるとさっさと行ってしまった。


「………」


リボーンは何故だか、強い不安を覚えた。


それは俗に言う、嫌な予感という奴なのだがリボーンはそういうのとは無縁の生活を送ってきたので分からなかった。


更に言うなら、リボーンは「嫌な予感というものは当たる」というジンクスも知らなかった。





結果から言って、獄寺以外がキャンセルだった。


リボーンは項垂れた。


獄寺と二人っきりが嫌だから他の人間も誘った(正確には誘ってもらった。ツナに)というのに、これでは何の意味もない。


いっそのこと中止しようか。とも思う。


獄寺も自分なんかと二人では楽しくないだろうしな、とマイナス思考はいつも通りの平常運転。


その提案を口に出すよりも前に、獄寺が口を開いた。


「他のみんなには悪いですけど、リボーンさんと二人っきりだなんて…まるでデートみたいで、すごく楽しみです」


そう言う獄寺の頬は赤く火照り楽しそうにはしゃいでいる。


まさかの好反応だった。


流石のリボーンもここで「集まり悪いし、やっぱりやめよう」などと言うほどKYではない。


「まあ…来なかった奴らの分まで楽しむか」


なんとか平常心を保ちながらそう言うと、獄寺は飛び切りの笑顔で「はいっ」と返事をした。


リボーンはその笑顔に危うく死ぬところだった。





バスを乗り継いで遊園地に辿り着く。今日は休日なので来訪者でいっぱいだった。


「どれから乗りましょうか」


「お前はどれに乗りたいんだ?」


もとよりリボーンは獄寺のためにチケットを取ったのだ。獄寺が楽しんでくれればそれでいい。自分はおまけだ。


「何でもいいんですか?」


「ああ」


獄寺はじゃあと辺りを見渡して、一つのアトラクションを指差した。


「あれ、乗ってもいいですか?」


リボーンは獄寺の指差した方角を見る。


この遊園地の目玉アトラクションの一つ、ジェットコースターがたくさんの人間を乗せて悲鳴を上げさせていた。


そしてへたれリボーンは、ご察しの通り絶叫系が大の苦手だった。


「お前一人で乗って来い」


「リボーンさんと一緒に乗りたいんですよ」


そう言われて、どうして断れるだろう。


好きな人に一緒に、なんて言われて。しかも笑顔で言われて、どうして「いや、オレはジェットコースターは苦手だからここで待ってる」などと言えよう。


「…仕方ないな。行ってやろう」


「ありがとうございますっ」


内側から来る恐怖を意地と根性で打ち消しなんとかそう言えば、獄寺が礼を返す。


震える身体を堪え、恐怖に怯える心を叱咤し列に並ぶ。顔色は誰が見ても悪いと断言出来るほど青褪めていた。


しかし彼は立ち止まらない。


全ては愛しい、獄寺のため。


しかし、決意を固めた彼の前に強大な壁が立ちふさがった。


身長制限。


いくら天下の敵無し・最強のヒットマンであろうとも赤ん坊ミニマムサイズであるリボーンがクリア出来るわけがなかった。


一度死ぬ気で覚悟を決めただけに、脱力感が半端なかった。億尾にも態度に出すわけにはいかないが。





「残念だったな」


「ええ本当に」


やや落ち込み気味にそう言う獄寺。


「そうだ、リボーンさん人形のふりしませんか? それなら一緒に乗れます」


とんでもない無茶振りだった。


「人形のふり…か。固まって呼吸を止めたらいけるか?」


しかしリボーンは真剣に考えていた。


「ん? 待て。人形のふりをするのはいいとして、その場合オレは一体どこに座るんだ? お前の隣か?」


「それだとオレがおかしい人みたいなので、オレの胸元にいてください」


「すみませんマジ勘弁してください」


リボーンは土下座した。人形のふりは出来ても愛する獄寺に抱きとめられるだなんて無理だ。死んでしまう。


「り、リボーンさん!? わ、分かりましたから顔を上げてください…!!」


流石の獄寺も驚いていた。


「じ、じゃあ気を取り直して…別のアトラクションに行きましょうか」


「ああ…悪いな」


獄寺はまた辺りを見渡し、そして次の獲物を見つけた。


「じゃあ、あそこに行きましょう。あれは何の制限もありませんよ」


そう言って獄寺が指差した先にあったのは…これまた遊園地の定番の一つ。お化け屋敷だった。


「………」


リボーンは内心で冷や汗を掻いた。


リボーンは、怖いものが苦手だった。更に暗所恐怖症だった。あと心臓も弱かった。


だが、楽しそうな獄寺を見てどうして水を差すようなことが言えよう。


「い…行くか。獄寺」


「はいっ」


リボーンはありったけの勇気を振り絞ってそう言って、獄寺とともにお化け屋敷へと歩いていった。


―――――。


気が付くと、リボーンはどこぞのカフェで珈琲を飲んでいた。向かいには獄寺がいる。


はて。とリボーンは考える。前後の状況が一致しない。一体何が起きた?


「いやあ、怖かったですねえ。子供騙しかと思ってましたけど、予想以上でした」


「あ…ああ、そうだな」


適当に相槌を打ちながら現状を把握しようとする。獄寺の口振りから言って、お化け屋敷に行ったあとなのだろうか。記憶がまったくない。


「でもリボーンさん、全然怖がってなかったですよね。流石です」


「当たり前だ」


記憶がないからこその強気発言である。だが記憶がないということはそれほどの衝撃があったということで、つまりリボーンはお化け屋敷の恐怖にあっさりノックアウトされたということだ。


その事実には気付かないふりをしつつ、リボーンは珈琲を飲み干した。


それからは何とかリボーンも正気を保てるアトラクションを乗っていった。


そして夕暮れが近付いてきたとき、最後のアトラクションとして獄寺が選んだのは観覧車だった。


「………」


リボーンは久方振りに顔を青褪めさせた。


リボーンは高所恐怖症だった。あと閉所恐怖症だった。


しかし獄寺はそんなリボーンに気付いているのかいないのか、リボーンに手を伸ばしてくる。


断れない。


獄寺の楽しそうな笑みを壊すなんて真似、リボーンにはどうしても出来ないのだ。


「行きましょうか、リボーンさん」


「あ…ああ」


気を抜けば震えそうになる身体を必死に押さえつけながら、リボーンは獄寺の手を握った。





「見てくださいリボーンさん、すごくいい景色ですよ」


獄寺が窓の外を見てはしゃいでいる。リボーンは決して外を見ないようにしながら適当に相槌を打つ。


高くて狭くて、あと獄寺が可愛くてもうリボーンの動機眩暈がとんでもないことになっていた。


「リボーンさん」


名を呼ばれ、正面を見ると獄寺がリボーンを真っ直ぐに見ていた。


「今日は、本当にありがとうございました」


「……別に、気にするな」


そっぽを向いて吐き捨てるように言うのはもちろん照れ隠しだ。


「また、一緒にどこかへ遊びに行きましょうね」


「ああ…」


頷きそうになって、待て、これではまるでカップルみたいではないか!? と思い慄いた。


「つ、次はツナたちも一緒にな」


慌ててそう付け加えれば獄寺は小さく、もう、と憤慨した。


そんな獄寺の怒りが天に届いたのだろうか。丁度その頃から雲行きが悪くなり、観覧車のドアが開く頃には豪雨と爆風が辺りを轟いていた。


身の軽いリボーンが有無を言わさず飛ばされる。慌てて獄寺が腕を伸ばしリボーンを掴んだ。


リボーンが飛ばされないよう胸元に強く抱きしめるとバタバタと暴れられる。


とりあえずそれを無視して獄寺は近くの店まで駆け込んだ。あとリボーンはショックで気を失った。





「…てな事がありまして。それからが大変だったんですよ」


「夜遅くに帰ってきたもんね。どこかで泊まってくればよかったのに」


「ええ、オレもそうしようと思って……」


獄寺は途中で言葉を途切れさせた。しかし自分で言っておいてなんだが、あのリボーンが獄寺と二人っきりでお泊りなんぞ拒絶反応がすざましそうだ。とツナは思う。


「…ホテルへ連れ込むまでは出来たんですけどね……」


なんだか怪しい台詞だなあ、と思いつつもツナは口を開く。


「ところでさ、獄寺くん」


「はい?」


「…最近、みんなで出掛けようって話になったとき……偶然用事が出来たりするんだけど、何か知らない?」


そう尋ねるツナに、獄寺は笑顔を欠片も崩さずに答えた。


「やだなあ、オレが何を知ってるって言うんです? 何も知りませんし、何もしてませんよ」


ぜってー嘘だ。とツナは思ったがまぁいいやとも思って黙っておいた。


頑張れリボーン。オレに獄寺くんは止められない。とツナは心の中でリボーンに合掌した。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

獄寺くん小悪魔どころじゃないよ。リボーン。


リクエスト「天然小悪魔獄に振り回されるリボ様!!」
リクエストありがとうございました。