―――ガシャン!!
植木鉢が空から降ってきた。
窓際に置いていたのが、風にでも吹かれてバランスを崩したのだろうか。
ともあれ、その植木鉢の下には雑談をしながら歩く二人組がいて。
一人が上空より落下する植木鉢に気付く。それはもうすぐそこまで来ていたが彼が知覚する方が早い。
そして察知出来たなら避ければいい。だから彼はそうしようと身体を動かした。動かそうとした。そして―――
―――ガシャン!!
話は最初に戻る。植木鉢が叩きつけられ、壊れた。
叩きつけられた場所は地面の上…ではなく、植木鉢の接近に気付き避けようとした黒スーツの少年…リボーンの頭の上である。
「り…リボーンさん!?」
数秒前までリボーンと楽しく会話をしていた獄寺が驚きに目を見開かせながらリボーンの名を呼ぶ。
呼ばれたリボーンは獄寺の声に、しかし無言のまま膝を付き、そのまま倒れた。
「リボーンさん、リボーンさんーーー!!」
獄寺の叫びも虚しく、リボーンは起き上がらない。
リボーンは近くの病院へと搬送された。
「みっともない姿を見せちまったな」
「いえ…見た目程酷い怪我じゃなくてよかったです」
と、会話するは頭に包帯を巻いたリボーンと獄寺である。処置が早かったのかもともと大した傷ではなかったのか、大事には至らなかった。
ちなみに医者には物がぶつかって頭を切った程度しか説明してない。流石に赤子の頭上に植木鉢がぶつかりましたと言ったらどれだけ軽症でも入院、精密検査騒ぎになるだろう。
「それにしてもどうなされたんですか? いつものリボーンさんとは動きが違いましたが…体調が優れないんですか?」
「ああ…どうにも最近身体が思うように動かなくてな」
言い訳ではなく事実である。頭では分かっていて、実行しようと命令を送るのに肉体が着いていかない。着いていけない。
「それって…」
獄寺が与えられた情報をもとに立てる推測は、呪い関連。
アルコバレーノの呪いに掛かり、リボーンは老いぬ赤子の肉体を手に入れた。そして赤子でも誰にも負けぬ力を。
そしてその呪いは解かれ、しかし呪われた時間が長かったため完全に解けるまで時間が掛かると告げられていた。
結果リボーンは赤子から第二の人生を歩み直すこととなった。最強の力を手にしたまま。
…その力が、上手く使えないということは……
「呪いが完全に解けた…ということでしょうか」
「どうだろうな。その割には姿は変わらんが」
呪いが解けたら元の姿に戻るのはラルで確認済みだ。ならばリボーンも今の赤子ではなく大人の姿にならなければおかしい。
ならばまだ完全に呪いが解けてないのだろうか、それともそもそも呪いは関係ないのか。
考える獄寺。信号機が赤だったので止まる。思考する。目の端に映る自動車。それは減速する様子もなくこちらへと走ってきて…
「―――獄寺!」
「え?」
考え事に集中していたらリボーンの鋭い声に殴られた。ハッとして前を見れば車がこちらへ―――
突然のことに硬直する身体。迫り来る鉄の塊。横から強い衝撃。…リボーンに蹴られた。飛ばされる獄寺。
リボーンも車を避けようと身体を動かそうとするが間に合わなく…
キキィイイイイイイイイイイイ!!!
響く急ブレーキ音。
何かと何かが衝突する音。
「リボーンさん!!」
獄寺の絶叫が辺りに響いた。
「り、リボーンさんすみません! オレのせいでリボーンさんが…!!」
「いや、いい。気にするな」
「でもリボーンさん…! 腕が……!!」
「んー…」
言われて、リボーンは左腕をぷらぷらとさせる。包帯を巻かれた腕。
あのあと、リボーンは再度病院へと送り返された。医師は先程治療した赤ん坊がまた怪我をして返ってきたので驚いていた。
「骨も折れてないし、利き腕でもないし、大丈夫だ」
「………」
しゅんと落ち込む獄寺。不調とはいえ、リボーンだけだったならば怪我をすることもなかっただろう。
自責の念に駆られる獄寺と歩いているとツナと会い、獄寺はそこからリボーンをツナに任せて帰った。とぼとぼしながら。
どうしたのと問い掛けるツナに、リボーンは難しい顔をして色々あってなとだけ答えた。
それからも帰り道、バイクが突っ込んできたり、何があったか割れた硝子が降ってきたり。
しかしそれらは普通にかわしてみせるリボーン。怪我した身体で、調子の悪さは変わらずで。
帰宅してからは普通にヒットマンに命を狙われた。が、当然返り討ちだ。このくらい訳もない。
だが…どうして獄寺の前だと上手く動けないのか。
うーむと考え込むリボーンが気になったツナが声を掛ける。
「…どうしたのさ、リボーン」
「いや…」
ツナに説明する…というよりは現状を確認するかのようにリボーンは説明する。
最近、少し調子が悪い。それは恐らく呪いが解けてきているから。
その影響で身体が上手く動かない。だが特に不具合はない。
しかし獄寺が傍にいるとどうにもおかしくなる。出来るはずの移動が出来ない。避けれるはずの行動が取れない。
ううむとまたも唸るリボーンに、ツナがぽつりと言った。
「リボーン」
「ん?」
「それって、もしかして―――」
翌日。
獄寺が通学路を歩いていると、てこてこと道を進むリボーンがいた。
怪我をしている身で歩き回って大丈夫だろうか?
「リボーンさん!」
「!」
そう思い心配しリボーンに声を掛け駆け寄れば、リボーンは身をびくりと震わせ獄寺に振り向く。
「ご、ごく、でら…」
「リボーンさん、怪我の具合はいかがですか?」
「あ、ああ、いや、それは、別に…」
「そうですか…本当、すみません。オレが動けなかったばっかりにリボーンさんが…」
「い、いや、構わない。つ、次から気を付ければいい」
「リボーンさん…」
失態を責めず、自分の負傷を気負わせないリボーンに獄寺の目が思わず潤む。リボーンが慌てる。
「な、泣くな、獄寺」
「…はい。すみません、リボーンさん」
「あ、謝らずとも、いい…」
心配し、涙ぐみ、笑顔を見せる獄寺にリボーンはしどろもどろになる。
というのも前日の夜、ツナに言われた一言が原因だ。
曰く。
…リボーン、獄寺くんのことが好きなんじゃないの?
好きな人相手だから、緊張して上手く動けない。
好きな人が傍にいるから、いいところを見せようとして空回りしてしまうのではないか…という見解らしい。
馬鹿馬鹿しいと、吐き捨てようとした。そんなわけないと。
獄寺はただの教え子で、それ以上でもそれ以下でもないと言おうとした。
なのに。
リボーンさん。
思い出したのは、はにかみながら笑顔を浮かべる獄寺。
それを思い描いた瞬間、リボーンの中で何かが弾けた。
弾けたそれは、もしかしたら教え子と恋仲になれるはずがないというリボーンの価値観で、
そしてそれは、今まで自覚も出来ないほど小さくも存在していた獄寺への思いをリボーンが気付いた瞬間だった。
それも気の迷いだと、勘違いをしているだけだと思って翌日獄寺に会いに行ってみれば、思いは強まるだけだった。
昨日まで流暢に話せていたのが夢のよう。もう目を合わせることすら出来やしない。
リボーンは帽子を間深く被り直して視界を暗くする。しかしするとどうだ。獄寺からの視線を感じ取ってしまい更に動揺する。
これはもう、決定だ。気の迷いだなんてとんでもない。勘違いだなんて言えるわけがない。
「ご、獄寺―――」
訳も分からないまま思いを告げてしまいそうになる。言葉も決めないまま話しそうになる。遠くから何かが飛んでくる音が聞こえる。
…ん? 何かが飛んでくる?
リボーンがその正体を探そうとしたとき、
カーン!!
リボーンの後頭部に野球ボールが直撃した。
硬球のそれはリボーンの骨を振動させ脳を揺さぶり傷口を開かせた。
よってリボーンはその場に崩れ倒れた。血を流しながら。
「り、リボーンさん、リボーンさんーーー!!!」
獄寺はまたリボーンを病院へ運んだ。
それからリボーンは度々獄寺に思いを告げようとするも、何故か狙いすましたかのように妨害にあって。
怪我ばかりが増えていくリボーンは「殺せ。さもなくば邪魔するな」とブツブツと呟くようになったという。
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ああもう、殺せ! もういっそのことオレを殺せ!!
リクエスト「頑張ってリボーンさんをぶっ殺せなかった(リボ→獄)」
リクエストありがとうございました。