ある日、ある朝、唐突に。


リボーンの頭に猫耳が生えた。





「………」


「………」


そんなリボーンと対面した獄寺は、驚いているような、唖然としているような、困惑しているような微妙な顔を一瞬浮かべ、しかしすぐに打ち消し微笑と共に言う。


「…本日のリボーンさんは、いつもより特に増して愛らしいですね」


「…気を遣わずともいい」


いえ、実は結構本心です。とも言えず獄寺は曖昧な笑みを作った。


「………それで、どうなされたんですか?」


「知らん。朝起きたらこうなってた」


謎だ。謎の現象が起きている。夢落ちだろうか。


「ったく…こういう役割は獄寺だろ……」


今なんかリボーンが不穏なことを言った気がした。でも気のせいだ。と獄寺は思った。


「他に何か変わったことはありますか?」


「ないと思うが…」


と、その時リボーンの目の前をちょうちょが飛ぶ。


ひらひらと羽を動かしふよふよと飛び交うちょうちょ。


リボーンの頭に生えてる猫耳が、それに合わせてぴくぴくと動く。


「…リボーンさん?」


「なんだ」


答える声色はいつも通りだ。目線も動かず態度も変わらず蝶などに気を取られているとは到底思えない。


…その耳が、動いてさえなければ。


………。


「ん? どうした?」


「いえ、何でも」


まさか(本気で)可愛いと思っていたとは流石に言えず、獄寺は誤魔化す。


「これは…早急に何とかする必要があるみたいですね……」


「…そうか?」


「ええ」


オレがリボーンさんに悶え殺されないうちに、とは心の内だけで言う。


「そういえば10代目はどんな反応してました?」


「ああ…」


リボーンはその時、今朝のことを思い出す。


リボーンの頭に猫耳が生えたのを見て、ツナは驚く風でもなく怯む様子もなくじっとリボーンを見て、





…猫耳もいいけど、これが羽…それも白い羽だったら本当に天使なのに……





とか言っていた。


「…ツナは……少し混乱していたようだったな」


「そうですか…10代目……」


リボーンの身に起きた不幸、そしてツナの内心の苦悩を思い獄寺は心を痛めた。


「心当たりは」


「あるわけがないだろ」


「黒猫をうっかり蹴ってしまったりとか」


「仮にそうしたとして、何故こうなる」


「呪われて」


「折角呪いが解けたってのに!」


まったくだ。と獄寺も同意する。


あれだけ苦労して呪いを解いたというのに、またもあっさり呪いに掛かってたまるものか。


「…では、このようなことが出来そうな人物に心当たりは…?」


「そうだな…」


暫し考えた後の、リボーンの脳内はこんな感じである。



1.骸の嫌がらせ


2.クロームの暴走


3.マーモンの悪戯


4.ヴェルデの発明品


5.チェッカーフェイスの気紛れ



「………」


大体身内の犯行だった。


「やはり幻術使いでしょうか…あとは科学班」


獄寺も同じ考えだった。


「リボーンさん、人望ないですからね…」


「………」


リボーンは少しばかり傷付いた。


と、獄寺が慌てたように言葉を足す。


「い、いえ! リボーンさん程の方にもなると付き合う方にも資格が必要になりますからね! 周りが駄目なんですよ!!」


「…?」


獄寺のフォローによく分からないながらも多少気を持ち直すリボーン。


無論、それが顔や態度に出るはずもない。


…リボーンがいつもの状態であるならば。


リボーン本人はまったく気付いてないのだが、リボーンが気落ちしたとき猫耳も同時に項垂れていた。


そして今気を持ち直したのに合わせてリボーンの猫耳も多少持ち上がっていた。それを見てほっと息を撫で下ろす獄寺。


「…意外に、このままの方がいいかも知れませんね」


「なんでそうなるんだ…」


知ることの難しいリボーンの心情をあっさり理解出来て、獄寺は思わず呟いていた。


当然のように怪訝顔をするリボーンに慌てるも時すでに遅し。


「あ、いえ、その……」


「…もういい。お前には頼まん」


いつも通りの声色で、いつも通りの表情で言ってはいるがその耳は怒ったように立っている。


その怒った耳のまま、リボーンは獄寺と別れた。





翌日。


獄寺の前には、猫耳を加え猫の尻尾まで生えたリボーンがいた。


「……………」


絶句する獄寺の前、リボーンは静かに言う。


「…笑いたくば、笑え」


「い、いえ…」


むしろ笑えません。というか笑ったら絶対殺されます。と獄寺は思った。これぐらい耳など見なくとも分かる。


「進展は…なかったようですね」


「むしろ悪化したな」


「…このままいくと一週間もしないうちに本物の猫になってしまうのでは……」


「ぞっとしねえな…」


その言葉に多少の力のなさを感じるのは気のせいではないだろう。耳も尻尾もしょぼんとしている。


それを見て取った獄寺は思わず声を出していた。


「ご、ご安心下さいリボーンさん!!」


「?」


「もしリボーンさんが心身共に猫になってしまってもオレが飼い……いえ、そんなオレがリボーンさんを飼うなんて畏れ多い、むしろオレを飼って下さい!!



「お前落ち着け」





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とりあえずヴェルデ殺す。

ああ、4だったんですね。