ある日の朝。


獄寺は眠りについていた。


至福の時間。


平和なひと時。


されとて、それは長くは続かなかった。


どこか、遠くから響く足音。


その音に獄寺の意識が覚醒する―――よりも前に。



「―――獄寺」



リボーンちゃんが獄寺のドアを蹴破り入ってきた。


鍵など何の意味もない。



「…!?」



急な出来事に身構える事も出来ず、固まる獄寺。


そんな獄寺の上にリボーンちゃんが伸し掛かる。



「デートしよう」





事の始まりはつい先日。


悩める乙女リボーンちゃんのもとにユニが訪れたところから始まる。



「おばさま、ユニです」


「ユニか。久しぶりだな。…はあ」


「まあ、おばさまどうされたのです?」


「獄寺との仲がなかなか進展しなくてな…」


「まあ…」



獄寺と出会ってから、もう10年になる。


出会い、惚れて、アタックし続け…されとて、獄寺からは決していい返事をもらったことはない。


通常ならとっくに諦めているだろう。自分に脈は無いと。



しかし。



「全く獄寺は照れ屋で困る」



リボーンちゃんには欠片も通じてないのだった。


リボーンがユニを見遣る。



「ユニは、どうしたらいいと思う?」


「そうですわね…」



言って、ユニは気付く。



(…おばさまから相談!?)



あの完璧超人たるリボーンちゃんに頼られている。


その事実はユニを戦慄させた。


ここは是非とも手柄を立て、リボーンちゃんからの評価を上げねば!!



「お洒落をしてみるのはどうでしょう!?」


「お洒落?」



リボーンはそれしか持ってないんじゃないかというぐらい、常に同じ服装だ。お見合いの時は別件として。



「いつもと違う服装をしたら、新鮮味も増して獄寺さんもおばさまの魅力に気付くかもしれません!」


「なるほど…」



しかし、とはいえ困った。


現在リボーンちゃんは持ち金がなかった。



「ユニ、金はあるか?」


「実は…あまり……」



ああユニ失態。


こうなると分かっていれば組織の有り金全て持ってきたというのに!!



「なに、安心しろ。ユニ。当てはある」


「当て…ですか?」


「ああ、ついてこい」





所変わってマーモン。


マーモンの前にはここにはいないはずのリボーンちゃんがいた。


それもそのはずで、ここにいるリボーンちゃんはマーモンの幻術だった。


常日頃から、リボーンちゃんを守りたいと思うマーモン。


しかし本人を前にすると素直になれず、思ってもない言葉を口にする日々。


そんな自分をどうにかしようと、始めたのがこのリボーンちゃんの幻術。


これでどうにか素直な言葉を口に出来ないかと試行錯誤するが、言葉を発するどころか直視することすら出来ない始末。


そんなわけでマーモンはベッドの上、正座しながら幻術と向き合っているのだった。(なお3時間経過)


そんなところに。



コンコン。



ノックの音が、響いた。


マーモンは無視。


基本マーモンは突然の来客は無視する。そもそも今はそれどころではない。


ノックは一度きり。諦めて立ち去ったのだろう。脳の片隅でマーモンが思ったその時。



「マーモン」



リボーンちゃんの声が聞こえ。



「邪魔するぞ」



ドアが蹴破られた。


マーモンの集中力が途切れ、幻術が消える。


代わりに現れたのは本物のリボーンちゃん。



「すまないが、金を貸してくれ」


「り、リボーン…」



突然のことに固まるマーモン。


頭の中は先程までの自分の姿を見られてないかということだけだ。



「み、見た…?」


「ん? 何をだ?」



どうやら見られてないらしい。


安心するマーモンだが、リボーンちゃんの後ろから現れたユニが嫌ににこにこしているのが気になった。



「…見ちゃった」



見られた。


マーモンは自殺したくなった。



「ん? 何をだ?」


「おばさま、マーモンってば…」


「お金が欲しいんだって? 10億で足りる?」



ユニの言葉を遮りながら、マーモン。ユニのにこにこが強まる。



「ああ、十分すぎるぐらいだ」


「な、何に使うのさ」


「おばさまがお洒落するのに使うのよ」


「へ、へえ…」



マーモンとしてもリボーンちゃんが可愛くなるのに自分の金が使われるのは悪い気がしない。



「い、いいんじゃない?」


「ありがとう、マーモン」


「よかったですねおばさま、これで獄寺さんも振り向いてくれます!!」


「待って」



思わずマーモンが言った。


今何て言った? 今何と言った?



獄寺?



マーモンは知っている。ボンゴレの、10代目の右腕の男だ。


リボーンちゃんとも10年の付き合いで、なんとこともあろうに何の間違いかリボーンちゃんに惚れられている。



何度暗殺しようと企んだかわからない。



幸いなことに獄寺は自分の立場を分かっていて、リボーンちゃんを傷付けず、しかし付き合うなどと身の程知らずな行為にも及んでないので殺されないで済んでいる。


…で、その獄寺が、何だって?



「目一杯お洒落して獄寺さんを振り向かせましょうね! おばさま!!」


「ふ…なんだか照れるな」


「だから待って」


「ん? どうしたマーモン」



リボーンちゃんに直視され、マーモンの心臓が跳ね上がる。


窓の方を見ながら、マーモンは何とか言葉を紡いだ。



「お、お洒落よりももっといい案あるんじゃないの?」


本音は自分の金で獄寺が振り向くなどと我慢ならないだけなのだが、そう言う。言ってしまう。



「ほお」


「まあ」



二人の関心がマーモンに移る。



「何か代案があるのか? マーモン」


「ぜひ聞かせていただきたいですわ」



ユニがちょっとどすを聞かせて言う。自分の案よりいいものがあるのかと、その目が言っている。


「………ええと…」


とはいえ、案などない。


マーモンが言葉に詰まらせていると、何を思ったかリボーンちゃんが言った。



「頑張れマーモン。今度デートしてやるから」


「!!!!!」



デート。自分が。リボーンちゃんと。デート。



「まあ、羨ましい。おばさま、私とは?」


「ん? ああ、今度しようか、デート」



きゃー! とユニが喜ぶ。


リボーンちゃんにとってデートとは「友達以上の良好な関係を持つ者同士が共に出歩く行為」を指すのだが二人(特にマーモン)には通じず。


二人はリボーンちゃんとのデートのために更なる代案を出していくのだった。





ラブレター作戦。


待ち伏せ作戦。


目の前でハンカチ落とし作戦。


プレゼント作戦。


夜這いで既成事実作戦。





「きせいじじつ? なんだそれは」


「獄寺さんにお聞きになさってください」





3人は昼も夜も話し続け、何処からかお菓子とジュースも出てきて時折脱線した話しもして…


見事な女子会が出来上がっていた。


そして、夜が明けた!





「…そうして今に至る」


「…はあ」



所戻って、獄寺の部屋。



「それで、どう纏まったんですか?」


「うむ。やはりオレに小細工は性に合わなくてな。直球勝負にすることにした」



いつも通りだった。



「それに、お洒落するにも獄寺の好みがわからなくては折角の作戦も台無しになると思ってな」


お洒落作戦は採用されたらしい。



「だから、デートしよう」


「何がだからなんですか!!」


「服を獄寺に選んでもらえば間違いない」


「いや、オレは別に…その、」


「駄目か?」


「駄目といいますか…」


「…ふむ。駄目ならこのまま既成事実作戦に移行するしかないが」


「き…っ!?」


「しかしオレは残念ながら既成事実の意味が分からないんだ。獄寺。知っているなら教えてくれ」


「………」



無垢な表情でリボーンちゃんが聞いてくる。


そんなリボーンちゃんに、なんと言えよう。



「…リボーンさん」


「ん?」


「…デート、しましょうか」



獄寺はどこか遠いところを見ながらそう告げた。


リボーンちゃんは驚きながらも嬉しさを隠せない。



「本当か獄寺!!」


「ええ…」



嬉しさのあまりにリボーンちゃんは獄寺に抱き着く。ベッドに伏した獄寺に。



「り、リボーンさん…やめてください……」


「おっとすまない」



リボーンちゃんはすぐに離れた。


獄寺は安堵からため息を吐く。



「じゃあドアの向こうにいるからな」


「ええ…」



リボーンちゃんは破壊されたドアの向こうに向かう。


獄寺は窓の外を見遣る。


憎たらしいほど天気が良くて、絶好のデート日和だった。





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なお、服屋では何故かリボーンちゃんが獄寺くんの服を見繕ったらしい。