ふと気付けばそこは、懐かしき10年前の世界。


「……………」


思わず目をぱちくりとしてしまう。そして目の端に捕らえたのは牛柄の服を着た子供。


…あいつ逃げ足早ぇ……


別に取って喰うつもりも叱るつもりもないが……まぁいいか。


取り分け急ぎの用があるわけでもなし。五分で戻れるなら業務にも支障はあるまい。


…自分があの場所でじっとしていてくれれば、だが。


さて。向こうに渡った自分は一体何をしただろうか? 何分10年前の話なので覚えてない。


確か…とオレは遥か昔の記憶を思い出させる。確か、そう。誰かに会ったような気がする。さて誰だったか。


確か、そう。黒スーツで…(いや、10年後ならほとんど全員が黒スーツだ)


結構偉そうな口調で…(10代目じゃないということだな)


身長が………中学生時代のオレと近くて……


……………。



「そう。あなたと会ったんです」


「…獄寺か」



ふと塀の上に目をやれば、そこには小さな小さな赤ん坊。


最強のヒットマンであるリボーンさんがいた。


…てか、ランボが狙うのはリボーンさんぐらいしかいねぇしな……



「初めまして。そしてお久し振りですリボーンさん」


「ああ、生きてたんだな。お前は早死にしそうだったから10年もあれば死ぬだろうと思ってたが」


「ええ。オレもそう思います。……ただオレの場合非常に運のいいことに強い恋人が守ってくれていますので。生き長らえました」


「お前に恋人? …物好きな奴だな」


「同感です。でもとても素敵な方なんですよ? 聡明で魅力的で…あと非常にモテます」


「…モテ?」


「ええ。オレの他に愛人が何人も。…ちょっと妬けますよね」


「そんな奴切り捨てろ」


「ははは、でもオレもその人のこと好きですから。簡単には別れられません」


「そいつの他にお前のことを想ってる奴がいるんじゃねーか?」


「いますかね」


「10年後はどうだろうな。だが少なくとも10年前にはいるぞ」


「それはそれは。一体誰なんだかオレにはまったく見当が付きません」


「付かなくていい。そいつは必死に隠してるからな」


「どうして隠してるんですか?」


「ガキなんだ。許してやれ」


「はぁ…まぁ、そういうことでしたら」


「ああ」


「…リボーンさん」


「なんだ。そろそろ五分だぞ」


「ええ。分かってます。……リボーンさん知ってました? 実はオレも、10年前から想ってる人がいたんですよ」


「そうか」


「はい。ですから……」


「?」



オレは一歩リボーンさんに近付いた。リボーンさんは怪訝顔。そんなあなたへ向けて、オレから一言。




「―――手を出すのなら、早めにお願いしますね?」







戻ってきたオレを出迎えたのは、何故か硬く握られた拳だった。


「っいったーーー!! 痛いですいきなり何するんですかリボーンさん! これがあなたの愛ですか!? リボーンさんの変態ドS!!!


やかましい黙れ!! お前…よくも10年前は変な伝言残してくれたな…!!」


「なんですかリボーンさん10年前のことを今更のようにネチネチと!! 時候に決まってるじゃないですかあんなの!!


「オレからみれば10年前でもお前からすれば五分前だろうが!! 10年前のお前見て思い出して腹立った!!」


「ですからあれは両想いなんだから早くアクションを起こして下さいって言うオレの可愛いアプローチですよ分かるでしょう!?」


分 か る か ボ ケ が ・ ・ ・ ! ! ! お前のあの発言のおかげでオレが行動起こすまでどれだけの時間と勇気が要ったと思ってんだこの大馬鹿もんが!!!」


「だってリボーンさん酷いんですもん! オレに酷いんですもんリボーンさん!! あの程度の仕返しぐらい許して下さいよ!!」


「別にお前に酷いことなんてしてねーだろうが!!」


「してますしてました!! リボーンさんオレを無視するわオレに冷たいわオレだけ真面目に指導してくれないわ!! 酷いですあんまりですリボーンさんの馬鹿!!


「惚れてる奴にまともに対応出来るわけないだろうがーーー!!!」


「なんですかその逆切れは!! その対応のせいでオレがどれだけ傷付いたと思ってるんですか!!」


「だからお前に告白したときに全部その辺の事情も話して謝り倒して許しを乞いただろうが!!


「そうなんですけど、でも10年前のリボーンさん見て思い出して腹立ったんです!!」



「―――――結局オレが悪いのか!?」



話しながら。オレは段々思い出していく。10年前の話を。10年前の今日という話を。


10年前の話。いきなり10年後に飛んで。戸惑うオレの前にリボーンさんが現れて。



…あの頃から微かにリボーンさんが好きでした。けれどきっと嫌われていると思ってました。


10年経ってもそれは変わらないだろうと思っていました。それどころかますます嫌われてるのではないか、とすら。


けれどあなたはオレに「久しいな」と声を掛けて下さいましたね。


…しかも、やわらかい笑みのオプション付きで。


知っていますか? 知らないでしょう。



あなたのあの笑みを見て。あなたのことがますます好きになっただなんて。


…やっぱり諦め切れない。と思っただなんて。


そのときを思い出して。思わず笑みが浮かぶ。



「―――リボーンさん!」


「な、なんだどうした」


「言っときますけど、オレの方がリボーンさんを想う気持ちは強いですからね?」


「は? 何言ってんだ馬鹿。オレの方が強いに決まってんだろーが」



と言いつつリボーンさんは自分で言って照れたのか、オレに自分の被っていた帽子を目深く被せた。


リボーンさんの顔が見れませんが、でも今のオレの顔もとっても赤くて見られると少し恥ずかしいのでこれで丁度良いです。



リボーンさん。



あなたを諦めないでよかった。


あなたを好きでいて、本当によかった。



あなたの帽子の下のオレの顔は、きっと世界で一番幸せな笑顔。





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いつまでもずっと、あなたの隣で。