「おーっす雲雀。こないだ誕生日だったんだって? おめでとう。えーっと…ほれ」


出会って開口一番に気だるげな口調でそう言われ、鞄から取り出された綺麗にラッピングされた包みを渡され。



雲雀の心に春が舞い降りた。



…実は人知れず、密かに獄寺に恋心を寄せている雲雀恭弥氏。


片思い相手から誕生日プレゼントを渡され、内心ではかなり舞い上がっていた。


しかし外見はいつもと変わらず不機嫌そうにむっとしている。そして吐き出されるは冷たい言葉。


「何? 僕の誕生日はとっくに過ぎてるんだけど。今更祝られても困るよ」


「だってお前の誕生日って休みじゃねーか。わざわざお前を祝うためだけに学校に行けってか?」


その通り雲雀の誕生日は祭日であり学校は休みである。だからこそ雲雀も自分の誕生日を覚えているわけだが。


「別にそこまでしてもらわなくてもいいけど。でもまさかキミが僕を祝ってくれるなんて思わなかったよ」


「迷惑だったか? ならそれ捨ててもいいから。じゃーな」


雲雀の冷たい言葉も態度もいつものことと慣れた獄寺はそう言って雲雀に背を向けた。


雲雀はいつまで経っても素直になれない自分に苛立ちつつ、プレゼントを見遣る。


正四角形の、手の平より少し大きな包み。淡い青色の包装紙にリボンが結ばれている。


中を見てみると、そこにはケーキがあった。


しかも……製品のものとは少し違うように見える。


別の言い方をするなら、手作りに見える。


まさか。よもやあの彼が自分のためにわざわざケーキを作ってくれたのだろうか。雲雀は感動した。


もしかしてあの気だるげな口調も、足早に立ち去った理由も、実は照れ隠しなのだろうか。


捨ててもいいなんて言って、実は上手く作れなくて恥ずかしくてそれで…だったりするのだろうか。


これは脈ありだね。と雲雀は胸をときめかせた。





「……まったく、本当によくやるよな…」


一方、雲雀と別れた獄寺サイド。


教室に戻ってきた獄寺は自分の机を見て呆れ顔と共にため息を吐いた。


机の上には、いくつかのプレゼント。それから手紙。


恐らくは机の中にもあるだろう。更に言えば下駄箱の中にも。


転校初日から、その容姿からか大勢の女生徒の心を鷲掴みにしファンクラブが設立された獄寺。彼には日々多くの物や言葉の愛が贈られている。


要らないと断っても聞いてくれず。彼女たちの贈り物は日に日に増えるばかり。


中には食べ物も多く。しかし一人で処理しきれる量でもなく。獄寺はほとほと困っていた。


面倒だとゴミ箱に捨てようとした時もあったが、それは流石に…とツナに止められそれ以来別の処分の仕方を考えた獄寺。


幸い―――それまで来たこともなかった日本にいきなり単身飛ばされた割には―――知り合いは多い。


というわけで獄寺は贈られるプレゼントを知人に渡していた。


別の言い方をすれば、押し付けていた。


その押し付けた相手に…例えばまさについ先ほど、そういえば誕生日らしかったからという理由でプレゼントの一つを渡した雲雀に、多大なる誤解を与えてしまうことを知りもせず。





「うーっすシャマルー。いるかー?」


続いて標的に選ばれたのはシャマルである。


女性しか診ないと豪語し、そして女性が来ればセクハラの数々を仕掛ける医師のいる所に来るような生徒はおらず、保健室は今日も閑散としていた。


「お…隼人じゃねーか。どうしたんだ?」


「これをやろうと思ってな」


言って獄寺が取り出したるは先ほど雲雀に渡した物より大きな包み。雲雀と別れたあと向かった教室。自分の机の上にどーんと鎮座されていたものだ。


これを持って帰るのは面倒い。という理由で獄寺はシャマルに押し付けることにした。


「な…んだ? どうしたどうした? お前からいきなり急にプレゼントだなんて」


「贈り物をするのに理由なんているのかよ」


おろおろし、微妙に慌てふためくシャマルと対照的にいつも通りの獄寺。


むしろシャマルへの意識は外し、既に獄寺の思考は次は誰にあのプレゼントの数々を押し付けようか考えているところである。


「り…理由って、普通あるだろ。その、なんだ、す、好きだからとか」


「あー? …じゃあ、あれだ。いつも世話になっているからとか、実は感謝しているからとか、そういう奴で」


言って、しまったからかうネタを提供してしまった。と思い獄寺は慌てて踵を返す。


「じゃーな」


「あ、おい―――」


シャマルの言葉も虚しく、獄寺は保健室を出て扉を閉める。保健室にはシャマルだけが残される。


暫しの無言の後、シャマルは渡されたプレゼントを見て…獄寺の言葉を思い出して…年甲斐にもなく胸をときめかせた。


いつも世話になっている。実は感謝している。なんて。なんて可愛らしい。愛らしい。


あからさまに取ってつけたように聞こえる理由だったが、それはもちろん照れ隠しだろう。


でなければこんなプレゼントをくれるわけがない。他に理由など考えられない。


もちろん獄寺本人からしてみれば取ってつけた理由で貰ったプレゼントを押し付けただけなのだが、シャマルはそのことに気付かない。





時間が経って、放課後。


下校時には更に積み重なっていた贈り物の数々を見ないふりをしながら獄寺は帰路に付く。


今日は親愛なるツナが敬愛するリボーンに連れ去られてしまったので久しぶりにひとりで帰宅だ。


その途中。


「よお。今日はひとりか?」


「跳ね馬か」


声を掛けられた。ツナの兄弟子でリボーンの教え子のひとりである跳ね馬のディーノ。


これ幸いとばかりに獄寺は鞄の中からまたひとつのプレゼントを取り出した。


「丁度良かった。これをやろう」


「な…なに!? スモーキンからオレにプレゼントだと!?」


ディーノは驚いた。


あの…あの獄寺が。自分には年上という理由だけで敵視している獄寺が自分に贈り物。


「えーっと…いつも世話に…なってねえな。実は感謝…してねえな。あー…理由なんてなんでもいいだろ」


獄寺はもう結構適当になってきていた。


「あ…ありがとう! ありがとうスモーキン!!」


でもディーノは特に疑問は持たなかった。本気で獄寺に感謝していた。


「大事にする! 本当に本当にありがとうな!!」


「お…おう」


獄寺も若干引いていた。





それから獄寺は公園に行ってはプレゼントの中にあった菓子をちぎっては鳩や猫にやり。


偶然会ったランボやイーピンに菓子をやって家に帰った。


後日、勘違いした野郎共からお返しの菓子が届けられ、更にはデートも申し込まれるのはまた別の話。





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お前、これ貰ってくんねえ?


リクエスト「雲雀さん誕生日おめでとう!で獄受け」
リクエストありがとうございました。