貴方に手紙を書きましょう。
決して届かない手紙を書きましょう。
愛を下さい
私の可愛い、愛しい隼人へ。
こうして手紙でやり取りするのは初めてね。…元気にしてる?
貴方は相変わらず、ツナの手足として頑張っているのかしら。
風に聞く貴方の噂は、良いのも悪いのもあって。…一体どちらが正しいのかしらね。
どちらも貴方に当てはまるから少し面白いのよね。今度どんな噂が流れているか教えてあげるわ。
―――今日ね。昔の夢を見たの。まだ貴方がツナに会う前の、まだ貴方がボンゴレに入る前の。
まだ貴方が…私の後をとことこ着いて来た時の、夢を。
まだ貴方はピアノを習ってなくて。まだ私は料理に目覚めてなくて。
貴方は何かがあるとすぐに泣いて。私に助けを求めたわね。
最も、貴方は小さかったから覚えていないでしょうけどね。
貴方があの日屋敷を飛び出て。それから数年逢えなくて。……でも、逢えて。
貴方にまた逢えて、私は本当に嬉しかったのよ?
貴方はとても成長していたけど。けど私から見ればやっぱり貴方はまだあの時のままで。
護ってあげたいと思ったけど、貴方はいつも私を見ると逃げてたからそれも叶わなくて。
そうした中で、時は静かに、緩やかに流れ過ぎていって…
―――貴方が、私を見ても平気になったのはいつからかしら?
貴方が、私に笑いかけてくれたのは?
貴方が、私を護ってくれた時があったわね。
どれもよく覚えているわ…とても、とても嬉しかった。
―――――けど。
いつからか、また私たちは逢わなくなったわね。
お互いに、仕事で忙しくなって。
時々共同任務で逢う事もあったけど、そのときは気軽にお喋りなんて出来なかったし。
最後に貴方に逢ったのはいつだったからしら。
少なくとも年単位よね。
貴方は今何をしているの?
ツナと仲良くやってる?
ヤマモトは相変わらず貴方にちょっかいをかけてるのかしら。
リボーンに迷惑を掛けてない?
そうそう、ディーノとこの前会ったのだけど中々性格悪くなってたわ。貴方も気を付けてね。
―――貴方に。
貴方に、逢いたい。
これは私の我侭だって、エゴだって、分かっているつもりだけど。
私も、貴方も。昔以上に名も売れて。プライベートの時間なんてないに等しいって、分かってるつもりだけど。
でも、それでも―――
貴方に逢いたい。
逢いたいの―――――隼人。
都合は全部貴方に合わせるから、お願い。一回だけでいいから……連絡を、ちょうだい。
貴方の、たった一人の姉より。
貴方に手紙を書きました。薄い紫の便箋に青のペンを使って。
…貴方の噂を聞きました。それは根も葉もない噂です。
この手紙を出せば、噂の信憑ははっきりするでしょう。心優しい貴方の事、きっと何らかの反応を見せてくれるでしょうから。
―――でも、出せない。私には出す勇気がない。…手紙を出すのが怖い。
噂を嘘だと信じる事しか出来なくて。噂を嘘だと否定する事しか出来なくて。
信じない。信じれない。…貴方が死んだなんて。
だから、この手紙を出さなければいけないのだけれど。電話越しでもいいから、貴方の声を聞かなければいけないのだけれど。
真実を知ってしまう事が怖い私は、結局手紙を出せなくて。
届かない手紙は、今日も私のデスクの上でいつか出される日を待っている。
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私が真実を受け止める勇気が持てるまで、あと何日?