「メリー! クリスマース!!」
夜も深けた頃。ツナと獄寺のところに山本がやってきて、いきなりクラッカーを鳴らしてきた。
カラフルなテープや紙が舞い踊り、同時に12時の鐘が鳴り響く。日付が変わって…
―――12月25日。クリスマスになった。
甘い告白
夜中の来客…山本を出迎えた獄寺は、突然の事態に着いていけてないようで。目の前を色取り取りな紙が通り過ぎて。ようやく正気に返った。
「て、な、山本! 一体何の用だ!!」
「だからクリスマス。あ、ここじゃナターレか」
暢気に「ボン・ナターレ!」と言い直す山本に、獄寺の苛立ちは募るばかり。
沸点の低い獄寺の事をよく熟知しているツナが笑いながら獄寺を窘める。
「はい獄寺くんダイナマイト取り出さない煙草に火を点けないー…で、山本はオレたちをクリスマスパーティにでも招待してくれるのかな?」
あの騒ぎ好き、祭り好きの山本がこれだけ言ってあっさり帰るとは思えない。見ると案の定と言うか、山本は頷いた。
「当然だろ! 今年までずっと予定が入ったりで出来なかったけど、ようやく準備が出来たんだ! 軽いものだけどな」
さあさあと山本はツナと獄寺を押して部屋から連れ出した。
獄寺はツナにどうします? といった視線を返す。今日の晩は予定はないのだが、朝一で会議があるのだ。
ツナはというと少しぐらいなら大丈夫だよ、といった視線を返して。それは山本の顔を立てると言うよりただ単にパーティに参加したいという感じだ。
「やー、オレ一回ツナと飲み比べしたいと思ってたんだよなー」
どれ程のものか楽しみだーと笑う山本にツナは苦笑しながら答える。
「もー何回もやってんじゃん! 山本には勝てないって!」
「何言ってるんだよツナー、お前小僧に散々扱かれてただろーが!」
確かに、ツナはあの小さなヒットマンにマフィアのボスが下戸でどうするとありとあらゆる酒を飲まされ、それなりに耐性が付いた。
けれど、それには山本も付き合っていたのだ。それをリボーンが面白いと勝負形式にして。そしてその回にツナは負け続けて。苦い思い出である。
「どうもオレにはツナが本気を見せてるとは思えないんだよな…脳ある鷹は爪を隠すって言うし」
そうだ! と、山本は悪戯を思いついたような顔をしていきなり獄寺の肩を抱いた。
「「山本?」」
ツナの殺気の篭った視線にも動じず、獄寺の無垢な視線には…少し動じて。けれど山本はそのまま言った。
「獄寺を使おう」
「あ…?」
「使う?」
意味が分からないという二人に、山本は説明する。
「だからさ。オレとツナで飲み勝負してさ。先に潰れた方が負け。勝者は今日の朝まで獄寺を好きに出来る」
「何勝手に決めてんだコラ」
「断るよ。そんなのなくても、オレはいつでも獄寺くんを好きに出来るから何のメリットもないしね」
さらりとツナが問題発言を言ったような気がしたが、誰も突っ込むことは出来なかった。
第三者の、登場により。
「面白そうじゃねぇか。やれよ」
突如現れたその声に、二人の視線と獄寺が奪われた。その正体はリボーン。
「リボーンさん? しかし…」
「構わねぇだろ獄寺。お前もツナの本気を見てみてぇだろ?」
「それはそうですが…」
獄寺、リボーンの前にあっさり撃沈。
ツナもリボーンの暇潰しに付き合わされるのは癪のようだが、未だに勝てないヒットマンに逆らう気はないようだ。
「…分かったよ」
ツナは勝負に了承し、こうして楽しいクリスマスパーティは何故かツナと山本の飲み勝負になってしまった。
勝負開始から30分経過。
「ツナやっぱりやるなー。顔色全然変わってないぜ?」
「…山本こそ。まぁ、これくらいはね」
勝負開始から一時間経過。
「やっぱり隠していたな。昔はこれぐらいでぶっ倒れてたのに」
「一体いつの話だよそれ…あーもう! 絶対オレ、金輪際山本と酒勝負しないっ」
勝負開始から二時間経過。
「お…? ツナにようやく変化が?」
「ん…まだ、平気。獄寺くんを、渡すわけにはいかないからね」
「10代目…」
「ふむ。ツナも成長したな。そろそろ止めといてやるか、数時間後には会議があるしな」
そう言うと、リボーンはいきなり獄寺の細い腰に手を伸ばした。
「んーーー!? リ、リボーンさんっ!?」
獄寺の驚きの声にも耳を貸さず。リボーンはその手をゆっくりと下へと降ろしていく。
「っ!? ちょっとリボーン! オレの 獄寺くんに何してるの!!」
すぐさま気付いたツナがリボーンを睨みつける。その眼は据わっていた。
「何って…」
リボーンはツナの睨みもどこ吹く風な感じでまるで怯まず、更に獄寺を抱き寄せて。抱き締めて。
「セクハラ?」
「分かってんならやめろよ!!」
流石のツナも我慢出来ず、いきなり立ち上がるがその足はふらついていて。
「じ、10代目! 大丈夫っすか!?」
獄寺はリボーンの束縛から抜け出しツナを支える。ツナの顔は真っ赤で、完全に酔っていた。
「ツナー! まだ勝負は終わってねぇぞー!! 戻ってこーい!!」
山本は山本で酔っていて。どうやら勝負は引き分けのようだ。
「…仕方ねぇな。獄寺。ここはオレに任せてツナを寝かしてやれ」
「は、はい。…さ、10代目、こちらです」
獄寺は半分寝ているツナを肩で背負って部屋を後にした。
広く、冷たく。長い廊下を獄寺は歩く。ツナを背負って。
ツナはよくふざけて獄寺を姫抱っこするのだがまったくとんでもなかった。この細い腕でどうして自分の身体を持ち上げられるのか。
(それともオレの筋力が乏しいだけなのか…?)
少し悲しくなった獄寺。ついでに今度筋トレでもして筋肉を付けようと思った。
「ん〜…」
と、ツナが呻く。起きたのかと思ったが、まだ夢心地のようだ。
「獄寺くん好き〜」
「はいはい、オレも好きですよー」
ツナには分からないのに、獄寺は律儀に返事をする。…といっても、少しおなざりなものではあったが。
「獄寺くん愛してる〜」
「はいはい、オレも愛してますよー」
時折、こんな事はある。山本はツナとどうしても勝負を付けたいらしく、こうして勝負を持ちかけてくる事があって。
その度に獄寺は酔い潰れたツナを運んでいくのだが、この会話は毎回行われている事なので獄寺の返答も軽いものであった。
(しかし…重い)
意識のない人間の身体は余計な力が抜けるから意識があるときよりも重くなる。という話を獄寺は思い出していた。
獄寺は汗を掻きながら、ツナを寝室まで運んで行く。
部屋の中まで移動して。ツナをベッドに寝かせて。獄寺はようやく一息ついた。
「…はぁ、10代目、スーツがしわになります。脱がせますよ?」
聞こえていないであろうツナに律儀にも一言断りを入れて獄寺は上着を脱がせようとする。…と、そこに。
「え…? うわ!」
いきなりツナの腕が伸びてきて獄寺を捕まえてはそのまま抱き寄せる。獄寺は動けなくなる。
「じ、10代目! 起きてるんですか!? 起きてるんですね!?」
獄寺は必死に抵抗するが、ツナの力が強くて抜け出る事は叶わない。
「くぬ、ぬ…じ、10代目オレはまだ仕事が残ってるのですが…っ」
ツナのスーツを脱がせ、しわにならないように仕舞い、それから朝一の会議に必要な資料の準備。他にも諸々。右腕は忙しかった。
「んん…獄寺くん」
またツナが呻る。薄目を開けて、焦点の合っていない眼で獄寺を見て。そのまま覆い被さった。
「なー!? じ、じ、10代目何するんですかー!!」
「獄寺くん大好き〜」
獄寺の問いの答えになってない発言を怪しい呪文のような口調で唱えながらツナは獄寺の首筋に音を立ててキスをして。
「ひー! 10代目お気を確かに!!」
ツナは聞こえているのかいないのか、更に獄寺の首元を肌蹴させてはその白い鎖骨をぺろりと舐めて。
「獄寺くんすき〜、だいすき〜」
「オレも好きですから! 貴方に命を助けて頂いたあの日からずっとずっとお慕い申し上げていて! その時からずっとオレの気持ちは貴方のものですから! だから勘弁して下さいー!!」
このままいくと泣き出しそうな(むしろ既に泣きかけている)獄寺の告白が天に通じたのか。
「ん〜」
ツナは呻いたあと、また眠りの底へと意識を落とした。獄寺は安堵の息を吐く。
「はぁー…、助かった…」
決してツナと事を及ぶのが嫌という訳ではないが、酔っている時よりもちゃんと意識のある時を希望する獄寺であった。
更に言うなら時間もない。出来れば余裕のある時が好ましいのであった。
ツナは寝てしまったものの、獄寺を手放す気だけはないようで。しっかりと抱きしめては10年で厚くなった胸板に獄寺を押し付けていた。
(抜け出れない…)
まだ仕事があるが、今までの経験上こうなってしまっては脱出は不可能。明日早朝に起きて片付けるとしよう。
獄寺は腕だけツナの束縛から解放して。そのままツナを抱きしめて。
するとツナがまた呻る。…幸せそうに笑ってた。
「ごくでらくん、……あい、してる…」
ツナの今まで何回も言ってきた、可愛い告白に獄寺は穏やかな笑みを浮かべながら。
「オレも…愛、してます。……綱吉さん」
滅多に言わない彼の本名で、愛の告白をして。背伸びをしては、ツナの閉じられた唇に口付けを一つ落とした。
翌朝、獄寺が意識を取り戻した時ツナは既に起きていた。表情の読めない顔で、胸の中の獄寺を見下ろしている。
「あ…10代目。おはようございます……」
寝呆け眼でツナにそう言い、辺りの暗さ、気温から時間を察する。今から急いで資料を用意すれば会議には間に合いそうだ。
獄寺がそう思ってベッドから出ようとするがツナは獄寺を離さない。
「…? 10代目?」
「獄寺くん、オレ…山本と飲み勝負して暫くしてからの記憶が曖昧なんだけど…」
「あぁ、会議があるからってリボ−ンさんが解放してくれたんですよ。成長したなって褒めてました」
「…獄寺くんがオレのベッドにいるって事は…その―――」
「あはは。スーツがしわになっちゃいけないと思って脱がせようとしたらこのざまです。10代目オレを離してくれなくて」
獄寺の台詞に、ツナは難しい顔を返して。
「…10代目?」
「―――つまり、あれか」
「はい?」
「オレは酔った勢いで獄寺くんとベッドインしたはいいけど、そのまま寝てしまって何もしなかったって事か」
「じ、10代目…?」
ツナの獄寺を抱きしめる力が強くなる。ついでに震えている。
「あーくそっ! オレのヘタレー!!」
「じゅ、10代目! えと、大丈夫です! 何もしなかった訳ではないですから!!」
「―――え?」
「あ…」
獄寺、軽く自爆。
顔が赤くなっていく獄寺に、ツナは真面目な顔になって聞く。
「…オレ、獄寺くんになにしたの?」
「そ、それは…その……」
獄寺の顔は更に赤くなって。ツナとも目を合わせられないのか顔を俯けた。
実際にされたのは首筋に軽いキスと、鎖骨を少し舐めなれただけなのだが獄寺にとってはそれだけでも言うのは恥ずかしいようで。
「い、言えませんっ」
「うわー! オレ一体なにしちゃったんだー!! 何も覚えてない!! 悔しい!!」
どっちに転んでも嘆くツナだった。
「っ、こうなったら…!」
言うが否や、ツナは獄寺の服に手を掛ける。
「な―――! 10代目なにするんですかー!!」
「決まってるだろ! 昨日出来なかった分と覚えてない分をここで晴らすの! あーもうオレどこまでしちゃったんだろ!!」
「あらゆる意味で駄目です無理です! これから会議があるし、そのための資料に眼を通してもらわないと! あ、その前に着替えと…ってぎゃー!!」
獄寺の言い分を全て無視し、ツナは獄寺のシャツのボタンをやや乱暴に…
「朝っぱらから盛ってんじゃねぇぞツナ」
…外そうとしたとき、いきなりリボーンが現れてツナを蹴っ飛ばした。
「リ、リボーンさん…助かりましたけど……今のは」
痛そうです。と非難する獄寺に、リボーンは涼しい顔を返す。
「このぐらいしねぇと大人しくなんなかっただろうからな。それよりも獄寺。お前早く乱れた服整えて資料用意してこい」
リボーンのその言葉に急いで身支度を整え、ぱたぱたと走っていく獄寺。その後ろで。
「……………少し、強く蹴りすぎたかな…」
と、全然焦っていないようなリボーンの台詞は―――――幸いな事に、獄寺には聞こえなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、どう誤魔化すかな。