プルルルルルルル プルルルルルルル
ガチャ
もしもし10代目? 今お時間よろしいですか?
ああそうですか。よかった。なら少し話をしましょう。
珍しいですか? そうかも知れませんね。迷惑でしたら……え? そうですか? はい、話をしましょう。
ええ、少し昔を思い出しまして。
覚えていますか? あの日のことを。
あの海はどこまでも青かったですよね。遠くまで続いていて。
オレは覚えていますよ。あの日のことを。
あの道はどこまでも続いてましたね。真っ直ぐに。
オレは貴方に出会えてよかった。だって、素直に笑えるようになりました。
え? どうもしませんよ。だってオレは、ずっと貴方にこのことを言いたかったんですから。
ええ、ええ。そして、出来れば貴方にも素直に笑っていてほしいです。お願い出来ますか?
貴方は今笑っていますか? だとしたら、オレはとても幸せです。
オレは今から遠くに行きますけど、それでも貴方は、そこからオレに笑い掛けて下さいますか?
え? 何でもないですよ? はい。
……目を閉じると思い出します。あの夏の日の匂いを。
10年前のことです。覚えていますか?
ええそう。貴方と二人、川で遊びましたね。
帰るときには、泥だらけになって。
帰り道に空を見上げました。
大きな雲を追い駆けて。届いたら幸せになれるなんて可愛い願掛けをして。
これ以上の幸せな日々なんてないというのに。
坂で駆けっこをしました。
はい。貴方がいきなり走り出して。ゴールはあの丘だと言って。
オレも慌てて追い掛けましたけど、結局負けてしまいましたね。
あの時は笑ってましたけど、本当は少しだけ悔しかったんですよ?
だから今度は家まで競争だと、オレから走り出したんですよね。
……思い出があります。沢山。
沢山。沢山あります。貴方に、みんなに頂きました。楽しい思い出を。
それはオレがずっとずっとほしかったものです。でも手に入らなかったものです。
それが手に入りました。もう手に入らないと諦めていたのに。
本当に幸せなんです。他には何もいらないくらい。
時々でいいです。目を閉じると思い出して下さい。あの海の匂いを。
……あ。そうですか。はい、それじゃあ仕方がないですね。
あはは。大丈夫ですよ。よろしくお伝え下さい。
はい?
……はい。
大丈夫ですって。オレは貴方のところへと戻ってきます。
そうですか? じゃあ、そのときを楽しみにしてますね。
…はい、はい。はい――じゃあ……
さようなら。愛しき10代目―――
ガチャン
ツー ツー ツー
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オレは先に行きます。
タイトルの歌の歌詞を元に。