ある 雨の日



肌寒かった冬も通り過ぎ、暖かな日差しの春になりかけて。


季節は雨露の時を迎えようとしていました。


そんな時雨が一足早く来たのか、今日の天気は、雨。


朝からしとしとと降っていたから、もちろん私は傘を持って出かけたのですが、色んな事情があって今はありません。


雨はいつの間にやら大粒のものとなり、身体中にそれを受けながら帰る途中。


「…? イーピン? お前そんなずぶ濡れでどうしたんだ?」


獄寺さんと、会いました。





「そっかお遣いかー…えらいなイーピンは」


帰り道、ばったりと獄寺さんと遭遇した私は今こうして獄寺さんに抱きかかえられながら帰ってます。


抱きかかえられてるって言っても、結構おなざりです。ていうか獄寺さん、私のこと荷物扱いです。


でもえらいって言ってくれたから不問にします。褒められると嬉しいです。照れます。


私の身体はどこもかしこも雨水で濡れていて、抱きかかえている獄寺さんの服にかなり染み込んでいるはずなのに。獄寺さんは嫌な顔一つしません。


…こんな時に、獄寺さんはいい人だって。改めて分かります。





暫くして。おうちへと戻ってきました。


「あらあらお帰りなさいイーピンちゃん。獄寺くんが送ってくれたの?」


「こんにちはお母様! ええ、イーピンが濡れながら帰っていたものですから」


「え? イーピンちゃん確か傘持って行ったわよね?」


ママンのその一言に、私は少し迷いましたが失くしてしまいましたと答えました。そして頭を下げました。


「あらあら。良いのよイーピンちゃん。それより着替えましょう? それともお風呂が先かしら? 風邪を引くといけないわ」



ママンに手を引っ張られ、暫くして戻ってきたら。人口が増えていました。



しかも獄寺さんを中心に、です。


このうちはただでさえ人口率が平均よりも多目なのに、獄寺さんが来るとその率は更に上がります。


しかも暴走率まで格段にアップです。


例えば。あそこにいるこのうちの一人息子。


「獄寺くんーっ愛してるー!


酔ってんでしょうかあのつんつん頭は。


「またまた10代目ってばご冗談ばっかり」


そして獄寺さんもでそう思ってる場合じゃないかと。


続いて。ツナさんと獄寺さんのご友人で、初対面の私を空高く分投げた人。


「獄寺ー! 激LOVE! 好きだー!!」


あの人頭大丈夫でしょうか。


「あーはいはいありがとよ」


獄寺さんは獄寺さんで手馴れたように受け流してますし。



「ゴクデラー! ランボさんと遊べー!」



「こらランボ飛び掛ってくるな!」


…む。ちょっとランボが羨ましいです。私も遊んでもらいたいです。


思い立ったが吉日らしいです。そんなわけで私も―――



いざ、獄寺さんにダイブです。



「うお、イーピンまで!?」


勢い余って飛び掛ってしまったためにちょっと獄寺さん直行コースからずれてしまいましたが獄寺さんは受け止めてくれました。


ただ、私とランボのダブルタックルに耐え切れなかったのか倒れこんでしまいましたが。


「あ、獄寺が押し倒された」


「いいなー、オレだってまだしたことないのにー!


「え? なんですか今の無視するには聞き捨てならないお言葉はー!?」





楽しい時はあっという間に過ぎ去り、獄寺さんが帰る時間となってしまった模様です。


「じゃ、またな」


そう言っては獄寺さんは私とランボの頭を撫でてくれます。暫しの別れだということは分かっていますが、それでもやっぱり少し寂しいです。


次に会えるのはいつだろうとぼんやりと考えて。…今朝の事を少し考えていたら、チャイムが鳴りました。


「…あら。獄寺くん? どうしたの? 忘れ物?」


―――獄寺さん?


走っていくと、確かにそこには獄寺さんがいて。


…手には私の傘を、持っていて。


「えっと、これイーピンの傘…ですよね。落ちてたので、お届けに…」


…落ちてた?


でも、あの傘は…でも、確かに…


「あらあら。ごめんなさいね獄寺くん」


「いえ、良いんですよお母様! では、オレはこれで…」


…と、私と獄寺さんの目が合いました。


「――…来るか?」


獄寺さんは私に手を差し伸べて。


私は、その手に応えて。


「すみませんお母様。イーピン少し、お借りします」


そうして私は獄寺さんと共に獄寺さんのマンションまで赴きました。





獄寺さんがドアを開けます。私は入ります。


「ただいまーっと…」


獄寺さんが誰ともなくそう言うと。暗い部屋の置くから小さい何かがこっちへ…


あ…


やってきたのは、白い猫。


「お前、こいつに傘差してやってたんだな」


…朝、私が傘をあげた、白い仔猫。


「だからお前、ずぶ濡れで帰ってたんだな」


猫は、私にじゃれついてきて。獄寺さんはおかしいのか笑って。


「…随分お前に懐いてるな。まぁ、暫くはここで面倒見てやるから。たまにはこいつと遊びに来い」


そう言っては、獄寺さんは私と仔猫の頭を少し乱暴に撫でました。


「でも。少しは自分も大切にしろよ? お前が倒れると心配する人が沢山いるんだから」


その言葉を獄寺さんに言い返してやりたくなって。実際に言い返しましたが。残念なことに通じません。憎むべきはバベルの塔です。


っと、仔猫が獄寺さんに飛び掛りました。獄寺さんは驚きながらも受け止めます。


…む。かなり羨ましいです。私もかまって欲しいです。


思い立ったが以下省略です。そんなわけで私も――…


ピンポーン


べしゃ。


………痛いです。


状況を説明するのなら丁度飛び掛ったそのときチャイムが鳴って獄寺さんが立って私は床に激突しました。痛いです。


「イーピン。迎えが来たぞー」


その声に反応して顔を上げると、そこには獄寺さんと迎えであろうツナさんがいて。


…もう少し遅く来てもよくありません?


まぁ良いのです。私は猫と獄寺さんに手を振って、獄寺さんのマンションをツナさんとあとにします。


そうです。明日にでもまた、猫に会いに獄寺さんのマンションに行きましょう。


そうしてそこで、猫と沢山遊んで。そして獄寺さんに、思いっきり甘えることとしましょう。


そう思ったら、ものすごく楽しみになって。


早く、明日になれと。願いました。





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きっと明日は、楽しい一日。


リクエスト「イーピンがほんのり出てくる、とにかく獄寺くんが愛されてる話」
慧鎖様へ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。