あたたかな日溜りと
ある昼下がり。ツナと獄寺は昼食を終えて階段を下りていた。
「…でね、獄寺くんその時……」
会話しながら教室へと戻る途中、ツナは後ろにいる獄寺に振り向く―――と。
階段を踏み外して。倒れてくる獄寺の姿が視界一杯に広がった。
「う、うわー!! ご、獄寺くん!!」
慌てて獄寺を支えようと両手を広げるツナに、獄寺はバランスを完全に崩す前に意識を取り戻して。
「―――はっ」
思いっきり身体を壁に打ち当てて。ツナ直撃コースを逸らした。
受身もそこそこに、獄寺は身を起こして。辺りを警戒するように周りを見て。
「ご、獄寺くん…?」
ツナのその一声に、ようやく獄寺は正気に戻ったようだった。
「あ、すみません10代目。どうも最近寝ようとすると近くにリボーンさんがいてオレを狙ってる気がして…」
それはまず間違いなく先日ツナが今夜寝ないで宣言をして。それを面白がったリボーンが行った特別授業の影響だろう。
「…もしかして獄寺くん、あれからそんなに寝てない…?」
「あはははは…」
獄寺は笑って誤魔化した。ついでに眼は泳いでいた。
(獄寺くん嘘下手すぎ…)
けどその嘘も、ひとえにツナを心配させないようにする為のもので。それが分かってるツナは強く言うことも出来なくて。
「―――よし、決めた」
ツナは獄寺の手を取り走りだした。
「え、じ、10代目…?」
ツナは戸惑う獄寺を引っ張って外に出た。
チャイムが鳴って五限が始まる。けれど二人は教室ではなく、外に来ていた。
「…10代目、いいんですか? 授業は―――」
「いいのいいの。どうせ分かんないんだし…獄寺くんに教えてもらうから」
ね? とツナに言われては獄寺は何も言えない。分かりましたと生真面目な返答を返した。
そうして二人は中庭に躍り出た。お日様ぽかぽか。絶好の昼寝日和。
ツナは獄寺と手を繋いだまま綺麗に切り整えられた芝生に倒れこんだ。そのまま獄寺を抱きしめる。
「わ…、10代目?」
「―――寝よ? 獄寺くん。リボーンはどこにもいないから。安心して寝て?」
ツナにそう言われて。獄寺はようやくツナが授業をサボったわけを理解した。全ては自分の為だったのだ。
「―――ですが…」
獄寺は自分だけ寝るのに抵抗を感じるようで。不安そうに自分を抱きしめるツナを見上げる。
「…いいから。獄寺くんの睡眠不足に輪を掛けちゃったみたいだし…オレに責任を取らせて?」
獄寺を安心させるように笑って。ツナは獄寺の頭を撫でる。
獄寺はまだ何か言いたげだったが、やがて陽気な日の光に目蓋が降りていった。
やがて獄寺の眼は完全に閉じられ、静かに寝息が聞こえてきて。
ツナは獄寺の無防備なその顔を幸せそうに覗き込んで。またもぎゅっと抱きしめて。
「おやすみ獄寺くん…いい夢見てね」
そう、呟いて。ツナもまた心地よい眠りの中へと入っていった。
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会えたら、会えるなら。夢の中でも会おうね。