「雲雀。山本の怪我は」

「傷そのものは大したものじゃないけど、脳震盪起こしてるね。動かないや」

「チ、ったく余計な手間増やしやがって」


オレは懐から手に慣れた四角い箱を取り出して、その中から筒状の物を咥える。火を点けてそのまま吸った。


「お前も吸うか?」

「僕はそんなの吸わないよ」

「は、こいつとラム酒の味が分からなくてマフィアが務まるかよ」

「どんな偏見だよそれ」


雲雀はやれやれと大袈裟にため息を吐く。けれど即座に顔を正して、

「そんなことより、どうする? 動く? それとも留まる?」

「ちょっと待て」

オレは煙を吐いて。弾丸の総数と敵の数。そしてこちらの状況を脳内で反芻して…


「オーライ雲雀。全ては問題無し、だ」



痕に残るは血と硝煙



今回の仕事はいつもと少々色が違い。運搬屋というものだった。

持ち運ぶものは情報。同盟マフィアにこちらで掴んだモノを渡して。

…そしてそのついでに、敵地から向こうの持っているモノを奪ってこい…とのことだった。


情報を渡す。これは問題なく進んだ。情報を奪う。これもまた問題なく。

…ただ、そのために少々手荒な手段を取ったがこの世界ではまだ甘いほうだ。


―――奴ももう少し素直なら…指だけじゃなくて膝の皿なんて割られずに済んだのにな。


まぁそんなことはどうだっていいことだ。過ぎた話を掘り返す時でもない。

そう、まぁ多少の時間は掛かったが情報の取得も無事完了した。


ただ問題は今。その帰りに起きている。


街中だからといって油断していた。ここは生温い日本ではなかった。

突如現れた殺気。即座に反応してそれぞれ散って、それからは弾丸の嵐。

まったく、こちとらこの後にも仕事が溜まってるというのに…口煩い小鳥共が。

そうして煙草を吹かしながら鳥の羽をもぎ取っていると背後から馬鹿でかい大きな音。

あの方向には確か山本がいたと思い、やってきてみればそこには倒れた山本とオレと同じくやってきた雲雀…というわけだ。


「なぁに簡単なことだ雲雀。クールにいこうぜ」


言うが早いが雲雀の背後に来ていた敵二人に一発ずつ鉛玉をご馳走してやる。雲雀もまたオレの背後に一発召し上がれ。

「どうするのさ」

「殲滅させればいい。タイムリミットは警察が来るまでだ。ノープロブレムで行ける」


言う間に手元にダイナマイトを持ってきて、火を点けて放り投げた。

広がる爆炎。悲鳴も何もかもそれに吸い込まれる。


「…それっていつも通りじゃない。それのどこがクールだってのさ」

「何言ってんだ? オレはいつだってクールじゃねぇか。それに必要最低限の労力で最高の働きをってね。……これほどクールなことってねぇだろ?」


オレは笑って更にもう一つ。火薬の詰まった筒を投げる。そうしてまた大きな音と煙と死が広がる。

「容赦ないね。前から思ってたけど、キミって二面性が激しいよ」

「そりゃどーも。でも少しでも容赦ってモンがあっても誰も得なんてしねーよ。特にこの世界においてはな」


容赦される奴は無用な苦しみを味わうだけ。そしてオレたちは下手なタップダンスを踊らされた上にブラッドバスにどぼんだ。


「口を動かす暇がありゃ手を動かして敵数を減らしな雲雀。そうでなきゃそこで伸びてる馬鹿を叩き起こせ。ていうかまだ起きないのか?」

「起きないね。気持ちよさそうに伸びてるよ。置いて行く?」

「そうしてぇのは山々だがそういう訳にもいかねぇだろ。戻ったら泣いて止めてくれって頼むまでラム酒を奢らせてやる」


つってもタイムリミットまでそう長くない。敵を片付けてちゃサツに捕まるし今から逃げたら山本を連れて行けない。

…っつったく、無駄に馬鹿でかい身体しやがって。

腹いせ紛れにその肉体を蹴りつける。―――はぁ、マジで反応ねぇよ。仕方ねぇ。


オレは懐から携帯を取り出して、登録されてる番号に素早く掛ける。


「なに。どこに連絡付けてるのさ」

「キャバッローネの駐留地帯。確か近くにあったはずだから保護してもらおうぜ。…あまり借りは作りたくねぇけどよ」

番号を押すと二コールで連絡が付いた。受話器を取ったのは……


『よう悪童。派手にぶっ放してるじゃねーか。音がここにまで響いてくるぜ』

「るせーよ跳ね馬野郎。ボス直々が電話に出れるほど暇なんだっつーなら仕事をくれてやるぜ?」

『んなワケねーだろーが。お前らがどんぱちやってるって聞いてフォローに回ってやってるんだよ。お前がこっちにテル寄越すってことはそれなりに不味い状態か?』

「ああ。山本が負傷した。車を一台寄越せ」

『山本…ああ、あのジャポネのガキか。へぇ、あいつがか。敵さんもやるじゃねぇか』

「馬鹿が油断しただけだ」

『手厳しいねぇ相変わらず』


そう言う間にも爆炎は響き銃弾は止まらず。そして町が赤く染まっていく。


「それで頼みは聞いてくれるのか跳ね馬野郎。こっちは時間がねぇんだよ返答は早くしろ」

『オーケィ悪童。なに、既にそっちに向かってる。オーライだ、もうお前らの姿見えてるしな』

「あん?」


後ろを振り向くとそこには確かに、キャバッローネで愛用されてる車と。そして見慣れた金髪の男の姿。


「ボス本人が出撃だぁ? やっぱり暇なんじゃねぇか」

『手厳しいねぇ。ま、そうかも知れねーけどな』


電話が切れる。すぐさま奴らが止まって手際よく山本を車の中へ運び込んだ。

「お前らも来い。少なかれ負傷してるだろ? 積もる話もあるしよ」


オレはどうする? という雲雀に行けと顎をしゃくって。雲雀が乗った後にオレも続いた。

乗り込む隙を突いて生き残っていた馬鹿共がまた撃ち込んでくる。ああ、まだあんなにいたのか。


「…焦るなよベイビー。生き急いでもロクなことねぇぜ?」


特大サービスだ。片手で取り出せるだけの火薬を取り出して。火を点けて。投げた。

「アディオスだ。今ここで生き残ってもここまでなったら無事にはすまねぇだろうさ」


所属マフィアを抜ければ裏切り者として死。そうでなくとも近い未来にボンゴレに潰されることになる。

「ファッキンマリア様に祈っておきな。お前らが生きてる間に出来るのは精々がそれぐらいだ。あばよ。………エイメン?」


そう囁き終わると、血に濡れたスラム街に一際大きな汚い花火が咲き散った。





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じゃあな、野郎共。