「せんせー! 獄寺せんせー!」
「ん? ツナか…ってああほら、そんなに走るな。危ないぞ―――って、」
「うわあ!?」
「…っと、言った傍から躓いて…大丈夫か? 怪我してないか?」
「う、うん。先生が抱きとめてくれたから…ありがと。獄寺先生」
「ああ…」
「…………」
「……なぁツナ。そろそろ離れないか?」
「…やー! オレずっと獄寺先生と一緒にいるのー!」
「はいはい。教室まで連れてってやるから着いたら離れろよ」
「やだー! 教室までと言わず墓の中まで連れてってよー!」
「幼稚園児とは思えねぇ台詞だなおい」
「オレずっと獄寺せんせーといるのー! オレ獄寺せんせーと結婚するのー!!!」
「あー、オレ既に売却済みだからそれはちょっと無理だな」
「えー! …じゃあ奪うもん! 力尽くで奪ってー! そしてオレの花嫁になってもらうのー!」
「…お前、意外と逞しいよな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だって逞しくないと先生奪えないし。
「隼人」
「ん? なんだ雲雀」
「ご本読んで」
「ああ、良いぞ。…えーっと、」
「クフフ。隼人先生。僕にも構って下さいよ」
「…骸か。お前年長組みで担当違うだろ? そいつに面倒見てもらえ」
「それは酷いです隼人先生。僕は隼人先生と遊びたいんですよ?」
「んー…そう言ってくれるのは嬉しいんだが…今は雲雀とだな…」
「…隼人。ご本。早く」
「おや雲雀くん。クフフ、本なんて建前でただ単に隼人先生の膝の上が目的ですね? 確かにあそこは居心地が良いですからねー」
「―――うるさい」
「去年僕も散々隼人先生の膝の上でお世話になりましたよー? そのまま寝た振りして抱きかかえて貰ったり…」
「黙れ!!!」
「うわ、こら雲雀、いきなり暴れるな!」
「クハハハハ、羨ましいですか雲雀くん? そうでしょうとも。あの温もりは一度知ったら止められませんものねー」
「…ああもう、こら二人とも喧嘩するなー!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
喧嘩じゃなくて奪い合いですよ。ね。雲雀くん。
…負けない。から。
「教官ー! 隼人教官ー!!」
「この呼び方はバジルか…そんなに走ってどうしたんだ? って、」
「とぅ!!」
「うぉ!?」
「やりました! 隼人教官ゲット! なのであります!!」
「人を押し倒しておいて言う台詞がそれかよ」
「だって拙者、隼人教官が大好きなんです! 好きな人とはずっと一緒にいたいではないですか!!」
「バジル…」
(―――まぁ、こいつらの暴走もオレを想ってくれての事だったら可愛いと思える…かな?)
「それに隼人殿は言われたことをすぐに信じてしまうので、一体いつどこの馬の骨に誑かされてしまうか分かりませぬ。故に拙者が娶りたいと思います」
(…なんでオレは幼稚園児にそこまで言われなくちゃならねぇんだ?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
でも事実、その通りでありますし。
「先生ー! 獄寺先生ー!」
「ん? クローム?」
「あのね獄寺先生! おままごとしよう! おままごと!!」
「ああ、良いぜ」
「わーい! あのね、先生が旦那様なの! そして私が奥様!!」
「ああ」
「でも役割は逆なの! 奥様が働きに出てて、旦那様が家事とかしているの!!」
「そうなのか」
「だからね! 私がお仕事からおうちに帰る所からスタートね! 旦那様は優しく迎えてね!!」
「分かった」
「じゃあ…がちゃ。―――ふぅ、疲れたー。隼人、帰ったよー」
「ああ。お帰り、クローム」
「―――否!!」
「うお!? ど、どうしたクローム!!」
「違うのー! 獄寺先生分かってないのー!!」
「何がだ?」
「仕事に疲れて帰ってくる人をお迎えする人っていえばあれでしょー!? あのご飯にするお風呂にするっていうあれが欲しいのー!!」
「…ああ、そうか。悪かった」
「もう。今度はちゃんとやってよね獄寺先生ー」
「ああ。ちゃんとやる」
「うん。…じゃあ…がちゃ。――疲れたー…ただいまー」
「お帰りクローム。今日は遅かったな」
「うんー…もう残業ばかりでいやになっちゃう。残業代出ないし」
「ご苦労様…飯にするか? 先に風呂に入るか? それとも―――…」
「んー…って、え?」
「オレにするか?」
「……………」
「…ん?」
「は、隼人可愛い! 結婚してー!!」
「え!? あ、悪いオレ設定間違った認識してた! これまだ結婚してなかったのか!?」
「いやそうじゃないんだけどそうじゃなくてー! ああでもそれでも良い! 結婚して隼人ー!!」
(えーと、これってままごと…だよな)「…ああ。分かったクローム。結婚しよう」
「やったー!! 獄寺先生と結婚しちゃったー!!」
「あれ? オレって教師って設定だったのか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とりあえず隼人。この婚約書にサインして。
「…隼人ー」
「ん? どうしたベル」
(とてとてとてとて。…ぎゅ)
「…ベル?」
「…オレ以外の奴と。遊んじゃやだ」
「は?」
「やだ…」
「あのなベル。そんなこと出来るわけないだろ?」
「出来るわけないわけないもん。だってオレおうじだもん」
「いや、だもんじゃなくてだな…」
「やーだー! やーなのー!」
「こらベル。わがまま言うなって」
「もー隼人のばか! オレと仕事どっちが大事なんだよ!!」
「前から不思議に思ってたんだけどどこからそういう台詞覚えてくるんだ?」
「まえボスがそういうの言われてたの」
「あ、ああ…悪い…ってボスって、まさかあのボス!?」
「うん。あのボケとかカスとかいっつも単語でしか言葉話せない人」
「…そ、そうか…」
「うん」
「…な。ベル」
「ん?」
「………遊ぶか」
「え? うん! わーい! えっとね、えっとねー、工作!!」
「ああ…って待てベル! 刃物は危ないから使ったら駄目だ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ん? なんでー…って、あ。(ざしゅ)
「〜♪」
「? 獄寺先生、今日は随分とご機嫌だね」
「ああ、ツナ。だって今日は久々に園長先生が来るんだぜ?」
「……………ああ、そういえばそんな日だったね。今日は」
「? なんでそんなに嫌そうなんだ?」
(嫌だからだよ…)
「な、なぁツナ。オレ変じゃないかな? 襟元とか曲がってね?」
「ああ、うん。大丈夫だと思うよ? 心なしかいつもよりもお洒落に気合が入ってるんじゃないかと思うぐらいです」
「そうか…ああ、緊張するな・・・! もうどれくらい会ってなかったんだっけな…」
「先生、顔が乙女顔負けの恋する少女です」
「戻ったぞ」
「お帰りなさいませリボーンさん!!!」
「…獄寺。園内では園長と呼べと言っただろう」
「あ…すいません園長。でもオレ…貴方に逢えたのが嬉しくて、つい…」
「獄寺…」
「園長…」
「隼人先生、一応子供の前なんですからそういうのは止めた方が宜しいかと…」
「…情操教育上、良くない」
「骸…雲雀。―――悪い。オレは保父である前に、一人の人間なんだ」
((子供相手とは思えぬほど真面目な返答返されたー!!))
「隼人教官ー…おや。今日はまた随分とお綺麗でいらっしゃますなぁ」
「え…そうかな。園長に逢えると思ったら嬉しくって…つい張り切り過ぎちゃったかな」
「はっはっは。子供相手に惚気とは隼人教官もやりますなぁ」
「あ。獄寺先生と園長先生だー。ね。おままごとしよー。獄寺先生が私の旦那様で、園長先生が…」
「…クローム。…すまない。お前とはただの遊びだったんだ」
「あれ!? もしかして配役決める前にもう始まってる!?」
「むー。はーやーとー。オレ以外の奴と遊んじゃやだって…」
「ベル。…大丈夫だ。お前は独りでも生きていける」
「なんでオレだけそんな突き放すの!?」
「あー…みんな苦労してるねー」
「沢田。何一人傍観者決め込んでるのさ。隼人が…」
「無駄無駄。獄寺先生は園長に首っ丈だから」
「だからって・・・!」
「大丈夫。園長は長くここにはいない。暫くの我慢さ。園長が消えてからみんなで思いっきり甘えれば良い」
「………」
「獄寺。ここは園内で、お前は保父だ。自分の仕事に戻れ」
「でも…貴方はまた直ぐに遠くへ行ってしまうのでしょう…?」
「そんな切なそうな声を出すな。…安心しろ」
「え…?」
「仕事に一区切りを付けて来た。半月はここに居れる」
「それは本当ですか・・・!?」
「ああ。お前には随分と淋しい想いをさせてきたからな」
「リボーンさん・・・! オレ…嬉しいです!!」
「獄寺」
「あ、はい。―――すいません、園長」
「…だってよ沢田。どうする?」
「あちゃー…これは計算外だね。困ったな。オレあの園長苦手なのに」
「僕だって苦手だよ。…全く、隼人は僕のなのに…」
「クフフ。それは聞き捨てなりませんねぇ。彼は僕のです」
「違います。隼人教官は拙者にゲットされたのであります」
「んもー、男の子ってこれだから。獄寺先生は私と結婚するのー!」
「お前遊びだって言われてたろ」
「うるさーい! そういうベルだって…!」
「こらこらお前ら仲良くしなきゃ駄目だぞー♪」
「うわー、先生の満面の笑顔まっぶしー。オレ涙で滲んで先生の顔直視出来ないよー」
「隼人先生。ちゃんと保父としての仕事して下さいよ。子供を放ったらかしてはいけません」
「ああ、悪いな。…ああでも半月…! 半月かぁ…半月もリボーンさんと一緒に・・・!」
「…駄目だ。この人あまりの嬉しさに人の話半分以上聞いてない」
「獄寺」
「はい!」
「今日は一緒に帰るか」
「え…あ……はい!!」
「…みんな。頑張って園長を追い出そう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「リボーンさん! 今日買い物しながら帰りましょう! おそろいの食器とか欲しいです!!」
「分かった分かった」
「…もう仕事中とか関係無しですか。獄寺先生」(ほろり)