―――オレが日本を離れ、イタリアに戻ってきてから…もう随分になる。


オレは今、ボンゴレの医療施設の一室で車椅子生活をしていた。


ボンゴレの任務途中に別件の抗争に巻き込まれ、思わぬ怪我をしたからだ。


一時は本当に危うかったらしいが、山場は越えた。


一刻も早く10代目の所まで戻りたいのだが、完治するまでは日本への帰国許可は下りないらしい。


まぁ確かに、両足を骨折していて歩くことも出来ず、利き腕もまだ使い物にならない。


こんな状態じゃあ10代目をお守りすることも出来ないだろうしと、言われた通り休養しているのだが。


それでもやはりというか、流石に月別カレンダーが捲られる頃になると帰りたいというか、10代目が、日本にいるあいつらが恋しくもなる。



―――それを、見透かされていたのだろうか。



「よぉ。スモーキン」


「ん? 跳ね馬? こんな所に何のようだ?」


「…ご挨拶だな。わざわざツナたちからの手紙を持ってきたっていうのに」


「! 10代目から!? 寄越せ!!」


オレは笑いをかみ殺しながら「はいはい」なんてガキ扱いする跳ね馬を尻目に、慣れない腕で手紙を受け取る。


手紙は一人ひとりが書いたのだろうか。封筒がいくつもあって。


見慣れた文字が沢山あって。懐かしい字が沢山あって。


オレは不覚にも、涙ぐんで。


「おいおい、お前涙腺緩くねぇ?」


「うるせぇよ!!」


茶々を入れる跳ね馬を怒鳴りながら、オレは一通目の封筒を開けた。





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まずは10代目。










獄寺くんへ



えっと、お元気ですか。…って、入院しているのに、元気も何もないよね。


オレの方は、獄寺くんに分けてあげたいぐらい元気でいます。ていうかリボーンに扱かれています。


獄寺くんが怪我で入院したって聞いたときは本当に驚いて。心臓が止まるかと思いました。


獄寺くんがイタリアに行って、もう一ヶ月と半分が過ぎましたが怪我の具合はどうですか?


一時は意識不明の重態だと聞いて。峠は越えたとリボーンに聞くまで、オレは生きた心地がしなくて。


獄寺くんはいつも無茶ばかりで。少しは自分の身体を労わることも覚えないといけないよ?


オレやファミリーが大切なのも分かるし、それはきっとすごく良いことだとも思います。


けど、やっぱり自分の身体は大事に扱おうよ。獄寺くんが今度無茶したら、オレにも考えがあるんだからね?


―――なんて。それもこれも、獄寺くんが無事だから言える事なんだけどね。とにかく、無事で良かったです。


……早く帰って来て下さい。獄寺くんがいない間に、色んなお店が増えました。一緒に回りたいです。


それじゃあ…一日でも早く、獄寺くんが帰って来る事を祈っています。



沢田綱吉より





「………10代目」


「ツナな、本当にお前のこと、心配してたんだぞ」


「………っ」


「後で、電話してやれ」


「……………ああ。…ってあれ。もう一枚…?」





追伸:



獄寺くんは本当に毎回無茶ばかりして。オレは怒ってるんだからね?


その綺麗な身体に傷一つでも残して来てごらん? お仕置きだからね。


リボーンやディーノさんにいっぱい教えられて、オレ色々知ったんだから。


オレをいつまでも何も知らない一般人だと思わないこと! 良いね!!





「………跳ね馬」


「ツナなぁ。本当にお前のことを心配していて…良いボスになるよ。あれは」


「明後日の方を見ながらはぐらかすんじゃねぇ! てめぇ10代目に何教えやがった!!」


「………言って良いのか?」


「―――――あ?」


「言って…良いのか?」


「……………」


「ま、死にはしないと思うから」





こいつ本当に何教えやがったんだ!?


オレは一抹の不安を覚えながら次の封筒を開いた。





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10代目に怯えつつ、次は山本。










獄寺! 大丈夫か!?


って、この手紙読んでるって事はそれなりに大丈夫なんだろうけどさ!


お前が事故に遭ったって聞いたときはマジでびびったぜ! でも、無事らしくて本当に良かった!!


お前のいない日常は味気無くて。お前のありがたみってものを改めて知ったよ。


いつも一緒にいたからな。隣にいるのがいつの間にか当たり前になっていて。


気が付くと、お前の居そうな所を探しているオレがいて。


……ハハ、馬鹿だよな。お前は今イタリアの病院に居るから、日本のどこにもいるわけないのに。


早く元気になって。そして戻って来いよな。


お前がいないと部活も勉強も身が入らないし、生きる気力も出てこないから。


―――と、勉強は前からか。


じゃあな獄寺! 帰ってきたら特上の寿司握ってやるよ!!



山本武





「―――あの馬鹿。生きる気力って…」


「あ。それ本当だぞ」


「あ?」


「あいつ獄寺が事故に遭って生死の境彷徨ってるって聞いたとき、目が死んで屋上から飛び降りようとしたからな


「………マジか?」


「ああ…オレたちが「どうせ死ぬなら獄寺が死んでから死んでくれ」と、どうにか説得したんだ」


「それはそれで…どうなんだ」


「まあまあ。二人とも無事で良かったということで」


「……………」


自分の復活は思わぬところで人命を助けたらしい。


帰ったらあいつの頭をはたいてやろうと思いながら、オレは差出人の名も見ずに次の手紙を開いた。





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山本は置いといて、次は―――










やぁ。キミがいなくなってから、学校の方は少し静かになったよ。


でも、やっぱりキミがいないと少し退屈でね。そろそろ戻ってきてくれないかな?


ていうかキミ、自分が誰の物なのか自覚してないみたいだね。


キミは僕の物なんだから。僕に何の断りもなしに勝手に怪我なんてしちゃ駄目だよ?


やっぱり任務だかダイナマイトの補充だか、その程度の理由でキミをイタリアに戻らせたのが間違いだったんだ。


今度、キミに会ったらどうしてくれようか。


ねぇ? 鎖と手錠、どっちが好み? 返答無しの場合はもれなく両方+αになるからよく考えてね。


あと、キミは警戒心が強いようで全くなかったりするからね。周りに男がいるのなら、絶対に無防備になったら駄目だからね。


じゃ。次に逢える日を、心から楽しみにしているよ。





「……………」


「あの黒髪、かなりお前のことを気に掛けてたぜ?」


「お前…この手紙見て、よくそういうことが言えるな…」


「そうか? 心配の裏返しだろ、それは」


「あの風紀野郎がオレを心配…? 想像付かねぇ……」


「電話ぐらいしてやれば?」


「冗談。それどころかもう暫くここにいたいと考え直したぐらいだぜ…なんだよ、鎖と手錠って……」


「…あれ? その手紙、もう一枚くっついてねぇ?」


「ん? ……本当だ」





―――――そうそう。


キミのことだから、僕に会うのは照れくさくて。もう暫くそっちにいることにするかもしれないから。


だから。僕の元へと帰りたくなることをしてあげよう。


キミが僕の決めた期日までに戻らなかったら、キミが所属しているボンゴレファミリー…だっけ? を潰してあげる。


そもそもキミがイタリアに飛んだのも、戻って来れないのも。そのボンゴレが原因だからね。


うん。我ながら名案。


でも。キミと僕が出会えたのも、憎らしいことにそのボンゴレのおかげだからね。


ボンゴレのことが大事なら、早く帰ってくることだね。


ま、僕としては囚われのお姫様を助けるナイト様が出来るわけだから、どちらでも構わないけど。


―――で、僕の決めた期日だけど……





「―――早く戻るぞ跳ね馬!!」


「あ? 何だよ急に…一体その手紙にはなんて書いてあったんだ?」


「んなことはどうでも良いから! あいつ本気だ!」


「………はぁ? 何のことだかよく分からんが…でも、お前車椅子じゃん」


「片足は大分回復したから松葉杖でも平気だ! そんなことよりも、早く日本へ帰るぞ! 時間がねぇ!!」


「でもお前、帰国許可は―――」



ぐぃっ



「………っと」


「―――何のために、お前はいるんだ……?」


「……………了解。まったく、骨が折れるぜ」





オレは跳ね馬に連れられて、イタリアを後にした。





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早く帰ろう、ボンゴレのためにっ!!










「―――って! お前怪我人相手なんだから、も少し優しくしろよ!!」


「……あのな。お前自分の状況ってのが分かってないだろ。一応お前、重症患者で帰国許可も出てねぇんだぞ?」


「………分かってるよ。それぐらい」


「本当かねぇ」


「分かってるって! ……借りが出来ちまったな。今度、何か礼をするから」


「礼、ね…」


「――あ、その目! お前馬鹿にしてるだろ!!」


「してないしてない」


「本当か……?」


「本当だって」


「……………」


「疑ってるのか…?」


「だってお前…」


「…あーもー!」


「っ!? な、なんだよ」


「煽ったお前が、悪いんだからな……?」


「あ? 何の話をしてるんだよ」


「――借りは、身体で払って貰おうかな……」


「…いたっ、馬鹿、傷が……」


「んー…平気。責任は取ってやるから」



ゴッ



「……………」


「……………ん? どうした? 続きは良いのか? 跳ね馬のディーノ?」


「えー…いや……あのな、これは……その――」


「リボーンさん!」


「よぉ獄寺。元気そうだな」


「は、はい! ご心配をお掛けしました!!」


「…ま、そこまで元気があれば良いだろう。オレが帰国許可をもぎ取ってきてやったぞ」


「リボーンさん…あ、ありがとうございます!!」


「……ま、あれ以上あそこにいたら、他の奴の身体がもたなかっただろうし」


「―――え? 何か言いました? リボーンさん?」


「いや…でも、まだお前の身体は本調子じゃねぇし、暫くはオレが傍にいてやるよ」


「そ、そんな! リボーンさんにご迷惑を掛けるわけには…!」


「お前の意見は聞かん。今のお前は一人でいると危なすぎるからな。これは命令だ」


「………分かり…ました。じゃあ、頑張って早く治します!!」


「………」


「? リボーンさん?」


「別に無理して治さなくても良いがな……」


「え? 何か言いました?」


「何でもない」


「………?」





「それで…リボーン。オレは一体何すれば……」


「ん? 別に好きにしてて良いぞ? さっきの続きでもしてたらどうだ? 責任は取るんだろう?」


「いや……止めときます」





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くっそー…リボーンめ……