オレの名前は獄寺隼人。
普段は日本で学生を振舞っているが、その正体はとあるマフィアの一員だ。
そんなオレは現在絶賛恋焦がれというか、恋煩いというか…恋してるというかむしろ愛している方がいます。
その人の名は………リボーンさん。
見た目はスーツを着ているだけのとても可愛らしい赤ん坊だが、この人を見た目どおりに見てはいけない。
強く、博識で冷静で渋くて人脈もあって。どんな時でも頼りになるリボーンさん。
ああ…好きです、好きです。大好きです。
けれど、オレは…この想いをリボーンさんに伝えるつもりはない。
オレとあの人の関係はあくまで教師と教え子なのだから。
あの人はオレのことなど、最初からそんな対象で見てないのだから。
オレは今の現状で満足している。
そりゃあ、欲を言えば。叶うのならば、オレだってリボーンさんと……
でも変なことを言って、この関係を壊したくはない。
ただ、この溢れんばかりの想いが時に爆発しそうな時もあって。
そんな時、オレは……
「………って10代目聞いてます!?」
「あー…はいはいはいはい聞いてる聞いてる…」
「なら良いんですけど…でですね、昨日リボーンさんを見かけたんですけどリボーンさん本当に渋くって…!!!」
(あれはただ歩いてるだけだったような…てかその時オレも隣にいたはずなんだけど)
「………って10代目聞いてます!?」
「あーはいはいはいはい聞いてる聞いてる!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何回同じことを言う気だキミは! うざいなあもう!!
オレの名前はリボーン。
見た目は赤子だが、こう見えて働いている。それも家庭教師とヒットマンの両立だぞ。
そんなオレは…今気になってる奴というか…何というか…絶賛初恋の真っ最中だ。
オレこう見えて愛人いるはずなんだけどな!
なのに今まで実は恋をしたことがなかったってどういうアレだろうな!!!
オレの初恋の名は…獄寺。
オレの所属している組織の同僚で、日本に行くついでにオレが呼んだんだが………こんなに可愛かったのかよ!!!
あいつの可愛さは反則だろ! マジで!!!
今まで知らなかったオレの馬鹿!!!
オレは………この気持ちを、獄寺に…伝えたい、のだが…いつもタイミングを逃してしまう。
つーか、獄寺はオレのことどう思ってんだ!?
正直好かれてる印象はねーぞ!? なんてったって照れ隠しで獄寺にはいつも思いっきり素っ気無く冷たく当たってるからな!!!
そんでもって毎回獄寺にきつく当たっちまったあと激しい自己嫌悪に陥ってるからな!!
………だから…獄寺はオレのことなど嫌いだろう…
自業自得とはいえ、辛いものがあるな…
獄寺…すまない、本当はオレも素直になりたいんだ……
ああ、オレも山本のように獄寺に馴れ馴れしくまるでストーカーのように接したいもんだ。
「………なぁ、ツナ…オレどうすれば良い…?」
「告れ」
「てめぇ…他人事だと思ってそんな適当なこと…」
「全然他人事じゃないから。ある意味当事者だから」
「………はぁ…?」
「頑張れ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
頑張れ超頑張れ。そしてオレに平穏を!!
「………」
「あれ…獄寺くん?」
「………」
「…獄寺くん、なに遠い目してるの?」
「…10代目……」
「げ…元気ないね…?」
「リボーンさんが…」
「リボーンが…どうか、したの?」
「………」
「ん…? なにあっちを指差してって………ああ、山本がリボーンといるね」
「仲…良さそっすね…」
(………あれ? なにこの空気。ナンカ急ニ重クナッタヨ?)
「…山本の奴…リボーンさんと仲良くいちゃつきやがって………!!!」
「い…いや獄寺くん! 二人の名誉のために言うけどあれは決していちゃついてなんかないから!!」
「でも10代目! 山本の奴…リボーンさんを肩に乗せて!! 楽しそうに話してますよ!?」
「それでも二人はそういう仲じゃないから!!!」
「………」
「………」
「…そっすよね…」
「…ん?」
「いちゃついてなんか…ないですよね…」
「う…うん……」
「あくまで、リボーンさんが山本に言い寄ってるだけですよね・・・!!!」
「それも違・・・!!!」
「はぁ…リボーンさん…相手が女なら…オレもまだ諦めが付いたんですけどよりにもよって山本ですか…!!」
「獄寺くんー。拳を握らないでー」
「どこが…どこが好みなんですか!! 日本人ですか一般人ですか! 黒髪ですかスポーツマンですかー!!!」
「獄寺くん落ち着いてー!!!」
「あ。ツナと獄寺だ」
「…獄寺…ツナと仲良さそうだな…」
「どう見ても空回りしている獄寺をツナが諫めてるのなー」
「…オレもあんなふうに獄寺と………」
「…まぁ、頑張れや小僧」
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オレには応援することしか出来ないけど。でも多分それで大丈夫だけど。
「………」
「…今度はリボーンか…はぁ、どうしたの一体。項垂れちゃって」
「ツナか………オレはまたやってしまったんだ…」
「はい? …ああ、また獄寺くんに冷たく当たっちゃったわけ?」
「すまない獄寺…!! そんな、そんなつもりじゃ…!!!」
(…獄寺くんはこんなリボーンの姿を見てもまだ好きなんだろうか…)
「だってあいつ、馬鹿で可愛すぎなんだよちくしょう!!!」
「それは別に否定しないけどさー」
「ううう…すまない……すまない獄寺……」
「はいはい地面に突っ伏さないでそういうのはせめて室内でやれ。ほらほら帰るよー…ったく」
「…あ…」
「んー? どうした隼人」
「10代目が…リボーンさんを抱きかかえて移動している…」
「リボーン…また鬱になってるのかよ…」
「10代目………良いなぁ…」
「お前…さっきリボーンに怒られたんじゃないのか?」
「ん? そうだけどそれが?」
「それがってお前…リボーンが好きなんだろ? 好きな奴に怒られたらへこむもんじゃねーのか?」
「あはは。リボーンさんがオレのこと馬鹿って言うのは挨拶みたいなもんだし、声掛けられたって事実の方が嬉しいからな」
「……お前さんたち、案外相性良いかもな…」
「? 良く分かんねーけどサンキューな。…あ、それより聞いてくれよシャマル。リボーンさんが……」
「あー、はいはいはいはい…」
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お前の盲目はオレでも治せねえよ。
「獄寺くんとリボーンをくっつけよう」
「………どうしたんだツナ。藪から棒に」
「もう、オレは…獄寺くんのリボーン格好良い講座を効くのもリボーンの恋の悩み相談を聞くのも耐え切れません。これが仕事なら辞めたいです」
「…まぁ、確かに大変そうだけどな」
「獄寺くんもリボーンも毎日毎日似たようなことを数時間言ってきて…もう良いから付き合ってくれとオレは言いたい」
「言ったら?」
「…言った場合、獄寺くんは「またまた10代目ったら冗談ばっかりー」と返し、リボーンに至っては「世の中そんなに上手くいくわけないだろ!!!」と逆切れされました」
「うわー…」
「 う ま く い く ん だ よ ! ! ! 」
「落ち着けよツナ」
「二人は好き同士なんだからきっかけさえあればくっつくはずなんだよ! あとは山奥とかでいつまでもいちゃついていればいい!!」
「相当参ってるなー…これは」
「てか、山奥って…」
「あの二人をくっつけるからには相当強引な手でも使わないとね……というわけでオレの考えた「愛の恋文大作戦」を…」
「なにその頭悪い作戦名」
「…ん? あんたたち何してんのよ」
「ビアンキか…今ビアンキの弟と愛人をくっつけようと企んでるんだよ」
「隼人とリボーンを? …ああ、それならもう終わったわよ」
「はい?」
「私がリボーンを抱きかかえて隼人に近付いて。弱った隼人にリボーンを押し付けたら……」
「…リボーン、さん……?」
「喋るんじゃない、獄寺…」
「…夢、みたいです……最後に…リボーンさんと…会えるだなんて……」
「喋るなと言ってるだろう、獄寺!!」
「オレは…もう、駄目です…」
「そんなことない、気をしっかり持て!」
「最後に……許されるのなら…オレ、リボーンさんをぎゅって…してみたかった、です……」
「獄寺…? 獄寺ーーー!!!」
「…って感じになって。結構良い雰囲気になったから」
(なんでただの腹痛でそこまで盛り上がれるんだろう…)
「で、暫くして隼人も元気になって。リボーンをぎゅーぎゅーしてたから」
「ああそう…でもビアンキ、リボーンと愛人だったのに…弟に渡しても良いの…?」
「………そういうあんたたちだって隼人に惚れてたくせに二人をくっつけようとしてたじゃない」
「……………」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そういうことよ。
色々あったけど、獄寺くんとリボーンが無事くっいた。
最初こそまだどぎまぎしていたけど、暫くするとそれも収まって。
二人はいつも一緒にいるのが当たり前になっていて。
「おはようございます、10代目」
「おはよう、獄寺くん」
朝の登校も獄寺くんの片手には鞄、胸の中にはリボーンという装備が標準になっていた。
…というか授業中も二人でいちゃついてるし。お昼休みも二人でいちゃついてるし。帰りも二人いちゃついてるし。
完全に二人だけの世界に入ってるな…
でも二人ともとても幸せそうだし、前みたいにぐだぐだと数時間相談なのか惚気なのか良くわからないことを言ってこなくなったし。
オレとしてもとても満足。
ただ…
「リボーンさんv」
「どうした、獄寺」
「………呼んでみただけです」
「なんだそれ。…可愛い奴だな、お前は」
………うざい。
こんなうざい会話をこの二人は四六時中オレの前で披露している。
何の罰ゲームなんだ、これは。
「ほら、オレ10代目の右腕ですし」
「オレはお前の家庭教師だからな」
それならそれでそれらしい振る舞いをして頂きたいのですがそのあたりについてはどういうお考えでしょう。
「リボーンさんv」
「獄寺…」
無視かよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
無視です。無視だ。無視じゃない…!!
「10代目…」
「なに? 獄寺くん」
「リボーンさん…どうしてあんなに格好良いんでしょう………」
「知らないし興味もないしオレは別にリボーンのこと格好良いとも思ってないよ」
「ああ、リボーンさん………」
「ああ、獄寺くんが遠い目をしている…獄寺くん戻ってきてー。正気に返ってー」
「オレ、そんな格好良いリボーンさんに何か贈り物をしようかと思ってるのですがどうでしょう」
「また唐突に話変わったね…まぁ、別に良いんじゃない?」
「何が良いと思います?」
「もう獄寺くん自身をプレゼントすれば良いんじゃない?」
「あはは、いやですね10代目」
「…うん、そうだねごめん。いくらなんでもそれはないy」
「もうオレの身も心も、とっくの昔…出会ったそのときから、リボーンさんのものですから!!」
「馬鹿な子がいるーーー!!!」
「…ツナ」
「…なに?」
「獄寺は…なんであんなに可愛いんだ……?」
「二人は本当に良いカップルだと思うよ」
「なんだいきなり…」
「いや、別に。ああ、プレゼントならペアグッズは止めとけ。痛すぎる」
「お前エスパーか!? なんでオレの相談を…ってペアグッズ駄目か!?」
「マジでする気だったのかよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だ、駄目か? この黒スーツ…
「10代目………」
「ど…うしたの獄寺くん。俯いちゃって」
「リボーンさんが…」
「リボーン? リボーンがどうか……まさか喧嘩でもしたの!?」
「リボーン、さんが…」
「………?」
「10代目、リボーンさんが…どうしましょう……リボーンさんが…素敵過ぎるんですけど! オレどうすれば良いですか!?」
「・・・・・・・・・」
「も…も、聞いて下さい10代目! 素敵なんですよ可愛らしいんですよ渋いんですよ格好良いんですよリボーンさん!!」
「あー…獄寺くん、落ち着いて…」
「朝の挨拶をして下さるリボーンさんが優しくて、食事をしているときのリボーンさんがらぶりーでコーヒーを飲むリボーンさんにはもう惚れ直して!!」
「獄寺くんー…」
「お昼寝しているリボーンさんの無防備さには心ときめきますし仕事に向かうリボーンさんの姿にはオレが撃ち抜かれるかと! 返り血に濡れているリボーンさんは色っぽくて色っぽくて…」
(なんか物騒な発言が…)
「ああ…リボーンさん…リボーンさんってどうしてあんなに魅力的なんでしょう・・・!!!」
「………」
「…10代目、オレの話聞いてます?」
「聞いてるから話終わったら帰ってね」
BR>
「まだ終わってないのでもっとオレの話聞いてくださいね」
(しまった墓穴掘ったーーー!!!)
「……………」
「…おいツナ、話が……」
「黙れ」
「!?」
・・・・ツ、ツナ…?
「10代目ー! 聞いてくださいよ!! リボーンさんってば酷いんですよー!!」
「ん? 今度はちゃんと喧嘩してきたの?」
「どういう意味ですかそれ」
「何でもない。それで、どうしたの?」
「そうでした。…10代目、リボーンさんが………ううう…」
「!? ど、どうしたの!?」
「リボーンさん…ぐす、オレに……キスしてくれないんですよ!? どう思います!?」
「結局惚気なら帰ってくれるかな獄寺くん」
「何の話ですか10代目! うう、リボーンさんが…リボーンさんがー」
「………あー、はいはいはいはい泣かないの。…まぁ、リボーンはヘタレだからねー…」
「何言ってるんですか10代目。あの完璧超人たるリボーンさんがそんなわけないじゃないですか」
「恋は盲目とか昔の人はよく言ったものだよね」
「そうですね」
「肯定した!?」
「そんなことよりもリボーンさんですよ10代目ー…オレ、リボーンさんに嫌われてしまったのでしょうか…」
「それはないから安心していいよ」
「でも…」
「リボーンは…ほら、ああ見えて意外と照れ屋だからさ。でも実は獄寺くんの唇を虎視眈々と狙ってるから」
「マジですか!?」
「大マジ」
「え…え…わ、あ……どうしましょう10代目。なんだかオレどきどきしてきました」
「オレも自分の馬鹿さ加減にどきどきしてる」
「うわああああああああリボーンさん…そんな、オレそうとは知らず…恥ずかしいです」
「オレも自分のさっきの発言が恥ずかしいよ」
「これは…こいつの出番でしょうか…」
「ん?」
「実はさっき姉貴にも同じ相談をしたんですけど…無言でこれを渡されて…」
「…リップグロス…?」
「やっぱり付けろってことでしょうか…………………………どうですか10代目!!」
「普通に似合うから困る」
「ツナ……」
「はいはい。どうしたのリボーン」
「獄寺が……なんか、いつもよりも色っぽい気がするんだが…気のせいか……?」
「…………………………」
「…ツナ?」
「…獄寺くんが色っぽいのはいつものことじゃん。自意識過剰じゃね?」
「そ、そうか…」
「………くそう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
忘れていたけどオレだって獄寺くんのことが、獄寺くんのことが…!!
そんな夢を見た。
「……………」
楽しい、夢だった。
幸せな、夢だった。
オレはあの人が大好きで。
実はあの人も……同じ気持ちでいてくれて。
周りが協力してくれて…オレたちは近付けて。
些細なことでとても幸せな気持ちになれて。
もっと些細なことで気持ちが沈んだりして。
周りから見てみればくだらないことで真剣に悩んだり、相談したりして。
そうやって遠回りしながら、四苦八苦しながら。それでも少しずつ近付いていって………
…………………………。
そんな、夢。
楽しい、夢。
幸せな………夢。
ずっとずっと昔にあった、そんな夢。
オレは寝ぼけ眼のままふと隣に目をやって。
…微笑んで。とりあえず携帯を手に取った。
ピリリリリリリリリッピリリリリリリリリッ
「もしもし獄寺くん? 何? 定期連絡にはまだ時間が……」
『10代目…聞いて下さいよ、リボーンさんの寝顔が素敵なんですけど・・・!!!』
「獄寺くん、仕事と関係ない話なら切るからね」
ピッ
「ふぅ…」
ピリリリリリリリリッピリリリリリリリリッ
「………もしもし獄寺くん? 何?」
『10代目、いきなり切るだなんて酷いじゃないですか』
「徹夜仕事明けのモーニングコールがあれってのもかなり酷いと思うけど」
『お疲れ様です! ってぐあ…じ、10代目…今、今…リボーンさんが寝返りを打ちまして、ですね……か…可愛い可愛い可愛い…』
「獄寺くん、リボーンに悶えてるだけなら切るからね」
ピッ
(もう電源ごと切っとこう…)
(それにしても……)
(もう、あれから10年、か………)
「…獄寺か?」
「あ…すいませんリボーンさん、起こしてしまいましたか?」
「いや、構わん…」
「……………」
「…ん? どうしたんだ獄寺。人の顔をじっと見て」
「いえ…リボーンさん、いつ見ても格好良いなって……」
「・・・!?」
「リボーンさん」
「な…なんだ?」
「これからも、よろしくお願いしますね」
「・・・もしもしリボーン!? どうしたの!?」
『ツナ! 獄寺が…獄寺が可愛くて眩しくて直視出来ないんだが!! オレどうすれば良い!?』
「緊急用の番号使って言ってくる台詞がそれかよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だってお前携帯の電源切ってたじゃんかよ。